日本人はダムに堰き止められ“放水”されて逝く…今後50年続く多死社会で一番安らかに眠れる場所はどこか
プレジデントオンライン / 2024年8月27日 10時15分
■樹木葬、海洋散骨、手元供養、永代供養…何を選ぶか
お墓のトレンドが近年、目まぐるしく変化している。巨大納骨堂ブームが起きたのは10年前。だが、それも落ち着き、現在は樹木葬が主流である。個別墓がいいという人もいれば、合祀(合葬)墓を好む人もいる。なかには、海洋散骨や手元供養を選ぶ人もいる。とはいえ、はやりは「永代供養」だが、その意味を知る人はどれほどいるだろうか。墓の選択を間違えて失敗・後悔する人は少なくない。秋のお彼岸を前に2回にわたって、お墓のことを整理してみる。前編は「永代供養とは何か」。
内閣府の「高齢社会白書」(令和6年版)によると、団塊世代が75歳を超える2025(令和7)年には、高齢者(65歳以上)人口は3653万人に達すると見込まれている。高齢者人口は2043(令和25)年には3953万人でピークを迎える。この時の高齢化率は35%以上になっていると考えられる。
同時に、現在よりもっと長寿化が進む。2040年台には男性の平均寿命が84歳、女性は90歳の水準まで上昇することが見込まれる。こうした超々高齢化社会の構造は、例えるならば、上流から流れてきた川の水が、ダムによって堰き止められている状態に似ている。ダムの水かさが増せば増すほど、放水(死者)の量も増えていく。死亡数が出生数を上回る「多死社会」は、50年以上にもわたって続くとみられる。
「少子多死社会」においては、墓問題が深刻になる。自分たちの埋まる場所が必要になる一方で、墓守りをする子どもや孫世代が不足するからだ。
一昔前まで、遺骨の埋まる場所と言えば、菩提寺の一族の墓に入るか、新たに公共霊園などに墓地と墓石を求めてそこに埋葬されるか。それくらいの選択肢しかなかった。一族墓を継承するのは長男で、次男以降は新たにどこかの霊園に自分たちの墓を求めた。
ところが都会に出てきた核家族世代は、長男、次男を問わず「高額な土地付きの墓はいらない」「檀家にはなりたくない」などと考えている。そうしたニーズに応えるべく、急増してきているのが「永代供養」である。しかし、この仕組みがややこしい。
永代供養の定義は墓地管理者によって異なるが、概して①宗旨を問わない、②檀家になる必要がない、③料金を明示している、④供養の期間を設定している(期限が来れば合祀される)――ことが挙げられる。
墓を住まいで例えれば、旧来の「家墓(いえばか)」が、賃貸の戸建て。そして「永代供養」が、定期借地権付き物件と言い換えられるかもしれない。永代供養には、さまざまな埋葬形態がある。大きく分けて、個別納骨(露地型、納骨堂型)と、合祀である。
家墓は、区画の使用権を購入し、管理費を納め続ければ永続的に使用できる。永代供養墓は7年、13年、23年、33年といった使用期限が決められていることが多い。永代供養期限が過ぎた後には別の場所に移されて、合祀される。
それぞれ、メリットとデメリットがある。家墓は、区画料や墓石料などの初期コストがかなりかかるのが最大のデメリット。しかし、ひとたび家墓を設ければ、あとは管理費を払いさえすれば、何体でも納骨が可能になる。一族で守っていける体制であれば、将来的なコストや手続きは少なくてすむ。
■「永代供養」をめぐる誤解
一方で、永代供養の場合は、初期コストは抑えられる。だが、契約者以外の納骨はできないし、永代供養期限が来れば合祀されるか、再契約しなければならない。ここ20年ほどは、この永代供養に人気が集まっている。
永代供養の最大の特徴は「墓を持つことのハードルの低さ」だろう。都会に住む人が初めて墓を求める場合、檀家になることを前提にした寺、墓選びは敷居が高い。その点、無宗教式の永代供養は門戸が開かれている。だが、永代供養についての誤解は多い。少し説明しよう。
「永代供養」という用語は、古くから存在していた。それは、菩提寺の墓地の区画に設けられた「合祀墓」をさしていた。多くは石の観音像や仏塔などを立て、その地下に不特定多数の遺骨を納めた。だが、これは、あくまでも、檀家を対象にした永代供養墓であった。
この場合の目的は、一族墓を整理するためだ。一族墓の場合、収納する遺骨が増えたり、分家したりする時に増設することがある。田舎の境内墓地などで、先祖代々の墓がずらりと並べられている風景を、よく目にするだろう。百回忌や五十回忌などの弔い上げの際に、古いご先祖さまの遺骨を合祀墓に移して、祀り直す。また、檀家が絶家した時に区画を寺に返上し、遺骨を合祀墓に移す。本来の永代供養は、既存の家墓の受け皿として機能していたのだ。
それが近年、最初から永代供養墓を望む人のために、寺院や行政が永代供養墓を売り出し始めた。その嚆矢は、比叡山延暦寺大霊園だと言われる。1985(昭和60)年に募集が始まった。同霊園では子どものいない夫婦や独身者、墓地の継承者がいない人の増加を背景に、「あなた自身に代わって、永代に渡って比叡山延暦寺が供養する」という趣旨のもと、「久遠墓地」という名前がつけられた。比叡山延暦寺は天台宗だが、この久遠墓地では、宗教宗派を問わないのが特徴だ。
この時点では、永代供養はさほどの広がりを見せなかった。だが、多死社会に突入した2000年代後半から、永代供養墓が本格的に拡大していく。都会に出てきた団塊世代が終活ブームに乗って、本気になって「墓支度」を始めたからだ。
この個人で入る永代供養墓にはいろんなタイプがある。大別されるのは「露地型」と「納骨堂型」だ。
露地型には、石塔型のものや小さい石のプレートが設置されたもの、あるいは樹木葬などがある。なかでもこの数年は、樹木葬が最も人気がある。
納骨堂にもさまざまな種類がある。主流はコインロッカー式だ。扉の付いたロッカーの中に、骨壺を収納する簡素なものだ。防火上の理由があって、蝋燭や線香は使えない。また、生花や生ものを供えることを禁止している納骨堂も多い。
その代わり、空間やロッカーのデザインに趣向を凝らしたものが増えている。個々が漆塗り風の厨子のようになっている荘厳なタイプや、金箔仕様の豪華なものまで、さまざまである。
■料金によって永代供養の期間が違う
伝統的に納骨堂文化が広がっている地域は、雪が多くて冬場の墓参りが困難な北海道や、仏壇文化が根付いている福岡などである。地域によっても、趣向が異なる。東京はどちらかと言えば、シンプルで実用的なスタイルのものが多い。代わって福岡のロッカー式納骨堂のほとんどは、仏像や位牌、仏具などを組み込んだ仏壇型と呼ばれる荘厳なものがほとんどだ。
名古屋の納骨堂は実に個性的だ。名古屋は冠婚葬祭の通過儀礼を盛大にやる文化で知られている。納骨堂もかなり派手だ。
名古屋の栄地区にも近い萬松寺は1552(天文21)年、織田信長の父、信秀の葬式が執り行われたことでも知られる。喪主であった信長は荒縄を腰に巻き、”傾いた”姿で葬儀会場に登場。いきなり仏前に向かって抹香を投げつけ、希代の「うつけ者」と呼ばれるようになった。萬松寺は日本史の名シーンの舞台でもある。かれこれ450年以上の年月を経て萬松寺は、信長の傾き様さながら、実に個性的な納骨堂を手掛ける寺院として新たな歴史を歩み始めた。
現在の萬松寺は1994(平成6)年に建て替えられた。本堂を備えるビルの中に5つのスタイルの納骨堂がある。中でも特筆すべきは「水晶殿」。壁面にクリスタルガラス製のカロートが2800基、びっしりと並べられている。入室するや、一つひとつのカロートに仕組まれた青色LEDによって空間全体が照らし出される。一般的な納骨堂のイメージとはほど遠い。
このように納骨堂といってもデザインも価格もさまざまだ。ただ、気をつけなければいけないのは、料金に応じて設定されている永代供養の期間である。短ければ納骨から7年(七回忌)、長くとも33年(三十三回忌)の期間が設定されていることが多い。7年はあっという間である。その後は合祀するか、再契約か、という選択に迫られる。
合祀の場合も、納骨堂と同じ場所の合祀墓であればよいが、遠く離れた他府県の寺に移されるケースもある。お墓は料金の安さだけで決めてしまうと、後で後悔しかねないので、管理者からしっかりと説明を聞いておくことが肝要だ。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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