「動画はジャンジャン見せたらいい」心理カウンセラーが悩める親に伝える"深い理由"【2024夏のイチオシ】
プレジデントオンライン / 2024年8月25日 7時15分
※本稿は、下園壮太(著)、ひえじまゆりこ(イラスト)『ワーママが無理ゲーすぎてメンタルがやばいのでカウンセラーの先生に聞いてみた。』(時事通信社)の一部を再編集したものです。
■誰でも疲れていれば怒りっぽくなる
Q 本当はもっとニコニコして子どもや夫に接したいのに、時間に追われ、怒ってばかりいます。
A 「怒りのケア」の基本を押さえておきましょう。
この方のお悩みの本質は、「ニコニコできない、怒ってばかりいる自分ではダメだ」と思っているのに、怒ってしまう、怒りが止められない……という負のサイクルに入り込んでしまっていることです。
基本のメカニズム(本書の「STEP1」)でもお話ししましたが、人は弱ってくればくるほど、感情がたくさん出ます。だれでも疲れていれば、怒りっぽくなり、許容範囲が狭くなります。弱い自分を守ろうとするんですね。
これは本能ですから、いくら理性でコントロールしようとしても無理があります。それなのに「怒ってはダメ」と押さえつけようとするから、できない自分を責めてしまうし、そのせいで消耗して、さらに怒りが大きくなっていってしまうわけです。
■怒りが生じても、人に当たらなければ上出来
子育て戦場ですでに疲れているママたちが、イライラしないでいる、怒らないでいるというのも、ハッキリ言って無理があります。相談者の方は、まずは怒ってしまう自分自身を、「仕方ないよね」「そうなるよね」と、自分で認めてあげてください。
とは言え、子どもや家族に当たってしまうのは、本人もつらいもの。相手を傷つけて現実のトラブルにもなりがちです。
そこで「怒りのケア」のゴール(目標・期待値)を変えてみましょう。
この方の場合、実行可能で有効な目標は、「怒りを現実のトラブルに発展させない」、すなわち「子どもや夫に当たらないようにする」ではないでしょうか。「怒りの感情を持たない」という目標は理想ですが、それは今は無理で、非現実的な目標です。期待値を下げましょう。怒りが生じても、人に当たらないようにできれば、子育て戦場にあっては上出来です。そしてそれならなんとか実行できそうです。
方法としては、次の2つです。
■「怒りのケア」の基本
① 休む
怒りっぽいのは、ご自身が疲れているから。この本質は無視してはいけません。睡眠をとるなどして、エネルギーを回復させます。
② 離れる
怒りは特定のターゲットを警戒し、そこに意識を集中させる機能があります。ターゲット(子ども、夫など)から離れる、「距離をとる」ことで、警戒がゆるんで、怒りの発生率も下がります。これによって相手を傷つけることも回避できます。①、②の方法とも、毎日の生活の中では、なかなか実践するのが難しいところもあるでしょう。でも方向性として知っておいて、そのときの状況に応じた良い方法で、うまく対処していってほしいです。
重ねて言ってしまいますが、子育て戦場における「怒りのケア」の一般的ゴールは、「子どもや夫に当たらない」ことです。
これを「怒りを完全にコントロールする」「いつもニコニコしているママになる」などと設定してしまうと、無理を自分に強いて、結局できない自分を責めて自信を失い、「怒り」が増大していく……という負のループに陥ってしまいます。
くれぐれもご注意を!
■子どもとじっくり遊んであげられない
Q 子どもとじっくり遊んであげることが苦手です。散歩や図書館に行くことでなんとかしていますが、子どもは私の知らないボードゲームで遊びたがるので苦痛です。
A 今は「自責スイッチ」がオンになっているかも。自分のケアをしつつ、状況をフラットに見て、自分の中の「期待値」と現実のズレを確認してみましょう。
この相談を先輩ママさんにしたら、おそらく答えは
「大丈夫よ! そんなの放っておけばいいのよ」
になるのではないでしょうか。
しかし、その回答でご相談者の気持ちはとうてい収まらないし、問題の解決にはならないでしょう。この悩みの本質は、「子どもとじっくり遊んであげる母親でありたい。でも自分はそうではない」という、この方の“思い”にあると感じるからです。
では、今なぜこのような思いで苦しんでいるかというと、疲れていて、子どもにつきあいたくない。あるいは、焦りが生じていてゆっくりした子どもの時間が苦痛に感じる。さらに、子どもが「ママ、なんで遊んでくれないの」と言っただけで、心が2倍3倍に反応して、自分を守るための怒りも生じてくる。そこに「自責スイッチ」もオンになっているから、そんな自分を責める思考が働き続ける……という状態になっているからでしょう。まずは自分自身をケアして、しっかり心身を休ませるようにしてください。
■「お母さんはこうするべき」の期待値が高すぎないか
その上で、この状況をなるべくフラットに考えてみてほしいんです。
もしこれが「バレエが好き」「野球が好き」というお子さんだったら、どうでしょう。バレエや野球の経験がないお母さんならば、教えてあげられないのは当然ですよね。子どもに機会を与えたいと思うのならば、バレエレッスンや野球教室を探したりするでしょう。つまり、ボードゲームをやってこなかったお母さんなら、外でその機会を探せばいいんです。
ただ、この数年はコロナ禍でそれもままならない状況もあったのかもしれません。家の中での過ごし方について、悩んでいらっしゃったクライアントの方も多かったからです。「子どもが動画ばかり観ている。もっと外で遊ばせるべきでしょうか」ともよく聞かれました。
しかし、私はこの場合でも、回答の基本は同じなんです。まずはお母さん自身の「自責スイッチ」をゆるめること。休んで、エネルギーを回復させることです。
その上で、「お母さんはこうするべき」「子育てはこのくらいできるべき」の期待値が高すぎていないか、現実とズレていないか、クールに考えてみてほしいのです。
コロナ禍の子育ては、難しかった。つまり、つらい戦場だったのです。だから、親も子も不満を持ちながら過ごさねばならなかった。それは仕方のないことです。親の子育てのせいではないのです。
■どうして動画を見せてはいけないのか
ちなみに、今、子育て中の方々には「時代のズレ」をしっかり加味してほしいと思います。
たとえば、「子どもについ動画を観せすぎて罪悪感がある」と悩む方に、私はいつも、
「え? どうして観せてはダメなの?」
と答えてしまいます。
すでに社会は、活字ではなく、Webや映像がメインの世界へと移行しました。今やメタバース(仮想空間)で商売をしたり、暮らしたりしている人も出てきています。そんな時代に、動画に親しんでいなければ、1歩も2歩も遅れて、お子さんは将来の仕事のチャンスを狭めてしまうでしょう。
YouTubeを子どもが大喜びで観て、お母さんもその間はラクになって休めるならば、双方がハッピーで、メンタルヘルス的にはとても好ましい状況だとも言えるんです。もう動画はジャンジャン、おおいに観せたらいいんです……と言うと、ちょっと引いてしまうお母さんもいらっしゃいますが(笑)。
■私たち大人は全員「時代遅れ」になっている
でも、子育てや教育の「○○するべき」「○○しないべき」は、多くの場合、ある人の過去の成功体験(あるいは失敗体験)に基づきます。さらに、その「過去」が、今とは大きくズレ始めているのです。しかも10年前のズレ幅に比べて、今のズレ幅はどんどん広がっています。さらに、これから10年のズレ幅は人類史上最大レベル……。
去年はなかった、人のように対話のできるAI技術がすごい勢いで普及しています。社会がどうなっていくか、だれにもわからない、未知のゾーンに入っていきます。いや、すでに未知の世界に入っていると言っていいでしょう。
この意味で、私たち大人は全員「時代遅れ」だと言っていいんです。
では、子育てにおいては、どうすればいいのでしょうか?
親御さんは、自分の中の「○○するべき」に早めに気づき、よく検証することです。お子さんを時代遅れの価値観で染めてしまわないように、なるべく「無色」でいて、おおらかに接していくことが、この後10年はものすごく大切になっていきます。
このような視点でも、自分の中にある「無意識の期待値」をチェックして、いたずらに自分を苦しめないようにしてくださいね。時代の変化への対応については、『令和時代の子育て戦略』(講談社)も参考にしてみてください。
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心理カウンセラー
MR(メンタル・レスキュー)協会理事長、同シニアインストラクター。1959年、鹿児島県生まれ。防衛大学卒業後、陸上自衛隊入隊。1996年より陸上自衛隊初の心理教官として多くのカウンセリングを手がける。自衛隊の衛生隊員(医師、看護師、救急救命士等)やレンジャー隊員等に、メンタルケア、自殺予防、コンバットストレス(惨事ストレス)コントロールについての指導、教育を行なう。2015年に退官し、現在は講演や研修、著作活動を通して独自のカウンセリング技術の普及に努めている。著書に『寛容力のコツ』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)、『「気にしすぎて疲れる」がなくなる本』(清流出版)など多数。
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(心理カウンセラー 下園 壮太)
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