最初は「1日1語検索」を実践しよう…ベストセラー『「超」勉強法』83歳著者推奨「加速度的に勉強意欲が湧く方法」
プレジデントオンライン / 2024年9月3日 7時15分
■知識と好奇心がどんどん高まる「AI勉強法」
83歳になった今も、私は独学を続けています。独学こそ最も身につきやすく、最も楽しい勉強法だからです。なぜなら学校で講義を受けるのと違い、自分にとって必要なことだけ重点的に、都合がいいときに学べるからです。大事な点ですが、費用も安く上がります。
私はついこの間まで外国語を学んでいました。しかし、仕事が忙しくなったので、最近は原稿を書くうえで必要な勉強が中心になっています。具体的に言えば、AIと経済がテーマです。
年を取ると、今まで蓄積されてきた知識がありますから、勉強はいっそう楽しくなります。トルストイの『戦争と平和』に、ボルコンスキーという公爵が出てきます。引退してから高等数学の勉強に没頭している老人で、私が理想とする人の一人です。作者のトルストイも、70歳を過ぎてからイタリア語の勉強を始めたそうです。
「勉強はしたいけど、どうやって進めていいかわからない」と逡巡している人にこそ、独学をお勧めしたいと思います。インターネットとAIの発達により、20年前には考えられなかった効率的な勉強が可能になったからです。
■独学を続けるには「自慢したい」と思う
独学を成功させる第一歩は、とにかく始めてみること。そのために必要なのは、何をやりたいかという問題意識をもつことです。簡単に言えば、社会や物事に対して何らかの疑問をもつことがスタートになります。
疑問をもつための訓練として前々から私が推奨しているのは、「1日1語検索」です。毎日ひとつ、知らなかった言葉や、意味のわからない略語などについて、検索をかけて調べるのです。
1日1語なら簡単だと思うかもしれませんが、疑問をもつという習慣づけは、実はなかなか難しいものです。疑問を抱くには、好奇心を忘れないことです。少しずつ知識が身につけば、新たな好奇心が自ずと湧いて、加速度的に勉強したくなっていくものです。
独学は継続が難しい、という声をよく聞きます。トロイの遺跡を発見したことで有名なドイツの考古学者シュリーマンは、18カ国語を独学で身につけたと言われます。彼の唱えた勉強法には、「大きな声でたくさん音読する」「興味のある対象について常に作文を書く」などがありますが、面白いのは、外国語を身につけるために、わざわざ生徒を雇って教えたことです。
誰かに教えることは、自分が学んだ内容の確認になり、励みにもなります。お金を払ってまでやらなくても、現代ではブログやnoteに連載したり、SNSでグループをつくって得意な分野を教えあったりするのが、いい方法ではないでしょうか。連載に読者がつけば、期待に応えて新しい知識を書き込まなければいけません。「自慢したい」という動機も重要です。
自分では勉強しているつもりなのに、身につかないと嘆く人がいます。それはやり方を間違っているだけなので、もったいない話です。どんな分野の勉強にも必ず当てはまる、3つの原則があります。
1つ目が「解き方や文章を暗記する」。多くの人が「自分の頭で考えよ」と説きます。しかし私に言わせれば、これほど無責任で、人を惑わせるアドバイスはありません。
土台のない場所に、新しいビルは建てられません。暗記によって多くの知識を培っている人のほうが、独創性を発揮できるのです。
たとえば外国語なら、単語ではなく文章を丸暗記してしまう方法が、一番有効です。五感を使うほうが効果があるので、ひたすら音読しながら、なるべく長い文章を覚えていきます。大意を大摑みしつつ読み、日本語に翻訳しながら理解するクセを避けるように気をつけます。題材は、小説や随筆がいいでしょう。英語なら、シェイクスピアや、わかりやすい言葉が使われている英米の政治家の演説がお勧めです。
2つ目が「重点化」です。学び方が平板なことも、身につかない原因です。勉強上手な人は全体を一様に学んでいるのではなく、重要な部分とそうでない部分の見分け方が上手なのです。
問題は、重要な部分がどこにあるかを見出す技術です。それが3つ目の「全体を把握する」に繋がります。
■一冊の本の中核は全体の2割もない
部分を積み上げて全体を理解するのではなく、全体を把握したのちに部分を理解するように心がけます。そのほうが効率的だからです。独学の基本は読書ですが、「読む」前に、15分ほどでパラパラとめくって「見る」ことが大切です。
そうやって読む価値があるか否かを判断したうえで、読みたいと思ったところから読み始めます。筆者の問題意識による章立てが、読み手にとっての重要度に合致するとは限らないからです。目次、索引も、先に読むべき箇所を探す参考になります。私の考えでは、索引のない本は本ではありません。
ビジネス書や実用書を、1ページ目から読む必要はありません。その習慣は非効率的ですし、読む価値がない本は途中でやめてしまうことです。一冊の本の中核は、全体の2割もないものです。読む価値がある本の自分が知りたいと思っていることが書いてある部分だけ、読めばいい。途中でやめるのは、その本に価値がないためであって、読み手の責任ではありません。
山登りをするとき、途中では視界が開けませんが、頂上に立てば下界が一望できます。勉強も同じで、ある程度進んでから振り返ると、概念の意味や位置づけがわかるのです。全体像を把握するためには完璧主義を捨て、8割わかったと思ったら残りの部分は飛ばして、先へ進む割り切りが必要です。
私は「ヘリコプター勉強法」と呼んでいるのですが、8割しか理解しないままで頂上に立つには、そこへ連れて行ってもらう手助けが必要です。かつては百科事典でした。現在はネットの検索エンジンや生成AIが、強力な武器となります。
新しいテクノロジーはとっつきにくいものですが、決して敵と見なさず、味方として認識したほうが有利です。中でもChatGPTは、強力なヘリコプターの出現だといえます。便利なだけでなく、勉強を面白くしてくれます。まさに「勉強革命」と呼ぶべきツールであり、活用できるか否かは成果に直結します。
■AIが発達しても知識の価値は下がらない
社会人が独学でリスキリングする場合の難点は、カリキュラムの不在です。そこでもChatGPTが役立ちます。自分の学習がどこまで進んでいるかを説明し、「資格試験に合格したい」などの目標を指し示します。すると合格するためには、どの程度の勉強と時間が必要かを割り出し、対応したカリキュラムをつくってくれるのです。
特にChatGPTが有効なのが、外国語学習です。これまでは、外国語の文章を読んでいて意味のわからない単語が出てきたら、辞書を引いて意味を文章に当てはめ、文法の知識と組み合わせて解釈し、理解していました。つまり、単語から始めて、全体の理解を積み上げていたわけです。
しかしChatGPTを使えば、いちいち辞書を引かずに、文章全体を理解することが可能になります。まず、ChatGPTに全体を翻訳してもらいます。長い文章なら、要約でもよいでしょう。その訳を読んで全体の意味を摑んでから、英文を読む。つまり、すでに大意がわかっている英文を読むのです。先に全体を把握しておけば、わからない単語が出てきても、文脈から意味を推測できます。そのうえで、全体の文章を繰り返し読んで暗記します。
このような読み方でChatGPTを活用すれば、外国語の文章を最初からひとつずつ読解してから次へ進むという非効率的な勉強法から脱却できます。部分から全体への理解ではなく、全体から部分への理解です。日本語の文章を無意識に読みこなしているのと同じ読み方が、できるようになるのです。
ChatGPTには、自分の書いた外国語を添削してもらうという活用法もあります。直してもらった文章を暗記すれば、書くトレーニングと話すトレーニングが同時にできます。
学びたい文章の正確な音読を、手軽に聴けるようになったことも大きなメリットです。ビジネスパーソンに必要な外国語は専門分野の専門用語であって、挨拶の言葉などではありません。しかしこれまで、専門用語が正しく発音されている音源に接する機会は、限られていました。
このように、ChatGPTは自在な使い方ができるので、自分だけの優秀な家庭教師になります。前述した「1日1語検索」を、ChatGPT相手に行うのも有効です。会話を続けると非常に面白い答えが返ってきます。何を質問すればいい答えが返ってくるかを考えるようになり、こちらの知識や問題意識が磨かれていきます。
ただし、進化途中の現状では弱点もあるので、依存しすぎは禁物です。分野としては数学が苦手で、間違った回答をすることもあります。「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象です。もっともらしい誤答を出されて惑わされないためには、書籍や検索エンジンを使って確認する必要があります。
ハルシネーションが起こる原因ははっきりしないのですが、ChatGPTが事前学習に利用した文献や資料の中に誤った情報が含まれているためではないかと考えられています。そこで、同じ問題について違う形で質問したり、ChatGPTが教えてくれた言葉を検索語として検索してみるといいでしょう。確率的な原因によって起こるのであれば、問いを変えれば違う答えが出てくるはずだからです。
独学では、どれだけ勉強したかをほかの人に知らせにくいので、確認するプロセスが欠かせません。そのためのデジタルツールとして、「オープンバッジ」があります。資格試験や検定に合格したり、大学でプログラムを受講したことなどを証明するデジタルツールです。世界共通の技術標準規格に沿ったものなので、世界中で活用が広がっています。つまり、自分が勉強した成果を可視化できるのです。
AIが発達した昨今、「もはや知識は必要なくなった」という意見もあります。しかしこの先も、知識の価値が低くなることはありません。AIは人間の手助けをするものであって、代わりはしてくれないのです。勉強の基本は好奇心と疑問ですが、AIには好奇心がなく、疑問を抱くこともできません。
好奇心から学んで身につけた知識は、人間を次の疑問へと誘います。独学の必要性と重要性は、これからも増すばかりだといえます。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。
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一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院教授などを経て一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)など多数。近著に『生成AI革命』(日経BP 日本経済新聞出版)、『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社)、『日本の税は不公平』(PHP新書)、『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)などがある。
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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄 構成=石井謙一郎 撮影(書籍)=市来朋久)
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