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著者は本を読むのが大の苦手だった…4年前に発売し累計26万部超「極厚787ページの勉強本」極意を特別公開

プレジデントオンライン / 2024年9月2日 17時15分

『独学大全』著/読書猿

全788ページ、厚さ約5センチの分厚い勉強本『独学大全』。著者の読書猿氏はかつて集中して本を読むのが苦手だったという。そんな飽きっぽさを自覚する者が、研究を重ねてたどりついた「勉強習慣を続ける極意」を明かす。

■独学は文化として脈々と受け継がれてきた

はたして今の世は独学ブームなのか。コロナ禍の環境で勉強に励む人が増えて、4年前に発売した『独学大全』は今もコンスタントに売れています。しかし、私は独学がブームだとは思っていません。独学は地下水脈のように昔から脈々と続く流れがあり、近年、井戸を掘ったらたまたまそこに突き当たり、水が噴き出したような印象を持っています。

独学は、江戸時代にはすでにありました。字を読める人が全国各地にいて、本を読む文化があったのです。庄屋さんくらいの身分になると、本を買い集めて周囲に貸し出すような人も多くいました。また、伊勢参りなどに行く人がいると、京都へ寄って本を買ってきてほしいと、近隣の村から依頼が来ることも珍しくありませんでした。当時、民間の教育機関だった寺子屋は全国に4万カ所もあったといわれており、その下地には独学する文化があったわけです。

独学は、その名の通り独りで学ぶものではありますが、その姿勢は周囲に有形無形の影響を与えていて、時にはその人が属している組織全体を変えることもあります。そのようにして独学は、文化として脈々と流れているものだと捉えています。

「独学はどのようにして始めればいいのでしょうか?」という質問を受けることがあります。かつて、「オタクというのは始めるものじゃない、気づいたらなっているものだ」という言葉を聞いたことがありますが、独学も同じです。何かわからないことがあって「知りたい」と思ったとき、すでに独学は始まっているのです。

独学を始めることに躊躇したり、「独学はどうすればうまくいきますか?」と聞いてくる人の多くは、おそらく独学で失敗したくないからだと思います。しかし、独学というのは失敗したらやめてもいいし、また学びたくなったら始めればいいだけのことです。失敗したら二度と学べない、ということはありません。何度途中で挫折しても、いつでも好きなときに戻ることができるのが、独学のよいところです。

■なぜ記録を取るだけで行動が改善するのか

忙しい現代人にとって、独学を続けることは容易ではありません。それはほとんど不可能といってもいいくらいです。そこで、勉強や読書を続けるために、必須ともいえる技法を2つ紹介します。

まず、「学んだり読書をしたりする時間が取れない」という人におすすめしたいのが「行動記録表」を付けることです。

【図表】行動の解像度を高める「行動記録表」

時間は誰しも平等に1日24時間しかありません。時間を増やしたり蓄えたりすることはできませんから、学ぶ時間を確保するには、限られた時間をどう配分するかを工夫するしかありません。闇雲に勉強や読書を頑張ろうと思っても空回りするだけなので、まずは実際に自分がどのように時間を使っているかを把握することが大切です。そのうえで、やらなくていいことや優先順位の低いことをやめて、やるべきことに時間を割り当てることが必要になります。そのために付けるのが行動記録表です。

行動記録表の付け方は次のようになります。まず「未来の予定を書く」。そして、「実際の行動を記録する」。最後に「予定と実際の行動の記録を比較する」のです。

行動記録表は自分がいつ何をしたかを記録するだけのシンプルなものですが、自分の行動が可視化されるため、時間の使い方を振り返り、反省することができます。それだけでなく、行動を記録すること自体に、自分にとって望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らす効果があります。読書の時間を増やしたい人の場合、「○時○分~○時○分 読書」と記録していくと、その行為に意識的になることで、次第に本を読む時間が増えていきます。逆に、スマホを見ることをよくないと思っている人であれば、その日にスマホをどれだけ見たかを記録するだけで、スマホを見る時間が減っていきます。急激に変わることはありませんが、少しずつ増えたり減ったりしていくマイルドな効果があります。

これは、一時期流行したレコーディングダイエットと同じ理屈です。行動を記録することで、「こうありたい」という自分の理想と現実の間にギャップ(認知的不協和)が生じます。その不快感を解消したいという思いが、行動を改善させるモチベーションになります。また、記録を取ることでひとつひとつの行動を意識するため、控えたい行動のきっかけを抑制し、習慣化したい行動のきっかけを促進します。

行動記録表は、もともと心理療法の一種である行動療法で1950年代から用いられてきた技法です。うつなどの症状がある人は、自分についての認知が雑になり、自分は全く何もしていないか、あるいは行動的か、0か100かの極端な見方をする傾向があります。そこで、自分についての解像度を高めることが一つの治療法として用いられてきました。

■スマホアプリを使えば「外部足場」を作りやすい

行動記録表を毎日付けることには、私たちにとっても自分の行動に対する解像度を高める効果があります。自分の行動データが蓄積されることで、たとえば、睡眠時間が5時間以下の日はパフォーマンスが上がらない、といった自分の傾向がわかってきます。すると、「こういうときはこうなるだろう」という自分の行動についての仮説が立てられるようになります。このように行動記録表は、自分自身を観察し、理解するための「外部足場」として役立ちます。

誰でも取り組むことができる行動記録表ですが、一つ欠点があります。それは、行動を記録するのが面倒なことです。その対策として、あらかじめ作っておいた予定表に修正を書き込む形で行動を記録する方法があります。そうすれば、記録の手間を省くことができますし、計画通りに行動すればするほど修正する面倒が減るため、計画を守ろうとする意識が働きます。また、行動を記録できるスマホアプリを活用することも、記録の手間を減らすための一つの方法です。

なかには、勉強や読書を始めたいと思いつつ、なかなか重い腰が上がらないという人もいるかもしれません。そのような人は、行動記録表に、その周辺の行動も記録するとよいでしょう。専門書を読んで勉強したいと思いながらなかなかできない場合、行動記録表にゼロの時間が続くと嫌になってしまいます。そこで、「専門書の背表紙を見た」「専門書を読むことについて考えた」という程度のことでも拾い上げて記録するようにします。このように、小さな段階を踏み、少しずつ達成感を得ながら新しい行動を定着させる方法を「シェイピング」といいます。

しかし、真面目な人の場合、これと逆の行動をしがちです。たとえば、最低でも30分やらなければカウントしないと決めて、5分しか勉強や読書ができないとゼロ扱いにしてしまうのです。たとえわずかな時間であっても、切り捨ててしまわずに記録することが大切です。時間のカウントはできるだけ甘くしたほうが、後々時間を増やすことにつながります。

独学を始めて、もし途中で失敗や挫折をしたとしても、行動記録を取っておけば、それは自分に最適化された教材になります。どんなことに、あるいはどんなふうに取り組んでダメだったのか、しっかりと記録しておけば、そのデータの蓄積をその後の独学のやり方の改善に役立てることができます。

そもそも失敗や挫折は、早めに経験しておいたほうが、かすり傷程度で済み、早く立ち直ることができます。失敗や挫折を恐れずに取り組みましょう。

■「習慣を実行しないと気持ち悪い」を目指せ

独学を続けるためのもう一つの技法が「習慣レバレッジ」です。独学は、いわば長い時間をかけて自分を変えていくための取り組みです。長期にわたる学習や読書を達成するには、何より習慣化することが大事になります。

生活習慣がきちんとしている人は、独学しやすいといえます。時間の使い方が構造化、規格化されているので、習慣として独学の時間を当てはめやすいからです。逆に生活が不規則な人は、独学の時間を毎日繰り返し確保することが難しいかもしれません。しかし、どんなに生活が不規則な人でも、生きていくために最低限必要な習慣は持っているはずです。そうした既存の生活習慣を、新しい習慣を始めるための「てこ」として利用するのが習慣レバレッジです。

やり方は、まず足がかりとなる生活習慣を選びます。そして、その習慣の前後に新しい習慣を行います。この2つの行動を繰り返し、少しずつ重い習慣に変えていくのです。

【図表】時間をかけて自分を変える「環境レバレッジ」

人間は誰しも、必ずご飯を食べたり睡眠を取ったりします。また通勤している人であれば通勤時間など、毎日繰り返している動かしがたい時間の枠組みがあるはずです。それに合わせて学習や読書の時間を取るようにすると、新たな習慣として定着しやすくなります。ポイントは、最初から負荷をかけすぎないこと。できるだけ短時間や少ない分量で始めて、慣れてきたら少しずつ時間や分量を増やしていくようにします。

習慣化できると、続けることが非常に楽になります。毎日歯磨きをするのに苦労する人はあまりいないはずです。習慣化してしまうと、むしろやらないほうが気持ち悪くなったりします。それくらいになるまで続けられるとよいでしょう。突発的なことが起こると習慣は崩れやすいですが、このやり方を知っていれば、勉強や読書を再開するときにも使えます。

習慣レバレッジは、心理学者のデイヴィッド・プレマックが提唱した「プレマックの原理」に基づいています。この原理が登場するまで、行動療法の基本は「アメとムチ」でした。良いことをすればアメを与え、悪いことをすればムチを与えることで、良い行動が増え、悪い行動が減るというシンプルな考え方です。しかし、アメをずっと与え続ければ、アメを嫌いになる恐れがあります。だからといってアメに代わる新たな「ご褒美」を見つけるのも容易ではありません。それに対してプレマックは、ご褒美を与えなくても、高頻度の行動に低頻度の行動を伴わせることで、低頻度の行動が高頻度の行動に合わせて増えることを発見しました。これがプレマックの原理です。

勉強や読書も、食事の前後など、日々の生活習慣に合わせて行うと続けやすくなります。食事に限らず、通勤の移動時間を利用してもいいですし、帰宅時に駅前のカフェなどに寄って1時間、勉強したり読書することを習慣にするのもよいでしょう。日課と組み合わせて行うことが、独学を継続させるポイントです。

【図表】読書猿が薦める「学びを深める3冊」

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

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読書猿(どくしょざる)
博覧強記の読書家
ブログ「読書猿Classic: between / beyond readers」主宰。2020年発売の『独学大全』は累計26万部を数える。著書に『アイデア大全』『問題解決大全』など。(プロフィールイラスト=塩川いづみ)

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(博覧強記の読書家 読書猿 構成=増田忠英 イラストレーション(読書猿)=塩川いづみ 図版作成=大橋昭一 撮影(書籍)=市来朋久)

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