1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「変わりたくても変われない」のではなく「変わらないほうが楽」なだけ…『嫌われる勇気』が秒で幸福をくれる訳

プレジデントオンライン / 2024年9月10日 7時15分

嫌われる勇気
岸見一郎、古賀史健著
ダイヤモンド社

■あなたの常識がひっくり返る

「人はいま、この瞬間から幸せになることができる」「自由とは、他者から嫌われることである」。常識を覆し、現代人に強いメッセージを提示するアドラー心理学。オーストリア出身の精神科医であるアルフレッド・アドラーは、フロイト、ユングと並んで心理学の三大巨頭と称される。彼が20世紀初頭に創設した学派は一般的に「アドラー心理学」と呼ばれる。しかしアドラー研究の第一人者であり哲学者である著者の岸見一郎は、「アドラーの思想は心理学の枠組みに収まらない、ギリシア哲学の系譜に連なる哲学だ」と考え、この見解が本書にも通底している。

本書は、一般的なビジネス書とは異なり、小説のように、ひとつの物語として展開していく。登場人物は、一人の悩み多き「青年」と、一人の穏やかな「哲人」である。

「人は変われる、世界はシンプルである、誰もが幸福になれる」という哲人の考えに疑念を抱く青年が、その“欺瞞”を暴こうと辛辣な質問を浴びせかけ、哲人がそれに応答する。こんな二人の対話を描くことで、アドラー心理学の神髄を読者に提示していく。

時代を100年先行したとも評されるアドラーの思想は、アドラーの100年後を生きているはずの私たちの常識をも覆す。本書がまず取り上げるのは、「人は変わりたくても変われない」という、多くの人が実感しているであろう常識だ。

引きこもりの人を例に挙げよう。何年も自分の部屋に閉じこもっている男がいるとする。本当は外に出たいし働きたいと願っているけれども、部屋の外に出ることが恐ろしく、一歩でも出れば動悸(どうき)に襲われ、手足が震える。幼いころの不幸な家庭環境や、学校や職場でのいじめといった過去のトラウマが、変わろうとする意志をくじいてしまっているのだろう。引きこもりの原因を、多くの人はこう考えるはずだ。

■時代を100年先行したとも評されるアドラーの思想

しかし、アドラーの考えは違う。彼が引きこもりを脱せないのは「引きこもりを脱したくない」と決心しているからだ。不安だから外に出られないのではない。外に出たくないからこそ、不安という感情をつくり出している。「外に出ない」という行為は、過去のトラウマという「原因」の結果ではなく、現在と未来に向けた「目的」を果たそうとした結果だ。私たちは、「変わりたくても変われない」のではなく、「変わりたくないから変わらない」のだ。

人間は「過去に規定される」という「原因論」を受け入れてしまえば、私たちは現在と未来に対して無力であることになる。アドラーはそんなニヒリズムを徹底的に退け、人間は「目的」に向かって行動するという「目的論」を唱える。あくまでも可能性に目を向け、「人は変われる」ことを前提に考える――これがすべての出発点にならなければいけない。

しかし、なぜ私たちは、「変わりたい」という思いがありながら、「変わらない」と決心をするのだろうか。それは、現状に不満はあったとしても、「このままの私」でいることのほうが、楽であり、安心だからだ。自分の性格や行動を変えれば、未知の状況に対処するという面倒が生まれるし、未来が予測できなくなり、常に不安が伴う。今より悪い状況に陥る可能性だってある。そんな困難に立ち向かうためには、大きな「勇気」が必要なのだ。

■他者から嫌われることで、あなたは「幸せ」になれる

あなたが不幸なのは、過去のせいでも、環境のせいでも、能力が足りないからでもない。ただ、勇気が足りない、言うなれば「幸せになる勇気」がないだけだ。アドラー心理学は、勇気の心理学なのである。

よって、やるべきことはシンプルだ。まず、「変わること」を決心しよう。アドラーのメッセージはこうだ。「これまでの人生になにがあったとしても、今後の人生をどう生きるかについてなんの影響もない。自分の人生を決めるのは、『いま、ここ』に生きるあなたなのだ」。

アルフレッド・アドラー

■人間関係の悩みを一気に解消する

アドラーが否定するもうひとつの常識は、「人間は“たくさんの種類”の悩みを抱えている」という考えだ。勉強が苦手、自分のキャリアプランが見えない、人生に意味はあるのか……私たちの悩みは千差万別なはずだが、アドラーは、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言する。さらに、対人関係の悩みが生まれる理由は極めてシンプルだとまで言う。キーワードは、「課題の分離」だ。

親子関係を例に見てみよう。勉強したがらない子どもの親は、塾に通わせたり、家庭教師を雇ったり、「宿題するまで夜ご飯なし」とルールを決めたりして、無理やり子どもを勉強させようとする。それが親の責務というものだ、と多くの親は言うだろう。

一方で、アドラーはこう考える。子どもが勉強するかしないかは、あくまでも子どもの課題であって、親の課題ではない。なぜなら、「勉強する/しない」という選択をした結果、「成績が良くなる/悪くなる」といった結末を最終的に引き受けるのは、親ではなく子ども自身だからだ。よって、親は子どもを見守り最大限の援助をすべきだが、強制的に勉強を命じるのは、子どもの課題に対して親が強制介入していることにほかならない。ある国のことわざに、「馬を水辺に連れて行くことはできるが、水を呑ませることはできない」というものがある。呑みたくない水を無理に呑まされたら、子どもが反発するのも無理はない。

■他者の課題には介入せず、自分の課題には介入させない

あらゆる対人関係の悩みは、あなたが他者の課題に土足で踏み込むこと、そして、他者があなたの課題に土足で踏み込んでくることによって引き起こされる。よって、私たちはまず、「これは誰の課題なのか?」を考え、自分と他者の課題を冷静に分離しなければならない。そして、「他者の課題には介入せず、自分の課題には誰ひとりとして介入させない」ことを実践するのがよい。そうすれば、対人関係の悩み、つまり、あなたが抱えるすべての悩みは、一気に解消する。

「他者の課題には介入せず、自分の課題には誰ひとりとして介入させない」という生き方は、「自分のことはすべて自分で決める」という姿勢を意味する。とはいえ「ちょっとぐらい他者が自分の課題へ介入してくれたほうが助かる」と内心感じる人は多いはずだ。多かれ少なかれ不満は生まれるにせよ、子どもは親が敷いてくれたレールの上を歩いていれば人生に迷わなくて済むし、他者からの期待に応えることに注力していれば、承認欲求が満たされ、誰からも嫌われずに生きていける。

■他者から嫌われることで、あなたは「幸せ」になれる

しかし、本当にそうだろうか、とアドラーは問いかける。誰からも嫌われないためには、常に他者の顔色をうかがい、その意向に沿うよう行動しないといけない。その結果どうなるか。全員にいい顔をして、できないことまで「できる」と約束すれば、矛盾が生じ、嘘が発覚して、信用を失い、人生がより苦しくなる。他者から嫌われないように生きることは、自分自身にも周囲の人々にも嘘をつき続けることだ。そんな人生は、不自由だ。

他者から嫌われることを恐れてはいけない。たしかに嫌われたくないと願うのは、人間にとって普遍的な欲望であることは間違いない。しかし、本能や衝動のおもむくままに生きる人生は、自然法則に逆らえず坂道を転がり落ちる石と一緒だ。

「嫌われる勇気」を持とう。他者から嫌われること。それはあなたが自由を行使し、自由に生きている証拠なのだ。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

----------

岸見 一郎(きしみ・いちろう)
哲学者
1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋古代哲学史専攻)。専門の西洋古代哲学、特にプラトン哲学と並行して、アドラー心理学を研究。本書執筆後は、国内外で多くの“青年”に対して精力的に講演・カウンセリング活動を行う。ミリオンセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(以上、古賀史健氏との共著)をはじめ、『困った時のアドラー心理学』『人生を変える勇気』『アドラーをじっくり読む』など著書多数。

----------

----------

古賀 史健(こが・ふみたけ)
ライター
1973年、福岡生まれ。ライターとしてこれまで100冊以上の書籍の構成を担当。20代の終わりに『アドラー心理学入門』に感銘を受け、10年越しで本企画を実現。『嫌われる勇気』ではライティングを担当。

----------

(哲学者 岸見 一郎、ライター 古賀 史健 構成=奥地維也 撮影=市来朋久 写真=ullstein bild/時事通信フォト)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください