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出生率は先進国1位、食料自給率は90%超、待機児童はゼロ…日本が真っ先に見習うべき中東の国の名前

プレジデントオンライン / 2024年8月29日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RudyBalasko

イスラエルとはどんな国か。元外交官で在イスラエル日本国大使館勤務経験のある中川浩一さんは「国土の60%は荒野で、隣国との緊張関係もある国だ。だが、それゆえに国民のチェレンジ精神が旺盛で、さまざまな課題を解決している」という――。

※本稿は、中川浩一『中東危機がわかれば世界がわかる』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■世界初の培養肉を使ったハンバーガー店がオープン

2022年3月、東京大学で、最新の技術で作った国産「培養肉」の初めての試食が行われました。

肉の細胞を培養して新たな肉を作り出す「培養肉」は、食料不足の解消や環境負荷の軽減などにつながるとされ、世界中で研究・開発競争が激化しています。

この培養肉、国内では、大学や企業の研究グループが、ステーキのようにおいしく食べ応えのある、「培養肉」の実現を目指して研究を進めてきたもの。

それに先んじて、イスラエルの食品技術企業が、その培養肉の世界初の産業用培養肉生産施設を2021年6月、テルアビブに近い都市レホヴォトに開設。1日にハンバーガー5000個分に相当する500キログラムの培養肉を生産できる能力を備えているといいます。

すでに鶏肉、豚肉、ラム肉は生産可能な状態で、牛肉もまもなく生産できるようになるそうです。

動物を飼育・繁殖させることなく、また遺伝子組み換え作物を使うこともなく、動物細胞から肉を直接生産する。これは従来の畜産の約20倍という高速の生産サイクルだとか。

2020年、世界で初めて培養肉を使ったハンバーガーショップがオープンしたイスラエルは「培養肉先進国」としても有名で、これを支援しているのが「国家」。

■「食の安全保障」への強い意識

イスラエル経済産業省傘下のイスラエル・イノベーション庁は、培養肉企業で構成される培養肉コンソーシアムに1800万米ドルの助成金を提供しました。

この助成金の額は日本の約3倍。イスラエルが培養肉に力を入れているのは、有事に備えた「食の安全保障」が目的で、食料安保にかける予算と必死さが違います。

ちなみに、それほどまでに培養肉に入れ込むのは、イスラエルにはそれだけ肉好きが多いということ。米国やアルゼンチンに次ぐほど1人当たりの肉の消費量が多く、鶏肉の1人当たりの消費量に至っては世界一です。

イスラエルでは、若い男女が徴兵に行くのは当たり前の光景ですが、もし戦争になったら、肉不足では前線の兵士や国民の士気を高めておくことができない、という国家戦略が根底にあるのです。

本当に国民を守るためには何が必要なのか。

有事など、万一のときの安全保障の本質を、イスラエルは教えています。

■食料自給率は90%以上

イスラエルは乾燥地帯といった制約に加え、隣国との緊張関係もある中で、食料の確保は死活問題であり、それを克服するために、国をあげて独自の農業技術を開発し、不可能と思われることを可能にしてきました。

イスラエルの食料自給率は90%以上。年間降水量が平均700ミリ以下、南部では50ミリ以下という過酷な環境を考えると、驚くべきものがあります。

イスラエルの高い食料自給率を支える要因は、ハイテク農業(アグリテック)です。

水再生技術で浄化した水は、飲用には適しませんが農業には利用できます。

生きるためとはいえ、砂漠で農業を行うことは困難を極めます。

気温は高く、湿度が低いこの地では、水はすぐに蒸発し、塩分が土中に蓄積してしまいます。水の利用効率が極端に悪いのです、その状況を打破したのが、1965年に開発された点滴灌漑という技術です。プラスチック製のパイプを通して、作物を育てるのに必要な場所だけに水を届ける技術は、蒸発を抑制し、利用効率を上げます。

さらには、届く水の成分まで管理できるため、塩害対策も容易。しかも、点滴灌漑は、ますます発展を遂げています。

肥料や農薬を水に入れて効率的に散布することもできる上に、インターネット経由で、どこからでも農地の管理が可能に。

広大な農地の広がるアメリカの大規模農家でも、イスラエルのこの点滴灌漑技術の導入が進んでいます。

イスラエルのザクロの果樹園
写真=iStock.com/Yuriy Komarov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuriy Komarov

■日本が抱えるリスク

イスラエルのテクノロジーで管理する農業で生産された、主な農産物は、じゃがいも、トマト、ピーマン、かんきつ類、なつめやし等です。

そして、イスラエルから日本に輸出されている農産物は、グレープフルーツ・ポメロジュース、レモンジュース、オレンジジュース、生鮮・乾燥果実等のかんきつ類が上位です。

一方、温暖な気候、四季に恵まれ、水に不自由しない我が日本の食料自給率は2020年度で37%、2021年度で38%と、イスラエルと比べると驚くほど低い数値です。食材や食料は、日本で作るより外国から輸入した方が安いというのが理由です。

尖閣・台湾有事が起こると、台湾の南のバシー海峡の交易路が断たれます。

輸入依存度の高い日本へ向かうタンカーをはじめ、輸送船の経路も断たれます。その中には、天然資源や食料を搭載した輸送船もあることでしょう。

それらの船はというと、安全確保のために、台湾の東の太平洋を迂回(うかい)して日本に向かうことになります。

日本に無事着いたとしても、迂回した分、輸送代が高くなり、また、戦争の危害が及ぶ恐れがあり、保険代も割増しになります。それらは物価高となって市民の食卓を直撃します。食料を手に入れることのできない国民が急増する事態となります。

軍事費増とともに、食料自給率を上げる政策と努力が早急に求められています。

■不妊治療は無料

世界銀行の2022年の合計特殊出生率の調査によると、女性1人当たりの出生数はイスラエルが2.90で、ヨーロッパを中心に日米を含め38カ国の先進国が加盟する国際機関OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で第1位でした。

日本は1.26人で、イスラエルの出生率は日本の倍以上です。

イスラエルの人口の大半はユダヤ人で、「産めよ、増やせよ、地に満ちよ」というユダヤ教の教えがあり、厳格なユダヤ教徒はこの教えを守り、できる限り子どもを産みます。とはいえ、出生率の高さに驚く日本人も多いのではないでしょうか。

イスラエルには、幸せは子どもが運んでくるという意味の「子どもは幸せ」ということわざがあるほど、イスラエル人は子どもに関することはすべて善いことだと捉えています。

イスラエルは子育てしながら働く女性が多い国ですが、出生率が高い背景には、子育てを負担だと感じることのない社会システムがあります。

イスラエルでは、女性が45歳になるまでは、現在のパートナーとの間に2人の子どもを得るまでの期間、体外受精の費用が全額、国の保険で賄(まかな)われ、不妊治療を無料で受けることができます。そのためか、1人当たりの不妊治療回数は世界で最も多くなっています。

■実はフェムテック先進国

不妊や、月経、妊娠、更年期、婦人科系疾患など女性が抱える健康上の課題を、テクノロジーで解決するフェムテック分野の企業がイスラエルには約100社あり、現在も数を増やしています。

フェムテックはFemale(女性)とTechnology(技術)を掛け合わせた造語で、女性の社会進出、活躍を推進するものとして注目されています。

中東最大のイスラエルの国立病院内にフェムテック専門のイノベーションセンターが設置されるなど、国全体で研究開発を支える仕組みがフェムテック企業が多く生まれている背景です。

中川浩一『中東危機がわかれば世界がわかる』(幻冬舎新書)
中川浩一『中東危機がわかれば世界がわかる』(幻冬舎新書)

イスラエルでは出産に関する制度も充実しており、妊婦検診から出産まで、国が全額費用を負担します。

また、出産前の産休は3カ月半取ることができ、その間、産休前の給与が補償されます。有休を使用すると2カ月半の休暇を取ることができ、無給の休暇を加えて1年間休むこともできます。

ただ会社は、出産による休暇が半年を超えるとポジション確保の義務がなくなるため、多くの女性は半年で復帰するようです。

しかし、スタートアップが盛んなイスラエルは転職しやすい環境にあるため、ゆっくり子どもと時間を共にした後に、新たに職を探す女性もいます。

■待機児童問題は存在しない

教育については、小・中学校が義務教育の日本と異なり、イスラエルでは3歳から18歳まで、幼稚園から高校までが義務教育で、公立であれば授業料は無償です。

私立、公立をあわせて幼稚園と保育園の数が多いため、日本のような待機児童問題は存在しません。

子育て世帯では、ベビーシッターを日常的に利用しています。

ベビーシッターは主に高校生のアルバイトなので、安く利用できます。

また、家事代行サービスも頻繁に利用されています。気軽に利用でき、「時間をお金で買う」という価値観が浸透しています。

そのため、保護者は子どもを他人に預けることに抵抗がなく、夫婦だけでディナーに行くことも、子どもを祖父母に預けて海外旅行に出かけることも珍しくありません。

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中川 浩一(なかがわ・こういち)
元外交官、ビジネスコンサルタント
1969年、京都府生まれ。慶應義塾大学卒業後、1994年外務省入省。1998年~2001年、在イスラエル日本国大使館、対パレスチナ日本政府代表事務所(ガザ)、PLOアラファト議長の通訳を務める。その後、天皇陛下、総理大臣のアラビア語通訳官(小泉総理、安倍総理〈第1次〉)や在アメリカ合衆国日本国大使館、在エジプト日本国大使館、大臣官房報道課首席事務官などを経て2020年7月、外務省退職。同年8月から国内シンクタンク主席研究員、ビジネスコンサルタント。著書に『総理通訳の外国語勉強法』(講談社)、『プーチンの戦争』『ガザ』(ともに幻冬舎)、『世界は見ている、ここが日本の弱点』(育鵬社)がある。

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(元外交官、ビジネスコンサルタント 中川 浩一)

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