じつは消毒液より断然効果アリ…膝を擦りむいたとき、流すと治りが早くなる「水+家にある調味料」の名前
プレジデントオンライン / 2024年9月6日 8時15分
※本稿は、柳澤綾子『身体を壊す健康法 年間500本以上読破の論文オタクの東大医学博士&現役医師が、世界中から有益な情報を見つけて解き明かす。』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■「ケガをしたらすぐ消毒」は正しいのか?
ケガをした時は、アルコールや市販消毒液で消毒しましょう。そう思っていませんか?
コロナ禍を経験した今だからこそ、そんな我々だからこそ、消毒には敏感になっています。
では擦り傷や切り傷、子どもは特に傷に入った砂やどろんこもですね、そういったものの対処法について一緒に考えてみましょう。
■細菌感染はどんな場合でも発生するわけではない
そもそも擦り傷や切り傷ができた場所は、皮膚が損傷して、皮下の組織、すなわちカバーされていない組織が剥(む)き出しになっている状態です。
ここには血液や間質液といった栄養たっぷりの液体がふんだんにあり、なおかつ体温はいい感じに温かく、湿っています。
この湿度や温度が一定に保たれた環境で細菌感染が起こった場合、細菌にとってはかなり住みやすい環境となります。そのため、医療行為によって生じた傷、すなわち手術創などであったとしても、この細菌感染はとても気をつけなくてはいけない問題です。
ただ、細菌感染はどんな場合でも傷さえあれば発生するというわけではなく、「細菌数」「創環境」「防御力」の3つの要素のバランスによって起きるかどうかが決まるのです。
■「3つの要素のバランス」によって起きる
まずは、傷に感染を成立させるだけの数の「細菌数」が必要となります(条件が合ってしまえば、細菌数は少量から爆発的に増えます)。
さらに感染を成立させるだけの「創環境」が必要(適度な温度や湿度と栄養が求められる)。
もう1つおまけに、「防御力」が低下している状態が必要(細菌と戦う自分自身の免疫が弱っていることが必須)。
この3つの要素が細菌側に有利に揃った場合に創部、つまり擦り傷や切り傷、そして手術創の細菌感染が成立してしまうことになるのです。
■消毒したほうが細菌数は減少
では3つのうち、どれか1つだけでもなくしたらいいのではないかしら?
その発想でおそらく20~30年前までは、医学界でも創部の消毒はきっちり行なわれていました。傷を消毒するという行為は、前述した3要素の中の「細菌数」を減少させることを目的としていたのです。
では本当に、この発想は正しかったのでしょうか。それに答えを出した1980年代の有名な実験と論文がありました(※1)。
傷の面に細菌を散布した上で、ヨード系消毒液で消毒した場合と生理食塩水だけで洗浄した場合の細菌の数を計測したものです。
この場合はもちろん消毒液で消毒した場合のほうが、傷面の細菌数は優位に減少していました。
※1 Rodeheaver G, Bellamy W, Kody M, Spatafora G, Fitton L, Leyden K, Edlich R. Bactericidal activity and toxicity of Iodine-Containing solutions in wounds. Arch Surg.1982 Feb;117(2):181-6.doi:10.1001/archsurg.1982.01380260051009.PMID:7034678.
■「消毒するほうが感染する」ことがわかった
しかし4日後にその傷の感染率を見てみると、なんと消毒液で消毒した群では100%細菌感染していましたが、生理食塩水で洗っただけで消毒はしていない群では全く感染していないということがわかったのです。
むしろ傷は消毒するほうが感染するということがわかり、大変な衝撃が走りました。
一般的に使用するものよりももっとずっと薄い消毒液を使用した場合であっても、どうやら傷を治すために必要かつ重要な働きをする線維芽(せんいが)細胞の増殖を抑制しているという報告(※2)もあり、さらには細菌と戦うために必要な白血球やマクロファージ(免疫機能を持つ大きめの細胞)にも有害らしい(※3)こともわかってきました。
※2 Balin AK, Pratt L. Dilute povidone-iodine solutions inhibit human skin fibroblast growth. Dermatol Surg. 2002 Mar;28(3):210-4. doi: 10.1046/j.1524-4725.2002.01161.x. PMID: 11896770.
※3 Van den Broek PJ, Buys LF, Van Furth R. Interaction of povidone-iodine compounds, phagocytic cells, and microorganisms. Antimicrob Agents Chemother. 1982 Oct;22(4):593-7. doi: 10.1128/AAC.22.4.593. PMID: 7181472; PMCID: PMC183798.
■消毒液を使うと感染を誘発する
これらの研究から、感染の起こっていない傷(今切れたばかりや擦りむいたばかりといった)に消毒液を使うことは、細菌感染予防効果は全くないどころかむしろ、感染を誘発する作用があることが徐々に明らかになってきて、世界中の医学界が大きな方向転換を余儀なくされたのです。
■「生理食塩水で洗浄」することが大事
ではどうしたらいいのでしょうか。まず大切なことは、異物などが混入していては感染予防にも傷の治りにも妨げになりますから、まず砂利やくずなどが傷の中に入っていないかどうか、しっかり目視でチェックしましょう。
次に、傷自体の面をしっかりと十分に、“生理食塩水で”洗浄することが何よりも大事です。
ここでポイントとなってくるのは、「なぜ生理食塩水でなければならないのか?」という疑問でしょう。基本的には、傷の洗浄を行なうためには流水でも大丈夫です。おそらく一般的に外で子どもがケガをした、などの場合に、すぐに大量の生理食塩水を用意できる人は皆無だと思いますので。
ただ、なぜ可能ならば生理食塩水をお勧めしているのかというと、理由は主に次の2点によります。
■生理食塩水は傷にしみない
【理由その1】生理食塩水が一番傷にしみないこと
子どもの時に公園で擦りむいた膝の傷が、お風呂に入ったらものすごくしみて痛かった記憶のある方も多いでしょう。これは浸透圧という現象によるもの。
浸透圧とは、水分が濃度の薄い側から濃い側に移動する圧力のこと。
ここでは主に塩素くらいしか含まない濃度の低い水道水が、あらゆる物質を含む濃度の高い細胞内へと移動して、細胞が水を吸って膨張してしまうため痛くなるのです(鼻に水道水が入ると痛いのもこれが原因)。
ですから体内の細胞と近い濃度の生理食塩水を使ってあげれば、水道水を使うよりもずっとしみにくいのです(ドラッグストアで売っている鼻うがい液が染みないのは、このメカニズムによるのですね)。
■水道水だと白血球やマクロファージにダメージ
【理由その2】傷の周りに残っている正常で免疫機能がある細胞に、ダメージを与えないこと
前述したように、傷を治すために、そして感染しないためには傷の周りにいる正常細胞から出る白血球やマクロファージといった免疫細胞などの働きが欠かせません。これらも細胞でできているので、浸透圧の違う水道水によってダメージを受けてしまいます。
ただ、先ほどから述べている通り、大量の生理食塩水を即座に外出先で準備できる人はあまりいないと思いますので、その場合はとにかく洗浄することを重視して、流水で構わないのでよく洗いましょう。
■生理食塩水の作り方
参考までに生理食塩水の簡単な作り方を載せておきます。「生理食塩水=濃度がおよそ0.9%の食塩水」のことですから、100mlの水に0.9gの食塩が溶けているものであればOKです。
洗った後は、創傷保護剤(なければ絆創膏)を貼りましょう。うまくできれば乾かさず、かさぶたを作らずに済み、最もきれない状態で治りますよ。
擦り傷や切り傷は、アルコールや市販消毒液などで傷口を消毒しない。
入ってしまったゴミなどは取り除き、生理食塩水(なかったら流水でOK)で十分に洗い流す。洗った後は、創傷保護剤(なければ絆創膏)を貼る。
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医師、医学博士
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。公衆衛生学を専攻し、社会疫学、医療経済学およびデータサイエンスを専門としている。東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員。集中治療・麻酔科専門医指導医。また株式会社Global Evidence Japan代表取締役として、母親目線からの健康と教育への啓発活動などを精力的に行なう予定。『VERY』をはじめ多数の雑誌で連載記事執筆、ラジオ出演などメディア出演も多数。著書に『身体を壊す健康法』(Gakken)、『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)。
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(医師、医学博士 柳澤 綾子)
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