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体の疲れよりもっと厄介…脳内科医が指摘「45歳以上に多くみられる"脳の機能低下"を招くNG生活習慣」

プレジデントオンライン / 2024年8月31日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

40代にもなると、記憶力や発想力の低下を感じ始める。70歳まで働かなければならないといわれるいま、「老化」するにはまだ早い。いったいどうすれば。『好奇心脳』を上梓した脳内科医の加藤俊徳さんは「それは本当に『老化』なのか疑ったほうがいい。現代人はさまざまなリスクファクターに囲まれていて、そのために一時的な脳の機能低下に陥る人が大勢いる」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、加藤俊徳著『1万人の脳を見た名医が教える 好奇心脳』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■現代の中高年が抱える問題とは?

脳のMRI(磁気共鳴画像法)から脳の診断・治療を行う私のクリニックでは、これまで1万人を超える人の脳を診断してきました。その中で、とくに中高年世代の方々は「ある共通の問題」を抱えていることが浮かび上がってきました。

中高年世代は、脳の機能低下や老化以前に、長年自己感情を抑圧してきたために自らの「好奇心」をしぼませ、結果的に脳の成長を阻んでしまっているのです。

多くの人が誤解しているのですが、脳はいくつになっても成長する器官です。そして「好奇心」は、衰えてきた脳にとっては成長の起爆剤であり、記憶力や認知機能を高める「魔法の薬」となるのです。

にもかかわらず、そんな好奇心を失い、脳の成長を阻害させている。そんな中高年世代を分析していくと、次のようなリスクファクターに直面していることがわかってきました。

1つずつ見ていきましょう。

■【リスク①】脳疲労

原因の1つにストレスあり

1日の終わりに、「今日は疲れたなー」と、強い疲労感を覚えることはありませんか。実は、私たちが疲労を感じるときは体が疲れているというより、むしろ「脳が疲弊している」サインと考えられます。

脳疲労の原因の1つに、精神的なストレスがあります。そして疲労感やストレスには、強い人と弱い人がいます。

疲労やストレスへの「耐性」は、ある程度年齢的な経験値もありますが、それ以上に個人差が非常に大きいといえます。「この程度の仕事や作業量は大丈夫だろう」とか、「このくらいは許容範囲のはず」などと、他人が判断するのは難しいのです。

本人の中では、知らず知らずのうちに疲れやストレスが溜まっていき、その状態が3~4カ月続いたあとに突然、大きな疲労感や心身の不調となってどっと現れてくる場合があります。

「頑張らなきゃ」と思ったら、すでに脳疲労は始まっていると考えていいかもしれません。人によっては、疲労感やストレスが、うつ状態につながることもありますので、注意が必要です。

■【リスク②】運動不足

認知症のリスクも高める

中高年が抱える問題の中でも、脳の機能低下に大きく影響を及ぼすのが「運動不足」です。

体を動かすことは、脳の活性化につながります。脳が働かないと体を動かすことはできません。また、体を動かすと自主性が鍛えられます。体というのは、本人の意思がないと動かないものだからです。

「運動不足」は特に、メンタルに大きな影響を与えます。1日の終わりに「疲れ」を感じたとき、実は、そんな日に限ってほとんど歩いていなかった、ということがよくあります。体を動かさないことで、かえって「疲れ」を感じてしまうのです。

この後で説明する「睡眠不足」や「栄養不足」に「運動不足」が重なると、ダメージはさらに大きくなります。運動とまでいかなくても、日常生活でこまめに体を動かすことは、肥満の予防になるだけでなく、メンタルケアの要(かなめ)です。

■【リスク③】睡眠不足

1日8時間睡眠が国際基準

近年、睡眠時間が6時間未満の場合、がん、糖尿病、うつなどの発症リスクが高まることが報告されています。こうした背景もあり、厚生労働省が2024年2月に公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は「1日6時間以上」を目安に睡眠時間を確保するように推奨しています。

しかし、現在の国際基準では、18歳から65歳の最適睡眠時間は「1日8時間」がもっともメンタルのトラブル(あるいは、うつ)を引き起こしにくい睡眠時間と考えられています。

日本人の場合、40・50代の男女とも睡眠不足であることがわかっています。「国民健康・栄養調査(令和元年)」によると、1日の睡眠時間が6時間未満の人が、40代男性で48.9%、50代男性で49.4%、40代女性は46.4%、50代女性は53.1%で、いずれも約半数を占めています。また、経済協力開発機関(OECD)による2021年の調査でも、日本人の睡眠時間は、加盟33カ国中最下位と指摘されています。

同調査で睡眠確保の妨げとなっていることを聞いたところ、男性は40・50代ともに「仕事」、女性は40代が「家事」、50代が「仕事」という結果でした。

また、「就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中すること」が、男女いずれの世代でも多くを占めています。仕事や家事にかける時間の短縮を心がけるのはもちろんですが、寝る前にメールやゲームなどに熱中するのは避けましょう。

■【リスク④】栄養不足

タイパ重視で食事を軽視
加藤俊徳『1万人の脳を見た名医が教える 好奇心脳』(プレジデント社)
加藤俊徳『1万人の脳を見た名医が教える 好奇心脳』(プレジデント社)

本来、私たちがもっとも好奇心を発揮すべきものは、「食べるもの」かもしれません。人間の体はすべて食べたものでできていて、当然のことながら、脳にも筋肉や骨と同じように、栄養が不可欠です。

にもかかわらず、現代人は「食事」、特に「栄養」に対する関心が低いように思います(正確にいうと、関心の高い人と低い人の差がとても大きいようです)。

あなたはどのくらい食事(栄養)に気を遣っていますか? 毎食のように、ラーメンや牛丼、ファストフードで済ませてはいないでしょうか。ランチタイムに、こうした店に並んでいる人々を見ると、若い人だけでなく、中高年も多いのは問題です。

タイパ(タイムパフォーマンス:時間対効果)重視で、食事を軽視している様子がよくわかります。これでは脳にとって必要な栄養を補うことはできません。

■【リスク⑤】酸素不足

脳は酸素を消費して成長する

脳のために、特に注意しなければならないのが「酸素不足」です。

呼吸によって空気中から肺の中へ取り込まれた酸素は、血流に乗って全身をめぐります。脳に運ばれた酸素は、そのとき活動している「神経細胞」に受け渡されます。脳内に新鮮な血液が流れ込み、神経細胞の活動に必要な酸素が十分に行き渡ることで、脳は活性化します。

脳は活動する際に酸素を消費し、ごく軽度の低酸素状態になりながら活動をしています。脳の枝ぶりが新たに成長しようとするときには、特に大量の酸素が消費されます。

「酸素不足」になる要因の1つに、「口呼吸」があります。本来呼吸は「鼻呼吸」が基本ですが、多くの人が、鼻づまりなどで鼻呼吸ができず、口呼吸が習慣になってしまっているのです。

口呼吸は、睡眠中のいびきの原因になったり、舌根(ぜっこん)が沈下して気道を塞いで無呼吸を起こしてしまったりすることにつながります。

■【リスク⑥】生活習慣病

重病化で命の危険も

40代後半になって、持病を持つようになる人は少なくありません。

厚生労働省の「平成19年労働者健康状況調査」(事業所に雇用されている労働者を対象)によると、健康診断などで医師から診断された持病がある労働者は、40代男性39.6%、50代男性48.0%、40代女性28.8%、50代女性40.6%に上ります。具体的な病名は、男性が高血圧、腰痛、脂質異常(高脂血症)、糖尿病など、女性は、高血圧、脂質異常(高脂血症)、腰痛、胃腸病、喘息などとなっています。

持病の多くは、「生活習慣病」と呼ばれるもので、慢性的・持続的に続く疾患です。日常的に薬が手放せなかったり、ちょっとした忙しさや環境の変化などで急激に悪化したり、日々の生活に影響が出ることも少なくない疾患ばかりです。

今回の新型コロナウイルス感染症のような不測の事態では、生命をも脅(おびや)かすハイリスク要因にもなりかねません。

■【リスク⑦】ご近所付き合い不足

孤独は脳の大敵

私のクリニックに相談に来られる方々の話を聞いていると、年々「ご近所付き合い」が少なくなっている様子が伝わってきます。マンションの隣に住んでいる人の名前も知らないという人もいて驚かされることもあります。

内閣府が毎年行う「社会意識に関する世論調査」の令和5年11月調査の結果によると、「地域での付き合いをどの程度していますか?」という質問に対し、「よく付き合っている」と「ある程度付き合っている」を合わせ、「付き合っている」と回答した人は、40代で42.7%、50代で41.5%と、4割強となっています。

ご近所付き合いに代表されるような、日々の“ちょっとしたコミュニケーション”は、人生の後半を何倍も豊かなものにしてくれます。その反面、こうしたコミュニケーションのない生活は“孤独”です。

孤独な状況で「好奇心」が芽生えることはありません。孤独は脳にとって大敵なのです。

■【リスク⑧】自己肯定感の欠如

日本という独特の忖度社会

「自己肯定感」という言葉が、今やごく一般的に使われるようになりました。自己肯定感とは、「自分自身の価値を認め、存在を肯定する感覚」を指しています。

私のクリニックにも近年、自己肯定感が持てないどころか、「自己否定感」に悩まされている方がたくさん訪れます(自己肯定感の欠如というと、若い方の問題と思われるかもしれませんが、実は、中高年の方にもたくさんいます)。

自己肯定感を持てない人が急増している一因に、日本という国の特殊環境があるのではないかと私は考えています。日本ほど、さまざまな人間模様や上下関係が複雑に絡み合って、忖度(そんたく)が生まれる社会はありません。

自己肯定感が足りないと、左脳感情はますます鳴りを潜め、さらに自信がなくなって、外の世界に目を向けることに不安を感じるようになります。内向きになって狭い世界に閉じこもるようになってしまえば、好奇心が失われることは必定です。

電球の中にある脳
写真=iStock.com/BlackJack3D
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BlackJack3D

■【リスク⑨】組織生活

左脳感情を抑圧する

右脳感情(=他人感情)と左脳感情(=自己感情)の問題を考えるときに、避けて通ることができないのが、「組織生活」です。

会社員であれば誰もが、その組織の中でどこに身を置き、どういったスタンスで日々を過ごすかを考えます。そして、その判断の基準となるのが「右脳(他人)感情」です。「社会人とはこういうものだ」「この会社(上司)ではこれが正しい」という価値観に従い、定年までの日々を過ごしてしまうのです。

それが結果として、「左脳(自己)感情」を抑えつけ、「好奇心の欠如」につながってしまうのです。

■【リスク⑩】リモートワーク

マンネリ脳を招く

コロナ禍(か)が一段落した後も、社会に定着したことの1つが「リモートワーク」です。

長時間家の中で過ごす「巣ごもり生活」は座位時間が長くなり、運動不足になると同時に、脳は自動化し、容易に「マンネリ脳」を生み出す原因になります。

リモートワークを続けることの問題点は、「思考の切り替え」ができにくくなってしまうことです。

通常の生活であれば、朝は、職場や学校に行くために、始業時間や登校時間に合わせて起床し準備をします。電車に乗る時間や到着する時間から逆算して動きます。

会社員であれば、オフィスに着いたらエレベーターを待つ、すれ違った上司や同僚と目を合わせてあいさつをする、タイムカードを押す……と、やるべきことをこなしながら、次々と思考を切り替えるタイミングが訪れます。

ところが、家に居たままだと、そのプロセスがごっそり消えて、思考の切り替えがなくなります。それによってものごとを理解する必要がなくなって、理解力が低下します。

また、外に出る機会が減ることで、運動不足になるだけでなく、新しい人に出会う、自然や景色に触れるといった刺激や経験も格段に減少しています。そうなれば、「好奇心」が芽生えることもありません。

さらに、リモートワークでは、仕事上で何かトラブルがあったとしても、周囲にいる誰かに気安く話せる環境にはありません。結果として仕事の面で孤立化してしまう人も少なくありません。

■【リスク⑪】ネット社会

雑多な情報で左脳感情の感度が鈍化

「好奇心」には、情報が必要です。情報が増えれば増えるほど、それに刺激を受けて、やりたいことや見たいもの、食べたいもの、行きたい場所が見つかり、好奇心が芽生えるチャンスが増えていきます。

ところが、現在の「ネット社会」は、膨大な情報が垂れ流し状態にあるだけでなく、正しい情報とフェイク情報が混ざり合い、まさに玉石混淆(ぎょくせきこんこう)です。

インターネットやSNSから発せられる情報は、目や耳を通して直接私たちの脳に飛び込んできます。しかも、それらの情報から得られるものは「右脳(他人)感情」を刺激するものばかりです。

今のネット社会では、ニュースやゴシップ、セール情報など、目の前の面白そうな情報に右脳感情が刺激され、好奇心を掻き立てられて飛びついてはみるものの、追求する間もなくあっという間に消費し、すぐに飽きて興味を失ってしまう……その繰り返しです。

その結果、次々と現れる情報を情報として認識しなくなると同時に、左脳感情に関係する脳の部分(脳番地)の働きが鈍って、左脳感情の「感度」が徐々に鈍っていきます。

現代社会を生きる私たちは、情報の洪水の中で、「左脳感情」から生まれる好奇心を見つける術(すべ)を見失ってしまっているのです。

■3カ月に一度はセルフチェックを

いま見てきたような問題点のうち、あなたはいくつ該当していましたか?

これらは、脳への影響だけでなく、「好奇心」を失わせるなど全身の健康に深く関係する大問題ばかりです。40代前半までは、周りにこれらの問題があって、日常的にかなりの無理をしていても、なんとかなってしまうものです。

“できる人”ほど、こなしてしまうのです。

そうして中高年になって、体から何らかのトラブルのサインが現れて初めて、「運動不足だったんだ」「睡眠不足だったんだ」「ちゃんと食べていなかったな」と本人が気づくのです。しかし気づいたときには、脳も健康も、相当ダメージを受けてしまっていることが少なくありません。

虫眼鏡でタンポポを見る女の子
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

■45歳を過ぎたら「好奇心脳」を目指そう

45歳を過ぎたら、常にこれらの問題点を念頭において、できれば3カ月に一度、自分の今の生活習慣はどうなんだろう? 環境は? 体調は? と、セルフチェックしてみてください。

左脳感情は自己感情、自分自身を知ることですから、こうした習慣を身につけることで、左脳感情の感度も高まっていきます。

それは同時に、芽生えた好奇心をすぐに行動に移せる“基礎体力”を手に入れることでもあります。

拙著『好奇心脳』では、本稿で見たような中高年のリスクファクターを回避し、「眠っている脳細胞」をあますところなく活性化させるためのヒントを具体的に紹介しています。「好奇心脳」とは、自分の心身が健康に保たれて初めて手にすることができるものなのです。

ぜひ拙著も参考にしていただき、よりよい人生を摑み取ってください。

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加藤 俊徳(かとう・としのり)
脳内科医
昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。

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(脳内科医 加藤 俊徳)

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