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優良企業は優良であるがゆえに失敗する…『イノベーションのジレンマ』が教える挑戦したがらない企業の末路

プレジデントオンライン / 2024年9月11日 7時15分

■クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』

技術革新が巨大企業を滅ぼすとき 玉田俊平太 監修/伊豆原弓 訳(翔泳社)

クレイトン・クリステンセン Clayton M. Christensen

1952年、ユタ州生まれ。ブリガムヤング大学経済学部、オックスフォード大学経済学部卒業後、ハーバード・ビジネススクールで経営学修士取得。ボストン コンサルティング グループでコンサルタントを務めながらホワイトハウスのフェローとしてエリザベス・ドールの秘書も務める。その後、MITの教授らとセラミックス・プロセス・システムズ・コーポレーションを起業。92年同社を退社し、ハーバード・ビジネススクールで経営学博士号取得。

本書は、顧客の意見に注意深く耳を傾け、新技術に積極的に投資し、それでも市場での優位性を失う優良企業の話である。新興企業による新技術や画期的なアイデアが出てきても、当初は市場規模が小さいことから過小評価してしまう。その結果、対応が遅れた大企業は急成長する新興企業によって、自社の事業をディスラプション(破壊)されていくのだ。

著者のクリステンセンは、技術革新には「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」があると説明する。持続的イノベーションとは、既存の製品やサービスを改善し、優良企業が積極的に投資する技術。一方、破壊的イノベーションは初期段階では既存製品に劣るが、新しい市場を開拓し、最終的に既存市場を侵食する可能性を秘める技術だ。

優良企業は顧客のニーズに応える持続的イノベーションで成功してきたが、その体験が新しい技術への適応を阻んでしまう。そして、破壊的イノベーションを初期段階で無視する。初期の破壊的イノベーションは市場が小さく、企業の評価システムが短期的な利益を重視するためだ。つまり「イノベーションのジレンマ」は、企業が破壊的イノベーションを無視や軽視することで生じる問題なのである。

■優良企業は「破壊的」より「持続的」を選ぶ

著者は、この現象をディスク・ドライブ(ハードディスク)業界の技術革新を通じて解説する。同業界を研究対象としたのは、技術や市場構造が急速に進化したからだ。

最初のディスク・ドライブの技術自体は既存の優良企業で開発され、その後の技術革新で2通りに分かれていく。一つは「同じサイズのまま記憶容量を増大させる」こと。もう一つは「ディスク・ドライブを小型化させる」こと。メインフレーム(大型コンピュータシステム)の優良企業が顧客から要求されたのは「記憶容量の増大」(持続的)だった。既存の優良企業は、「小型化」(破壊的)は単価も安く利益率も低かったため、無視した。

一方、新規参入企業は低機能・低価格帯の異なる性能を必要とするニーズと販売網を探り、ミニコンや小型パソコンなど新たな市場を開拓。その後も、既存の性能基準を向上させ、上位の市場も奪うことで業界リーダーの座を獲得していく。こうして優良企業と大手の顧客が見向きもしなかった新技術により、破壊的イノベーションの市場が形成されていった。

優良企業が「破壊的イノベーション」より「持続的イノベーション」を優先する、その開発・商品化の意思決定のパターンは、次の6つのステップから成り立っている。

① 破壊的技術は、まず既存企業で開発される(ケースが多い)
② 既存企業のマーケティング担当者が主要顧客に意見を求める(悲観的な売り上げ予想、利益率を見込み、経営資源を投資しない決断をする)
③ 実績ある企業が持続的技術の開発速度を上げる(持続的技術の投資を進める)
④ (主に実績ある企業内で不満を募らせていた技術者によって)新会社が設立され、試行錯誤の末、破壊的技術の市場が形成される
⑤ 新規参入企業が上位市場へ移行する
⑥ 実績ある企業が顧客基盤を守るために遅まきながら時流に乗る

このようなステップを踏み、新しいアーキテクチャー(コンピュータやシステム全体の設計思想や構造)の導入に遅れた優良メーカーは、新しい市場で十分なシェアを獲得することはできなくなる。「顧客の意見に耳を傾けよ」というスローガンはいつも正しくはないということだ。むしろ顧客は、メーカーを持続的イノベーションに向かわせ、破壊的イノベーションのリーダーシップまで失わせてしまうことがある。

続いて、ディスク・ドライブ業界と共通点が見られる「掘削機業界」を取り上げる。同業界では1800年代の蒸気ショベルの発明に始まり、1920年代初頭にはガソリン・エンジン・ショベルが現れ、業界は大きな技術変動に直面する。この移行は実績ある企業が支配したが、次の技術革新として油圧駆動システムが生まれる。油圧式は従来の機械に比べて小型で操作が容易、かつコストも低い。しかし、性能面で従来の掘削機に劣っていたため、小規模な作業や特定のニッチ市場でしか使用されなかった。

この新技術について、従来の掘削機メーカーは、ほとんど関心を示さなかった。彼らは、高性能な機械を求める主要顧客の要求に応えることに集中しており、新しい技術は既存市場に対して脅威ではないと判断。しかし、この判断が誤りだった。油圧式は次第に性能を向上させ、市場は拡大。利便性とコスト効率が評価され、大きなプロジェクトでも採用されるようになる。

この事例から得られる教訓は、破壊的技術は、はじめはニッチ市場に限られているものの、その技術が成熟するにつれて主流市場に進出し、最終的には既存の技術を置き換える可能性があるということ。既存の企業は、新しい技術が持つ潜在的な脅威を見過ごしがちだが、長期的にはそれが彼らの競争力をそぐことになる。

【図表】破壊的イノベーションが市場を獲得していくプロセス

■「破壊的」に直面したら誰よりも早く商品化を

優良企業が破壊的イノベーションに遭遇したとき、どうするべきなのか。破壊的イノベーションに直面した経営者は、誰よりも早く破壊的技術を「商品化」する必要がある。そのために従来の事業から独立した組織を設立することがカギとなる。

破壊的イノベーションを開発するプロジェクトは、小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる小さな組織に任せるべきだ。これを実現するには、確立した組織をスピンアウトさせるか、破壊的技術に取り組む小規模な企業を買収することである。

例えば、8インチ・ディスク・ドライブで市場参入を逃したコントロール・データ・コーポレーション社は、自社の主流顧客から影響を受けないよう、5.25インチ・ドライブを商品化する部門をあえてオクラホマシティに設置。市場規模に見合う組織にプロジェクトを任せることで成功を収めた。

また、破壊的イノベーションの市場は、開発の時点では知りえないことがほとんどだ。例えば、ホンダは北米で価格を引き下げ、オートバイ市場において難攻不落の低コスト大量生産メーカーの地位を築いた。ホンダはその基盤を利用して上位市場に移行し、実績あるオートバイメーカーを市場から追い落とした。ホンダの50ccバイクは、北米市場では破壊的イノベーションだったが、興味深いのはホンダがオートバイの潜在市場の規模を正確に予測できていなかったこと。ホンダの成功は予測できなかった用途から生まれたのだ。

破壊的イノベーションに直面したときは、すばやく柔軟に市場に進出する必要がある。その成功には試行錯誤が必要になるので、最初のアイデアにすべてを懸けず、学習と挑戦を繰り返す余裕を残しておかなければならない。そして経営者は破壊的イノベーションの商品化に必要な顧客、市場、技術の理解を深めておく必要がある。

本書の最大の論旨は、企業が市場でリーダーになるための経営慣行そのものが、破壊的技術によってもたらされる機会を失う原因になるというものだ。言い換えれば、優良企業は優れているがゆえに失敗するのだ。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

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クレイトン・M・クリステンセン(くれいとん・えむ・くりすてんせん)
経営学者
1952年、ユタ州生まれ。ブリガムヤング大学経済学部、オックスフォード大学経済学部卒業後、ハーバード・ビジネススクールで経営学修士取得。ボストン コンサルティング グループでコンサルタントを務めながらホワイトハウスのフェローとしてエリザベス・ドールの秘書も務める。その後、MITの教授らとセラミックス・プロセス・システムズ・コーポレーションを起業。92年同社を退社し、ハーバード・ビジネススクールで経営学博士号取得。

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(経営学者 クレイトン・M・クリステンセン 構成=篠原克周 撮影=市来朋久)

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