「カネはないけど、持ち家がある」がいちばん泥沼化する…税理士が見てきた「相続で必ず揉める家族」の共通点
プレジデントオンライン / 2024年8月22日 8時15分
■分けにくい「不動産」は、モメる火種になりやすい
相続財産のうちで不動産の比率が高いと、遺産分割協議でモメる可能性が高まります。なぜなら、不動産は分けにくく、換金しにくいからです。
例えば、首都圏における典型的な例として、亡くなった母親から、6000万円相当の不動産と2000万円の預貯金を、2人の息子が相続したとしましょう。
兄が不動産を相続して、弟が預貯金を相続すると、計算上、兄のほうが4000万円多く受け取ることになります。これでは弟は不満ですから、相続額を均等にするために2000万円を現金でほしいというかもしれません。
ところが、兄は不動産を相続したからといって、手元に現金があるとは限りません。弟に2000万円を支払うには、不動産を売却するほかありません。しかし、すぐに売れるとは限りませんし、急いで売ろうとしたら買い叩かれる可能性もあります。
「それなら、預貯金を半分に分けて、不動産はきょうだいで共有すればいいじゃないか」と思われるかもしれません。
しかし、不動産を共有することほど厄介なものはありません。共有という言葉は、「共に有する」と書きますが、私たち税理士は“キョウユウ”はむしろ「競誘」という字のほうが適当じゃないかと思っています。つまり、「競い」を「誘う」という意味です。
■不動産の「共有」は絶対にやめるべき理由
きょうだい2人で不動産を共有した場合、家屋を修繕するにしても建て替えるにしても、お互いの意見が合わないと何もできません。ましてや売却となると、まず意見は一致しません。売る時期や金額で必ず争います。
「現金がほしいから今すぐ売りたい」という人もいれば、「急ぐと買い叩かれるから、もう少し待とう」という人もいます。また、リフォームして売ったほうがいいのか、そのまま売ったほうがいいのかという意見の違いもあります。
いずれにしても意見が合わないのが人間なのです。私がこれまで見てきた限りでは、他人よりもむしろ、身近な存在であるきょうだいのほうが、なかなか意見が合いません。
どうやら、「赤の他人が何をやろうと構わないが、身近な人間が自分勝手なことをやると腹が立つ」という意識が働くようなのです。
土地を分割(分筆)するという手もありますが、広い土地ならばともかく、分割して狭くなると使い勝手が悪くなり、土地評価額が下がる恐れがあります。また、測量や登記に時間と費用がかかってしまいます。分けにくいという性質が、不動産相続の最大の問題点といってよいでしょう。
しかも、その分けにくい不動産が、平均して相続財産全体の約4割を占めているというのです。奪い合うにせよ押し付け合うにせよ、遺産の大半が不動産であるケースでは、どうしても相続でモメやすくなってしまうのです。
■“遺産が少ない”のにモメる3つの理由
興味深いことに、相続する財産が少ないほどモメるとよくいわれます。資産5000万円を境にして、それよりも少ない家のほうがモメるという統計データもあります。
その理由は、いろいろとあるでしょうが、おもに次の3つが考えられます。
①両親に対しての親孝行が、寄与分として民法で日当程度しか認められない
介護などで苦労していても、いざ相続になると、その寄与分は苦労に比べると微々たるものです。そこで、「あれだけ面倒を見たのに、なんで私もみんなと相続額が一緒なの?」と納得がいかずに争うケースが増えています。これは、資産家の場合よりも、遺産が5000万円以下のほうが切実に思われます。
②教育費、結婚での援助など、子どもに対する親からの援助が平等になっていない
これはよくある話です。しかも、みんな自分が不利だと思っているのです。自分は得をしたと思っている人はほとんどいません。とくに、遺産5000万円以下のほうが、そうした不平等な状態になっていることが多いようです。
③資産家のほうが相続に対する心の準備ができている
おそらく、これが一番大きな要因ではないかと考えます。遺産5000万円を超える資産家は、代々大きな財産を相続している方が多いので、一族のなかで遺産相続に対する心構えができています。
実際に、書籍・記事・セミナーなどで最悪なケースを頭に入れている場合が多く、それを反面教師として「売り言葉に買い言葉でけんかになる」ことを防いでいるのでしょう。
■モメる原因の8割は“気持ち”の問題
ところで、さまざまな相続を見てきた経験から言うと、モメる原因はただお金だけではありません。むしろ、お金が2割で、残りの8割は気持ちの問題であるように見えます。お金で解決できればまだいいのですが、きょうだいの長年にわたるしこりや恨みなどが、心のなかにわだかまっていて、いざ相続になったときに爆発するのでしょう。
なかには、ちょっとした気持ちのすれ違いで泥沼化してしまった例もあります。母親が亡くなって遺された3人の息子のうち、1人が相続放棄をするということで話がまとまりかけていたケースです。
ところが、相続放棄をした弟が、「兄貴はまったく感謝の気持ちがない。相続放棄をしたんだから、もっと感謝してくれてもいいじゃないか」と怒ってしまい、モメてしまったのです。
相続というと、お金の動きばかりが注目されますが、それ以上に気持ちが重要だということがわかるいい例です。残念なことに、相続でモメたことで、その後の親戚付き合いができなくなる例も珍しくありません。
50代、60代前半の相続人にとって残念なのは、自分の子どもたちが、モメている様子を間近に見てしまうことです。相続の当事者たちはカッカしているので、そうしたことに気がつかずに、自分の子どもなら当然味方をしてくれるだろうと思っています。
それはそうなのですが、多感な子どもの頃に、親たちが相続争いをしているのは、あまり見たいものではありません。仮に、モメたとしても、子どもの前で愚痴を言うべきではありません。家のなかでは、話題にしないほうがいいでしょう。
しかも、相続でモメた親というのは、子どもたちに向かって「あなたたちはモメないようにしなさいね」と言いたがるものです。親にとっては気をつかっているつもりでも、子どもにとっては「それじゃ、辻褄(つじつま)が合わないじゃないか」と感じて反発してしまうのです。
■きょうだいで比べるとモメる原因になる
相続でモメている人は、きょうだいと自分とを、何かにつけて比べる傾向があります。親子は一親等ですが、きょうだい同士は二親等です。縦に直接つながっている親子の関係と違って、きょうだいは親を通じて横に並んでいる関係と言えます。
横に自分ではない人間が並んでいると、人はどうしても隣を向いて自分と比べてしまいがちです。それが、モメる相続になる大きな原因となっているようなのです。
「私は公立の学校なのに兄は私立の学校だった」「私は結婚式が地味だったのに妹は派手だった」「私はいつもお姉さんのお下がりの服だった」といった具合です。
子ども時代からのそうした不満がマグマのようにふつふつと心の底にたまり、それが相続のときにドカンと噴き出してしまうことで、モメる相続になってしまうのです。
しかし、他人と自分を比較しても、何も生産的なことはありません。
「比較していいのは過去の自分と現在の自分、あるいは現在の自分と理想の自分の姿だけだ」そう述べたのは、オーストリア出身の心理学者アルフレッド・アドラー(1870~1937年)です。
精神科医でもあったアドラーは、自分と他人を比較して優越感や劣等感を抱くことの無意味さを説きました。比較をするとしたら、「過去の自分と現在の自分を比較して優越性を持つこと、あるいは理想の自分と現在の自分を比較して劣等感を抱くことだ」と述べています。
■モメないためには「比べない」
相続では、すべてが平等というわけにはいきません。不動産はきれいに等分できないので、誰かが不満を持ってしまうのは避けられません。相続でモメないためには、割り切れない思いがあっても、比べないことが大切です。
「天網恢恢(てんもうかいかい)疎(そ)にして漏(も)らさず」という言葉をご存じでしょうか。中国古代の思想家、老子の言葉に由来するといわれ、「天道は厳正であり、悪いことをすれば必ず報いがある」という意味です。
相続でどうしても納得いかないことがあったら、「お天道さまが見てくれている」「悪いことをすると、いつかしっぺ返しがくるだろう」と考えればいいのです。自分が相手を罰しなくても、必ずいつかは天が罰してくれて、譲った人には必ず天がいい報いをしてくれるはずです。
実際に、長年お手伝いしてきた相続を見ていると、「譲った人にツキが巡ってくる」ことをしみじみと感じます。
あるプロゴルファーの父親は、相続にあたって不満はありましたが、あえて争おうとはせず、きょうだいの求めるままに譲ることにしました。すると、それまで娘のプロゴルファーは今ひとつ成績が振るわなかったのですが、その後はかなりの活躍を見せるようになったのです。似たような例は、枚挙にいとまがありません。
■目に見えていない「相続」もある
「実家じまい」の出口は、結局のところ、売却するか取り壊すかになると述べました。しかし、幼い頃からの思い出が詰まっている家を取り壊したり、親がよく使っていた遺品を捨てることに対して、寂しい思いをしたり、申し訳なく思ったりする人もあるでしょう。
しかし、形のあるものにこだわっていると、いつまでも前に進めません。実家の問題を解決することができないのです。
確かに、そう簡単に割り切れるものではないでしょう。では、こう考えたらどうでしょうか。「親から受け継いできたのは、形あるものだけでない」と考えるのです。
相続財産というと、ほとんどの方は、土地や家屋、預貯金や株式などを連想するでしょう。相続は、そうした形あるものを亡き人から受け継ぐことであり、単なるお金のやりとりだと思っている人もいるかもしれません。
しかし、それは誤解です。金銭に換算できる財産を受け継ぐことだけが相続ではありません。亡き人の心や意思、さらには文化や思想、人間性といった目に見えない資産を受け継ぐこともまた相続なのです。
それは、「相続」という字を見ればおわかりになると思います。
相続の「相」という字は、「人相」「面相」というときの「相」で、「姿」という意味があります。その「相」を「続」ける──つまり、亡き人の姿を続けていこうというのが相続なのです。
■「実家」という形にこだわる必要はない
ただ、亡き人の姿を続けていくためには、物質的・金銭的な資産も必要です。例えば、親の商売を継ぐには、その基盤となる土地や店舗も引き継ぐ必要があります。
また、「子どもには平和で穏やかな生活を送ってほしい」という親の意思を実現するには、最低限の資産があったほうがいいでしょう。不動産や預貯金を相続するという行為の根本には、そうした親の思いを理解して引き継ぐという意味があるのです。
「財産遺して銅メダル、思い出遺して銀メダル、生き方遺して金メダル」これは、あるお客様がおっしゃった言葉です。
私たちは、どうしても「実家」という思い出の詰まった建物にこだわりがちです。ですから、誰も住まなくなっても、実家を売る踏ん切りがつきません。
実家を売ってしまったら、家族の思い出だけでなく、親の思いまでもがこの世から消えてなくなるような気がしてしまうからです。
しかし、「相続」には、土地や財産を受け継ぐという「金銭的な意味」だけでなく、「相」を「続」けるという「精神的な意味」も含まれているのです。
いや、むしろ相続の本質はそこにあるのではないでしょうか。亡き人の生き方や考え方を胸に刻んで、よい相続ができるように努めること。それが、遺された人の最も大切な役目だと思うのです。
「相続」とは親の意思を続けることです。そう考えれば、「実家」という形にこだわる必要はありません。極端なことを言えば、形あるものにこだわることなく、自分の心のなかに親の思いを継いでいけばいいのです。
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1964年創業。相続専門税理士法人として累計相続案件実績件数は2万6000件を超える。日本全国でも数少ない、高難度の相続にも対応できる相続専門家歴20年以上の「プレミアム税理士」を多数抱え、お客様の感情に寄り添ったオーダーメードの相続対策を実践している。
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税理士法人レガシィ代表社員税理士・公認会計士
1951年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。アーサーアンダーセン会計事務所を経て、1980年から現職。著書に『やってはいけない「実家」の相続』(青春出版社)など多数。
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税理士法人レガシィ代表社員税理士
公認会計士、基本情報技術者。1979年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科修了。大手情報システム会社、監査法人を経て現職。プラットフォーム「相続のせんせい」を開発。YouTube チャンネル「相続と文学」を運営。著書に『相続でモメる人、モメない人』(日刊現代)などがある。
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(税理士法人レガシィ、税理士法人レガシィ代表社員税理士・公認会計士 天野 隆、税理士法人レガシィ代表社員税理士 天野 大輔)
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