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この目標設定とフィードバックで「努力」が一気に楽しくなる…仕事のデキる人が実践する"仕組み化の魔法"

プレジデントオンライン / 2024年8月20日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aum racha

努力を難なく続けるには、どうすればいいか。行動経済学のコンサルティングを行う山根承子さんは「『自分の頑張り』を自分自身で適切に評価できなくなったとき、楽しかったはずのことが『つらい努力』に変わる。これを乗り越えて努力を続け、成長していくためには、どんな形であってもフィードバックと目標が必要になる」という――。

※本稿は、山根承子『努力は仕組み化できる』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■そもそも努力はなぜ「つらい」のか?

「努力を続けること」は、いつから苦痛を感じるものになってしまったのでしょうか。スポーツや趣味などを新しく始めたときのことを思い出してみましょう。中学1年で部活動を始めたときなどが、わかりやすくていいかもしれません。

新しいことを始めたばかりのときは、毎日、できることが増えていきます。それが楽しくて、毎日の部活も「努力している」とは思わず続けられていたのではないでしょうか。

しばらくすると「基礎練習が面倒臭い」「部活をやめたい」となりがちですが、これはスキルが一定レベルに達したことで、日々の成長を感じにくくなったせいでしょう。毎日の練習から何のフィードバックも得られない状態では、努力を続けるのは難しいのです。

筋トレもわかりやすい例です。筋トレを始めてすぐの頃は、重量が増えたり、走れる時間が延びたりといった明確なフィードバックを得られます。筋肉痛もフィードバックの1つで、「トレーニングを頑張った」と感じさせてくれるでしょう。

これらが何もないと、「このトレーニングには意味があるのだろうか?」と思い、そのうちやめてしまうことになるでしょう。このようなことは、全ての「努力」に当てはまるのではないでしょうか。

■「目に見える」変化が人の行動を変える

フィードバックの重要性を示した研究は数多くあります。例えば、工事現場の作業員の安全行動を促進することを目的として、ある取り組みを行った研究を紹介しましょう。

工事現場の事故を減らすためには、ヘルメットや安全靴、手袋などの保護具をきちんと着けること、現場を整理整頓すること、高所作業を正しく行うことなどが重要です。

このような安全行動を習慣化させる、つまり「安全であるよう努力を続けさせる」ためには、どんな働きかけをすればいいのかを示した研究です。

実験は介入前3週間、介入後6週間の合計9週間にわたって行われました。介入前というのは何の施策も行わない通常状態のことで、介入後というのが施策実施中を指しています。

介入が始まると、まずは従業員と相談した上でその週の目標を決めます。例えば「保護具の着用率を92%以上にする」などです。そして毎週初めに、皆が毎日一度は見る場所(工事現場の壁や休憩所など)に「先週のフィードバック」が図で掲示されました。

貼り出されたグラフと達成率のイメージイラスト
出所=『努力は仕組み化できる』

この図には目標も一緒に記載されていて、先週の自分たちがどの程度安全な行動が取れていたか、目標とどれくらいの乖離があったのかが、すぐにわかるようになっていました。

この研究では、研究者があらかじめ作成したチェックリストを持って現場を巡回することで、各現場の安全性を測定していました。チェックリストは「ヘルメットを着けていない人は何%いたか」「粉じんの出る作業をするときに防護マスクをしていない人が何%いたか」といったものでした。

ある現場での結果は図表1のようになっていました。実験前は保護具の着用率が82~85%程度だったのですが、目標とフィードバックの掲示によって87%、90%と伸びていき、最終週には目標の92%に達しています。

目標とフィードバックによる保護具の着用率の改善グラフ
出所=『努力は仕組み化できる』

この研究は3つの工事現場で行われましたが、2つ目の現場でも、介入開始前は81.5%だった安全行動が介入終了時には93.5%に改善し、3つ目の現場でも介入開始前は85.8%だったのが最終的には91.9%になっていました。

目標設定とフィードバックは、行動の改善と維持にかなり効果があると結論付けられていますが、納得の結果でしょう。

安全行動を高めるためにフィードバックを掲示するという研究は他にもいくつか行われていますが、どの研究でもフィードバックの効果の高さが示されています。

■部下をやる気にさせるフィードバックとは?

いま紹介した研究は、数値でわかりやすく与えられるフィードバックの話でした。ノルマや試験の点数はこれに当たるでしょう。

しかし普段の仕事で最も身近なのは、上司などから受ける質的なフィードバックではないでしょうか。そのような上司や同僚からの日常的なフィードバックも、やはり効果的であることを示した研究があります。

これも先ほどと同様に、工事現場の安全行動を促進することを目的とした研究です。中国の建設会社における3つのグループ(上司3名とその部下たち139人)のデータを使用しており、上司のコミュニケーションスタイルが、部下の安全行動や安全意識にどのように影響しているかを検証しています。

まず、上司とのコミュニケーションにどのくらいフィードバックが含まれているかをグループごとに測定したところ、グループ1では7.5%、グループ2では2.4%、グループ3では14.6%となっていました。グループ3は普段からかなり多くのフィードバックが行われているといえます(図表2)。

上司からのフィードバックと危険行動の関係のグラフ
出所=『努力は仕組み化できる』

そして実際に工事現場でどの程度、危険な行動が取られているかを見てみると、グループ3の危険行動が最も少なくなっていました。

具体的には、グループ1は全体の36.1%が危険行動だと判定されたのに対し、グループ2では24.4%、そしてグループ3は9.6%と抜きん出て低かったのです。日常的なフィードバックにより、「安全な行動を継続する」ことができているのでしょう。

上司側に立つと、「人をやる気にさせる人は、フィードバックがうまい」のだといえるでしょう。これは、人を努力させる「コツ」のひとつかもしれません。

■効果的なフィードバックの条件とは?

しかし実はフィードバックは、ただ与えればいいというわけではありません。次の2つの研究を見てみましょう。まず1つ目は、約12分間、足し算課題を行う、というタスクを5回繰り返すという実験を行った研究です。

この研究の実験条件はフィードバックの有無と、実験者から与えられる目標の難易度で4つに分けられていました。つまり、

「難しい目標でフィードバックがある条件」
「難しい目標でフィードバックがない条件」
「簡単な目標でフィードバックがある条件」
「簡単な目標でフィードバックがない条件」

の4つです。実験の結果、足し算課題の成績がよかったのは、難しい目標が与えられた条件のほうでした。しかしそこには、フィードバックの有無による成績の差は見られなかったのです。

一方、別の研究(図表3)では、複雑な計算課題を16セッション実行するという実験を行いました。

フィードバックの有無による正答数の推移のグラフ
出所=『努力は仕組み化できる』

参加者は1セッション(5分間)の計算が終わるごとに成績のフィードバックがある条件と、ない条件のどちらかに振り分けられており、どちらの条件でも、各セッションが始まる前と終わった後に目標を記入させられていました。

この実験の結果は図表3の通りで、後半8セッションの成績に差が見られ、フィードバックがある条件のほうが高い点数となっていました。また、フィードバックがある条件のほうが、後半8セッションで高い目標を設定していたこともわかっています。

片方の研究ではフィードバックは効果がなく、片方の研究では効果が出ています。しかも実はこの2つの研究は同じ著者によって、ほぼ同時期に行われたものなのです。違いはいったい、どこから来ているのでしょうか?

■「見えない敵」と戦い続けることは、誰にとっても難しい

その答えは、「フィードバックで得られた情報を目標設定に生かすことができたかどうか」です。

山根承子『努力は仕組み化できる』(日経BP)
山根承子『努力は仕組み化できる』(日経BP)

1つ目の研究では、目標は実験者によって決められていたため、各人のフィードバックと目標が連動することはありませんでした。2つ目の研究では、被験者はフィードバックで得られた情報を基に、自分で目標を調整することができました。

つまり、フィードバックの有無が重要なのではなく、フィードバックの内容を受け止め、それを目標に反映させることでパフォーマンスが向上するのです。2つ目の研究において、パフォーマンスに差が出たセッションでは、設定された目標の高さにも違いがあったことがこれを裏付けています。

見えない敵と戦い続けるのは、誰にとっても難しいことです。「自分の頑張り」を自分自身で適切に評価できなくなったとき、楽しかったはずのことが「つらい努力」に変わります。

これを乗り越えて努力を続け、成長していくためには、どんな形であってもフィードバックと目標が必要なようです。何かを継続しようとするときには、自分の頑張りを目に見える形にしてみましょう。そしてそれを基に、明日の目標を立ててみましょう。

※参考文献
・Choudhry, R. M.(2014) “Behavior-based safety on construction sites: A case study” Accident Analysis & Prevention, vol. 70, pp. 14–23.
・Liao, P., Jiang, L., Liu, B., Chen, C., Fang, D., Rao, P., and Zhang, M. (2014) “A Cognitive Perspective on the Safety Communication Factors _at A_ect Worker Behavior” Journal of Building Construction and Planning Research, vol. 2(3), pp. 183–197.
・Locke, E. A., and Bryan, J. F.(1969) “Knowledge of score and goal level as determinants of work rate” Journal of Applied Psychology, vol. 53(1, Pt.1), pp. 59–65.
・Locke, E. A., and Bryan, J. F. (1968) “Goal-Setting as a Determinant of the Effect of Knowledge of Score on Performance” The American Journal of Psychology, vol. 81(3), pp. 398–406.

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山根 承子(やまね・しょうこ)
パパラカ研究所 代表取締役社長
博士(経済学)。専門は行動経済学。大学教員を経て、企業や自治体に行動経済学のコンサルティングを行う法人を設立。行動経済学会常任理事、一般社団法人投資信託協会理事。著書に『今日から使える行動経済学』(共著、ナツメ社)、『行動経済学入門』(共著、東洋経済新報社)など。

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(パパラカ研究所 代表取締役社長 山根 承子 イラストレーター=芦野公平 図版制作=キャップス)

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