精神的につらいことがあったら「直ちにその日を終了」が正解…増加する高齢者うつを防ぐたった1つの方法
プレジデントオンライン / 2024年8月23日 15時15分
※本稿は、保坂隆『お金をかけない「老後」の楽しみ方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■「早寝早起き」は高齢者の正しい眠り方
精神科を訪れる患者さんの多くは、「眠れない」「夜中に目が覚めてしまう」などと睡眠に関わる悩みを口にします。心の病と関連していることもありますが、ほとんどは「心配ありませんよ」というケースです。
高齢になると睡眠パターンが以前と違ってくるので、その変化に不安を覚える人もいるのでしょうが、これも「心配はありません」がほとんどです。
もっとも顕著な変化は、若い頃は苦手だった早起きが大得意になること。これは加齢により体内時計が変化し、血圧、体温、ホルモン分泌など、睡眠に関わる生体機能リズムが前倒しになるために起こる現象です。
朝早く目覚めるから、当然、夜は早く眠くなります。だったら早く寝て、早く起きればいいだけの話です。「早寝早起き」は加齢現象によるごく自然な睡眠パターン。高齢者の正しい眠り方なので、気に病む必要はありません。
加齢にともなうもう1つの変化は、夜中に目が覚めやすくなることでしょう。ちょっとした物音に目が覚めてしまったり、トイレに起きたり……。でも、これも多くが自然な現象なので心配はありません。
夜、眠っている間はずっと同じ深さで眠り、一定の時間がたつとだんだん眠りが浅くなって、やがて目が覚めるのだと思っている人も多いようです。しかし、睡眠の深さにはリズムがあり、「浅い眠り」と「深い眠り」を繰り返していることが分かっています。
■「体内時計」に合わせて暮らせるのは老後の特権
浅い眠りは「レム睡眠」といい、眠っている間もまぶたの下で眼球が動いていることが観察されています。体は休んでいても、脳は活動しているという眠りですね。深い眠りは「ノンレム睡眠」といい、眼球は動かず、脳も多くの活動を控えて休んでいる状態です。
若い頃は一般的に、入眠時にまずノンレム睡眠が現れ、1〜2時間後にレム睡眠へ移ります。以後は、ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、これを一晩で4〜5回繰り返して、やがて目が覚めるというパターンを描きます。
ところが年齢が上がるにつれて、ノンレム睡眠の出現が激減し、それだけでなく、浅いレム睡眠と少し深めのレム睡眠が20〜30分間隔で繰り返されるようになり、夜中、眠りが浅い状態がほとんどになってしまうのです。
つまり、夜中に目が覚めたり、早朝に起きてしまうのは加齢による自然現象というほかはありません。悩む必要もなければ、よほど問題がある場合をのぞいて睡眠導入剤の必要もないと考えていいと思います。
忙しい現役時代と違って「体内時計」に合わせて暮らすことができるのは、老後の特権ではないでしょうか。眠くなったら寝て、目が覚めたら起きる。時計の針を見るのを忘れて、自分なりに十分眠ったと感じられる睡眠スタイルをとればいいのです。
■年を取ったら、少しの時間に「上手に休む術」を身につけよう
朝は早く起きる(起きてしまう)のだけれど、夜は晩酌を楽しんだり、テレビを見たりでつい遅くなり、睡眠不足気味だという人もいるでしょう。
疲れや睡眠不足は、とにかく溜め込まないこと。健康維持のためにはそれを心がけることが何より大切です。特に年齢を重ねてくると、睡眠不足、疲労の蓄積は、大きな病気の引き金になる場合も少なくありません。
ちょっと休みたい。少しだけ寝たい……。そう感じたら、遠慮しないですぐに休み、疲れ、寝不足を早めに解消することをお勧めします。
アメリカの心理学者サラ・メドックは、さまざまな実験の結果、30〜90分程度の昼寝をすると注意力、判断力、運動能力が高まり、五感が冴え、ストレスも軽減し、記憶力が増すと報告しています。
疲れも同じです。
年を取れば、誰でも疲れやすくなってきます。
それなのに「若い頃はこのくらい何でもなかったのに、情けない」と思うから、ますます情けなくなり、気分まで滅入ってしまうのではないでしょうか。
「老いぼれだと思われたくない」と歯を食いしばって頑張ってみたところで、後でどっと疲れが押し寄せ、状況が悪化するだけです。
まだまだ頑張ろうという気力はすばらしいと思いますが、もっと頑張りたいなら、なおのこと、ちょっとの時間に「上手に休む術」を身につけるほうが賢明です。
一緒にいる若い人から「ひと休みしませんか」と口に出すのは、いかにも高齢者に気を遣っているようで、実はとても言いにくいものだと聞きます。妙な意地を張らずに「この辺でひと休みしないか」と声をかけるのは、年長の者からすべき心遣いだと考えましょう。
■増える高齢者のうつ病「早く寝て忘れてしまうのがいちばん」
21世紀の現在、昔と比べて長くなった老後を目いっぱい楽しんでいる人が増える一方で、長い老後をもてあまし、自分の気持ちを追い込んでしまい、ついには「うつ病」になってしまう人も増えています。
人生はいいこと、うれしいことが半分、つらいこと、苦しいことが半分ずつで成り立っている――私はそう考えています。ところが、うつ病になりやすい人は見るもの聞くものが暗く見え、気分がひどく落ち込んでしまうのです。
何事にも興味が持てなくなり、何をするのも億劫で面倒くさく、一日中ぼんやりと過ごすことが増えてくる人もいます。
そのため、高齢者のうつ病は「認知症」と間違われやすく、「もの忘れ外来」などを訪れる人の5人に1人は、認知症ではなくうつ病だともいわれます。
うつ病の原因は複雑です。悲しいことや悩みごとがあるから、うつ病になるというほど単純なものではありませんが、近親者の死や深刻な悩みなどが引き金になることは稀ではないようです。
「うつ病になるのではないか」と不安を訴える患者さんに私は、「精神的につらいなと思うことがあったら、すぐにその日を終わりにしてしまうといいですよ」とお話ししています。
その日を終わりにしてしまう。手っとり早く言えば、早々にふとんをかぶって寝てしまうことです。パソコンでいう「強制終了」ですね。うつうつと心が晴れない日でも、さっさと寝てしまって翌日になれば、昨日の悩みなど忘れてしまうことも多いはずです。
年を取ると忘れっぽくなる――。これは1つの恵みでもあるのです。
悩むと頭にそれがこびりつき、眠ろうとしても、かえって目が冴えてしまうという人は、軽くお酒などを飲んでみるといいでしょう。
古来、酒は「百薬の長」ともいわれ、量を過ぎないようにすれば、気持ちをゆったりさせたり、元気をかき立ててくれる効果もあるのです。
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精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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(精神科医 保坂 隆)
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