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41年前の発行なのに2022年東大含む大学生協の文庫売上1位…知のバイブル「思考の整理学」をカンタン要約

プレジデントオンライン / 2024年9月4日 17時15分

外山 滋比古『思考の整理学』(ちくま文庫)

■情報過多の時代を上手に生き抜く 

飛行機は自力で飛ぶことができるが、グライダーは自力で飛ぶことができない。人間の能力もこの2つに分けることができる。受動的に知識を得る「グライダー能力」と、自分で物事を発明・発見する「飛行機能力」だ。知識を詰め込むグライダー能力だけが優秀でも、所詮コンピュータには負けてしまう。AIの誕生によって人間の仕事が奪われようとしている今だからこそ、考えることの本質に迫り、独自の思考を生む術を教えてくれるのが本書だ。

物事を考えるのには、最初にテーマの設定が必要だ。文学の研究ならば、まず作品を読む。読んでいくと、わからないところ、違和感を抱くところなどが出てくる。これを書き抜く。繰り返し心打たれるところや、わからない箇所が再三現れたら要注意。こうした部分が「素材」になる。ただ、素材だけでは足りない。アイデア、ヒントがほしい。それらはビール醸造でいうところの「醱酵素」になる。そして「麦」に当たる先の素材と一緒に“寝かせる”ことで、化学反応が進行し、「おいしいビール=面白いテーマ」が生まれる。

寝かせることほど、思考法の整理法で大切なものはない。英語には「一晩寝て考える」という成句がある。また中国では、文章をつくるときに優れた考えがよく浮かぶ場所として、「馬上」「枕上」「厠上」の「三上」があるとされてきた。枕上は、寝て朝目覚めれば、よい考えが浮かぶことを指す。一晩中ずっと考え込むよりも、一晩寝て朝起きればよい考えが浮かぶものである。

テーマが決まれば、情報を集めて「メタ」化していこう。情報には段階がある。たとえば「○○山は南側の斜面が砂走(すなばし)りになっている」というように、自然を直接表現したものは「第1次情報」だ。対して「この地方の山は△△火山帯に属している」といった表現は「第2次情報」になり、第1次情報を踏まえて、より高度の抽象を行ったメタ情報だ。

思考や知識についても、メタ化の過程があてはまる。具体的、即物的な思考や知識は第1次情報だ。その同種を集め、整理し、相互に関連づけると第2次情報になる。それをさらに繰り返すと、第3次情報になる。思考の整理とは、低次の思考を抽象のはしごを登って、メタ化していくことだ。その際にも、醱酵が役に立つ。寝かせて、化学的変化が起こるのを待ち、思考を純化させていく。

多くの人にとって、第1次情報の代表はニュースだ。新聞を読んでいて、「これは」と思うものに出くわしたらスクラップする。方法はスクラップブックに貼るのと、袋に区分けするのと2つある。前者はテーマがおおまかであれば便利だが、複数になると不便で、後者のほうがいい。袋の中身がたまってきたら、資料が揃ってきた証拠。そこで改めて目を通そう。

第1次情報を本に求める場合、関連書籍を集められるだけ集めて、積んでおく。そして、片っ端から読んでいく。興味のあることは、すべて頭の中へ記録する。関心事項は、そう簡単に忘れないので安心しよう。

■3段階で情報をメタ化する

第1次情報から何か考えが浮かんだら、やはり寝かせて、その際、せっかくの考えが消えないように紙にメモしておく。往々にして妙案はふと浮かんでくることが多い。手帖を持ち歩いておき、すぐに書き留めるのがいい。そして手帖を適宜見返し、「これは面白い」というものなら脈ありだ。別なところでもう少し寝心地をよくしてやろう。

そこで登場するのがノートだ。冒頭に見出しを書き、手帖の内容を箇条書きする。ノートに書き写した日付を入れ、手帖に整理番号が振ってあれば記入し、関連する新聞や雑誌の切り抜きがあれば、貼っておく。

手帖からノートへ移すことは、まさに移植である。コンテクストが変われば、考えは新しい意味を帯びるようになる。さらに、ノートの中で脈のありそうな考えを、もう一度、他のノートに移す。これが「メタ・ノート」だ。

【図表】3段階で情報をメタ化する

メタ・ノートでは、一つのアイデアに見開き2ページを使う。冒頭にテーマの題目をつけ、前のノートにあったことを整理して、箇条書き風に並べる。移した日付も忘れずに記入。考えが醱酵してきたときに、どれくらい日時が経過しているかがわかる。

メタ・ノートに入れた考えは、自分にとってかなり重要なもので、長期にわたって関心事になるものばかりだ。でも、しばらくは頭の中から切り離して醱酵させよう。外山氏は、第1段階のノートとメタ・ノートを合わせて53冊持つという。それらを眺めて「我が思考、すべてこの中にあり」と思うのは気持ちがいい、と本書で綴っている。

考えをまとめる段になったら、とにかく書いてみよう。材料はありすぎるくらいたっぷりあり、どうまとめたらよいか、途方にくれてしまうかもしれない。でも、大論文を書こうなどと気負わず、まずは気軽に書いてみよう。

終わりまで行ったら、そこで全体を読み返し、推敲作業だ。第1稿が満身創痍になったら、新しい考えを取り込みながら第2稿をつくる。そして、改めて推敲へ。音読をすれば、考えの乱れているところは、すぐにわかる。声も思考の整理に役立つのだ。

これらを実践しているうちに、グライダー型人間から飛行機型人間へ転身していることに気がつくだろう。

外山 滋比古(とやま・しげひこ)
1923年生まれ。文学博士、評論家、エッセイスト。東京文理科大学英文科卒業。『英語青年』編集長を経て、東京教育大学、お茶の水女子大学などで教鞭を執る。専攻の英文学に始まり、テクスト、レトリック、エディターシップ、思考、日本語論の分野で、独創的な仕事を続け、2020年に死去。本書は1983年の刊行から41年読み続けられている「知のバイブル」で、全国大学生活協同組合連合会の450店舗での2022年文庫ベストセラー第1位に輝いた。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

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外山 滋比古(とやま・しげひこ)
お茶の水女子大学名誉教授
1923年、愛知県生まれ。東京文理科大学英文科卒業。雑誌『英語青年』編集、東京教育大学助教授、お茶の水女子大学教授、昭和女子大学教授を歴任。文学博士。英文学のみならず、思考、日本語論などさまざまな分野で創造的な仕事を続けた。著書には、およそ40年にわたりベストセラーとして読み継がれている『思考の整理学』(筑摩書房)をはじめ、『知的創造のヒント』(同社)、『日本語の論理』(中央公論新社)など多数。『乱読のセレンディピティ』『老いの整理学』(いずれも扶桑社)は、多くの知の探究者に支持されている。

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(お茶の水女子大学名誉教授 外山 滋比古 撮影=市来朋久 構成=伊藤博之)

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