本当は「コロンビア大院卒の超高学歴」なのに…小泉進次郎氏が「これだから低学歴は」とバカにされる根本原因
プレジデントオンライン / 2024年8月22日 18時15分
■小泉進次郎氏につきまとう「批判」
9月27日に投開票される自由民主党の総裁選挙に、小泉進次郎元環境相が立候補する見通しとなった。岸田文雄首相の突然の不出馬表明を受け、いち早く立候補を表明した小林鷹之前経済安全保障担当相につづくとみられる。進次郎氏や小林氏の他にも、多くの立候補者が出る見込みで、実質的に次の首相を選ぶレースが本格化する。
その進次郎氏をめぐっては、2009年の初当選時から常に「学歴ロンダリング」との批判がつきまとう。
進次郎氏は、1981年4月14日、小泉純一郎氏の次男として神奈川県横須賀市に生まれ、1988年に関東学院六浦小学校に入学以来、大学まで関東学院で過ごした。元首相である父・純一郎氏は、1942年1月8日生まれで、神奈川県立横須賀高校卒業後、1962年4月に慶應義塾大学経済学部に入学している。
純一郎氏の父・純也氏は日本大学法学部の夜間を卒業しており、その舅にあたる小泉又次郎氏は横須賀学校(横須賀小学校の前身)である(※1)。小泉家は又次郎から進次郎に至るまで4代続く政治家一家であるものの、「学歴」という点では、いわゆる「高学歴」とは言いがたい。
それでも、進次郎氏の「学歴」が注目されるのはなぜか。彼が、「学歴ロンダリング」をした、と言われるからである。進次郎氏は、関東学院大学経済学部を2004年に卒業したのち、米国コロンビア大学大学院に進み、2006年5月に修士号を得ている。
■関東学院大→米コロンビア大院は「ロンダリング」なのか
関東学院大学経済学部の大学入試偏差値は「高い」わけではないし、さらに、内部からの進学となれば、進次郎氏の「学歴」というか「学力」に高評価を与えるのは、難しい。それなのに、「世界大学ランキング」で17位のコロンビア大学の、それも大学院を2年弱で修めたとなれば、どうだろう(東京大学は29位)。
「自身の出身大学よりも偏差値の高い大学院に進学して高い学歴を得よう(※2)」としたのではないか。そう言われても、仕方がないのかもしれない。
ここで考えたいのは、日本社会の「学歴」へのこだわりようである。「学歴なんか意味がない」、という立場も、逆に、「学歴こそが大事だ」との見方も、どちらも「学歴」を気にしている点で共通している。
おそらく世間では「進次郎は関東学院大卒の低学歴」と思っている人が多いのだろう。だからこそ「ロンダリング」という言葉が使われてしまう。
しかし、進次郎氏は「高学歴」である。なぜなら、グローバル・スタンダードと言わずとも、日本でも最終学歴、つまり、出身学部よりも修了した大学院で「学歴」を見るのが常識だからである。それは企業の採用活動でも、研究者の世界でも同様だ。それなのに、なぜ世間と「認識の齟齬」が生まれてしまうのか。背景には、大卒が増えたことによって、どこの大学からどの大学院に行くのか、に注目する人が増えたという流れが挙げられよう。
その背景を見る前に、進次郎氏個人について確かめておこう。
参考文献
※1:大下英治『小泉純一郎・進次郎秘録』(イースト・プレス)
※2:『プレジデント』(2020年4月17日号)
■人々の心を鷲づかみにする「一流の話法」
なるほど、彼の大学院進学をめぐっては、『週刊新潮』が、その経緯に関するさまざまな疑惑を報じている。いっぽうで、その恩師・ジェラルド・カーティス氏も取材に応じ、「彼は成績も良かったし、一生懸命、勉強した」と証言している。彼がコロンビア大学で何を得たのか。さらに、その修了後に籍を置いた、戦略国際問題研究所(CSIS)を通じた人脈から、その後の政治活動への影響を考えられよう(※3)。
ここで重要なのは、彼がどんな政治家か、という点ではないか。
例えば、おそらく日本の歴史上、もっとも「高学歴」な首相は、東京大学工学部を卒業し、スタンフォード大学大学院でPh.D.(博士号)を得た、鳩山由紀夫元首相だろう。まだ首相はおろか、自民党総裁にすらなっていない進次郎氏と、鳩山氏を比べるのは時期尚早とはいえ、どちらが政治家として適しているだろうか。
進次郎氏の人気の秘訣として、「まず相手の名前を覚えることからスタート」し、「目についた部分を言葉にして質問する」といった「コミュニケーション術」によって、「信頼関係が構築され始める」と、ノンフィクションライターの常井健一氏は指摘している。「相手との心の距離が一瞬にして、一気に接近する」という進次郎氏の“一流の話法”は、「学歴ロンダリング」や「世襲」といった難点を跳ねのけて余りある。
■大学進学率が過去最高57.7%に対して、大学院は7.4%
毎日新聞の報道によると、あの「進次郎構文」にしても、これまではマイナスにみられていたものの、都知事選で次点につけた石丸伸二氏の「石丸構文」と比べて「平和的」と評され、プラスに見られつつあるという。
進次郎氏が「学歴ロンダリング」だとしても、その魅力はいささかも減じられないのではないか。それでも、日本社会が「学歴」を気にする社会、「学歴コンシャス」な社会である、とは言えよう。その背景は、どこにあるのか。
昨年、日本における大学進学率は、過去最高の57.7%に上昇した。他の国と比べたときに、この数字を高いととるか、低いととるか、その判断は難しい。短期大学や専門学校を含めた、高等教育全体への進学率は高いものの、「学歴ロンダリング」の舞台となる大学院修士課程以上に進む割合は、7.4%と、決して高くはないからである。
参考文献
※3:中島岳志『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンド・ブックス)
■「学歴ロンダリング」が気になってしまうワケ
大学卒業で得られる「学士号」にちなみ、かつて日本では「学士様」、つまり、大学の学部を卒業するだけでも尊敬されていた(※4)。今から107年前、大正6年に出版された小説『学士様なら娘をやろか』には、「学資」(学費)を支払えなくなりそうになり、「学士」になる見込みを売りに、資産家の娘との結婚を企てる学生がコミカルに描かれている。
かといって、令和の今、「東大卒なら娘をやろか」とも、「コロンビア大学大学院卒なら娘をやろか」とも、誰も言わないどころか、想像もつかないのではないか。どれだけ「学歴ロンダリング」をしたとしても、昔の「学士様」ほどの威光は得られないのではないか。
多くの人が「学士様」になったからこそ、その先=大学院での「学歴ロンダリング」に対して、憧れとも嫉妬とも揶揄ともつかない、いくつもの感情がないまぜになった視線を向ける。しかも、大学院に進む人が同世代の10人に1人に満たない、となれば、なおさらである。
加えて、大学入試の多様化が追い打ちをかける。かつて「一芸入試」などと言われた「AO入試」は、「総合型選抜」へと衣替えし、学力=テストの成績、だけで測る機会が減っている。私立大学では一般の入学試験よりも、その他の形式での入学者数のほうが上回る。大学の学部の入学偏差値=学力、とは言い切れなくなっている。
■「学士様」の輝きが消えても…
ここに、日本社会が、延々と「学歴」にこだわり続ける、今の事情がある。
折しも、まっさきに自民党総裁選への立候補を表明した小林鷹之氏は、中学受験の最難関校のひとつ・開成中学から開成高校を経て、東京大学法学部を卒業後、大蔵省(現在の財務省)に入り、ハーバード大学ケネディ行政大学院で公共政策学の修士号を得ている。東大からハーバード大学大学院への留学を、誰も「学歴ロンダリング」とは呼ばない。
小林氏だけではなく、これから立候補するとみられる他の自民党の政治家もまた、その「学歴」が取り上げられるだろう。
「学士様」の輝きは消えたとはいえ、それでも、「学歴」が気になる社会に、私たちは生きている。「学歴ロンダリング」を嘲笑する人も、しない人も、そして、この記事を書いている私も、読んでいるあなたも、「学歴コンシャス社会」を生きている。
ここで、「学歴から学習歴へ」という、おきまりの文句を並べるつもりはない。それよりも、なぜ、私たちは「学歴」を気に掛けるのか、この点をあらためて考え直す機会なのではないか。
参考文献
※4:齋藤安俊「学位授与機構 学位取得の新しい途」
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神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)
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