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NTTドコモは「国立競技場運営」の優先交渉権を獲得…民間企業が"スタジアム・アリーナ運営"に乗り出すワケ

プレジデントオンライン / 2024年8月22日 16時15分

国立競技場 - 写真=共同通信社

NTTドコモを代表とするグループは6月、国立競技場の運営をめぐる優先交渉先となった。NTTドコモは有明アリーナやIGアリーナの運営にも関わっている。金融アナリストの高橋克英さんは「NTTドコモに限らず、民間企業が主導するスタジアム・アリーナ建設と運営は各地で行われている。ビジネスとしての採算や成長性を重視しており、地域活性化にも貢献する可能性が高い」という――。

■全国で97件の新設・改装計画が進む

2024年8月、閉会したばかりのパリ・オリンピックにおける日本選手や日本チームの大活躍もあり、スポーツの持つ力に改めて魅せられた読者の方も多いのではないだろうか。

アマチュア主体の五輪だけでなく、日本ではプロスポーツも盛んだ。伝統と盤石な人気を誇るプロ野球や、誕生から30年以上経ったサッカーのJリーグ、バスケットボールのBリーグやラグビーのリーグワン、バレーボールのVリーグなどが多くのファンを魅了している。

こうしたなか、地域の活性化や、さらなるファンの拡大などを目指し、日本全国で、サッカー、バスケットボールなどのプロスポーツチームの本拠地としたり、試合を開催するための最新鋭のスタジアムやアリーナの建設ラッシュが起きている。

スポーツ庁によると、全国のスタジアム・アリーナの新設・建替構想は、2024年1月時点で、アリーナ・体育館で54件、スタジアム・球技場で42件と、合計96件にも上っているという(スポーツ庁「全国のスタジアム・アリーナの新設・建替構想の現状」2024年1月時点)。日本のスタジアム・アリーナ市場は政府の経済政策の注力領域の一つにも挙げられており、今後、さらなる増加や機能充実が見込まれる、成長市場になっているのだ。

■自治体にとっては地域活性化の切り札

例えば近年では、2020年1月Jリーグの京都パープルサンガの本拠地でもあるサンガスタジアム by KYOCERAが開業、2021年2月にはバスケットボールのBリーグの琉球ゴールデンキングスのホームコートである沖縄アリーナが竣工、2024年2月には、Jリーグのサンフレッチェ広島の本拠地となる約3万人収容のサッカースタジアム「エディオンピースウイング広島」が開業している。

この他にも全国津々浦々で、サッカーやバスケットボールなどプロスポーツの本拠地としての新設や建て替えの計画が進んでいる。その多くは、国や地元自治体が主体であり、実際に、建設費を公費で賄い、地元自治体などが、所有し運営するという従来型の公共事業の一環として行われているものが多い。

スポーツと地域活性化は最強のコンテンツであり、多くの地域住民の支持を受けやすく、逆に文句や反対を受け難いものだ。最新鋭のスタジアム・アリーナを建設し、プロスポーツチームの本拠地を誘致することは、観光・訪問客増加や定住人口増加、地元経済の潤いなど、地域活性化策を模索する地元自治体にとっても切り札となっているのだ。

■民間主導のスタジアム・アリーナ建設も進んでいる

地元自治体主体でスタジアム・アリーナ建設が進む一方で、本稿で注目したいのは、民間企業主導によるスタジアムやアリーナの建設である。

プロスポーツチームを保有する民間企業などが、自前の専用スタジアム・アリーナを持つには、巨額の建設費や運営費が必要となるものの、スタジアム使用料の支払い、広告やスタジアム内販売での制約、自治体など所有者との調整が不要となるといったメリットがある。

民間企業主導による魅力的な最先端のスタジアム・アリーナは、より多くのファンを呼び込み、地域活性化にもより貢献する可能性が高いといえる。

なぜなら、民間主導のスタジアムやアリーナは、投資・事業の観点から、単純にビジネスとして採算がとれるのか、成長性はあるのか、自社ブランドに貢献するのか、といった合理的な経営判断が大前提となっているはずだからだ。

国や自治体と違い、民間企業によるスタジアム・アリーナ経営や運営では、採算性や継続性が重視され、売上高、最終利益は無論、稼働率、販売価格、平均単価などをより重視した運営が行われることになる。

■三井不動産とMIXIによる「ららアリーナ東京ベイ」

こうしなか注目されているのが、プロ野球の北海道日本ハムファイターズの新本拠地「エスコンフィールド」(エスコン)だ。札幌に隣接する北広島市にあるボールパークエリア「北海道ボールパークFビレッジ」の中核をなす新球場「エスコンフィールド HOKKAIDO」の収容人数は3万5000人で、開閉式屋根付き野球専用天然芝フィールドだ。レフト側ポール際には5階建ての複合型施設「TOWER11」があり、温泉やサウナに浸かりながらの野球観戦が可能である。

北海道ボールパークFビレッジ
「北海道ボールパークFビレッジ」(ファイターズ スポーツ&エンターテイメントプレスリリースより)

エスコンは、日本ハムの子会社、ファイターズ スポーツ&エンターテイメントが所有・運営する。「北海道ボールパークFビレッジ」の建設費は約600億円と巨額ながら、入場料・物販販売、周辺開発などにより建設費や運営費を賄うことになる。

2024年5月に開業した1万人を収容する「LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ東京ベイ)」は、プロバスケットボール男子Bリーグ1部の「千葉ジェッツふなばし」を傘下に持つ大手IT企業のMIXI(ミクシィ)と隣接地で大型商業施設「ららぽーとTOKYO-BAY」を展開している三井不動産が、共同で建設し、合弁で運営する。

「LaLa arena TOKYO-BAY」外観
「LaLa arena TOKYO-BAY」外観(MIXIプレスリリースより)

「千葉ジェッツふなばし」がホームアリーナとして利用するほか、コンサート、スポーツイベント、企業の展示会など様々なイベントに対応可能な大型多目的アリーナとなる。コート上部に大型の4面ビジョンを設置するほか、アリーナ前にイベント広場も整備する。JR京葉線「南船橋」駅に近く、「ららぽーとTOKYO-BAY」との相乗効果で、新たなファン層の獲得や、イベント前後の買い物や食事などの需要も見込んでいる。

■ジャパネットによる「長崎スタジアムシティ」

長崎駅北側の三菱重工長崎造船所幸町工場跡地では、ジャパネットホールディングスが手がけるサッカースタジアムを核にアリーナ・ホテル・オフィス・商業施設を併設した「長崎スタジアムシティ」が2024年10月に開業予定だ。開業日前日には地元出身の福山雅治氏の無料ライブが開催されることになっている話題の施設だ。

観客までの距離が最短5メートルと日本一ピッチから近いサッカー専用スタジアムは、約2万席の客席を完備し、ジャパネットホールディングス傘下のJリーグのV・ファーレン長崎の本拠地となる。日本初のスタジアムビューホテルが併設され、スタジアム上空を通過するジップラインの設置も予定されている。

その他、バスケットボールやコンサートなどの開催が可能な可変型のアリーナは、約6000席の客席を完備。バルコニーやラウンジを備えたオフィスビルや商業施設も整備されるという。

長崎では、2022年に暫定開業した西九州新幹線を起爆剤に、新しい駅ビルや外資系ブランドホテルの開業に加え、サッカースタジアムの新設により、観光や修学旅行だけでなく、スポーツ、国際会議やエンターテイメントを誘致し、賑わいを取り戻そうとしているのだ。

長崎スタジアムシティ
「長崎スタジアムシティ」(ジャパネットホールディングスプレスリリースより)

■民間主導がスタジアム&アリーナの魅力度を上げる

これらの地域では、最先端のスタジアムやアリーナというシンボリックな大型開発が起爆剤となり、宅地開発やアパート・マンション建設、商業施設の計画などが進められている。多くの事業者や投資家も安心して中長期的視点で、事業継続や不動産投資を行うことができるのだ。こうした動きが、さらなる不動産価値の上昇を生み、地域のブランド化や差別化を推し進めることになる。

的確なマーケティングの実施と採算性を重視した民間主導のスタジアムやアリーナの新設によって「ワクワクしそう」→「行きたい、観たい」→「集客力・視聴率アップ」→「入場料・放映料アップ」→「収益力アップ」→「更なる拡張・投資」という好循環が実現することも可能になる。

立派な新スタジアムやアリーナといった箱物を立てるというハード面だけでなく、スポーツやエンターテイメントにおいて、チケット販売におけるダイナミックプライシングやキャッシュレス化の導入、シーズンチケットの販売拡大、有料ファンクラブの充実、有料放送の会員拡大、放映権やライセンスの管理、バーチャル化、富裕層を呼び込むVIPラウンジやVIPチケットの導入の実施などソフト面での充実も考えらえよう。無論、当地をホームタウンとするプロスポーツチームなどが、魅力ある選手を揃え、相応しいレベルの成績を残すことで、集客力を確保する必要があるのはいうまでもない。

■楽天による「完全キャッシュレス化」

スタジアム・アリーナというハード面だけでなく、ソフト面での充実においては、楽天が先駆者である。楽天では、スマートスタジアム構想を掲げ、2019シーズンよりQRチケット・完全キャッシュレスを、プロ野球の東北楽天イーグルスの本拠地である「楽天モバイルパーク宮城」、Jリーグのヴィッセル神戸の本拠地である「ノエビアスタジアム神戸」で実施している。

楽天が所有するプロスポーツ興行において、チケット購入、物品販売などで、楽天カード、楽天ペイ、楽天ポイント、楽天Edyなど金融決済サービスを優先的に利用してもらうことで、「楽天経済圏」のさらなる拡大にも寄与することになる。

■NTTドコモが「国立競技場」運営に名乗り

2024年6月には、NTTドコモが、国立競技場の運営事業の優先交渉権者に選定された。ドコモの主力事業は無論、通信事業であるが、市場は飽和状態で低価格化も進んでいる。こうしたなか、ドコモは、金融決済事業に加え、アリーナやスタジアムの運営事業も強化することで、通信と金融やエンタメとの融合により「ドコモ経済圏」の拡大を目指しているのだ。

国立競技場
写真=iStock.com/kuremo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuremo

NTTドコモによる国立競技場の運営において、サッカーの日本代表戦などスポーツの聖地化、国内外有名アーティストのコンサートの誘致や、大型ビジョン・グループ席・VIPルームの設置、dカード、d払いなどの利用によるチケット優先販売やスマートスタジアムの実現、コンテンツ独占配信などなどが想定されよう。

こうした試みにより、①新規顧客の獲得、②収益機会の拡大、③顧客の囲い込みによって「ドコモ経済圏」の拡大を目指しているのだ。

NTTドコモは、有明アリーナや2025年に開業するジーライオン神戸アリーナ、IGアリーナの運営にも関わっており、国立競技場とあわせ、スタジアムやアリーナの施設運営ビジネスを全国展開する方針である。

こうした民間主導によるアリーナやスタジアムの新設により、デジタル化と融合した新しいスポーツやエンターテイメントの提供が始まることで、プロスポーツの興隆だけでなく、地域経済の活性化にも繋がることになろう。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。

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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

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