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「EVと言われる時代に私はガソリン車が好き」話し方のプロが大絶賛する豊田章男会長の"自己開示プレゼン"

プレジデントオンライン / 2024年8月26日 16時15分

青山ブックセンターで行われた千葉佳織さんと三浦崇宏さんの対談には大勢の読者が詰めかけた。 - 写真提供/カエカ

聞き手を惹きつける話し方、そうでない話し方の違いはどこにあるのか。『話し方の戦略』がヒット中のスピーチライター・千葉佳織さんと、ベストセラー『言語化力』等の著作で知られるGO代表・三浦崇宏さんは「多くの人は『話し方は技術だ』という感覚がない。ある程度技術を身につけることで、言葉の選び方、話す内容の平均値を上げることはできる」という――。

※本稿は、青山ブックセンターで行われたイベント「“GO三浦さん、話し方トレーニングに出資しませんか?”──『話し方の戦略』を実行する公開プレゼン!」の内容を抜粋・再構成したものです。

■「話し方」とは技術である

【三浦】ビジネスのベースになる言葉の選び方、話し方の技術というのはやっぱり“平均値”をもっと上げたいですね。政治家とか経営者にしてみても、本当にヘタですもんね。

僕も実は、広告だけでなくスピーチライターの仕事もしているんですけど、本当に技術がないなと。そもそも、「話し方に技術がある」っていう感覚がみんなあまりない。

【千葉】「うまい人はうまい」ものである、と。

【三浦】そう。「生まれつきでしょ」みたいなことになっているんだけど、要は運動神経と一緒で。生まれながらに上手な人ももちろんいるんだけど、ある程度技術を身につければ、一般の人よりはできるようになるはずです。

誰もが野球でいうところの大谷翔平になれるわけじゃないし、なる必要もないんだけど、技術として話し方を身につけることは可能だという認識をまず持ったほうがいい。

■オリジナリティは基礎から生まれる

【千葉】この仕事をしていると「話し方のトレーニングを受けたらみんな同じ話し方になるんじゃないですか」とよく質問されるのですが、まず、なりません。

トレーニングで行うのは、話す力に必要な要素を分解して、言語化や構成力、抑揚など一つひとつの「話の筋肉」を鍛えていくプロセスです。なので、結果的には自分のパーソナリティにあったわかりやすい話し方が実現できます。

多くの人はそもそもやり方がわからなかったり、何から手をつければいいのか、どうやってうまくなっていけばいいのかわからないという状態なので、その状況を変えたくて「話し方トレーニング」の事業を展開しています。

一方で、むしろ三浦さんのように自己流のやり方がある人は、むしろそれを守っていただいていい。

いずれも、自分なりの努力をして、話し方を良くしていくことに向き合うことが大切だと考えています。

【三浦】べつに経営者レベルじゃない一般のビジネスパーソンでも、それって大事で。

基本的にビジネスで行われていることというのは、相手にイエスと言ってもらう、つまり「合意を取り付ける」ことでしょう。

「この会社にシードラウンドで出資してください」
「はい」
「電通でも博報堂でもなく、GOとCMを作ってください」
「はい」

合意を取り付けることをほとんどやってるわけです。そのときに相手の決断を促すのは、テキストコミュニケーションよりも会話のコミュニケーション。この会話のクオリティによって仕事の成果が変わってくる。

じゃあこれは天才だけが持つ特別な能力かといったらそうじゃなくて、ある程度はうまくなれるよ、と。そこから先、独自の型をつくっていってもいいし、いろいろ現場を積み重ねていくうちに自分の型ができちゃったみたいな人もいるんだけれども、一定程度は学んだほうがいいですね。

■言葉のプロも嫉妬「憧れるのをやめましょう」

【千葉】まさに。すこし具体的なテクニック論を紹介しましょう。

話すというコミュニケーションでは、「相手に何を覚えてもらいたいか」を考えるのがすごく重要です。そこでポイントになるのが、伝えたいことをワンフレーズに落とし込む「コアメッセージ」です。

例えば、大谷翔平選手の「憧れるのをやめましょう」。

【三浦】こんなことまで言えるの、ちょっとずるいよね。野球はもう人類史上いちばんすごい人で、喋(しゃべ)りまでうまいわけだから。

【千葉】すべてが完璧なんじゃないかって思えるぐらい。

【三浦】通訳以外、完璧ですもんね。

【千葉】プロの目線から見ても、よく考えつくなと。

「憧れるのをやめましょう」というワードの何がすごいか。まず、短い。これは当たり前のようですが、すごく重要なんです。ちょっと悪い例やってみますね。

「今日私が皆さんに伝えたいことは、みんなで一緒に協力をして高め合っていただきたいですし、さらにはお互いが仲良くなっていくことで、より良い世界を作っていただきたいですし、一緒にがんばれて良かったと、振り返った時に思える仕事の仕方をしてほしいと思っています」

こう言われたって、何も覚えられない。

「今日伝えたいことはたったひとつ、『一緒に高め合おう』、ということです」

例なので平易な表現を選んでいますが(笑)、短いというだけで、話の中で何がいちばん大切なのかがわかると思います。

もうひとつ、プラスのイメージのワード「憧れる」と、マイナスのイメージのワード「やめる」を掛け合わせているという点が非常に秀逸です。これによって、聞き手は一瞬「つまりどういうことだろう」と感じる。そして、記憶に残る。

【三浦】組み合わせがすごいインパクトを生んでいる。「夢を見よう」だったらまあわかるんだけど、今ある「憧れる」という状態を「やめよう」という。

難しい言葉を使っているわけでもないし、これ、本当によくできたスピーチだったなと思っています。

■ラブレターに書かれた「60億個の細胞」

【三浦】やっぱりギャップをつくるというのがすごく大事で。例えばサザンオールスターズの楽曲に「マイナス100度の太陽みたいに」という歌詞があります。太陽って熱いんで、それに対して「マイナス100度の」っていうだけで、すごく印象に残りますよね。

あとは僕の好きな言葉だと、昔のパルコの広告コピーで「ナイフで切ったように夏が終わる。」っていうのがあって。「ナイフで切る」と「夏が終わる」って遠いことを言ってるんだけど、すごく心に迫ってくる。

ギャップのある言葉を組み合わせることでとても印象に残るので、これは覚えておくといいと思います。

同じような法則で「情緒はデジタルで伝える」って言い方がよくありますね。さっきの「マイナス100度の太陽」もそうですし、例えば「めちゃくちゃ愛してるよ」っていうよりも……これ僕の友達が実際にラブレターに書いた言葉なんですが、「僕の60兆個の細胞が全部君を愛してる」。

【千葉】すごい(笑)。

【三浦】「60兆個」という数字があることが、胸にグッとくるじゃないですか。その情緒──「愛してる」「怒ってる」とか、感情を伝えるときに「めちゃくちゃ」とか「とっても」って言うよりも、あえてデジタルな数字で表現することによって、人の印象に残る。

伝えたい言葉が短いということに加えて、その短さの中にギャップがあることが、言葉づくりではすごく大事だと思っています。

【千葉】タイパ時代って言われるようになって、やっぱり全部は覚えてもらえないっていうときに、どうやって相手の印象に残すのか。この部分の追求っていうのは本当に重要ですね。

■プレゼンの「レベルが違う」あの経営者

【千葉】私のクライアントに多いのが、部長クラスの立場にいて、目指すべき数字ややるべきことはわかっている。でも、なぜ自分がそれをやりたいのか、どれだけ熱量を持っているのかというのは話しにくい、という人です。

こういうときは、ストーリーテリングの手法が有効です。なかでも「自己開示」というポイントをご紹介します。

自己開示とは、自分の悩みや弱点、または強みなど、ありのままの自分をさらけ出すことを指します。うまく使えると、聞き手の共感を得ることができます。

自己開示が上手なのが、トヨタの豊田章男さん。株主総会で、自分が孤独な“泣き虫社長”だったということを吐露したり、結構大胆なことをしているんです。

【三浦】豊田さんは本当にプレゼンがうまい。経営者の中ではちょっとレベルが違う。僕もいろんな企業の経営者のスピーチトレーニングをするなかで、豊田さんを参考にすることがあります。

まさに千葉さんのおっしゃる通り、だいたいネガティブなエピソードを入れるんですよね。「EVって言われてる時代に、私は本当は排気ガスをめちゃめちゃ出すガソリン車が好きなんです。でも時代の変化の中で……」と、自分の弱みや苦手なところをはっきり言うんですよね。

【千葉】私はこれ、三浦さんもやっていらっしゃると思っていて。ご著書『言語化力』のなかで、小学校のときのご家族のお話がありました。

【三浦】小学生のときに親父が破産して夜逃げしてるんで。

【千葉】その話を、裕福なご家庭の方が多い小学校で、すごく葛藤しながら話をしたっていうのがまさにこのストーリーテリング、自己開示なんじゃないかと思ったんです。

言葉のプロ同士、軽妙な語りの中に「本質」を突くトークが展開された。
写真提供=カエカ
言葉のプロ同士、軽妙な語りの中に「本質」を突くトークが展開された。 - 写真提供=カエカ

■人生は最上のコンテンツである

【三浦】そうですね。これ本当に覚えておいてほしいんですけど、自分の弱みというのは絶対武器になるんですよ。

僕も就活の面接の相談をよく学生からされるんですけど、これすごいシンプルで。「自分のコンプレックスをおもしろおかしく語れる奴が受かる」っていう話なんですよね。

まさにストーリーと千葉さんもおっしゃいましたし、僕はよく「ライフ・イズ・コンテンツ」っていう言い方をするんですけど。

モテないとかお金がないとか、こういう失敗をしちゃったとか、自分の苦手な部分、自分で自分のことを好きになれない部分をおもしろおかしく語ると、人はみんなグッと惹きつけられる。

なぜならば誰しもが欠点や弱点があって、みんなそれを気にしてるんですよ。それをちょっとおもしろく語ることで前向きに受け止められるときに、人は聞く気になる。

でもそれをみんな隠して、だいたい自慢話をするんですよね。「学生時代にテニスのサークルが50人だったのを500人にして、大きい合宿を~」みたいな。知らないよ、おまえのその合宿の話なんか、と。

だけどその合宿で「実は財布忘れてしまって大赤字になっちゃって……でもこうやって誤魔化したんすよね」みたいに話されると、そこでようやく「お、どうした?」とこっちはなるっていう。

当たり前なんだけど、みんなそのことを忘れちゃって、自分の自慢話ばっかしちゃう。やっぱりコンプレックスや失敗談をストーリーとして語るっていうのは大事になりますよね。

■弱みには強みを、強みには人柄を添えて語る

【千葉】本当にそう思いますね。加えて、コンプレックスや失敗談を語るっていうときに私がよく大事だと言っているのが、「語って終わりにしない」こと。

例えば豊田さんの場合「私孤独でした、以上です」ってなったら、聞いている株主は「じゃあ、何してくれるの?」となると思うんですよね。

千葉佳織『話し方の戦略』(プレジデント社)
千葉佳織『話し方の戦略』(プレジデント社)

そこに「でも、私たちは今違うんです。こうなりました」とポジティブなメッセージが載っているから、この自己開示が輝くと。

また、コンプレックスばかり話さないといけないのかっていうと必ずしもそうではなくて。

もちろん強みを話さないといけない場面もあると思います。「こんな数字が出てます」とか「こんな売り上げになりました」とか。

そのときに大事なのは、やっぱり周囲への感謝とかあとは運が良かったとか。そういう環境要因によって自分が助けられたんだっていうような、ある種の「人柄」の提示。これらをうまく合わせて伝えていくのが重要だと思います。

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千葉 佳織(ちば・かおり)
株式会社カエカ代表、スピーチライター
1994年生まれ、北海道札幌市出身。15歳から日本語のスピーチ競技である「弁論」を始め、2011年から2014年までに内閣総理大臣賞椎尾弁匡記念杯全国高等学校弁論大会など3度の優勝経験を持つ。慶應義塾大学卒業後、新卒でDeNAに入社。人事部にてスピーチライティング・トレーニング業務を立ち上げ、代表取締役のスピーチ執筆や登壇者の育成に携わる。2019年、カエカを設立。AIによる話し方の課題分析とトレーナーによる指導を組み合わせた話し方トレーニングサービス「kaeka」の運営を行う。経営者や政治家、ビジネスパーソンを対象としてこれまで5000名以上にトレーニングを提供している。2023年、週刊東洋経済「すごいベンチャー100」、Forbes「2024年注目の日本発スタートアップ100選」選出。

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三浦 崇宏(みうら・たかひろ)
The Breakthrough Company GO 代表
2007年博報堂入社、2017年にThe Breakthrough Company GOを設立。クリエイティブの力で社会の変化と挑戦を支援することをミッションに掲げる。著書『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』(SBクリエイティブ)など。THE CREATIVE ACADEMY主催。

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(株式会社カエカ代表、スピーチライター 千葉 佳織、The Breakthrough Company GO 代表 三浦 崇宏)

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