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「株価はもう一度ガツンと下がることがある」経済アナリスト森永康平「新NISA民が想定すべき最悪シナリオ」

プレジデントオンライン / 2024年8月23日 8時15分

経済アナリストの森永康平さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

不安定な相場が続いている。新NISAで投資をしている人が注視すべきことは何か。経済アナリストの森永康平さんは「国内の出来事としては、日銀の追加利上げと為替レートの2つに注意を払う必要がある。前者は日本経済にとって確実にマイナスであり、最悪の場合はデフレ経済に舞い戻りかねない」という――。

■株価急落3つの原因

8月初旬、日経平均株価が過去最大の下げ幅となり、翌日には過去最大の上げ幅となりました。新NISAで投資を始めた初心者の方々の中には、この乱高下に動揺して保有商品を売ってしまったり、つみたてをやめてしまったりした人もいたようです。

なぜあれほど乱高下したのか、また起きたらどう対応すればいいのか。株価が回復しつつある今、そうしたことが気になっている人も多いでしょう。

まず株価が下落した原因ですが、僕は3つの要素が重なった結果だと見ています。1つ目は日銀による利上げで、これによって為替が円高方向に動きました。2つ目は、利上げの直後にアメリカの雇用統計が発表されたこと。この数字が悪化していたことから、「アメリカもいよいよ景気減速か」という予測が広まりました。

【図表】日経平均株価の推移
編集部作成

3つ目は、イランがイスラエルに報復攻撃をする可能性が高まっていたことです。今回の株価下落はこの3つ、つまり利上げによる円高、アメリカ経済の減速、中東情勢の不安定化が重なって起きたというのが僕の見立てです。

■システムトレードの影響で「全員で売りまくる」結果に

ただ、これらが重なっても通常なら株価が歴史的な暴落をするまでには至らないはずですが、今回は一気に4451円も下がりました。一体なぜなのか。これには、アルゴリズムを使って売り時や買い時を機械的に判断する「システムトレード」の影響もあると思います。

システムトレードは、例えば株価が一定以上下がったらシステムが作動して新たに売り注文を出す、といった仕組みになっています。これには弊害もあって、例えば1%下がったから新たな売りシグナルが出ました、その結果2%下がったからさらに新たな売りが出て、加えて他の人たちも売り始めましたというように、皆が一斉に同じ方向に向かいやすくなるのです。

そうすると、今度は「空売りでもうけよう」という人たちも出てきて売り始めるので、またシステムが作動してさらに大勢が売りに向かうことに。これによって相場が下がると、今度は個人投資家が驚いて狼狽売りに走り、結果として全員で売りまくることになるわけです。

しかも、今回は7月中旬までは日本の株式市場が好調だったことから、信用取引で株を買っていた人たちが株価の暴落を受けて追加の証拠金を差し入れる必要に迫られ、信用買い残を整理せざるを得なくなったのも一因でしょう。

こうして売りが売りを呼ぶ形になりました。こんな異様な下げ幅になったのはそのせいだろうと思います。

■パニック状態は去ったが…

次に過去最大の上げ幅になった理由ですが、これは売りが集中してほぼ全面安になったところで、今度は大勢が買いや買い戻しに走ったからです。全面安ということは、意味もなく売られ過ぎた株はバーゲンセール状態になったわけですから、投資家からすれば「当然買うよね」という感覚。また、空売りで入った人たちは十分利益が出たので、利益を確定するために買い戻します。この一連の買いを受けて、システムトレードが先ほどとは逆の形で発動し、買いが買いを呼び、株価は一気に3217円も上がりました。

これが今回の乱高下の背景で、僕はシステムトレードの弊害も大きいと思っています。今は株価も徐々に戻っていますし、戻り幅も以前より小さくなっているので、一時のパニック状態は落ち着いてきたと言えるでしょう。

投資信託の資金流出入のデータを見てみると、あの暴落のとき、新NISAでつみたて投資を始めた人たちも相当数がつみたてをやめたようです。投資を初めて間もないせいで狼狽売りに走ったのだと思いますが、そんなに動揺することはなかったのにな、もったいないなと感じてしまいます。

下落するチャートの前で頭を抱えるビジネスウーマン
写真=iStock.com/D-Keine
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D-Keine

■新NISA民には一時的な乱高下は関係ないはずなのに

皆さん、元々は長期投資として新NISAを始めたはずです。そういう人にとって、今回のような一時的な乱高下はまったく関係のないこと。ざわついている時点で言っていることとやっていることが違うわけですから、ちょっと意識の見直しが必要なんじゃないかなと思います。

狼狽売りした人は、YouTubeやSNSで見たインルエンサーの言葉をうのみにして、「新NISAはやったほうがお得なのかも」「つみたて投資がいいらしい」ぐらいの認識で新NISAを活用してつみたて投資を始めてしまったのではないでしょうか。

投資の手法というのは細かく数えれば何種類もあって、つみたて投資はその中で先人たちが「初心者を含めた多くの人に適している、最大公約数的な投資手法」としてたどりついたもの。長期継続を前提にすることで他の投資手法より面倒やリスクが少なくて済む、そこが大きな特徴です。

たった1日株価が下がっただけで大騒ぎするのは、その点を理解しないまま始めてしまったということ。確かに、ここ10年ぐらいでトップレベルの下げ幅だったのは間違いないですが、それで「NISAなんてもうやめよう」「投資はこわい」となってしまうのは明らかに理解不足だと思います。

■今後の株価のゆくえは

今後ですが、一時的な狼狽売りはもう落ち着いてきました。ただ、株価は上下し続けるもの。近いうちにまたガツンと下がる可能性はもちろんあります。中東情勢は相変わらず不安定ですし、間もなく自民党の総裁選やアメリカの大統領選もある。不安定要素は相変わらず残っているので、ここから順調に右肩上がりが続くことはまずないでしょう。

では、次の暴落でパニックにならないためにはどうしたらいいのか。投資初心者の方は、まず株価は上下するものだということをしっかり念頭に置いて、その上で「こういう出来事があったらこうなる」というシナリオをいくつか想定しておくといいんじゃないかなと思います。

■最悪の場合、デフレ経済に舞い戻る

国内の出来事としては、日銀の追加利上げと為替レートの2つに注意を払っておいてください。前者は日本経済にとって確実にマイナスですし、最悪の場合はデフレ経済に舞い戻る、つまり「失われた30年」がさらに延長されることになりかねません。一方、後者は1ドル145円を下回る円高になってきたら要注意。企業が業績を下方修正するリスクが高まります。

見出しに踊る「日銀」の文字
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

国外の出来事では、中東情勢とアメリカ大統領選を意識しておいてほしいですね。中東で戦火が拡大すれば原油が急に高騰するかもしれず、トランプ氏とハリス氏のどちらが大統領になるかでアメリカの経済政策は大きく変わります。どちらも世界経済や株価に大きな影響を与えるのは間違いありません。

どの出来事も、株価が大きく動く原因になります。もちろん、こうしたことがあったからといってつみたて投資のスタンスを変える必要はまったくありません。「じゃあ関係ないじゃん」と言われれば、確かにその通りです。

それでも、最悪のシナリオを頭に入れておけば心構えができて、暴落したときもある程度は冷静でいられるはず。少なくとも、不意打ちをくらって狼狽売りに走るなんてことは避けられるのではと思います。

■投資はやらなくてもいいこと

今年から新NISAで投資を始めた人の中には、今回の暴落で投資がこわくなってしまった人もいれば、狼狽売りしてしまったり、投資自体をやめてしまったりした人もいるでしょう。メンタルにきてしまったという人も少なからずいます。

そんな人は、この機会を自分の投資行動を見直すチャンスと捉えてみてはどうでしょうか。暴落でパニックになったのなら、その理由を考えてみてください。理解が足りなかったのか、身の丈を超えた金額を投資に充ててしまっていたのか、そもそも投資に向いていないのか。

投資は別にやらなくてもいいんです。新NISAも投資を始めたい人にとってはいい制度ですが、本当は気が乗らないのに「周りがやっているから」「乗り遅れたくないから」と始めるぐらいなら、むしろやらないほうがいい。

また、今回のことでメンタルにくるほどつらい思いをしたなら、「こんな思いまでしてやる必要ある?」と自問自答してみて、ないなと思ったらこの機会にやめてしまいましょう。将来の安心を得るためのつみたて投資でメンタルを壊すなんて本末転倒ですから。

■早いタイミングで暴落を経験できてよかった

でも、今後もつみたて投資を続けたい、あるいはいったんやめたけど再挑戦したいという人には、先ほどお話しした通り最悪のシナリオを想定して心構えをしておくか、逆に相場をまったく見ないでおくことをおすすめします。

つみたて投資は毎月淡々と機械的に買い続けていく投資手法ですから、日々の値動きは本来必要のない情報。見ることでおかしな行動に走ってしまうぐらいなら、もう見るのはやめたほうがいいと思います。

そして、もし改めて投資に挑戦したいと思うのであれば、今回の経験は授業料と思って今後に生かしてほしいですね。言い方は悪いかもしれませんが、早いタイミングで暴落を経験できて逆によかったじゃないですか。新NISAを始めてまだ10カ月も経っていないわけですから、現時点での損失額もそれほど大きくはないはずです。これが10年ぐらいつみたて続けた後だったら、おそらくもっと大きな衝撃を受けていたでしょう。

つみたて投資は20年、30年と長期スパンで考えるもの。このスパンから見れば、最初の7カ月に起こることなんて大した影響はありません。早いうちにいい機会を得られたのだと捉えて、改めて「自分はなぜ新NISAをやるのか」を見つめ直してもらえたらと思います。

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森永 康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO、経済アナリスト
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。その後2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)、『つみたて投資の教科書』(あさ出版)など多数。

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(株式会社マネネCEO、経済アナリスト 森永 康平 構成=辻村洋子)

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