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やらされている仕事で「やりがい」は生まれない…古典落語『芝浜』が説く「仕事で行き詰まった時の対処法」とは

プレジデントオンライン / 2024年8月28日 9時15分

桂三木助(3代目)1954年(産業経済新聞社/PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons)

現代に生きる我々が古典落語から学べるものは何か。落語家の立川談慶さんは「『芝浜』は、なぜあなたが仕事に身が入らないのかを教えてくれる。自分が選んだ仕事を『やらされている』と感じているうちはやりがいなど生まれない」という――。

※本稿は、立川談慶『落語を知ったら、悩みが消えた』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

腕はいいのだが、酒におぼれる魚屋の亭主・勝五郎、通称魚勝という男。

ある日、女房に怒られて、しぶしぶ久しぶりに商いに出かけたのだが、女房が時間を間違えて起こしてしまったため、魚勝は芝の浜で時間をつぶすことになる。が、そこでなんと、大金の入った革財布を拾う。魚勝は喜んで帰宅し、「落とし主なんかどうせ現れない! 酒だ、肴だ!」と女房に言い放ち、友達を呼んで昼から飲めや歌えやの大騒ぎをした後、また酔いつぶれて寝てしまう。

翌朝、「商いに行ってよ」と女房に叩き起こされる魚勝。「冗談言うな、昨日拾った金がある」と言ってまた寝ようとするのだが、女房は「お金を拾ったなんて、あり得ない。そもそもお前さんは商いに行っていないじゃないか。そんな夢を見るなんて、情けないよ」と泣きながら訴える。

「そうか……えれえ夢を見ちまったもんだ。我ながら情けねえや」と、女房の言葉に目が覚めた魚勝は改心し、酒をピタリとやめ、人が変わったようにまじめに働きはじめる。

そして、3年が経った大みそか。女房は、大金の入った革財布を奥から取り出し、「3年前の話は、あれは夢じゃなかった。お前さんは本当に拾ってきたの」と打ち明ける。あの日あのとき、女房が財布の件を大家さんに相談したら「全部夢にしちまえ。そうしないとあいつは立ち直れない。拾った金なんか使いこんだら、捕まって罪人になっちまう」と言われたので、必死にウソをついていた、とのことだった。

号泣しながら詫びる女房に対して、魚勝は怒るどころか感謝する。打ち解けた2人。女房が酒を勧め、魚勝も口をつけようとするのだが、途中でやめる。「よそう、また夢になるといけねえ」

■語り継がれる『芝浜』

年末恒例の大ネタ中の大ネタともいうべきネタです。

かつては「三木助の芝浜」とまで言われていた桂三木助師匠の十八番を、談志は現代風にアレンジしながら、晩年「ミューズが舞い降りた」と本人が述懐するほどまでに極みを追求したものでした。

以後、さまざまな落語家が、それぞれの立場と時代に応じた価値観の変化を取り入れながら、現在まで語り継いでいます。 

■やらされている仕事にやりがいなど生まれない

今回は少し視点をずらしてみて、夫婦という人間関係ではなく「仕事」に置き換えて、この落語の現代的意義を追求してみましょう。

キーワードは“主導権”ではないでしょうか?

この落語に関して言うならば、「女房が注意して禁酒した場合」と「魚勝が自主的に禁酒した場合」との違いを考えてみましょう。

前者は主導権が女房にあり、後者は主導権が魚勝本人にある形になります。

この物語が重みをもって時代を超えて伝わっているのは、魚勝がやりがいを持った格好で生き抜いているからではないでしょうか。だからこそ、噺の後半に輝きが増しているのです。

そして、ラストの「よそう。また夢になるといけねえ」という名セリフ。これもまた、主導権が魚勝にあったからこそ、自分で「断る」という選択ができたのでしょう。困難克服力のことを「レジリエンス」と呼びますが、それは主体性や主導権が自分にあるかどうかで決まってくるものです。

医者に勧められて、しぶしぶ始めたダイエットは続くわけもありません。やはり主体性がないことには、継続は不可能です。私が20年近く続けている筋トレなんざ、重いダンベルを上げ下げするだけのものですが、誰かにやれと言われてやっているなら周囲からは苦役にしか見えませんし、無論、筋肥大も起きません。

仕事もやらされているうちは身が入らず、結果として他人のせいになってしまうものです。

■他人のせいにしたほうが楽になれる

前座修業中、よく師匠に言われたのが「俺はお前に、ここにいてくれと頼んだわけじゃない」という言葉でした。

たしかにその通りです。師匠に惚れて入門したはずなのに、いつの間にか「きついな」「なんで二つ目に昇進させてくれないんだろう」と自分の不勉強さを師匠のせいにしようとしていた時期がありました。

人間、他人のせいにしたほうが絶対楽になれるものです。

■「主導権はどこにあるのか」を考える

が、ダメになりそうなときに、ふと「安定したサラリーマンの道を捨ててまで、この道を選んだのは自分ではないか」と、その都度思い直してきたからこそ乗り越えられたのでしょう。

仕事で行き詰まったときには、「主導権はどこにあるのか」を常にチェックすると軌道修正できるのではと確信しています。

立川談慶『落語を知ったら、悩みが消えた』(三笠書房)
立川談慶『落語を知ったら、悩みが消えた』(三笠書房)

そしてそのためにコツとして、「自分は結局何がしたいのか」「どうなりたいのか」という思いを常に問いかけることが大切なのではと思います。

自分に主導権がある手ごたえを感じているのなら、どんなに厳しい環境でもやり抜くことはできるはずです。

だって主導権があれば、逃げることさえ可能なのですから。主導権とは、自分に対する責任でもあるのです。

壁にぶつかったら、ぜひ『芝浜』を思い浮かべてみましょう。忘れていた何かを、きっと思い起こさせてくれるはずです。

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立川 談慶(たてかわ・だんけい)
立川流真打・落語家
1965年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ワコール勤務を経て、91年立川談志に入門。2000年二つ目昇進。05年真打昇進。著書に『大事なことはすべて立川談志に教わった』など。

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(立川流真打・落語家 立川 談慶)

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