せっせと貯金するより安心できる…60歳を過ぎたら「1カ月10万円生活」をお勧めするワケ
プレジデントオンライン / 2024年8月22日 7時15分
※本稿は、和田秀樹『60歳からの脳と体が若返るワークブック』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■「老後の不安」は考え始めるときりがない
今、この瞬間を楽しみたいと思っても、ふと先のことが頭をよぎると、一気に不安になってしまうものです。
「認知症になったらどうしよう」「介護が必要になったらどうしよう」「生活費が立ち行かなくなったらどうしよう」「がんになったらどうしよう」など、考え始めるときりがありません。
もちろん歳をとっていく以上、そうなる可能性は少なからずあります。
だから、考えてもムダ、とまでは言えないでしょう。「隕石が空から降ってきたらどうしよう」というような、その確率がゼロに近いことを心配するのとはまったく別の話なのです。
ただし、ただ闇雲に不安がるのは賢明ではありません。
十分起こり得る心配な事態に対しては、実際にそれが起きたときに自分がどう対処するのかを、体の自由が利かなくなったり、認知症の症状が出始めたりする前に考えておくことは大事なことです。
いざそうなってからでは、時間的な制約が出て選択肢が一気に狭まったり、自分で考えたりすることができずに誰かの言いなりにならざるを得ないという事態にもなりかねません。
そのような対策をしっかり考えておけば、不安がすべて解消するとまでは言えないまでも、必要以上に不安を増幅させずにすみます。
■「敵」を知ることで「安心」を増やしていく
実態をよく知らずにいるほどネガティブなイメージばかりが膨らんでいくので、正しい知識やできるだけ多くの情報を得ることで「敵」を知り、「いざそうなってもなんとかなる」という自信を育てておきましょう。
また、頭の中でシミュレーションするだけでなく、可能であれば実験的に体験しておくことをおすすめします。できれば使いたくないなあと思っている介護用品なども、実際に使ってみると意外と使い心地がよかったりして、抵抗が薄れるかもしれません。
もちろん、使い心地が気に入らなければ、別のものを試してみてください。
このような実験を繰り返すことができるのも、切羽詰まっていないからこそ。そうやって「安心」を増やしておくことが、将来にも備えながら「今を楽しむ」コツなのです。
ただし、情報や制度は日々更新され、介護用品にしろ、なんにしろ常に進化していますから、2年後、3年後には、状況がまるで変わる可能性は高いです。
先を見据えるために行う実験は、一度やったからといって安心せず、ある程度、時間がたったら改めてやり直してみることを心がけましょう。
■「月10万円以内」で生活できればこわくない
今、この瞬間を楽しむことが、60歳からの人生を充実させる鍵ですが、「長生きしたときに備えて切り詰めた生活をしている」という方はたくさんいます。
でも生きている限り年金は受け取れますし、それが居住地ごとに設定されている「最低生活費」を下回った場合は、生活保護の申請が可能です。最低生活費がもっとも低く設定されている地域でも月10万円なので、もし金銭的に困窮したとしても、月々10万円の暮らしは、手を挙げさえすれば保証されているのです。
だからせっせと貯金する前に、「1カ月10万円以内での暮らし方」を体験してみてはどうでしょう?
案外なんとかやっていけそうだと実感できたら、今を犠牲にしてまで無理に貯金しなくてもいいや、と安心できるかもしれません。
もちろん是が非でも生活保護を受けろと言っているわけではありませんが、将来の安心材料の一つとして、本当に困ったときにはこの手があることを覚えておきましょう。
■孤独でいるほうが健康にいい人もいる
「介護保険制度」とは、一人暮らしの高齢者が生きていくための要<かなめ>の制度です。
実情を聞くと、地域によってはサービス事業者が不足しているとか、利用料が高すぎるなど、まだまだ問題はあるようですが、身近に頼れる人がいなくても、公的に支援してもらえるという、かなりありがたい制度であることには間違いありません。
高齢者の孤独は避けるべきものだと思い込みがちですが、この制度がスタートしたことで必ずしもそうではなくなりました。気兼ねなく好きなことが頼めるというメリットもありますし、人間関係に疲れを感じやすい人にとっては、むしろ孤独でいるほうが健康にもいいという考え方もできます。
そこで、1週間くらい人との交流を断って、自分が孤独を楽しめるタイプかどうかを見極める実験をしてみましょう。意外に快適だなと思えれば変に孤独を恐れる必要はなくなります。やっぱり寂しくて耐えられないという方は、気が合う人たちとの交流を大事にするなど孤独にならないための対策を講じておくのがよいと思います。
■遺産問題は楽しい人生の邪魔になる
日本では、個人の金融資産の6割は高齢者が所有していると言われています。
比較的大きな資産がある人は、そのうちの一部、あるいは大部分を子どもや孫たちに遺そうと考えているのでしょうが、残りの人生を楽しいものにするためには、「遺産は一切遺さない」ことにして、それを早めに表明しておくことが大事だと私は考えています。
お金が絡むと誰だって欲が出てきて当然なので、できるだけたくさん遺してもらおうという思惑が働かないとは限りません。
そうなると、あなたのお金の使い方にいちいち口を出してくることにもなりかねず、それが楽しい人生の邪魔になるのです。
だから、遺産を遺そうなどと考えず、たとえ子どもや孫をがっかりさせることになったとしても、あなたのお金はあなたの人生を楽しむために使いましょう。
下手に遺産を遺そうとしなければ、余計な家族間のいさかいを起こさずに済むので、変に気を揉むこともなくなります。
■「頼れる人」のリストアップは早めに
頼りたいときに簡単に頼れるというのがセーフティネットの理想的なかたちなのですが、たとえばいずれは誰もが頼る可能性の高い介護保険サービスにしても、その申請には複雑で面倒な手続きを要すケースが大半です。
そもそもその制度が必要になった時点で、脳も体も万全ではないのでしょうから、やはりいざとなったときには相談できたり、頼ったりできる誰かがいるほうが安心なのはたしかです。
家族を頼りにできるのであればそれが一番安心かもしれませんが、難しい場合には友人や近所の人の中から、現時点で頼ることができそうな人をリストアップしてみましょう。そして、いざというときには頼りたい旨を伝えておくのも大事です。
なお、頼れる友人もいないし、近所付き合いもないという場合には、介護サービス業者に申請を代行してもらうという手もあります。また、各自治体の「地域包括支援センター」に連絡すれば、向こうから訪問してくれるというケースもあるようなので、誰もリストアップできないからといってむやみに不安がる必要はありません。
■真面目に納税してきた人には「権利」がある
そもそも介護保険制度というのは、介護保険料という実質的な税金を我々が支払っているからこそ成り立っています。
つまりそのためのお金を自分で払ってきたのですから、誰だって堂々とその権利を享受していいのです。
金銭的に困窮し、生活保護を受けることになった場合も同様です。
十分な所得がなく、所得税をずっと免除されていた人であっても、なにかを買うたびに消費税は支払ってきたはずですから、苦しいときにそれを返してもらうことに抵抗を感じる必要はまったくありません。
試しに、自分がこれまでの人生でいくらくらいの介護保険料や所得税や消費税などの税金を支払い続けてきたのかをざっくりでいいので計算してみてください。その金額がどれだけ大きいのかを知りさえすれば、必要な支援を受けるのは当然だと安心できるのではないでしょうか。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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