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「深く愛し合っていればかまわない」が19%→47%…日本が「婚前交渉」に寛容になるまでの背景

プレジデントオンライン / 2024年8月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Choreograph

日本人はいつから未婚の男女の性行為に寛容になったのか。社会学者の山田昌弘さんは「1970年代から45年ほどの変化で、未婚者の性的関係を『不可』とする人は約6割から2割にまで減り、逆に、愛し合っていれば『可』とする人は半数近くに増えた」という――。

■「昔の中高生の恋愛を調べたい」

今回は、男女の「婚前交渉」の意識変化について見ていきます。

「婚前交渉? 何ソレ」と思われる人も多いかもしれません。

「婚前交渉」という言葉は、今となっては死語でしょう。20年ほど前に学生対象のアンケートで私が使用したら、「どんな意味なんですか」と訊かれたくらいです。

「交渉」とは性行為のこと。つまり、未婚の男女の性行為を指すのが「婚前交渉」です。

同じく、2000年代のこと。私のゼミ生が、卒論で「昔の中高生の恋愛を調べたい」と相談にきました。そこでアドバイスしたのが、過去に存在した「学年誌」の内容分析です。

年配の方は覚えていると思います。ひと昔前、多くの生徒は、中学入学と同時に、旺文社の『中一時代』か学研の『中学一年コース(通称:中一コース)』を毎月定期講読し、高校進学後も『蛍雪時代』『高三コース』などを読み続けるという時代がありました。

こうした学年誌が発行されるようになったのが、戦後10年ほどのこと。旺文社が1956年に創刊(既刊の『中学時代』『高校時代』を学年別に細分化)し、学研がそれを追随、1960~70年代に全盛を極めるものの廃刊にいたるのが、旺文社は1991年、学研は1999年です。つまり学年誌とは、少年少女漫画雑誌と並んで、団塊の世代(現在75~80歳前後)やその下の世代(現在65歳以上)の多くが読んでいた雑誌だといえます。

■学年誌における「グループ交際のすすめ」

その内容は、学校で習う教科の解説が中心で、学習塾がそれほど普及していない時代の参考書的な役割を果たしていました。中には、中高生の生活に関わる記事もあり、進級や進路の相談、友人やクラブ活動に関する悩みと同時に、恋愛の悩み相談なども載っていました。

前述のゼミ生は、旺文社にお願いして、1960年代に発行された学年誌の「恋愛相談」に関する部分をコピーさせてもらいました(私も後で読みましたが)。

彼女が読んで驚いたのは、その相談の回答によく出てきた「グループ交際のすすめ」です。

「グループ交際」と言っても、今の若い人には、何のことやらわからないでしょう。

例えば、「クラスに好きな人がいるんですけど、どうしたらよいでしょう」という問いに対して、1対1で交際するのはまだ早い、異性のことを知るために「男女とも数人同士の友達で、動物園などに出かけたら」と提案している。すなわちこれが、「グループ交際のすすめ」です。そしてこれが、男女の「婚前交渉」における象徴的な事例だといえるのです。

さっそく、時代をさかのぼりましょう。

■性に関する男女のダブルスタンダード

戦前から終戦直後までは、未婚者の男女交際は一般的ではありませんでした。

まず、「出会う機会」がほとんどありませんでした。小学校低学年は共学でも、それ以降は基本、男女別学スタイル。当時は、農業などの自営業社会なので、学校を卒業した多くの庶民は、原則として家業を手伝います。つまり、男女ともに親と一緒に働いている。そのような中で、「年頃の男女が出会い、つきあう」という機会はほとんどなかったと思われます。多くの若者は、親の取り決めなどで、「恋愛」期間をもたずに結婚していきました。

いくつか留意しておく点もあります。中産階級の一部のインテリ層には、西洋の自由恋愛へのあこがれがありました。それを描いたさまざまな小説が生まれ、彼らの心をつかみます(小谷野敦『恋愛の昭和史』など参照)。ただし、多くの庶民にとっては「自由恋愛は別世界の出来事」であり、中産階級のほとんどの若者も、実際には親の決めた相手と結婚していきました。

また、地方の農村や漁村などには、夜這いの習慣がありました。伝統社会のなごりといわれ、戦後しばらくの間もこうした因習が続いていたようです。民俗学の調査によると、「若者組」などでの男女の逢い引きなど、結婚前の男女交際が盛んだった地域があることも知られています。

性に関しては、男女の間でダブルスタンダードが存在しました。

男性は、結婚前であれ、結婚後であれ、結婚外の性関係を楽しんでもかまわない。特に、富裕層男性は第二夫人をもってもかまわない、売春もあたりまえのように存在し、未婚男性も、恋愛ではなく、性欲を満たす時代がありました。

一方、女性は、「貞操観念」という言葉が示すように、結婚によって配偶者になる者以外との性的関係は認められない、というのが通念でした。このように男女交際のあり方は、地域や階層によってかなり異なるものの、「男性の性」に関しては比較的おおらかであったというのが事実です。

■戦中から戦後にかけての純潔教育

戦中から戦後にかけて、「純潔教育」が広がり始めます。結婚前、結婚外の恋愛や性関係は“よくないもの”だという考え方です。戦時中は「総力戦」といわれるように、恋愛だけでなく楽しみを目的にした活動が当然のごとく禁止された時代です。しかし、戦後になっても、恋愛や性関係に対する“敵視”が引き継がれていきます。

戦後はいわゆる進駐軍相手の売春が盛んになるにもかかわらず、いや、だからこそかもしれません、教育界では「女子がそのような存在にならないようにする」という方針が打ち出されます(元森絵里子「性と子どもの近代史」林雄亮・石川由香里・加藤秀一編『若者の性の現在地 青少年の性行動全国調査と複合的アプローチから考える』、赤川学『セクシュアリティの歴史社会学』参照)。

純潔教育の目的は、「結婚外の性の排除」にあります。

要するに男女平等の観点から、男性と女性を同等にする。つまり、男性には許容されていた婚外の性を、“よくないもの”として禁止しようとする運動です。その結果、男性は表だって第二夫人をもつことが憚られるようになり、売春も法律的には1957年に禁じられることになります。

朝日講堂で開かれた売春禁止法制定関東大会=1955年6月10日
写真=共同通信社
朝日講堂で開かれた売春禁止法制定関東大会=1955年6月10日 - 写真=共同通信社

同時に、「結婚外の性関係」を禁じる価値観、つまり、性関係を結婚の内側に閉じ込めようとする価値観が浸透していく契機となります。この価値観が“結婚前”に適応されると、「婚前交渉の禁止」になります。それが最も徹底されたのが、戦後から1970年頃までだったのです。

■婚前交渉についての日本人の意識調査

ある調査を紹介しましょう。

NHK放送文化研究所が1973年から5年ごとに日本人の意識について継続的に調査をしています(16歳以上)。サンプリング、分析、集計方法がきちんとしているので、多くの社会学者が参照している調査です。その中の「『日本人の意識』調査」に、婚前交渉の是非に関する項目があります。

同調査では、結婚前の男女の性関係(「性的まじわり」という言葉が使われていますが)について、次のような選択肢が用意されています。長いので要約すると、①結婚までは不可、②婚約していれば可、③深く愛し合っていれば可、④性関係に結婚や愛は関係ない、といった4つです。

1973年は、それぞれ、①58%、②15%、③19%、④3%(不詳4%)。直近で公開されている2018年のデータでは、①17%、②23%、③47%、④7%(不詳7%)となっています。

すなわち45年の経過で、婚前交渉を「不可」とする人は約6割から2割にまで減り、逆に、愛し合っていれば「可」とする人は半数に届こうとしているわけです。

つないだカップルの手
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■婚前交渉に寛容になっていく社会変化

さらに興味深いのが、婚前交渉について男女別に行った意識調査です(NHK放送文化研究所『現代日本人の意識構造[第九版]』〈婚前交渉について〉33~35頁より)。

そこに示されている1973~2018年までの結果を読み解くと、以下のとおりです。

●1973年の段階では、男女とも過半数の人が「婚前交渉はダメ」だと思っていた。特に女性は、3分の2に及ぶ人がそう思っていたが、それ以降減少していく。
●婚前交渉は「婚約で可」という人は、各年代2割程度でそれほど変わらない。
●婚前交渉は「無条件で可」という人は、今でもそれほど多くない。男女とも1割以下である。
●婚前交渉は「愛情があればかまわない」という人は男女ともに増えて、90年代後半から最もメジャーな意見になっている。

ここで重要なのは、世代別の分析が載っていることです。時代が昭和から平成に変わっても、それぞれの人の若い時分の考え方がさほど変わらないことが強調されています。

つまり、1973年時点で多くの年配者は婚前交渉に反対だが、若い人が寛容な意見を持ち始め、その人々が年をとっても寛容なままでいつづけることで、社会全体が寛容になっていった、ということです。

■純潔教育の主導世代とは

本書の分析によると、1924~28年生まれの人(現在95~100歳の人)までは、男女とも「結婚まで性関係は持つべきでない」と考えている人が、各調査年で6~7割に達しています。すなわち、このような考え方をもった人たちが、戦後の純潔教育を作っていったことは間違いありません。

おおまかに要約してみましょう。

●1930年生まれまでの世代(現在95歳以上)→結婚するまで性関係はいけない
●1930~55年生まれの世代(現在70~95歳)→結婚前の性関係が許容されつつある移行期
●1955年生まれ以降の世代(現在70歳以下)→結婚前に性関係をもってもかまわない

冒頭の学年誌の「恋愛相談」に戻ると、1960年代に「グループ交際のすすめ」を主導していたのは、「結婚前の性関係はけしからん」という意見をもつ大人もしくは親たち、まさに純潔教育を主導していた世代です。

■「性の解放」といわれる現象の始まり

それに疑問をもちながら、教育を受けていたのが、現在の70~85歳の世代。

今の70歳以下になると、少なくとも意識の上では、結婚前の性関係には寛容になった世代といってよいでしょう。彼らが成人するのがだいたい1975年です。この時代からいわゆる「性の解放」といわれる現象が始まっていきます。

ただし、結婚前の性関係が許容されるようになったとはいえ、実際に性関係を持つ人々がすぐに増えていくわけではない。なぜなら、男女交際はどのようなものか、というモデルがなかったからです。

当時の親の世代は、男女交際は結婚に結びつくべきで、性関係は結婚後に限ると思っていた。しかし、子どもたちの世代は、「愛があればセックスしてもかまわない」と思っている。だからこそ、ならば“愛がある”とはどのような状態なのか――そんな悩みが生じることになります。

次回は、さらにそれらを考察していきましょう。

公園を歩くカップル
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

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山田 昌弘(やまだ・まさひろ)
中央大学文学部教授
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主著に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社)、『結婚不要社会』『新型格差社会』『パラサイト難婚社会』(すべて朝日新書)など。

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(中央大学文学部教授 山田 昌弘)

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