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最悪の場合エレベーターもトイレも使えなくなる…住宅ジャーナリストが教える"台風に弱いタワマン"の特徴

プレジデントオンライン / 2024年8月27日 9時15分

台風19号の影響で水位が上がった多摩川の丸子橋(手前から2本目)付近=2019年10月13日、手前は東京都大田区、奥は川崎市中原区(共同通信社ヘリから) - 写真=共同通信社

2019年の台風19号では、武蔵小杉エリアのタワーマンションが大きな被害を受けた。住宅ジャーナリストの榊淳司さんは「武蔵小杉のタワマンの場合は、地下3階に設置してあった電気室が冠水して、建物内の電気が使用不能になった。電気室が地下に設置されている場合は要注意だ」という――。

■「内水氾濫」によるタワマンでの被害

また、台風の季節がやってきた。

ここ数年、首都圏は台風によって大きな被害を受けていない。記憶に残る直近の台風の大きな被害は2019年10月の台風19号だろう。あの台風では多摩川の一部で水が堤防を越える越水が発生した。

そして、川崎市内では「内水氾濫」によるタワマンの被害が発生している。

内水氾濫とは、市街地などで短時間に激しい雨が降った際に、下水道や排水路などの排水施設の能力を超えて雨水が排水できず、建物や土地、道路などを水浸しにする現象である。

2019年の台風19号では、武蔵小杉エリアのタワマンの地下4階部分がこの内水氾濫に見舞われ、地下3階に設置してあった電気室が冠水。建物内の電気が使用不能になったのだ。

これはおそらく、台風によってタワマンに大きな被害が出た初めてのケースではなかろうか。けが人などは出なかったのが不幸中の幸いである。

ただし、タワマンという住形態は、電気が使えなければただの鉄筋コンクリートの箱である。電力が正常に供給されていてこそエレベーターや上下水道が使えるが、それが途絶えると不自由極まりない住空間となる。

最も困るのは中層階以上に居住している人々である。

まず、建物内の上下移動はエレベーターが止まれば、すべて階段を使うしかない。5階や8階くらいなら、がんばれば何とか数往復くらいはできるだろう。ただし、高齢者には負担が大きすぎる。

ならば「高齢者は出かけなければよい」という考えもあろうが、そうもいかない。なぜなら、電気が止まるとトイレが使えなくなるからだ。

■汚水槽の中身を下水道に排出するために電力が必要

タワマンの場合、建物の下部にトイレの汚水などをいったん貯める汚水槽が設置されている。その汚水槽にたまった屎尿類を公共汚水用下水道に排出するためには電力が必要なのだ。電力供給が不可能になった件の武蔵小杉のタワマンでは、地下の汚水槽から公共下水道への排出が不可能となった。

汚水槽がいっぱいになっているのに上層階で水洗トイレを流すと、下層階住戸のトイレに逆流してしまう。

だから、電気機能が麻痺したその武蔵小杉のマンションでは、緊急の館内放送でトイレの使用中止を伝えたという。そして、各住戸には簡易トイレが配られた。つまり、排せつ物を住戸内でいったん保管する必要があった。

ちなみに、水道も使えない状況なので、簡易トイレの使用はかなり不衛生な危険が伴う。

多くの人はそれを嫌ってホテルや親戚の家へと避難したらしい。ただ、そういうことができない事情の方も少なくなかったようだ。

30階あたりに住む人が、1階に設置された臨時のトイレを利用するために毎日何回も往復した、という体験談も語られている。

■管理組合の対応にも問題があったと考えられる

さらに、このタワマンの管理組合のあまり賢明でない対応にも問題があったと私は考える。

この事象が発生した直後から、私のところには様々なメディアから問い合わせや取材の依頼があった。そこで分かったことは、管理組合が住民に箝口令を敷き、「メディアの取材には一切応じるな」と命じたのだ。不都合なことは一切隠蔽する、という専制国家の手法を採用してしまったのだ。

しかし、日本のような国で事実を隠蔽し続けることは不可能に近い。その対応に反発したメディアはこの被災した武蔵小杉タワマンに対して冷ややかな報道を流し続けた。記者たちも人間である。「敷地には一歩も入るな」「お前ら、出ていけ」と言われれば、気分がよくないのも当然だろう。

結果、このタワマンはSNSなどで揶揄され続けたようだ。私が知る限り、現在は資産価値への悪影響は払拭されているが、被災後1~2年程度は中古市場での取引が著しく不活性化していた。

マンションの模型を持つ人
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■すべてのタワマンで電気室移転が行われたかは不明

そしてこの武蔵小杉タワマンの台風被害は、その他にもいろいろな教訓をもたらした。

まず、この場合の内水氾濫の原因は、雨水などを河川に放出する水門が閉じられなかったことにより、水位が上昇した多摩川からの逆流が原因とされている。

その水門を管理していたのは川崎市だ。今はその開閉が電動化され、リモコンでも閉じられるようになった。

さらに、このマンションの電気室はその後地下3階から氾濫による冠水被害の心配がない上の階に移設されたという。

この事件以降に計画されたタワマンは、電気室を地上3階以上に置く設計になっていると推測する。また、既存のタワマンで地下に電気室が設置されている物件は、3階以上への移設を行ったケースもあるはずだ。

ただし、そういうことは管理組合や管理会社の危機意識の強弱に影響される。電気室移転の話は出たが、事件の記憶が薄らぐとともにナアナアになっているケースも少なくなさそうだ。もちろん、少なくないコスト負担も伴う。

中には「うちのマンションは多摩川から離れているから大丈夫」なんて考えて、何もしていないケースもあるだろう。

■タワマンは低地に位置している場合が多い

今後、あの2019年の台風19号と同等かそれ以上に強力な台風がやってこないと考える理由はない。むしろ、さらにパワフルな台風に襲われることを想定すべきだろう。

特にタワマンの場合、そのアキレス腱は電気系統とエレベーター、そしてトイレだ。

タワマンの多くは、わりあい低地に位置している場合が多い。湾岸の埋め立て地や大きな河川の近くなどは、倉庫や工場の跡地などまとまった土地が出やすい傾向にある。そういった土地がタワマンとして開発されるのだ。

逆に、比較的標高の高い山の手はお屋敷町から高級住宅地へと移り変わったケースが多く、タワマンにふさわしい事業用地は出にくい。さらに、山の手エリアは建築規制上もタワマンを建てにくい場合が多い。

低地に立地するということは、水害に遭いやすい、ということでもある。

水害とは、台風などによる大雨か、地震による津波である。

タワマンが強風によって大きな被害を受けるとは考えにくい。バルコニーに置いたものが吹き飛ばされたりはする。タワマンのバルコニーに植木鉢を置くなどはかなり危険。吹き飛ばされて他の住戸の窓に当たれば、まずいことになるかもしれない。

強風によって敷地内の造作物や樹木などが破損する被害は考えられる。ただし、せいぜいその程度。やはり、問題は水害である。

地面に打ち付ける激しい雨
写真=iStock.com/VisualCommunications
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VisualCommunications

■エントランスホールの冠水にも要注意

台風の場合は、河川の氾濫がもっとも要注意。どのエリアに河川氾濫の被害が及ぶかは自治体が公開しているハザードマップなどで確認できる。

ただ、武蔵小杉であったような内水氾濫は、あの被害が起こるまでは想定しづらかった。あのケースも「想定外」であったのではなかろうか。

つまり、河川にあまり近くなくても内水氾濫の被害に遭う可能性は高い。ましてや低地に立地するケースが多いタワマンにとって、内水氾濫は要注意だ。

武蔵小杉のタワマンの場合は、地下4階から浸水した。しかし、内水氾濫は地上の道路などから数十センチ、あるいは1メートル程度を冠水させることもある。

そうなった場合、タワマンの弱点は電気室、エレベーターとなる。電気室が2階以上に設置されていれば、ひとまず安心。

ただし、1階のエントランスホールが冠水した場合はちょっとまずい。エレベーター内にも水が入る可能性が高まるからだ。冠水したエレベーターを動かすのは危険。それを再び動かすには、水が引いた後で専門の技術者による安全確認が必要だ。この場合、数日間はエレベーターが使えなくなることもあり得る。

■ハザードマップと電気室の位置を確認

特にタワマンの場合、地上に設けられている地下駐車場への出入口から地上にあふれた水が流れ込むことも考えられる。地下駐車場が水に埋もれれば、そこにある車は廃車の運命だろう。

地上にある駐車場の出入口はシャッターで開閉できるが、そのタイミングを誤ることもありそうだ。あるいは想定以上の水圧がかかって破壊されるかもしれない。

自分が住んでいるタワマンが心配なら、まずはハザードマップを確認。次は電気室の位置がどこにあるか。まだ地下にあるのなら、管理組合に移動を提案すべきだ。

それ以外のところは、住民にはどうしようもなさそうだ。エレベーターや上下水道が使えないケースを想定して、住戸内に必要なものを備蓄するしかない。

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榊 淳司(さかき・あつし)
住宅ジャーナリスト
1962年、京都府生まれ。同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部卒業。1980年代後半のバブル期以降、四半世紀以上にわたってマンション分譲を中心とした不動産業界に関わる。一般ユーザーを対象に住宅購入セミナーを開催するほか、新聞や雑誌に記事を定期的に寄稿、ブログやメルマガで不動産業界の内幕を解説している。主な著書に『やってはいけないマンション選び』(青春出版社)、『年収200万円からのマイホーム戦略』(WAVE出版)、『マンション格差』(講談社現代新書)、『すべてのマンションは廃墟になる』(イースト・プレス)などがある。

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(住宅ジャーナリスト 榊 淳司)

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