1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

インド生産だからと言って甘く見てはいけない…ホンダの「210万円で乗れる新型SUV」のすごい実力

プレジデントオンライン / 2024年8月25日 10時15分

筆者撮影

ホンダは、今年3月22日に新型SUV「WR-V」を発売した。自動車ライターの大音安弘さんは「ガソリン車のみ・駆動方式は前輪駆動のみ。さらにインド生産ということから、安いグレードは209万円台から買える。ただこの車のすごさは値段だけではない」という――。

■209万円台から乗れるホンダの新型SUV

ホンダが2024年3月22日より発売した新型コンパクトSUV「WR-V(ダブリューアールブイ)」は、好調なスタートを切っている。

「WR-V」の価格は、209万8800円~248万9300円と、シリーズ全体で200万円前半としている。基本的なオプションを追加しても300万円以内での購入が可能な価格帯を実現。

月販目標を3000台としながらも、発売から約1カ月間の累計受注台数は、その約4倍の約1万3000台を記録。月販登録台数でも3月から6月までの3カ月で、1万582台と、月平均で約3530台とまずまずな数字を見せている。

WR-Vの特徴は、ホンダのエントリーSUVながら、上位モデルとなる「ヴェゼル」と同等のボディサイズで、より広い車室と高い積載能力を備えているのが大きな武器だ。因みに最新のヴェゼルの価格は、264万8800円~377万6300円とWR-Vを大きく上回る。

エクステリアは、直線的で力強いデザインを採用し、一目でSUVと分かるデザインに仕上げられている。ボディサイズは、全長4325mm×全幅1790mm×全高1650mmの3ナンバーサイズだが、日常的にも扱いやすい大きさで、四角いボンネットの先端が鼻先となるので、車両感覚も掴みやすく、運転もし易い。

一方でインテリアは、派手さや華やかさとは無縁の質実剛健な作りとなっている。使い勝手は良く、小物入れなどの収納もしっかりと確保されている。

■ガソリン車、2WDのみの展開

車内は大人5人がしっかりと乗れるスペースが確保されており、後席の足元も広め。さらにラゲッジスペースは、標準時で458Lを確保しており、後席を倒して拡大することも出来る。

クーペライクなヴェゼルよりも室内空間がゆったりしているのは、四角いデザインの恩恵もあるが、実は、前後の車輪間の距離であるホイールベースが、40mm長いこともある。

パワートレインと駆動方式は、自然吸気仕様の1.5LガソリンエンジンにCVTを組み合わせた前輪駆動のみで、人気のハイブリッドや降雪地でのニーズの高い4WDは、非設定だ。但し、最低地上高をクラストップレベルの195mmを確保しているので、未舗装路や段差なども全く気にならない。

WR-Vの最低地上高は195mm
筆者撮影
WR-Vの最低地上高は195mm - 筆者撮影

グレード構成は、エントリーの「X」、充実装備の「Z」、外観上のパーツを追加してドレスアップを図った「Z+」の3タイプを用意。

基本的な装備も充実しており、先進安全運転支援機能「ホンダセンシング」を始めに、フルLEDヘッドライト、スマートキー、フルオートエアコン、前席サイドエアバッグ&サイドカーテンエアバッグなどを全車に標準化。

「Z」グレード以上だと、本革巻きステアリング、プライムスムース(合成皮革)を使ったコンビシート、LEDフォグランプ、自動格納機能付ドアミラー、17インチアルミホイール、ラゲッジスペースカバーなどが追加される。

■高コスパの理由

オーディオやナビはオプションだが、それに加え、ETC車載器とフロアマット、ドライブレコーダーなどがあれば、十分な内容となっている。

試乗してみると、予想以上に走りが良くて驚かされた。限られたエンジンパワーをCVTが上手に引き出している感覚だ。シートのクッション性も高くて、乗り心地も良い。

エンジン車なので、ハイブリッド車のような静かさは求められないが、ロングドライブにも出かけたくなる運転の愉しいクルマに仕上げられていた。個人的には、誰にでも進めやすい一台だと思った。

全開加速ステップアップシフト制御を搭載
筆者撮影
全開加速ステップアップシフト制御を搭載。アクセル全開時、エンジンを高回転まで早く到達させることでダイレクトな加速感を得られるという。サイドブレーキは手引き式。 - 筆者撮影

お手頃価格の実現の秘密を解き明かしてみよう。ひとつは、海外生産の世界戦略車であることだ。同車は、タイにあるホンダの拠点で開発が進められ、インド工場で製造されている。つまり、開発費を含めたコストを抑えた新興国向けのクルマなのだ。

ややこしいのだが、ホンダは現在、「WR-V」というクルマをアジアや南米で販売している。今回販売された「日本のWR-V」より車体がひとまわり小さい。一方で、インドでは「エレベイト」(ELEVATE)というクルマを販売している。今回はこの「エレベイト」を「WR-V」として日本で販売している。

■「冷蔵庫にある材料で作った料理」

基本となるプラットフォームは、ホンダの小型車向けのものをベースとするが、前側はタイなどで販売される「シティ」、後ろ側はインドネシアなどで販売されている3列7人乗り小型SUV「BR-V」のものを組み合わせている。まさに「冷蔵庫にある材料で作った料理」といえる。

ただ既存の部品を流用することは、市販化された車両のノウハウが活用できることも意味する。そのため、最新のフィットやヴェゼルで培ったノウハウもつぎ込まれているという。

低価格の実現のため、製造コストを抑えるべく、仕様も割り切った。インド工場では、前輪駆動車のガソリン車しか生産していないため、ハイブリッド車や4WDの追加は、コスト高に直結する。そこで日本向けのWR-Vも、基本的な部分を共有した仕様のみとした。

もちろん、内外装やサスペンションなど専用化が必要なパーツを開発しているが、見えないパーツについては、工夫でコストを抑えている。

スタイリングはごつごつとしたクロカン風のマッチョなスタイリング
筆者撮影
スタイリングはごつごつとしたクロカン風のマッチョなスタイリング - 筆者撮影

さらに大きな力となったのが、人材だ。海外での開発、生産が生むメリットは、何も人件費の低減だけではない。成長市場が持つ若い力が大きな支えとなっているのだ。開発に携わったホンダの日本スタッフによれば、タイとインドの技術者の熱量の高さを強調する。

「タイ人のエンジニアは、若者が中心で、とにかく仕事熱心。価格を抑えるために、コストがかけられない状況を良く理解し、知恵で乗り切るアイデアを多く出してくれた。例えば、CVTのセッティングを担当したのもタイの若い技術者で、その巧みな味付けには、日本人スタッフも感心した」

■インドで磨かれた性能

生産地であるインドについても、現地販売されるホンダ車の中で、「エレベイト」が最上級車に相当する上、自分たちが製造するクルマが、母国である日本で販売されるということに誇りを感じ、気合十分だという。このため、品質も非常に高いことを強調する。

もちろん、WR-Vは、開発段階より日本導入を前提としてきたため、単にお手頃な新興国向け車両を持ち込んだわけではない。むしろ、日本でも売られることが、開発と製造の現場にとって高いモチベーションとなったといえるようだ。

荷室は驚きの458L
筆者撮影
荷室は驚きの458L - 筆者撮影

興味深いのは、WR-Vの優れた基本性能は、インド市場で磨かれたということだ。開発時にインド事情を調査すべく、現地に出向いたところ、穴ぼこだらけの悪い道が多いだけでなく、牛が道路に寝そべっている風景をよく見かけた。クルマが緊急回避を試みるシーンは多かったという。

さらに現地のユーザーは、週末に遠くにある故郷に遊びに行くロングドライブが多いことも分かった。しかも、フル乗車で荷物を満載した状態である。

■厳しい道路環境だから高性能になった

そんな厳しい条件下で、安全なドライブを楽しんでもらえるように、「走る」、「曲がる」、「止まる」の基本性能をトコトン突き詰めることを決めたという。

他にも、インド人に体格の良い人が多いため、室内空間の広さを重視したことや未舗装路での乗り心地を高めるべく、クッション性の高いシートの採用などが挙げられる。

このような道路環境で磨かれたことが、高コスパの優れた小型SUVの誕生に大きく貢献した。そして、成長性のある市場のスタッフのモチベーションの高さも、良い商品作りの力となっていることを感じた。

ホンダも自信を持って日本導入をおこなっていることを裏付けるように、輸入車ながら月販目標は3000台を掲げている。これは年間4万台弱のペースで輸入する計画があることを意味する。

日本の同クラス車と比較すると、価格重視の面はあり、見劣りするは部分ある。しかし、トータルバランスは悪くなく、コスパの高いクルマであることに違いはない。

海外生まれの日本車であるWR-Vの完成度に、メイドインジャパンもウカウカしていられないなと思わずにはいられなかった。

----------

大音 安弘(おおと・やすひろ)
自動車ライター
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に「GOONETマガジン」「ベストカーWEB」「webCG」「モーターファン.jp」「マイナビニュース」「日経クロストレンド」『GQ』「ゲーテWEB」など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、ほとんどがMT車という大のMT好き。

----------

(自動車ライター 大音 安弘)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください