脳がヨボヨボになる原因は「老化」ではない…1万人の脳を診た脳内科医が「45歳の危機」に警鐘を鳴らすワケ
プレジデントオンライン / 2024年8月27日 7時15分
※本稿は、加藤俊徳著『1万人の脳を見た名医が教える 好奇心脳』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■悩み多き中高年世代
脳のMRI(磁気共鳴画像法)から脳の診断・治療を行う私のクリニックには、連日のように、「今の自分」に不安や悩みを抱えた方が相談に来られます。その多くが40代後半を過ぎた中高年の方々です。
相談でもっとも多いのは、「もの忘れ」など脳の機能低下に関するものですが、実際の相談の内容は、心身に対する不安から生き方に関するものまで、非常に多岐(たき)にわたります。
一方、社会全体に目を向けると、今の日本には年間2万人以上の自殺者がいます。原因はさまざまだと思いますが、圧倒的に男性が多く、年齢階級別では50代が1位、次いで40代、70代、60代が続きます(「令和5年版自殺対策白書」厚生労働省)。
脳は人間のすべての「能力」をコントロールする司令塔で、「記憶力」などの「認知機能」だけでなく、人生そのものに関わってくるものです。年齢に関わらず、脳がしっかり働いて成長し続けることができれば、毎日が楽しくなり、あなたの人生も、思い描く理想の姿に限りなく近づいていくはずです。
■「好奇心」がすっかり欠如した中高年
ではなぜ、今の中高年にはこれほどまでに、不安や悩みを抱える人が多いのでしょうか。
私は、脳内科医として、また脳科学者として、「来院者の脳が成長するクリニック」を目指して、これまで1万人以上を加藤式MRI脳画像診断法(脳相診断)で診断し、治療してきました。多くの患者さんと対話し、脳の状態や脳の得意・不得意を説明して、様々な悩みの解決方法を手ほどきしてきました。
そうした日々の積み重ねの中で、私は「脳の機能低下」や「老化」以前に、多くの方に共通する問題点を発見しました。それが、今回著わした『好奇心脳』のテーマである「失われた好奇心」の復活です。
私のクリニックを訪れる人の多くが、「これをしているときはワクワクする」とか「次はあれをやってみたい」という気持ちがない、つまり、物事に対する「好奇心」をなくしてしまっている。しかもそのことに本人がまったく気づいていないのです。
■「右脳感情」は他人感情、「左脳感情」は自己感情
「好奇心」とは文字どおり、「珍しいものや、今まで出会ったことのない人や物に刺激を受けて、興味を持ち、探求しようとする心」です。
なぜ、中高年の多くが「好奇心の欠如」状態に陥(おちい)っているのか。それは、その世代の人たちが、知らず知らずのうちに「自分の感情を閉じ込めてきた」からです。
もう少し、脳科学的に説明しましょう。
私は、一般の方々が脳のことをより理解しやすいように、脳の神経細胞の集合体を、機能ごとに、感情系、記憶系など8系統の「脳番地」に分類しています(「脳番地」の詳細については好奇心脳』第3章参照)。脳には右脳と左脳がありますが、8つの脳番地も左右それぞれに配置されています。
「右脳」は主に五感から取り入れた「非言語情報(イメージや感覚など言語化されていない情報)を処理する」役割、「左脳」は主に「言語処理を行う」役割を担っています。右脳でキャッチしたぼんやりとしたイメージが、左脳によって言語処理され、自分の感情(言葉)として表現されます。
「好奇心」に関係するのが、喜怒哀楽などの感情表現をする際に働く「感情系脳番地」です。
感情系脳番地では、「右脳感情系脳番地」は周りの空気を読む能力、「左脳感情系脳番地」は自分を表現する能力にそれぞれ関係しています。「右脳感情」は「他人感情」、「左脳感情」は「自己感情」と言い換えると、分かりやすいかもしれません。
■空気は読めるけれど、「自分」がない…
MRI脳画像を診てみると、中高年の患者さんの多くが「右脳(他人)感情系脳番地」が発達している一方で、「左脳(自己)感情系脳番地」が育っていない、あるいは衰えてしまっていることがわかります。
「左脳(自己)感情」が発達しないまま、人生の後半を過ぎてしまっている――。「空気は読めるけれど、自分(の感情)がない」状態がずっと続いている人が多いということですね。
たとえば、高学歴のほうがいいとか、大企業に勤めたほうがいいというような考えは、社会がつくり出した「右脳感情」です。あなたは、これらの考えに付帯して、自分の人生を決めてこなかったでしょうか。
もちろん、社会に出て企業で働くなど、仕事をしていくうえでは、左脳感情を抑えつけ、右脳感情に付帯することは、ある意味避けられないことかもしれません。会社員にとっては、右脳感情(会社の方針や上司のやり方)に従うことによって、自分自身の成功(出世や高収入)が得られるからです。
中高年の多くが長きにわたり、無意識のうちに、左脳感情を抑えつけてきました。その結果、抑えつけてきたことさえ忘れて、自分でなにかをしたい、やってみたいという、左脳感情から生まれる「好奇心」を失ってしまっているのです。
■45歳頃に多くの人が生き方に悩み始める原因は「脳」だった
他人感情の受け皿である「右脳感情」に付帯した日々を続けていると、45歳を過ぎる頃になって、「これって、私自身が本当にやりたかったことなんだろうか?」と考えるタイミングが訪れます。
これは、抑圧されてきた自己感情といえる「左脳感情」が目覚めて悲鳴をあげている状態。右脳感情と左脳感情の成長具合がアンバランスなために、脳の仕組み上必然的に起こることなのです。
左脳感情の目覚めに気づくことで、45歳からは、「右脳感情」と「左脳感情」を分けて考えることができる世代ということもできます。
近年、中高年になってから、学び直しのために大学へ進学したり、習い事を始めたりするといった現象が見られます。これは左脳感情の目覚めによって、自分自身が本来持っている「好奇心」を、もう一度呼び起こそうという意識が働く結果だと私は考えます。
■45歳は自分を見つめ直すベストタイミング
ところが現実には、この「左脳感情」の悲鳴すら抑えつけてしまう人も少なくありません。
企業で働く人の多くは、定年を迎えて初めて、人生のセカンドステージを考えることを強いられます。60代になって、外からの圧力によって、右脳感情から解き放たれ、左脳感情を取り戻す必要性に迫られるわけです。
しかし脳科学的には、左脳感情が目覚める45歳前後が、右脳感情から左脳感情へ切り替え、自分の「好奇心」を見つめ直すベストタイミングです。
他人への付帯に重きを置いた感情から、もう一度、本来の自分の気持ちに正直になるこのタイミングを逃すことは、定年前の約20年を無駄に過ごしてしまうことにほかなりません。
■好奇心は脳を活性化させる「魔法の薬」
45歳を過ぎた頃から、多くの人が、記憶力や認知機能の低下を意識するようになります。もちろん現実問題として、加齢に伴う「脳の老化のサイン」の可能性も否定できません。
しかし、記憶力や認知機能の低下も、左脳感情を抑えつけ、「好奇心」を失ってしまっているがために、脳が衰えた結果、起こっていることも少なくありません(記憶の中には「感情の記憶」があり、特に「好奇心」が強く影響しています)。
子どもの頃には誰もが、大小さまざまなことに「好奇心」を持ち、ワクワク・ドキドキした日々を送っていたはずです。
左脳感情から生まれる「好奇心」は、強力かつサステナブルで、持続性があります。この自分自身の「好奇心」でつかんだ記憶は、いくつになっても忘れることはありません。忘れてしまうのは、右脳感情(他人の基準)に付帯することで得た記憶で、左脳感情(自分自身)で選んだ記憶ではないからです。
脳番地から見ると、「感情系脳番地」と、記憶や認知に関係する「記憶系脳番地」には強力な関係性があります。左脳感情を取り戻し、発達が遅れていた左脳感情系脳番地が育つことで、「記憶系脳番地」も活発に動き出します。
「好奇心」が働くことで、記憶力も高まっていくのは、脳科学的にも不思議なことではありません。「好奇心」は衰えてきた脳にとっての「起爆剤」であり、記憶力や認知機能を高める「魔法の薬」でもあるのです。
■45歳で絶対にやるべきこと「2つ」
「好奇心の欠如」状態に気づき、取り戻すだけ脳の成長を促すために、45歳からのタイミングでやるべきことは、次の2つだけ。
②左脳感情に従って、「失われた好奇心」を取り戻すこと
失われた好奇心を取り戻すには、好奇心いっぱいだった子どもの頃に回帰すればいい。もともと「好奇心」がなかったという人も、新たなタネを見つけて育てればいいのです。
たったこれだけで、毎日が楽しくなり、記憶力も高まって、脳は成長し、最高の生き方になる――。
■「もう歳だから」…は今日で終わり
「好奇心」の復活にはお金もかからないし、「脳トレ」も「脳活」も必要ありません。「好奇心」は自分自身で、際限なく、いつでもいくつでも、つくり出すことができるものです。
年齢制限もありません。脳はいくつになっても成長する器官ですから、「もう歳だから」とあきらめる必要はないのです。
いつまでも若々しく、人生で成功を収めている人の多くは、「左脳感情」に忠実で、「自分がやりたいからやるんだ」という、自分の「好奇心」を貫き通している人たち、最強の「好奇心脳」を手に入れた人たちなのです。
このことをぜひ覚えておいてください。
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脳内科医
昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。
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(脳内科医 加藤 俊徳)
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