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「いまの職場から逃げたい人」は転職しても失敗する…「転職後に後悔しない人」との決定的な違い

プレジデントオンライン / 2024年8月28日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

転職を成功させるには、どういった点に注意すればいいのか。延べ1万人以上にキャリアに関する講義をしてきたパーソナルナビ代表の漆沢祐樹さんは「人間関係や環境など、外的要因を理由に転職すると失敗しがちだ。今後、自分がどうありたいかという明確なビジョンが見えているのであれば、タイミングを待たずに転職したほうがいい」という――。

■「転職するのがフツウ」だから失敗も多い

テレビやインターネットで転職広告が活況です。実際に目にしない日はないと言ってもいいほどで、2022年はハイクラス転職を中心に求人CMの放送回数が過去最多になったというデータもあります。

かつては新卒で入った会社で働き続け、課長、部長と出世するのが多くのビジネスパーソンにとっては常識でした。しかし、最近は転職を重ねてキャリアアップをしていくスタイルが、20代、30代を中心に浸透してきています。

ただ、年々活発化する転職市場にも関わらず、失敗してしまうケースもあります。私自身、キャリア支援を行うスクールの講師をしていく中で、さまざまな人の話を見聞きしますが、失敗する人には「共通点」があると考えています。

それは、転職する際の大きな要因が「外的要因」であることです。「上司やメンバーとのコミュニケーションがうまくいかない」「親元から離れたい」といった理由で転職活動をするケースです。

■人間関係がイヤで転職したのに、また悩みの種に

転職がうまくいかなかった2つのケースを紹介しましょう。

1つ目は「早く実家を出たい」という理由で、上京を決意して福祉業界に転職して東京都内で働き出した方のケースです。働き始めると仕事自体は大変ではなかったようですが、夜勤に入らないと収入が増えない現実がありました。連日の夜勤がたたり、徐々に体調が悪化して、5カ月で再び転職するはめになりました。

2つ目のケースはより深刻です。5年ほど医療関係の会社に勤めるも、上司との馬が合わず鬱になり転職を決意します。お金を稼げる肉体労働の職に就きますが、うまくいかず、転職先の人間関係でも悩むことに。その後は、友人の紹介で貨物運送の仕事を始めました。

高収入を得ることができる反面、休みはまったくなく、労働時間も1日12~13時間。心身ともにボロボロになり、あえなく8カ月で再転職をすることに。彼は「仕事とは何だろう」「人間関係とは何だろう」と悩むようになり、一方で詐欺に引っかかって90万円ほど失うなど、人生はどん底に。今はまったく別の製造業に就いていますが、再び転職を考えているそうです。

■結局、「前職のほうがよかった」と後悔する

上記のケースを見てもわかるように、自分自身の中にある内なる欲求である「内的要因」ではなく、人間関係や環境など自分の外側にある要因で転職する場合の転職は失敗しがちで、その後の人生にも大きな影響を与えかねません。

つまり、「現状から逃げたい」といった理由による転職は避けなければならないわけです。もちろん、パワハラやセクハラなどであれば、その環境から離れる決断をすることは悪いことではありません。

しかし、「ソリが合わない」や「話すと面倒臭い」などが大きな要因だと、人は物事に対して焦りを抱えます。正しい判断ができない中で転職活動をすれば、転職先でも「こんなはずじゃなかった」と嘆いたり、下手したら「前職のほうがよかった」と後悔したりする状況に陥ることだってあります。

転職を成功させるためには、まず自分がどうありたいかなど、内なる声に耳を傾け、本当に自分がやりたいことを見つける、目指す方向を定めるなど、内的要因を持って活動するのが賢明です。

■「石の上にも3年」より「本気の1年」

よく社会に出て働き出すと、「石の上にも3年」と格言のように言われます。まずは「3年はやってみよう」と。3年の月日が仕事に打ち込んだり、我慢したりする期間として最適であるかのように思われています。たしかに、成長や成功するためには本腰を入れて取り組まなければならない点は間違いありません。

成し遂げたいことが明確で自分が実現したいキャリアであるなら、3年と言わず、10年20年とその道を突き詰めることも大事です。ただ、それはキャリアが明確に見えている場合です。これからキャリア形成を考え始める人が、「この仕事は向いているかもしれない」程度の気持ちで3年もの時間を費やすのは、大きなリスクとも言えます。

私としては「石の上にも3年」より、「本気の1年」こそが仕事をする上では大事な視座だと考えています。

■「自分が決めているかどうか」が幸福度を左右する

なぜ1年なのか。10年、20年前とくらべて、ビジネスの世界は急速にスピードアップしている点が挙げられます。DXやAI化などデジタルの潮流は日々刻々と進化するほど、圧倒的なスピード感があります。時代の流れがこれだけ激しい中で、3年はあまりに長すぎます。

そうしたサイクルでは「3年は様子を見て今の会社で頑張ろう」と待っている間に、3年後、ますます世の中は進化しています。3年の時間があれば、「今年はダメだったけれど来年は改善しよう」と猶予が生まれ、集中力が散漫になることもありえるでしょう。

「自己決定理論」という理論があります。これは、自己決定の度合いがモチベーションや成果に影響するという理論です。その考え方は人の幸福感にもつながります。

じつは幸福度合いは、年収の多寡や企業規模の大小よりも「自分が決めている」ほど高まります。自分で1年と決断して、やりきろうと決意して行動すれば、期間は短くても吸収できるものは多く、結果も出やすいでしょう。

キャリア形成は最終的に「自分がこれだ」と思った道を選択し、集中していくことです。しかし、その前段階として自分の選択肢を広げていくことが大事です。そのための活動が制限される点で「石の上にも3年」は今の時代の価値観には合わず、自分らしいキャリアを形成したい人が手放さなければならない固定観念でしょう。

■社長のひとことで翌日転職し、大成功

では、一刻も早く今の職場を辞めて転職活動をすればいいか、というとそうではありません。辞めるタイミングは、年齢や年月など「最適なものはない」のも事実です。

大手企業に9年ほど勤めてから起業したKさんという男性がいました。彼が会社を辞めたのは期の途中で、中途半端な時期でした。そのきっかけを作ったのが、彼が勤めていた会社の当時の社長だったそうです。

その社長はメンターのような存在で、Kさんが将来は起業したい意志があるのを知っていました。会うと時々、「会社はいつ辞めるの?」と聞かれ、そのたびにKさんは「まだちょっとタイミングが……」と答えていたそうです。

ある時、社長から「今しかないベストなタイミング、なんて誰にもわからない。それでも君はこの瞬間も、1秒1秒の命を削っているんだよ」と言われました。この言葉を受けて、Kさんは翌日に退職届を出して、起業を果たしました。いまやテレビ局から取材を受けるほど、Kさんが起こした事業は成功を収めています。

退職届
写真=iStock.com/shironagasukujira
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironagasukujira

■ベストタイミングがないなら躊躇しなくていい

たしかに辞めるタイミングは難しい。とくに起業ともなれば、計画を立てて状況がクリアになってからと考えるはずです。でも、すべてが順調に行くわけないんです。計画の中でズレこむことだってあります。

ですから、自己資金などのちょっとしたお金の問題だけなら、ためらうことはありません。まず起業をして、何かが足りないならそれに合わせて考えていったほうが行動量も増えていくので、時間を巻くことにもつながります。

転職も同じです。浅い思考ですぐに決断しては意味がありませんが、自分の中で落とし込みができていれば、そのタイミングで動いたほうがいいでしょう。

もうひとつ、タイミングを見計らうより動いた方がいい理由として、「計画的偶発理論」が挙げられます。この理論は心理学者のジョン・D・クランボルツが発表したキャリア理論です。彼の調査によると、ビジネスパーソンとして成功した人の8割はターニングポイントが「本人の予想しない偶発の出来事」によるものだったとしています。

■待つより行動したほうがチャンスは増える

この理論の骨子は3つあり、1つ目は予期せぬ出来事がキャリアを左右すること。2つ目は偶然の出来事が起きた時に行動や努力で新たなキャリアにつながること。最後に、待つのではなく意図的に行動することでチャンスが増えることです。

要するに、計画は半分程度は立てるけど、あとは行動しながら、偶然性を伴って進んでいく。計画だけを綿密に考えていたら3年、4年と行動するまでに時間がかかり、その分、リスクや決断できない理由が増えていくだけです。だからこそ、先に決断して動いた方が強制的にアンテナをはらないといけなくなるので、情報や行動量も伴ってくるというわけです。

一方で、モチベーションの観点から転職のタイミングを計ることはできます。「モチベーションウェーブ」(次ページ、図表1)といった概念で私は説明しています。マズローの理論なども掛け合わせた独自の考え方で、モチベーションには5つの段階があり、それによって人の気持ちはポジティブにもネガティブにもなることを示しています。

■モチベーションが低いと転職もうまくいかない

例えば、図表1にある下2つのラインはモチベーションが低い状態です。無気力や危機といったモチベーションで、「会社に嫌な人がいるから」など転職の動機づけがマイナスなものだと、転職もうまくいきません。早期に転職できるかやお金のためなどを軸にする転職活動では、失敗する可能性が高いでしょう。

【図表1】モチベーションウェーブ

モチベーションのラインが高いところにあれば、転職の好機です。どういう理由でなぜ転職したいか。転職をしたことで自分の在り方として何が実現できるか。そうした内的要因が深掘りできていれば、やりたことや目指すものが明確なだけに迷う必要はありません。

とはいえ、転職するにはある程度のステップが必要になります。私は「TLEP」という考え方を提案しています。Touch(触れる)、Learn(学び)、Experience(経験する)、Practice(実践する)の頭文字をとって命名しました。

これを身につけ実行していくと、思いつきや単なる希望でなく、「なぜその会社で働くか」を問うトレーニングにもなり、理想のあり方、自分の働き方に近づけることができます。

■「TLE」という3つの下準備が重要

最初のT(Touch)は、転職したい会社や業界があれば、実際にそのサービスに触れてみたり、現場に行ってみるという意味です。行動を伴うことでキャリア形成の一歩が踏み出せます。

次のL(Learn)は学びでリサーチしたり本を読んだりしていくことです。そして、E(Experience)は実際に気になる会社や業種があれば採用に応募してみたり、アルバイトでも経験してみるのもひとつの行動です。

つてを頼って実際に働いている人に話を聞くのも疑似体験としての経験になるでしょう。「この方法ではうまくいかない」「思い通りにならない」といった、現実を知ることもできます。最後のP(Practice)は、実際に転職をして働き始めることです。

TLEと3つのステップを踏んでいると、深く考えずに転職したケースに比べれば、予想外のことやうまくいかないことも踏まえた上で最後のP(実践)に入るので、常に自問自答しながら経験を重ねられます。

結果的にその道1本で進むこともあれば、理想と現実の違いに気づいてキャリアを変えていく選択もできるはずです。このTLEPを続けながらキャリアを歩んでいくことで、納得のいく転職活動に繋げることができるでしょう。

■本当の意味で「成功した転職」とは

一般的には、年収アップや有名企業への転職が成功と言われるかもしれません。しかし、ここまでお伝えした通り、大事なのは「内的要因」や「自己決定」が転職する際のモチベーションになっているかどうかです。

年収アップを目指す理由は、お金を得ることでいい物を食べる、いい服を着る、いい家に住むなど選択肢を増やし、幸福感を味わいたいからです。しかしお金で得られる幸福度よりも、自分で決定している人のほうが幸福度も高いし、人にコントロールされているわけではないので、やり続ける力も強くなります。

そうするとモチベーションを高く維持できて、先ほどのモチベーションウェーブで見ると上の2つのラインの「価値モチベーション」や「未来モチベーション」の基準で仕事をしていくことができます。

■外部要因に影響されないメンタル維持方法

そうはいっても、SNSで「ボーナスが5カ月分出た!」や「一部上場企業に転職します」といった他人の言動を目にして、羨ましくなることもあるでしょう。そういったときは、「これはトレーニングだ」と思えばいいのではないでしょうか?

モチベーションウェーブで考えると、だれもが感情によって上に振れたり、急に下がったりしますが、どういう時に自分の感情が揺れるかを知ることも成長につながるからです。

モチベーションが下がった時に、「つらい」「悲しい」と感じるだけでなく、その原因は何なのかを自分で把握していく。そうすれば、モチベーション低下の原因がわかるわけで、それだけでも問題の半分は解決したといえます。

つまり、その時点で自分自身、冷静に感情と向き合えているわけです。モチベーションが下がったら下がったままで、理由が見えていない人よりも明らかにメンタルは安定します。

モチベーションに関わる感情の起伏を理解ができていれば、自らを律することができるため、「年収アップ」し続けられるモチベーションを保てるようにもなれるとも言えるでしょう。

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漆沢 祐樹(うるしざわ・ゆうき)
パーソナルナビ代表
1988年生まれ。東京都在住。18歳でNTTインターネット回線の飛び込み営業を始め、19歳で起業。2019年、1分1万円のキャリア講師として5年間ビジネススクールのメイン講師を担当。2022年、スタンダード市場石垣食品株式会社(現・株式会社ウェルディッシュ)社外取締役就任。2024年、スタンダード市場株式会社GEXEED 執行役員就任。現在はイギリス国立大学の海外MBA candidateでありながら、日本のキャリアリテラシー問題の解決に取り組む株式会社パーソナルナビの代表取締役を務め、これまでキャリアに関する講義参加者は延べ1万2000人以上。二児の父。著書に『キャリアリテラシー新時代を生き抜く88の教え』(幻冬舎)、『図解でわかるキャリアデザイン』上中下三部作(ゴマブックス株式会社)がある。

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(パーソナルナビ代表 漆沢 祐樹)

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