これで出社せずに社内の人間関係を構築できる…デキる営業マンが机上に置いている"意外すぎるアイテム"
プレジデントオンライン / 2024年8月30日 15時15分
※本稿は、高山洋平『ビジネス書を捨てよ、街へ出よう』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■普段オフィスに来なくてもこのアイテムを揃えれば慕われる
この日のランチタイムも高山の周囲は賑(にぎ)やかだ。
外で昼食を買いオフィスに戻ってきた社員たちは、必ず高山のデスクの前で足を止める。営業部のメンバーだけではない。経理、総務、広報、さまざまな部署の人間が、笑顔で高山と言葉を交わしていく。
普段ろくにオフィスに寄りつかない人間が、なぜこうも慕(した)われているのだろうか?
何か仕掛けがあるに違いない。食べかけの弁当を置き、高山のデスクを覗いた。
「なっ……」
僕は言葉を失った。一体何でこんなところに大量の……。
「高山さ~ん、ニンニクとオリーブオイル、お願いしま~す」
突然、明るい声が響いた。オフィスの反対側から、カップ麺をお盆にのせた女性がやってくる。背は小さく、童顔で丸い肩。年は30代後半くらい。経理の佐田さんだ。
佐田さんは、サッポロ一番塩らーめんどんぶりがのったお盆を高山に差し出した。
なぜ、みんなお昼に高山のもとへ集まるのか。このとき、僕は理解した。
高山のデスクには大量の“卓上調味料”が置かれていたのだ。コショウ、七味唐辛子、カレー粉、山椒(さんしょう)、にんにく、オリーブオイル……。まるで、社員食堂だ。
■ワードやエクセルができなくてもやってこれた理由
高山は調味料を佐田さんのお盆にのせた。
「ああ佐田さんですか、バラの花かと思いましたよ」
「あら、高山さんたら、褒めても何も出ませんよ」
佐田さんは見え透いたお世辞を軽くあしらう。
高山は「まいったなあ」と言いながら、ペコリと頭を下げた。
「この間の経費精算書のミス、直してくれて本当に助かりました。これからもご指導のほど、何卒よろしくお願いします」
高山は大きな体を二つに折るように深々とおじぎしている。こんなへりくだった態度は初めて見た。
高山が作成する書類には不備が多い。細かい作業が苦手なのだ。おまけに、ものすごいパソコン音痴ときている。ワードやエクセルの簡単な操作もできないので、よく今までやってこられたよなと思うくらいだ。
だから、僕はよく営業で使うデータのまとめや修正なんかを代わりにやっている。
そんなわけで、経費関係の書類の締め切りが近づくたびに、佐田さんも尻拭いをさせられていた。
にもかかわらず、両者の関係は良好らしい。
「仕方ないわねえ。今度はGABANのシナモンシュガーも置いといてね」
「承知しましたっ!」
再び頭を下げる高山。
小さな手を振り、佐田さんはあきれたような笑顔で去っていった。
■好待遇を得られる“松屋理論”の中身
可愛らしい風貌に反して、佐田さんの書類チェックは大変厳しい。不備などあろうものなら、普通は突っ返される。
でも、高山のものに関しては、佐田さんが毎回ミスをカバーしているようだ。
なぜ、調味料を貸しているだけで、そんな好待遇を得られているのだろう。便利なのはわかるけれども……。
「驚いたかい?あれが高山君の“松屋理論”なんだ」
ふいに背後から声をかけられた。
アドウェイズweb営業部の西久保さんだった。入社16年目で、高山のアドウェイズ時代の先輩でもある。誰にでも好かれるタイプの優しい人だ。
「松屋理論? 松屋って、あの牛丼チェーンのですか?」
「そうだよ。君も営業なら、よく行くよね」
「ええ、もちろんですよ。今日も朝定食べて来ましたから」
「なら、この理論が理解できるはずだよ。松屋のカウンターには何が置いてある?」
「醤油の他にも、何かいろいろあったような……」
「そう。バーベキューだれ、ポン酢だれ、七味唐辛子など、豊富な“味変アイテム”が置いてある。高山君は、自身のデスクで松屋のカウンターを再現しているんだよ」
西久保さんは満面の笑みで松屋のビビン丼にポン酢をかけると、さっさと行ってしまった。
松屋理論か。何だか、怪し気なワードが出てきたぞ。その理論とやらに、社内の人望を集めるカギが隠されているのか?
■卓上調味料を並べる“変なやつ”に味変を求める“営業マン”
僕は急いで弁当の残りを平らげて、西久保さんを探しに行くことにした。
昼休みが終わり、僕は西久保さんを捕まえた。
「あの……さっきの話、もう少し詳しく教えてくれませんか?」
「あれは、15年前……」
西久保さんは目を細め、遠い昔を思い出すように天井を見上げた。
「高山君がアドウェイズに来た初日のことだった。その頃はまだスーツを着ていたなあ」
若かりし頃の高山。15年前なら、今の僕と同じくらいの年だろうか。そんなときからオリジナルの理論を打ち立てていたとは……。
「彼は自分の席につくと、いきなり机いっぱいに卓上調味料を並べ始めたんだ。机の上なだけにね……」
クックと笑って、西久保さんは続ける。
「最初は変なやつだなと思ったよ。でもね、次第に高山君のところに人が集まるようになった。ランチの時間帯になると、“味変”を求める同僚の営業マンたちが高山君の席に列をなすようになったんだ」
テーマパークの屋台じゃあるまいし。調味料のためだけに、そんな行列ができるだろうか。西久保さん、ちょっと芝居がかった話し方といい、だいぶ話を盛っているのかもしれない。
■“社内駄菓子屋”を営む先輩を初日で超えていった男
とは言え、職場に調味料が大量に並んでいたら目を引く。特に繁忙期なんかは、コンビニ弁当やインスタント飯の単調な味に飽き飽きしてくるものだ。色とりどりの調味料は、人々の目に救世主のように映るだろう。
そしたら思わず、話しかけてしまうかもしれない。小さなきっかけから、新たなコミュニケーションが生まれ、仲が深まっていく。ついには“自席に調味料を並べる、変な営業部員”の噂は他部署にまで広まり、役職も関係なく多くの人が押しかけた……ということなのか。
まあ、変なやつだと距離を置かれる可能性もあるけど。
「じゃあ、西久保さんも“味変”から、高山さんと仲良くなったんですか?」
西久保さんは首を横に振った。
「いや、最初はそんな高山君のことを苦々しく思っていたんだ」
「えっ。そうなんですか? あんなに仲がいいのに」
二人が何やら楽しそうに話しているのをオフィスで何度も見かけている。昔はね、と西久保さんは笑う。
「なぜなら……。当時、僕は“社内駄菓子屋”を営んでいたんだからね」
「社内駄菓子屋?」
「そう。お菓子を大量に仕入れて原価で売るんだ。だから儲けは出ないけどね」
「じゃあ、何のために……」
「他部署の人も買いにきていてね。横断的なコミュニケーションに役立っていたんだ」
「なるほど。お金のためでなく、社内の人との仲を深めるためのツールだったと……。先に同じようなことをやっていたわけですね」
「そうなんだよ。でもね、高山君はそんな僕を初日で超えていった……」
大げさにため息をつき、遠い目をした。
■わずかな出費で“ものすごく気前のいい人”になれる
「なんせ、高山君の味変調味料は、ほぼ“無償の行為”だ。100円ショップやコンビニで揃う卓上調味料なら、タダでサービスしたってさほど懐は痛まない。お菓子は仕入れにコストがかかるから代金を取らざるを得ないけどね」
「なるほど。わずかな出費で“ものすごく気前のいい人”という印象を与えられそうですね」
「まあね。でもそれだけじゃない」
西久保さんの目が鋭く光った。
「高山君は、固定客を飽きさせない工夫も怠らなかったんだよ。ときには、しっかりコストをかけて珍しいソースやハイエンドな七味、クレイジーソルトやガラムマサラなどを入荷していた。
さらに、自ら味変のレシピを研究し、社内の共有メールで発信した。カップヌードルのシーフードにオリーブオイルを入れるとかね」
そんなことまで⁉ 商店街で自家製の味噌しか売っていなかった店が、世界各地の味噌を扱う専門店となり、最終的に割烹料理屋まで始めたようなものじゃないか。
「それを見てまた、高山君のもとへみんなが殺到する」
「まさか、そこまでやるとは……」
「こいつは日々進化している……。どんな分野でも成長を止めないすごいやつに違いないと、僕は彼のことを認めざるを得なくなった」
調味料へのこだわりが仕事へのこだわりと誤認……、いや評価されたのか。
「気づけば、僕もその列に並ぶ一人になっていたよ」
高山君の思うツボさ、と西久保さんは笑った。
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おくりバント社長
1978年4月吉日生まれ。東京都出身。大学卒業後、不動産投資会社で圧倒的な営業成績を収め続けた。その後、IT業界大手のアドウェイズに入社。独自の営業理論を武器に、中国支社の営業統括本部長まで上り詰める。2014年2月には「自分でもクリエイティブを作りたい」という想いから、同社の子会社として、おくりバントを創業。社長を務めるかたわらプロデューサーとして実務にも携わり、豪快すぎる営業手法で数々のピンチを切り抜けつつ結果を出してきた。PC操作や事務作業は苦手だが、営業力には定評があり、企業や大学で営業をテーマとしたセミナーの講師も務めている。ちなみに、業界では年間360日飲み歩く“プロ飲み師”としても知られている。
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(おくりバント社長 高山 洋平)
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