学習塾を辞めさせて、本当によかった…娘を医学部に進学させた小児科医が語る「頭のいい子を育てる最強習慣」
プレジデントオンライン / 2024年8月29日 7時15分
※本稿は、成田奈緒子『子どもの隠れた力を引き出す最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■学習塾に入ったものの、勉強時間が長くなり…
小学生になると、学習塾に通わせる家庭が増えます。わが家でも一時期、娘を学習塾に通わせていました。当時、夫の単身赴任でワンオペ育児の真っただ中にいた私は、週に数日はシッターさんに来てもらっていました。ある日、わが家の向かいに学習塾があることに気づき、値段を調べたところ、「シッターさんより学習塾の方が安い」と判明。よこしまな理由から、試しに娘を入塾させることにしました。
娘が通っていた塾は、プリント学習を主体としていました。一つの単元が終わると、学校での進度とは関係なく個人のレベルに合わせて上の学年の問題を解いていくことができます。どんどん解き進めることができ、娘も楽しそうに通っていました。しかし、後述するように、わが家には「夜8時就寝」という絶対に譲れない生活の軸がありました。
先生方にも、あらかじめ「夜7時には帰らせてください」とお願いをしていましたが、娘のレベルが上がるにつれ「今が伸びどきだから」と引き留められるようになったのです。そうして徐々に塾にいる時間が延びていき、遂に夜7時を回っても家に帰って来なくなりました。先生方からは「せっかく学力が伸びているのに、もったいない」と残念そうに言われましたが、規則正しい生活を優先して退塾させました。
■睡眠時間が短くなるほど、学習力は低下していった
親として「他の子が遅くまで勉強しているなら、うちの子も同じ時間までやらせた方がいいのでは」と迷いが生じる気持ちもわかります。それでも生活の軸を常にぶれさせずに子どもと接しているうちに、次第に子ども自身の中にも軸ができ上がっていきます。
娘は小学6年生の時に中学受験をすることを決めましたが、「中学受験では塾に通う子が多い。夕方から8時頃まで勉強することになると思うけど、どうする?」とたずねたところ、「絶対無理!」という反応が返ってきました。幼い頃から早寝早起きを習慣にしてきた娘は、「受験はするけど、生活リズムを変えたくないから塾には通わない」という決断を自ら下しました。
また、高校時代には定期試験の前に普段より1時間短い「6.5時間睡眠」にチャレンジしたものの、3日で断念していました。私から見て特に異常はなかったのですが、本人は「やっぱり睡眠は8時間必要だね。6.5時間まで減らすとイライラしたり、集中力が下がったりする気がする」と言っていました。生活の軸を通して自分の体調をモニタリングし、受験に最適な心身を自らつくっていったのです。
■「試験までは毎日10時間以上勉強させること」
このように、娘は中学受験をしましたが学習塾に通うことはありませんでした。一番の理由は、本人が塾通いによる生活リズムの乱れを嫌ったことでしたが、もう一つの理由としては子どもが塾に通うことで、私が余計な不安を煽られたくなかったからです。
小学6年生の夏、娘の友達のお母さんから「いい塾があるから、一緒に通わせない?」と誘われ、物は試しと、地方都市から2時間かけて東京まで塾生以外も受けられるオープン模試を受けに行かせたことがあります。模試の終了時間に娘を迎えに行くと、「親御さんは、このあと少し残ってください」と先生からお話があり、そこからなんと1時間かけてお説教が始まりました。
「これから試験当日までは毎日10時間以上は勉強させること」「家でもできるだけ勉強時間をつくること。夜10時前に寝かせるなどもってのほか」など、そこでは私が考える脳育ての理論とは相反する内容が語られていました。先生方の話を聞いて焦るどころか、「これでは子どもたちがダメになるわけだ」と妙に納得してしまいました。
しかし、周りの保護者の方々はもう必死です。先生方の言葉に不安を煽られ、みるみるうちに表情は引きつり、心拍数が上がっていっているだろうことが手に取るようにわかりました。先生方は親御さんを不安にし、受験モードにさせるためにそうした話をしているわけですから、当然と言えば当然です。
■「言葉の裏の意味」は伝わってしまう
こうした不安を植えつけられた親が、口では「大丈夫、あなたならきっと合格できる」と言っても、子どもは鋭いので親の本心を見抜きます。「そう言うけど、本当は受かるかどうか不安なんだ」と察しますし、「落ちても近くの公立中学に通えばいいよ」と言われたら、「絶対に合格しろってことだな」と言葉の裏を読もうとします。
生まれつきの気質として不安が高い子どもほど、こうした裏の意味を読み、余計に不安を高めてしまいます。結果、試験前にじんましんが出る、下痢が止まらなくなる、吐き気がするといった諸症状となって不安が現れます。そのようなコンディションでは、いくら勉強しても試験本番で実力を発揮することはできません。
塾によっては、テストの結果に応じてクラス分けや席順が決められているところもあります。そうすると、自分より下のクラスの子どもを「おまえなんか落ちこぼれじゃん」と馬鹿にするなど、偏差値を基準に子ども同士でマウントを取り合うようになります。塾としては、子どものやる気を鼓舞するために意図的に競争心を煽っているところもあるでしょう。
■朝4時に起床し、夜7時には就寝する
先生から「親御さんが二人三脚で勉強をみてあげないと、お子さんの順位がどんどん下がり、かわいそうな思いをさせてしまいますよ」という脅しに近いお説教を受けたという親御さんもいます。その言葉を真に受け、家でも親がつきっきりで勉強をやらせたらどうなるか。
朝から学校や塾という集団の中で勉強し、帰宅してからも親が待ち構えている。合格・不合格以前に、そのような心休まらない環境が、子どもの脳の発達にいいとは到底思えません。
娘が本気で受験勉強を始めたのは、小学6年生の12月下旬でした。一般的な中学受験の準備期間が2〜3年ということを考えると、かなり直前の対策だったことは間違いありません。しかし娘の志望校は本人の学力と乖離(かいり)のない、ほどほどの偏差値の学校でした。学校で習わない難問ばかりが出題される難関校とは異なり、学校での勉強に加え、少し受験対策をすれば十分間に合うレベルでした。
そこから年末年始を挟んだ17日間は、親子で気合いを入れて受験勉強に取り組みました。その間は、私も仕事を入れずに娘の勉強をつきっきりでみました。具体的なスケジュールは以下の通りです。
・午前6時半朝食をとって、再びお昼まで勉強。
・午後1時昼食。日替わりでいろいろなお店のランチを食べに行き、ほっと一息。
・午後3時半買い物をして帰宅したら犬の散歩。入浴後に軽めの夕食。
・午後7時就寝。
■とにかく重要なのは「教える人がイライラしない」こと
勉強計画については、とにかく過去問題を解くことに集中しました。試験本番まで時間がなかったこともあり、その他の勉強は一切していません。10年分の過去問題を用意し、1日当たり1年分を本番と同じ制限時間で解き、終わったら私が採点して間違えたところを見直すということをひたすら繰り返しました。
わが家では私が勉強をみましたが、勉強を教える人は親でなくても誰でも構いません。注意したいのは教える人が不安になったり、イライラしたりしないこと。「こんな問題も解けないでどうするんだ!」などと怒ってしまっては、子どもが勉強に集中できません。
うちでは親子そろって「落ちたら落ちたで公立に行けばいいか」というような心もちだったので、過去問を解いている時も娘はたくさん間違えましたが「まだ、こういうことも知らなかったのか」と呆れはしたものの、特段イライラはしませんでした。親がイライラしてしまったり、仕事で時間が取れなかったりと、何らかの事情で教えられない場合は、学習塾に通わせることも選択肢に入るでしょう。しかしその場合も、睡眠時間の確保は絶対条件です。
■「受験に集中させるために学校を休ませる」はNG
娘のスケジュールを見て、朝が早いことに驚かれたかもしれません。早朝から勉強していた理由は、朝の方が効率よく脳が働くということと、受験本番を意識していたからです。
合格するためには、本人の実力はもちろん、脳の処理速度も重要です。受験では、制限時間内にできるだけ多くの問題を正確に解くことが求められ、正答率が高い人から順に合格が決まります。つまり、脳の中に詰め込んだ知識をいかに素早く取り出し、アウトプットできるかが問われているわけです。
どれだけ知識をインプットしても、試験中に脳が上手く働かず、時間切れになってしまうようでは合格できません。ですから、試験が行われる時間帯に脳を万全な状態にもっていく必要があります。となると、夜中の2時や3時にいくら勉強がはかどったとしても、その時間に試験が行われなければ意味がありません。
多くの学校では試験は午前中からお昼にかけて行われますから、ちょうど学校で授業を受けている時間帯に、頭がすっきりと働く状態になっていることが理想です。子どもの中学受験を控えた親御さんの中には、6年生の1月になると、受験勉強に集中させるために学校を休ませる方が多くいます。
「受験が終わるまでは夜遅くまで勉強させ、その代わり朝は少しゆっくり寝かせてあげています」というような話を聞きますが、自ら進んで試験本番で脳が働かない生活リズムを選んでいるようなものです。
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文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士・公認心理士。1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)、『子どもの隠れた力を引き出す最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)など多数。
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(文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子)
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