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単なる「ラーメン店主のワガママ」ではない…炎上覚悟で飲食店が「イヤホン・スマホ禁止」にする本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年8月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DK Media

「食事中のスマホ使用禁止」など、飲食店の独自ルールをめぐるトラブルは絶えない。それでも店側がルールを設けるのはなぜなのか。グルメジャーナリストの東龍さんは「競争が激しい外食産業で生き残るために、自衛手段としてルールを設けている店が多い。理不尽に思える『スマホ使用禁止』にも理屈はある」という――。

■「店内でイヤホンやめて」でラーメン店が炎上

今年7月、東京都内の人気ラーメン店がXに「店内でイヤホンをつけるのをやめてほしい」と投稿したことを発端に、飲食店の“独自ルール”をめぐる議論が盛り上がった。

昔から口うるさい飲食店は多く、各店がそれぞれにルールやマナーを設定するのは今に始まったことではない。ただ、誰もが発信できるSNSの時代になってから、そうした決め事に対する反発や不満が表出するようになった。理解を示す向きもあるが、どちらかといえば反対派のほうが多いようだ。中には「そういった店には絶対に行きたくない」という主張も散見される。

総務省が定める「日本標準産業分類」の定義によれば、飲食店とは「主として注文により直ちにその場所で料理、その他の食料品又は飲料を飲食させる事業所」。飲食店を営業するのに主に必要となるのは、食品衛生責任者と防火管理者を置き、管轄地域の保健所から飲食店営業許可を取ることだ。ちなみに、よく勘違いされているが、調理師免許の取得は必須ではない。

つまり、食品衛生法は遵守しなければならないが、それ以外については自由度が高く、オリジナルのルールが創出可能なのだ。それゆえに、運営者の暴走にも見えるようなルールが制定され、さまざまな角度から炎上が起きやすいといえるだろう。

■「一人客お断り」「1人グラス3杯」…揉めがちなルールの代表例

トラブルになりがちな独自ルールにはどんなものがあるか。いくつかに分類してみよう。

●利用人数

これだけ「おひとりさま」が定着した現在でも、1人で利用できない店は多い。2人で分けることが前提のボリュームになっていたり、テーブルの稼働率を上げたりするためだ。

●メニュー変更

“おまかせコース”一択の店の中には、アレルギーや好き嫌いといった特別対応を全く受け付けないところがある。食材の変更や別メニューの提供がされなければ客は必然的に該当料理をパスするわけだが、その分の値段は割り引かれないことが大半だ。

●注文点数

1人1品以上の料理を必須としたり、1ドリンクを求められたりする店は多い。それでいて、居酒屋を中心に、有料のお通しが勝手に提供されることも根強い議論の種だ。お酒を売りにした店であったり店主がお酒好きであったりすれば、「2人でボトル1本以上」「1人グラス3杯程度」など、それなりの分量のアルコールの消費が定められている場合もある。

●注文方法・食べ方

ある有名ラーメン店のグループでは、トッピングやボリュームなどのオプションも含めた呪文のようなオーダーを唱えなければならないことがよく知られている。

一方、ファインダイニングでは、数品が同時に提供されて指定された順番通り食したり、途中でトッピングやコンディメント(調味料)を加えたりと、“最善の喫食方法”を半ば強要されることもある。「好きに食べさせろ」と思う人はいるだろう。

●支払い

クレジットカードやQRなどのキャッシュレス決済に関して、独自ルールを設ける店が増えている。「ランチでは使用不可」「5000円以上の支払いのみ対応」「手数料10%上乗せ」といった、本来は決済サービス会社の規約で禁止されているはずの運用をしていれば客は不満を抱く。

さらに極端なケースだと、最低3万円を超えるような高価格帯であるにもかかわらず、頑として現金しか対応していない“吝嗇なラグジュアリーレストラン”も存在する。そうした店は顧客層からも敬遠されがちだ。

●キャンセル料

飲食店はハコもの商売なので、その時その席に客が入らなければ売上機会を逸してしまう。したがって、ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)に対して、キャンセル料をとることは珍しくない。通常であれば3日程度前から、長い場合には1週間前くらいから、キャンセルポリシーに従ってキャンセル料が請求される。

しかし、超がつくような予約困難店にもなると、1カ月前あるいは予約した瞬間からペナルティーが発生することがある。そのタイミングでのキャンセルによってどれだけ被害が生じているのか、客側としては疑問だろう。後述する通り、そうした店の顧客層は限られるため炎上にまで発展することはめったにないが、かなり慎重になって予約せざるを得ず、評判が悪い。

■「俺のラーメンを最高の状態で食え」だけではない

●マナー

そして近年、特によく槍玉に挙げられるのが「食事中のスマホ使用禁止」ルールだ。今回話題になった「イヤホン禁止」も類似事案だろう。マナーに近い決め事のため、「きちんと注文をしているなら、どう過ごすかは客の自由だ」という反発を招きやすい。

店側がこうしたルールを定める背景には、「最高の状態で食べてほしい」「状態が悪くなったもので評価されたくない」「自分は真剣につくっているのだから、客にも真摯に向き合ってもらいたい」といった職人気質の一面はもちろんある。

だが同時に、経営的な理由も大きい。“ながら食べ”をすると食事時間が長くなり、回転率が落ちるのだ。特にラーメン店のような業態は客単価が安いので、回転数が命。1日10回転もするような店では、行列を少しでも早くさばくことが重要となる。

食べることに専念していれば、男性なら10分もあればラーメンを完食できるが、ほかのことをしながらだと倍くらいの時間を要するだろう。食べ終えてからもダラダラとスマホを見て座っていれば、滞在時間はさらに長くなる。“ながら食べ”は基本的に、飲食店にとってデメリットこそあれどメリットがない食事方法だ。

右手側にはタブレット端末、左手でスマホを使用しながら油そばを食べている男性
写真=iStock.com/shironosov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironosov

■10店に3店が3年で廃業する苛烈な外食産業

食べログによると、飲食店は全国に86万店以上、東京だけでも13万店以上ある。東京は世界で最も多くミシュランガイドの星を獲得している美食都市であり、外食産業の競争は苛烈だ。開業から1年で10%、3年で30%が廃業し、5年で20%、10年で5%しか存続していないともいわれている。

飲食店の経営においては、こだわりや矜持、大志を抱いていなければ精神的に辛い。他店と差別化して際立つ個性を表さなければ、選ばれる店として存在しないも同然だ。そのため大将やシェフには、ある種の突出したカリスマ性や伝説的な逸話、目を引く出自や誰もが認める華麗なキャリアパスが求められる。つまりキャラクターが立っていなければならない。

そして飲食店には個人事業主が多く、法人であったとしても中小企業がほとんどなので、店主は一国一城の主といっていい。瞬間的に閃いただけの事柄でも、誰にも検閲されることなく運用できてしまう。

これらの条件が合わさった結果、飲食店の独自ルールが暴走しやすい傾向にあるのはたしかだ。

■安い店ほど独自ルールでトラブルになりやすい

独自ルールでトラブルになりやすいのは、ラーメン店や居酒屋のようなカジュアルな飲食店だ。顧客層が老若男女と幅広く、あらゆる価値観の客層がウォークイン(非予約)で突発的に訪れる。あまり外食をしない客も利用するので、店の“性格”を知らないことが多い。そこで独自ルールを提示されて面食らった客が、その出来事をSNSで発信した結果「勝手な店だ」と炎上する――という流れが多発している。

また、なかには、1円でも安く済まそうとするコスパ至上主義者、飲食店を無料の井戸端会議の場所と考える特殊な層もいる。カジュアルな店のほうがファインダイニングよりも飲食店としての立場が弱いので、カスタマーハラスメント(カスハラ)も起きやすい。

その対策として独自ルールをよりきつくしたりマナーを厳しく注意したりした結果、さらに炎上事案が発生しやすくなっているという背景もある。

逆に、ファインダイニングや予約困難店が炎上することはあまりない。なぜなら、訪れる客は金銭面で比較的余裕がある上に、事前に下調べしていることも多く、店の性格を把握しているからだ。せっかく高いお金を支払うからにはできるだけ満足したいという想いもあるので、不満を抱きにくい傾向にある。

■店と客の間の意識のギャップがSNSで拡大した

飲食店の独自ルールは自分たちを守り、店としてさらなる高みを目指すために定められているが、それが一般的には「独善的」「偏屈」「横柄」などと受け止められがちだ。店と客の間に存在するそうしたギャップがSNSを通じて強調され、より目につきやすくなった結果が、ここ最近の“独自ルール論争”といえるのではなかろうか。

それぞれの飲食店が持った個性だと受け止めて、そうした独自ルールとの一期一会も楽しんでもらいたい。

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東龍(とうりゅう)
グルメジャーナリスト
1976年台湾生まれ。「TVチャンピオン」(テレビ東京)で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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(グルメジャーナリスト 東龍)

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