最悪の場合、角膜に穴があき失明する…眼科医が力説する「絶対にやってはいけないコンタクトの使い方」
プレジデントオンライン / 2024年8月26日 9時15分
■ソフトレンズとハードレンズ、瞳に優しいのはどっち
――コンタクトレンズを使用する際に注意することは何でしょうか。
コンタクトを長時間装着することによるトラブル例が非常に多いです。最近もテレビで若い女性タレントが「人前でカラコンを外せない」と話していました。カラコンをまるで素顔の一部のように思ってしまっている若い人は少なくありません。
コンタクトレンズの着けっぱなしは感染症の原因になり、非常に危険です。
特にソフトレンズの使用者が不調を訴えるケースが多いです。ハードレンズの方が目を傷つけるイメージがあるかもしれませんが、違います。
ハードはレンズが小さく、まばたきするたびに動きます。すると、目とコンタクトの間の涙が交換されて、酸素や栄養が行き届くので目にやさしい。
一方、ソフトレンズは、黒目の表面を覆うようにしてつけるので、一度装着するとさほど動かず、物理的な涙の交換が悪いので、酸素不足や栄養不足に陥ります。ソフトレンズはその特殊な材質により、涙を吸ってレンズ越しに涙が浸透するように設計されていますが、ハードと比較するとその差は大きい。
ハードの場合、目が傷ついていると痛くて装着できないので、異常がわかりやすい。一方、ソフトは目に多少の傷があっても装着できるので、異常があっても気づきにくく、眼科に行かない人が多い。
多少充血していても「つけられるからいいか」としてしまうので、症状が出てきたことには病態がかなり進行していた、というケースもあります。
■「このままだと失明するよ」
――つい長時間装着してしまうので、耳が痛いです……。
コンタクトの度数が低いと、気づかずに重ねてつけてしまうひともいます。ウソみたいな話ですが、目の痛みを訴えて受診した患者さんがいました。
なんでも、ソフトコンタクトをしたまま寝てしまい、翌朝そのことを忘れて新しいものを装着したと言うのですが、その患者さんの片目から3枚ずつ、計6枚のコンタクトがでてきました。
これも極端な例ですが、以前、ある十代の男性の患者さんが「目が充血して目やにが出る」と受診に来ました。ワンデーのコンタクトを使っているとのことで、「いつからつけているのか」と聞いたら「3カ月間つけっぱなし」だと言うのです。
幸い感染症は起こしていませんでしたが、今まで見たことがないくらい角膜(黒目)に“ぶりぶり”と血管ができていて、その時はさすがに「脅すわけじゃないけど、このままだと失明するよ」と注意しました。
――角膜に血管ができる、というのはどういうことなのでしょうか。
人間の身体には、全身にめぐらされた血液によって栄養や酸素が送られています。
角膜には血管がないので、栄養素と酸素は涙を通して取り込んでいます。
もし身体の他の部位で、血液から酸素や栄養を受け取れなくなったらどうなるかというと、身体は「側副血行路」といって、新たに別の血流路をつくります。目も同じで涙から酸素を供給できなくなる状態が長く続くと、血管を作ります。
目の表面である角膜は透明であり、もともと血管がない組織ですので、血管を作ることは苦手です。未熟で異常な血管しか作ることができず、酸素不足は解消されません。
これを「角膜新生血管」と言いますが、もとの酸素不足が解消されないと、それが改善されるまでこの新生血管を作り続けることになります。
結果的に角膜が濁ってしまったり、ストレスがかかりすぎてしまって角膜の病気を発症してしまい、失明に至るような怖い病態を起こしてしまいます。
近年は素材の改良でかなり良くなっていますが、ソフトコンタクトレンズでは涙の交換が非常に悪いため、つけっぱなしにするというのは角膜とコンタクトレンズの間の古い涙がずっと交換されずに目の表面に接していることになりますので、酸素が極端に足りなくなるわけです。
前の日のお風呂を流さずに、その都度お湯を継ぎ足して入っているようなイメージです。イメージ的によくないことがわかりますよね。
■水道水でコンタクトを洗ってはいけない
前述のようにソフトレンズは涙を吸着することが重要です。ただ、この性質は涙だけでなく細菌も吸着してしまいます。ですから、水道水で洗う、点眼薬を使う、汚い手で取り扱うなどが禁止されています。飲める水道水でも実際は細菌が存在しています。
ソフトレンズに細菌が付着すると、そこで増殖を始める。そんな時に、角膜に傷が入ってしまうと、汚染されたソフトレンズから細菌や微生物が角膜に入り込む。
とくにアメーバ(アカントアメーバ)が引き起こす「アメーバ角膜炎」は注意が必要です。目に強烈な痛みや赤みが出たり、涙が過剰に出るなどの症状が挙げられます。特効薬が存在しないため、治療をしても視力が完全に回復しない場合もあり、治療は困難です。悪化すると角膜に穴が開いたり、角膜混濁して視力を失うこともあります。
30年前なら教科書でしか見ない珍しい病気でした。しかし、今や若者の間では珍しくない。治療が難しく、失明にもつながる恐ろしい病気です。
■角膜に穴が開き、熱い涙が流れる
――感染症を起こすと失明に至るケースもあるとのことですが、どのくらいの期間放置すると危険なのでしょうか。
病原体の強さやその時の目の状況によりますが、一晩つけっぱなしにしただけでも黒目が白く濁って感染症の病巣ができていることもあります。
白い濁りは、コンタクトを装着したままだと気づきにくいですが、放置すると角膜に穴が開き、そこから熱い涙が出て、あげく失明してしまうこともあります。「角膜穿孔」と言います。
――角膜穿孔はどういったメカニズムで起きるのでしょうか。
たとえば皮膚が傷ついた場合も、傷口が菌で化膿していると治りが悪いですよね。しっかり菌を除去できれば、そこに新しい皮がはって治っていく。
目の場合は、角膜は厚みが0.5ミリほどしかない。菌は組織を溶かすので角膜をどんどん削っていく。この病態が治療で止められない場合は角膜に穴があいてしまう。
あまり体験される人は少ないとは思いますが、ケガをして出血をしたとします。この場合も生温かい液が皮膚を伝う感覚を覚えます。これと同じで普段の涙の分泌速度とは明らかに違う量の体液(実際は房水という眼内を流れている透明な体液)が体内から流出してくるわけですので、「熱い涙」と感じるのです。
――角膜に穴が開くと、視力も落ちてしまいますよね。一度落ちた視力は戻るのでしょうか。
穴がどの部分かによります。視軸にかぶらなければそもそも視力低下は軽微です。
感染巣が視軸にかぶっていて視力が落ちてしまい、その上で穴があいているとなると視力は戻りにくいです。感染した角膜は、削れる場所があれば削ります。でも、病巣が深いとところにあると、角膜は薄いので半分以上は削れない。そうなると角膜移植しか治療法はなくなってしまいます。
■コンタクトの適切な装着時間
――感染症で目が白くなった場合、自分で見てわかるのでしょうか。
よく見ればわかりますね。黒目に白く点ができたりします。最初は激烈な痛みがするというよりは、目やにや充血から始まりますね。あくまで典型例ですが、丸くて小さい点が見える場合はブドウ球菌、急速な視力低下と強い痛みを伴う場合は緑膿菌と、菌によって経過はさまざまです。
通常、涙には殺菌作用のある酵素も含まれているので、少し傷がついたくらいなら感染症などは発症しません。「突き目」といって、森や庭仕事で目に枝が刺さったりすると、真菌(カビ類)によって感染症を起こすことがありますが、コンタクトで目の表面が少し荒れて常在菌が入るくらいなら、感染症を起こすことはありません。
ただソフトレンズはずっとつけていることで、長時間装着する間に目の表面の酸素不足から抵抗力も弱まる。そこに傷がつき、ソフトレンズ上で菌が繁殖することがあると、深刻な感染症に発展してしまうわけです。
――長時間装着しないことと、日々のケアが大切なのですね。
シリコンハイドロゲル配合の高価なプレミアレンズと言われるレンズではなく、従来型のコンタクトを装着できる時間は10時間程度なので、本来は朝7時に起きたら夕方5時には外すということになります。
女性は特にコンタクトをしてからお化粧をして寝る直前までつけている方が多いので、どうしても長時間装用になってしまいます。
現在、簡単な同意書にサインするだけで、量販店やネットで医師の診察や処方箋なしに簡単に買えてしまいます。ですが、コンタクトレンズはそもそも「高度管理医療機器」に指定されていることを忘れてはいけません。
1Dayタイプの使い捨てコンタクトレンズは1回装着して外したら捨てる、ハードもソフトもコンタクトレンズを使用している場合は定期的な眼科受診をすることが重要です。
■100円ショップでカラコンを買ってはいけない
当然ながら、カラーコンタクトにも注意が必要です。
元々カラコンは、塗料がある分、酸素透過性などの性能が通常のコンタクトよりも低い。クオリティーの高いレンズなら問題ないですが、海外製の安価な商品のなかには、本来溶け出さないはずの着色料が溶け出してきたり、酸素透過性が非常に低い商品もあります。
最近は、100円ショップや量販店の雑貨売り場でも購入できますが、そんな信頼度の低いレンズを目に入れていいわけがありません。
装着時間も普通のコンタクトより短く8時間程度が望ましいので、本来朝入れたら夕方には外した方がいい。カラコンの場合は、メイクの一部になっていますので、なかなか外せない状況もあるかと思います。ですから最低限、高度管理医療機器として承認を受けているカラコンを選ぶべきです。
雑貨のようなものでは非常に危険ですし、目の病気になってカラコンを楽しめなくなるばかりか視力まで失いかねません。
眼科医の中にはカラコンそのものを否定する医師も多く「眼科に行くと怒られてコンタクトを処方してもらえないから行きたくない」と思い、足が遠のいてしまうかもしれません。
ただ、僕自身は、カラコンは今や女性にとってはメイクの一部になっています。男女問わずつけると気分も変わりますし、正しく装着できるならいいと思います。僕自身も若いころはつけていたこともありますしね。
でも、使い方を間違えたら……、前述した通りですね。失明しても構わないという人はいないはずです。
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眼科専門医、医学博士
大阪大学大学院医学系研究科未来医療学寄附講座特任准教授。日本眼科学会認定眼科専門医。医療法人社団康梓Y’sサイエンスクリニック広尾理事長・院長。兵庫医科大学医学部医学科卒業、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。大阪大学および米国フロリダ州マイアミ・オキュラーサーフェスセンターにて、眼表面の再生医療を中心とした幹細胞研究に携わる。著書・監修書は『1日1分見るだけで目がよくなる28のすごい写真』(ともにアスコム)、『見るだけで目がよくなるガボールパッチ』(ともに扶桑社)など多数。
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フリーライター
時事通信社記者、宣伝会議「広報会議」編集部(編集兼ライター)、朝日新聞出版AERA編集部を経てフリーに。 AERA、CHANTOWEB、文春オンライン、東洋経済オンラインなどで執筆。2児の母。
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(眼科専門医、医学博士 林田 康隆、フリーライター 市岡 ひかり 聞き手、構成=ライター市岡ひかり)
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