「優秀で人望もある東大卒」はなぜか伸びない…「能力がイマイチ」でも役員まで出世する人がやっていること
プレジデントオンライン / 2024年8月29日 9時15分
■「見えないルール」だらけの会社組織で生き抜くには
JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー=伝統的な日系企業)には、いわゆる「お辞儀ハンコ」に代表される合理的に説明できない「しょうもない文化やルール」が多数存在する。そんな見えないルールだらけの不条理な会社組織で「コスパ良く」働くための仕事術を記したのが、『雑用は上司の隣でやりなさい』(ダイヤモンド社)だ。
著者の「たこす」さんは、本部公認で副業としてブログを運営する、年収1400万円の現役メガバンク行員だ。10年以上にわたってメガバンクという極限の環境で生き残り、同期最速で出世街道に乗ることに成功しているという。
一方、筆者は5年前に某メガバンクに入社したものの、JTC特有の社内文化に適応できず、心を壊して1年半で退職するという憂き目に遭っている。
そんな銀行員としては完全に「負け」の立場ながら、おこがましくも定期的にメガバンクにまつわる記事を書かせていただいている。
銀行員時代の筆者には何が足りなかったのか。ファーストキャリアは同じでも「真逆の人生」を歩んでいる現役エリートメガバンク行員・たこすさんにお話を聞いた。
■「雑用は上司の隣でやりなさい」の真意
――本のタイトル『雑用は上司の隣でやりなさい』とは、どういう意味なのでしょうか。
僕は若手時代にコピー機のトナー交換、紙の補充、物品の購入申請、上司のシャチハタに詰まったゴミをつまようじで取り除く業務……など、挙げたらキリがないほどの雑用を手掛けてきました。
これらの雑用が今の僕の会社員としてのスキルに何かプラスの影響をもたらしているか、と聞かれたら、胸を張って「No!」と答えられます。一方で、「今のキャリアを得るためにこの雑用が活きたか?」と聞かれたら、「実は結構役に立った」と答えます。雑用は、取り組み方次第で自分の「社内からの評価」にプラスの影響を与えるからです。
ここで重要なポイントのひとつが、タイトルにある「上司の隣でやる」ということです。
雑用は、そのクオリティよりも「誰がやっているのか」を認知させるほうが大事です。意識的に他人の目が多いタイミングで取り組むだけで、「雑用を多くこなしているがんばり屋」というキャラクターが定着するからです。
ただし、露骨に見せつけるのではなく、あくまで上司や先輩が「あなたが雑用をやっている」とギリギリ意識できるくらいのさり気なさが重要です。具体的なポジション取りとしては、上司の正面ではあまりに不自然なので、「左右どちらかの隣」くらいがベスト。視野に入るか入らないかくらいで、「アピールせずに存在を認知させる」というわけです。
■東大卒の先輩が「評価」されなかったワケ
――メガバンクのようなJTCで上司から高い評価を得るためには、コツがいるということですね。
会社の「評価」を勝ち獲るために必要なのは、他者より秀でた圧倒的に高い能力や地頭力だけではありません。時には「ズル賢くて不真面目なテクニック」を活用することが重要です。
例えば、僕が最初に配属された支店には東大出身の先輩と私大文系出身の先輩がいました。東大の先輩は圧倒的に勉強ができて社内研修のテストでは上位になるほどでしたが、コミュ力が低くて仕事の要領もよくありませんでした。一方で私大文系の先輩は、テストはそこそこの成績でしたが、仕事の要領がよく、後輩からも先輩からも信頼されていました。その後、東大の先輩は地方に左遷、私大文系の先輩は花形の大企業営業部署に栄転していきました。
残念ながら会社員人生では、高学歴というだけでは高い評価を得られないということです。
■「MARCH卒・体育会出身者」の強さ
――たしかに、私が銀行にいたときも営業で活躍しているのは、高学歴組よりもMARCH出身者が多かったです。
メガバンクに就職して最初に担当することが多い、中小企業営業では、MARCHあたりの層が活躍している印象がありますね。べしゃりで案件をとってくる「人たらし」的な能力が高い人が多いように思います。特に体育会出身者は根性や突破力も備わっている人が多いので強かったです。印象的だったのは、お客さんと一緒にパチンコを打って懐に入り、案件をとってきた先輩です。もうなんでもアリだなと(笑)。
ただ、地頭の面では東大には敵わないので、年次が上がって思考力が必要な案件を捌く機会が増えてくると、活躍できる人は減ってきます。逆に東大卒など超高学歴では、こうしたタイプの人は少数派です。
――MARCHからメガバンクに入る人は、採用枠が少ない分むしろ地頭が良い人が多い印象があります。
MARCH層は2パターンに分かれると思います。ひとつは圧倒的な地頭を持っていて「主席卒業です」みたいな人、もう一方は体育会系枠で入ってくる人。たしかに、前者はものすごく頭が良いですが、後者は押し出しは良いけど思考力がやや足りないので、年次を重ねるとどこかでつまずくことが多い。
もちろん、MARCHの体育会出身者でも順調に出世していく人はいます。私の同期のラグビー部出身のヤツはバイタリティーを買われて、今はインドでバリバリ活躍してます。
■なぜ「若手のエース」ほど失速してしまうのか
――ノリと根性で数字を上げてきたMARCH卒の「ソルジャー」は、ある一定以上になると行き詰まってしまうことが多いということでしょうか。
前に挙げたような、お客さんとパチンコをして懐に入るといった営業スタイルの人は、小さい支店のエースにはなることもあります。ただし、そういう人が上場企業の担当になって活躍できるかというと、そういうわけでもないんですよね。
大企業相手となると、かかわるのは財務担当者などで、中小企業営業のように社長と直接かかわる機会もなくなります。「ノリの良さで懐に入る」という技が通用しなくなる。つまり、そこで「変化」が要求されるわけです。年次が上がっていくと若手時代のやり方が通用せず、うまくいかなくなってしまうケースも実はたくさんあります。
――逆に、超高学歴で地頭が良いのに地方の営業店に配属されて不適応を起こす、みたいなミスマッチも多いのでしょうか。
そもそも地方の支店で中小企業営業がやりたくて入社してくる人ってほとんどいないんですよね。リサーチ業務やプロジェクトファイナンスがやりたいと言って入ってくる新入社員が多いのですが、みんな最初は営業店に配属されていきます。
私は古い人間なので、最初は支店で下積みを重ねたほうが良いと思っています。なぜかというと、本部に行った後も「会社は支社の人たちありきである」という視点が持てるからです。ここ数年は新卒から本部に配属される人も何人かいるのですが、そのあたりの感覚がなく、何となく現場を軽視している人が多いと感じます。
■欠点がない「スーパーマン」は役員になれない
――メガバンクのようなJTCでは、最終的にどんな人が出世するのでしょうか。
学歴の面で考えると、いちばん出世に強いのは早慶出身の人たちのように感じています。MARCHの人たちと同レベルの「コミュ力」を持っていて、場合によっては東大を凌ぐような頭脳を備えていることもある。良いとこ取り感がありますよね。東大生も、昔は学内の最優秀層がメガバンクに来ていたのですが、最近は上位層がコンサルやITなど他業界に行くので、中下位クラスの学生の入社が多いという事情もあるかもしれないです。
また、身もふたもない話なんですが、上司からも部下からも高い評価を受けている人格者で、コミュニケーション、地頭などすべての要素で欠点がない人はやはり出世していきます。ただし、みんなから慕われていて能力も高い「スーパーマン」でも役員まで出世する人は少ないという現実もあります。
順調に出世を重ねていって、最後に役員に上がるタイミングでは、現職の役員の推薦が必要になります。すでに役員の立場にいる人からすると、自分の存在を脅かす危険性のある「スーパーマン」は登用したくないという思いもあるようです。そのため、そつがないピカピカな人材より、能力が多少劣っていても自分を慕ってくれる人間味あふれる人が選ばれやすい。能力は前者のほうが上なのですが、実力通りにはいかないところが会社員人生のおもしろいところですよね。単に「オール5」を取れば良いというわけではないんです。
■飲み会で先輩から後輩に「継承」されてきたもの
――今回伺ったような「上司から評価されるコツ」や、社内の「見えないルール」を知っていれば、私も銀行を辞めなかったかもしれない、と思いました。
本来であれば、こうした仕事をするうえでのコツを「こっそり色々教えてくれる先輩」が職場にいれば、いちばん良いんだと思います。私自身、この本に書いたノウハウは全部飲み会で先輩から学んだものです。
「がんばっている自分をどう見せるか」とか、JTC特有の「見えないルール」みたいなものって、平場で言う話ではないじゃないですか。くだけた空間で先輩から「こっそり教えてもらう」ような話だと思うんです。「お前、あの時の言い方は良くなかったんじゃないか。明日謝っとけよ!」みたいな。
でも、コロナ禍以降は、気軽に飲み会に行くような場面が減っている。今の若い人たちは、こうした処世術を学ぶ機会も少ないと思うので、要領が悪くて空回りしていたかつての自分のような若手に役立ててほしい、という願いも込めて執筆しました。
■「こっそり色々教えてくれる先輩」になってくれたら
――私はコロナ禍入社で、銀行在籍中はかなりの期間、緊急事態宣言が発出されていました。退職するまでの1年半あまりのうち、先輩と飲みに行った記憶はほとんどないです。
正直に言うと、コロナ禍が終わってからも、コンプライアンス過剰で、上司や先輩から後輩を飲みに誘うのが難しい状況は続いています。なので、ぜひ若手社員には勇気を持って先輩を飲みに誘ってほしいと思っています。JTCに勤める多くの会社員は、言ってしまえば「替えがきく仕事」です。だから仕事上のミスも再現性が高いものばかりで、先輩たちのアドバイスというのは、後輩社員にそのまま生きてくる。
今までは先輩から後輩への継承というのが自然に行われてきたんですが、コロナ禍で流れがピタッと止まってしまいました。なので、私が書いた本が読者にとっての「こっそり色々教えてくれる先輩」になってくれたら、と思っています。
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本部公認で副業としてブログを運営する、年収1400万円の現役メガバンク行員。新卒でメガバンクに入行し中小企業営業を担当。理系的な分析手法によって独自の「高コスパな仕事術」を編み出すことで、同期最速で出世街道に乗ることに成功。証券会社に出向して投資銀行業務に携わった後、銀行に戻って大企業営業を経験。現在も本部勤務を続けている。X・ブログでは、これまで世に出なかったメガバンクの内部事情や出世のノウハウを日々更新中。『雑用は上司の隣でやりなさい』(ダイヤモンド社)が初の著書。
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受験・学歴研究家、じゅそうけん代表
1996年愛知県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、メガバンクに就職。2022年じゅそうけん合同会社を立ち上げ、X(旧Twitter)、InstagramなどのSNSコンサルティングサービスを展開する。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、XやYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。
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(最短出世中・現役エリートメガバンクブロガー たこす、受験・学歴研究家、じゅそうけん代表 伊藤 滉一郎)
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