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「スキルのない文系新人」は必要なくなる…生き残りをかけた日本の一流企業に迫られている"残酷な選択"

プレジデントオンライン / 2024年8月27日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

一流企業が求めている社員とは、どんな人材か。明治大学国際日本学部の小笠原泰教授は「本気でグローバルに戦う日本企業では、日本人社員のライバルは日本人だけではなくなる。これといったスキルがなく『一生懸命働きます』という人材は、変化に取り残される恐れがある」という――。

※本稿は、小笠原泰『日本人3.0 新しい時代のルールと必須知識』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

■ユニクロの「初任給30万円」が示す未来

円安による輸入インフレ対応という社会的なプレッシャーの中で、皆で一緒(極めて日本的)に仕方なく給与を上げる大企業(円安の恩恵で、業績が上振れしているだけで、企業の競争力が強くなったわけではないので、経営陣は、この賃上げは本心では歓迎ではないと思います)が増えましたが、柳井氏のユニクロ(ファーストリテイリング)の初任給30万円への賃上げは、大きな転換を意味します。

今後、給与差は「業界間の差」から「企業間の差」へと変わり、「その差は拡大していく」と思ったほうがよいでしょう。

加えて、初任給が上がるということは、当然、昇給のカーブは緩やかになり、評価による個人の間での給与差は大きくなっていくということです。これまでの、申し訳程度の給与差をつけても、基本的には「横並び昇給」というのはなくなるでしょう。

30万円への賃上げは、国内と海外のオペレーションをグローバル化の観点で同じ土俵で見ることにつながるので、円安による海外との給与差の解消になるわけですが、裏を返せば、競争相手も日本人だけではなくなります。

■日本人社長は減っていくかもしれない

柳井氏は「真のグローバルプレーヤーになる」「次の10年も3倍以上に成長し売上高10兆円を目指します」と言っているので、企業内において、当然、「日本人だから」ではなく、「日本人でしかない」になるわけです。

日本企業で本気でグローバルに戦う企業はどのようになるのでしょうか。日本人の外圧に弱い体質を考えると社長は外国人になるケースが増える気がします。

カルロス・ゴーン氏のケースをみればわかりますが、日本人の社長の場合、反対が強くて思い切った改革は難しいのですが、外国人の社長なら「仕方ないか」でできてしまいます。それがいまの日本です。

有名なところでは、武田薬品工業のウェバー氏、三菱ケミカルグループのギルソン氏(石油化学事業を分離する再編が進まず、退任)、オリンパスのカウフマン氏がいます。

どの企業も、グローバルの視点での生き残り戦略を真剣に考え、大きな意思決定をしないといけない企業です。そもそも、残念ながら海外経験が乏しく、英語も堪能でない日本人の経営者では無理な相談かもしれません。文系の日本人社長に戻した三菱ケミカルの今後に注目してください。

■日本企業に就職したはずが、海外企業の社員に

また企業をグローバル化に適応させていく過程で、コアではない日本のビジネスを整理していく企業が増えるのではないでしょうか。

武田薬品工業はアリナミンやベンザなどの大衆薬(処方箋のいらない医薬品)を扱う子会社の武田コンシューマーヘルスケアを、資生堂はTSUBAKIや専科などのパーソナルケア(日用品)事業を、オリンパスも祖業である工業用顕微鏡などを手がける科学事業を、それぞれ海外ファンドに売却しています。

赤字ではないですが、伸びしろがなく戦略的なコア事業ではないので、売却したわけです。この流れは、おそらく加速するでしょう。

事業譲渡なので、従業員も移動するため、就職した企業の社員ではなくなります。海外ファンドに売却されるので、ちゃんと利益を出せる体質にしていくでしょうから、給与は上がるかもしれませんが、働く環境は厳しくなるでしょう。

■“野武士集団”から脱皮した日立製作所

自ら殻を破って前に踏み出す大企業も出てきました。

たとえば日立製作所を見てみましょう。いまは見る影もないですが“お公家集団”東芝とよく比較され、かつては“野武士集団”と称された組織です。「技術の日立」というフレーズが象徴するように、東大出の技師が主軸のお堅いイメージがありました。

旧日立本社ビル
旧日立本社ビル(画像=Fg2/PD-self/Wikimedia Commons)

しかしそんな日立製作所も、リーマン・ショックの影響で記録的な赤字を出し、経営再建が急務となり、グループ会社から復帰した故中西元社長とその後継者のもとで大胆な事業構造転換に踏み切っています。

具体的には、経営の軸と位置づけるIT事業と社会インフラ事業との相乗効果(「Lumada」がキャッチフレーズ)を基準とし、日立金属、日立化成、日立物流などグループの伝統ある事業(子会社)を売却し、イタリアの鉄道関連企業であるAnsaldo Breda S.p.A.とAnsaldo STS S.p.A.を買収し、鉄道事業のグローバル展開を積極的に行いました。鉄道ビジネスユニットのグローバル本部はロンドンにあります。当然、トップは日本人ではありません。

このようにして、日立製作所は、FNH(富士通、NEC、日立)の一角から、グローバルで戦う企業への道に大きく踏み出しています。

グローバル本部といえば、ユニクロのファーストリテイリングも2022年に東京本部に加え、ニューヨークにも「世界本部(グローバルヘッドクオーター/GHQ)」を立ち上げています。

■「何でもできます」社員は評価されない

日本の企業が生き残るためにグローバルなオペレーションを拡大していくとしても、日本型のメンバーシップ型雇用は、海外では適用されないと思ったほうがいいです。実際、トヨタにしてもアメリカのオペレーションは、明確なスキルに基づくジョブ型です。

つまり、海外オペレーションの比率が高くなるとメンバーシップ型の比重は下がり、最後は少数派になります。

メンバーシップ型の発想で海外で通用するかというと、なかなか難しいためです。

明確なスキル・ベースのジョブ型の海外では、日本のメンバーシップ型にある「何でもできます」の調整役的な総合職は機能せず、本社の人間といっても現場ではリスペクトされないのが現実です。

「いや、日本でもジョブ型への移行と言っているのだから大丈夫」

そう思う人がいるかもしれません。しかし日本で議論されているジョブ型は「人ありき(人の値段)」のジョブ型で、「ポジションありき(ポジションの値段)」の欧米のジョブ型(同じジョブであるかぎり、原則的に定期昇給はない)とは別物です。

人材配置イメージのジグソーパズル
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

■日本の「ジョブ型」は人件費カットの手段

政府は日本型のジョブ(職務給)制度への転換を声高に叫んでいますが、政府の目指すところは、「メンバーシップ型での定期昇給が機能しなくなったので、職務給で定期昇給をさせよう」といったところですが、肝心の日本型職務給の定義ができていないのが実情です。

岸田首相は、2023年6月までに政府として日本型職務給のモデルを示すと言いましたが、2024年1月の施政方針演説に至っても、まだ、「日本型の職務給の確立で従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給への移行を行う」と言っているだけで、依然として日本型職務給の定義はできていません。要は、定義は難しいので、賃上げが重要と言って議論のすり替えを行っているのです。

日本的なジョブ型推進の結果は、恣意的な目標設定による成果評価(欧米のジョブ型は契約で業務のアウトプットは決まっているので、そもそも評価しないです)による人件費カットに向かうので、欧米で通用する企業や業種横断的なスキル獲得にはおそらく向かわないと思います。かつての成果主義と同様に、日本のジョブ型は異形なジョブ型になると思います。

つまり、自分の価値を高めるスキルの獲得は会社に期待するのではなく、リスクを取って自分で進めていく必要があります。「政府や企業が促進しているリスキリング推奨の波に乗れば大丈夫」とは思わないほうがよいでしょう。

■「日本人だから大丈夫」はもう時代遅れ

事業のグローバル展開の中で、日本人社員のライバルは日本人だけではなくなります。ドライに言うと、日本人(とくに、これといったスキルのない文系新卒)は本当に優先的に必要でしょうか。「日本企業なので、日本人であれば、特別扱いされるから大丈夫」というこれまでの“常識”を、疑ってかかる必要があるかもしれません。

小笠原泰『日本人3.0 新しい時代のルールと必須知識』(ワニブックス【PLUS】新書)
小笠原泰『日本人3.0 新しい時代のルールと必須知識』(ワニブックス【PLUS】新書)

いまのあなたは「変わりたくない、変えてはいけないと変化に抗う国家・政府」と「生き残るためには急速に変わらざるをえないことを理解し、価値を創出するための多様化組織への痛みを伴う変身を始める合理的な企業」の間で、「リスク・テイクの判断を迫られ、変わらなければいけないと思いつつ、頭と体が動かない・動かしたくない状態」ではないでしょうか。

もしそうなら、キョロキョロ周りを見まわすのはやめ、自分で判断して、行動を起こしたほうがよいのではないでしょうか。

意識を変えて「リスク」を取らなければ、個人は、生き残りをかける合理的な企業の変化についていけないと思ったほうがよいでしょう。

■「使える人材」でないと取り残される

つまり、企業は従業員と会社との関係を、これまでの従業員は家族のようなものというウェットかつ長期的な関係から、ドライかつ短期的な関係に急速に変えていくと予測できます。厳しく聞こえるかもしれませんが、「一生懸命働きます」という人材ではなく、「こいつは使える」という人材でないと、企業の変化に取り残される恐れがあります。

知識社会が進む中で、国境を意識せず、自分の知識・スキルをベースに、ネットを介して仕事を受ける独立した就業者「ギグワーカー」を選ぶことも、主体的なリスク・テイクの例といえるかもしれません。もちろんこれは極端な例です。

このように、生き残りをかけて合理的に振る舞う企業を冷静に見据え、「それをどう活用するか」を考え、判断し、行動する。そんな意識を持つことが、「『最新』の日本人(日本人3.0)」に脱皮するには必須なのです。

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小笠原 泰(おがさわら・やすし)
明治大学国際日本学部教授
1957年、鎌倉市生まれ。東京大学文学部卒、米国シカゴ大学社会科学大学院国際政治経済学修士・同経済学大学院経営学修士。マッキンゼー&カンパニー、フォルクスワーゲンドイツ本社、カーギルミネアポリス本社などを経てNTTデータ経営研究所へ入所。同社パートナーを経て、2009年より明治大学国際日本学部教授となる。NHK「白熱教室JAPAN」で放映された大学の講義が話題を呼んだ。主な著書に『なんとなく、日本人』(PHP新書)、『日本型イノベーションのすすめ』(共著、日本経済新聞出版社)、『2050 老人大国の現実』(共著、東洋経済新報社)などがある。

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(明治大学国際日本学部教授 小笠原 泰)

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