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世田谷や麻布十番は「災害リスクの低い場所」ではない…高台の高級住宅地に潜む「地名リスク」の見分け方【2024夏のイチオシ】

プレジデントオンライン / 2024年8月18日 9時15分

高級住宅地にも災害リスクはある ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RicAguiar

2022年~23年にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、この夏に読み直したい「2024夏のイチオシ」をお届けします――。(初公開日:2022年9月12日)
都内で災害リスクの低い場所とはどんなところか。不動産コンサルタントの長嶋修さんは「東京は起伏が激しいため、高台の高級住宅地でも、局所的な低地となっていて浸水リスクを抱えるところがある。そうした意外なリスクは地名に隠されていることが多い」という――。

■「サンズイ」の土地は洪水リスクに注意

地名には、その地域の歴史が刻まれています。

「池」や「川」「河」「滝」「堤」「谷」など、「サンズイ」の漢字が入っているか、水をイメージさせる地名は、低地であることが多く、かつては文字どおり川や沼、池、湿地帯だった可能性があります。

例えば東京の渋谷駅周辺は、低地で、舗装された道路の下には川が流れており、地盤も弱いのです。

また「崎」という漢字の地名は、大昔の縄文時代など、いまよりも海面が高かった時代に、海と陸地の境目だった可能性があり、地盤が強いところと弱いところが入り組んでいる場合があります。

■かつての荻窪は「荻が自生する湿地」

杉並区荻窪の「荻(オギ)」とは、湿地に育つイネ科の植物のことです。このあたり一帯は、古くは「荻」が自生する湿地だったのです。

また、荻窪の「窪(クボ)」は文字通り窪地を表しています。

このあたりは、中心を流れている善福寺川の氾濫で、繰り返し浸水の被害が発生している土地なのです。

同様に、新宿区大久保や、国分寺市恋ケ窪などもかつては窪地でした。

また、中野区沼袋は、文字通りの低湿地で沼地があったとされる場所です。

ほかにも、目黒区には蛇崩という地名があります。ここはかつて蛇崩川(じゃくずれがわ)という河川がありましたが、現在は暗渠(あんきょ)となっています。

この蛇崩は、大水で崖が崩れ、そこから大蛇が出てきたという伝説が残されている土地になります。

ほか、大阪市梅田は、「埋田」から転じた地名で、もともとは低湿地帯だったのを、豊臣秀吉が埋め立てて田畑に変わった土地だと伝えられています。

このように、地名の「梅」は「埋める」に通じる場合があるようです。

■震災が証明した「津波は神社で止まる」

中には「音」(読み方)で分かることもあります。

椿は「ツバケル(崩れる)」に通じるため、かつて崩壊したことのある土地を意味している場合があります。

また、「桜」は「裂ける」を意味することもあります。

ほかにも、地名が土地の由来を物語るケースがあります。

宮城県仙台市の「浪分(なみわけ)神社」は、1611年の三陸地震による大津波が引いた場所という言い伝えが残っていて、東日本大震災の津波被害で一躍注目を浴びることになりました。

ほか、東日本大震災では、「津波は神社の前で止まる」とテレビが放送し話題になったことがあります。

福島県相馬市の津(つのみつ)神社には「津波がきたら、神社に逃げれば助かる」という言い伝えがあり、近隣の人たちは、小さい頃からその伝承を聞いて育ったようです。

3.11の際、その教えに従い、神社に避難した50人ほどが無事助かりました。

東日本大震災では低地ほど津波被害が甚大だった
写真=iStock.com/enase
東日本大震災では低地ほど津波被害が甚大だった ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/enase

■安心なのは「丘」「山」「台」

注意したいのは、近年地名が変更されたケースです。

例えば戦後の高度経済成長期以降に開発された大規模宅地などでは、「○○野」「○○が丘」「○○台」「○○ニュータウン」といった地名に変更されていることがあります。

所轄の法務局に行くと、土地の「登記事項証明書」を、誰でも一通600円で取得できますが、そこには「田」「畑」「宅地」といった土地の用途区分が書かれています。

現在は宅地に見える土地でも、過去には田んぼだったかもしれず、そうなるとその土地の地盤は柔らかい可能性が高くなります。

また、図書館には、その地域の歴史が刻まれた書籍が置いてあることが多く、それらを参照するのも有効かもしれません。

ほか、地名の由来については、多くの自治体がホームページで紹介しています。

逆に、「丘」「山」「台」といった漢字の地名は、古くからの高台で、地盤が強く、地震や水害のリスクが低い土地だと考えられます。

■皇居の東側は地盤が弱い

関東では、ざっくり言うと皇居の西側のほうが地盤が強く、東側のほうが弱い傾向にあり、これは栃木県あたりまで続いています。

これはなぜかというと、皇居の東側は、はるか遠い昔に海だったからです。

ただ、西側の土地なら安心かというと、必ずしもそうではありません。

例えば筆者が創業したさくら事務所は「渋谷区桜丘町」にあるのですが、その周辺の地形分類は「山地」「台地・段丘」で、地盤が非常に盤石で、標高も高く、浸水や液状化の可能性が低い土地です。

しかし、そこからほんの少し歩いた土地には「氾濫平野」が広がっていたりします。

同様に、周辺の「南平台」「鉢山町」「代官山」といった土地は、高級住宅地として有名で、標高が30メートル程度ある高台です。そのため、全体的には災害リスクの低い土地だと思われがちです。

しかし、そうした土地の中にも、部分的には、「大雨で雨水が集まりやすく、浸水のおそれ。地盤は軟弱な場合がある」とされる「凹地・浅い谷」が存在することがあります。

このように、地名を見る限り安全そうなのに、実際には災害リスクが高い土地もあるため、地名だけで判断できるわけではありません。

■「豊洲のタワマン」実は水害に強い

「浸水」や「洪水」リスクの高い土地というと、江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)、特に豊洲のタワーマンションなどの海沿いの低地をイメージされる方もあると思います。

実際、ハザードマップによれば、巨大台風などによって荒川と江戸川が氾濫した場合、江東5区は大半が浸水被害を受けると想定されています。

江戸川・荒川が氾濫すれば広範囲に被害が及ぶ
写真=iStock.com/dreamnikon
江戸川・荒川が氾濫すれば広範囲に被害が及ぶ ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dreamnikon

ただ、その場合でも、新木場や豊洲エリアは比較的水害リスクの低い土地に分類されています。

豊洲などの湾岸地域は海沿いにあるため、もし水があふれても、外へ出ていきやすい地形になっています。むしろ内陸側のほうが、水が溜まってしまい、2週間も引かないと予想されるほど、浸水被害が深刻化しやすい地域なのです。

また、荒川の堤防は東側の江戸川区方面がより低くなっているため、荒川が氾濫した際の水が江戸川区側に流れ、豊洲など湾岸エリアまで来ないとも言われています。

■実は注意が必要な「世田谷区」

内陸の標高の高い地域にも、浸水リスクの高い土地は存在します。

東京都世田谷区の標高は25~50メートル程度と高いものの、非常に起伏が激しい地形で、ハザードマップを見ると浸水可能性のある土地が多数存在します。

出典=世田谷区洪水・内水氾濫ハザードマップ
出典=世田谷区洪水・内水氾濫ハザードマップ

黄色の地区では、大雨が降った際に0.2~0.5メートルの浸水可能性があります。

水深0.5メートルといえば、車が浮き、パワーウインドーが作動せず、車の中に閉じ込められ、流されてしまうこともある、非常に危険なレベルです。

また、水色の地区では1~2メートル、青色の地区ではなんと2メートル以上の浸水が予想されています。

世田谷区は内陸部で標高が高い土地ですが、その割に浸水リスクが高いのは、「ゲリラ豪雨等による多摩川の氾濫」が想定されているからです。

東京など都市部の場合、雨水の排水処理能力は1時間あたり50~60ミリ程度を想定しています。ただ、昨今のいわゆる「ゲリラ豪雨」では、時間当たり雨量が100ミリを超えることも少なくありません。

排水能力を超える降雨に見舞われた際、処理しきれない雨水や下水が排水路から水があふれます。その場合、たとえ標高が高くとも、周辺の土地に比べて相対的に低い所には水が集中します。

地名に「沢」のつく世田谷区深沢には、ここ数年で何度も浸水している一戸建てがあるそうです。

杉並区のような内陸部でも、こうした都市型の洪水が発生する可能性があります。

実際、2005年9月には、杉並区で時間雨量110ミリを超える集中豪雨が発生。内水氾濫と河川の氾濫による水害が並行し、大きな被害がもたらされたことがあります。

また1999年7月、東京・新宿区で、時間雨量131mmというすさまじい集中豪雨で住宅地が冠水、地下室にいた男性が、水没した地下室に閉じ込められて死亡したことがありました。

この時、水圧で外階段のドアが開かず、エレベーターも浸水して動きませんでした。

■「麻布十番」など高級住宅地も安心できない

東京・港区の麻布十番といえば芸能人なども多く住む、セレブに人気の街です。

ただ、麻布十番駅周辺は「後背低地」で、地下水位が高く、周辺地より標高も低いため、排水性も悪く、洪水などの水害を受けやすい土地です。地質も軟弱で地盤沈下の恐れもあり、地震動に弱いとされています。

出典=国土地理院
出典=国土地理院ウェブサイト(地理院地図)

東京・港区のハザードマップによれば、南青山、西麻布、白金台、溜池山王などの高級住宅街にも、2.0メートルの浸水が想定される地域があります。

出典=港区浸水ハザードマップ
出典=港区浸水ハザードマップ

ハザードマップで浸水可能性が示されていても、過去に浸水の履歴がないため、止水板などの防水装置を備えていないマンションも多数存在するのが現実です。

想定外のゲリラ豪雨の場合、2019年の台風19号で被害に遭った武蔵小杉のタワーマンションのように、排水管から水が逆流する可能性もあるでしょう。

■むしろタワマンのほうが災害に強い

タワマンのような高層建築物は、基本的に地盤が強い場所か、十二分に基礎工事を行った土地に建っています。

そのため、仮に大地震が発生しても、液状化現象が起こるリスクは比較的低いと言われています。

東日本大震災において、埋め立て地の多い千葉県浦安市では液状化現象により大きな被害を受けました。その際、埋め立てた時期や工法によって、液状化が発生する度合いが大きく違ったといいます。

タワーマンションが建っている土地は比較的最近埋め立てられており、液状化のリスクは比較的低いということが分かっています。

また、現代のタワーマンションは制振・免震構造を備えています。

大きな地震の際、タワーマンションは大きく揺れるため、室内では家電が飛び回ったりして危険だと言われることがありますが、これは誤解です。

制振・免震構造を備えた高層建築は、揺れを受け流すようにゆっくり揺れるよう設計されています。もちろんまったく揺れないということはありませんが、「家電が飛び回り、ガラスを突き破る」といったことにはならないのです。

洪水リスクについても、前述の豊洲などは江東5区のなかでも比較的安全な土地です。

2019年の台風19号で被害に遭った武蔵小杉についても、排水管から水が逆流したり、浸水によって地下にあった電気設備が故障したことが大きな原因でした。その後、電気系統を地上に移すなど、対策が取られたという話もあり、その場合はむしろリスクが低下していると見てもいいと思います。

災害リスクの低い不動産を求めるなら、むしろタワマンを買うほうが安心かもしれません。

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長嶋 修(ながしま・おさむ)
不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。

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(不動産コンサルタント 長嶋 修)

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