柳井 正「本気を出すとはどういうことか」【2】
プレジデントオンライン / 2013年2月5日 12時0分
英語の社内公用語化、店長・管理職全員が海外勤務へ。日本一先進的な経営者が、読者の身近な「悩み」に答えてくれた――。
Q 経営方針の徹底は社員の個性を押し殺すことになるのでは?(29歳・女・派遣)
若くて、ちょっとできる人は勘違いしやすいのかもしれませんが、個性をだすことと、会社の経営方針に従うことはまったく別のことです。
むしろ、その勘違いを指摘して、個性など殺して、「会社のやり方を徹底しなさい」というアドバイスをした上司に出会えたのは素晴らしいことだと、僕は思います。
というのも、「会社という枠組みの中では自分の個性が発揮できない」と、こぼしている人は、確実に失敗するんです。そして、そんな勘違いを正すことは、上司の務めのひとつだと信じています。
会社をスポーツと置き換えて考えてみるとわかりやすいでしょう。
会社の原理原則や経営戦略というのはサッカーなどのチームの基本戦術と同じなんです。個性を尊重しろというのは、サッカーでチームの基本戦術を守らずに勝手にプレーしますと宣言しているのと変わりありません。
本来、会社に参加するということは、基本的なことは会社の考えどおりにしますということで、誰も個性を発揮してくれとは言いませんね。チームの基本戦術を理解して、取り決めに則ってボールを相手のゴールに入れるというのが、チームとして勝つということ。勝手にドリブルしたり、攻撃ばかりで守備をしないような選手は、いくら身体能力に恵まれていてもチームが強くなるためには必要ないのです。
相談者の上司は、会社という組織の中でプレーをするために必要なルールや規範をしっかり把握している人だと思います。あなたは反感を持つかもしれませんが、ルールに無頓着だったり、あやふやだったりする上司より、よっぽど筋の通ったいい上司だと僕には思えるのです。
業績のいい会社でも悪い会社でも基本となる組織づくりというものは、似たり寄ったりの場合が多い。では、「いい」「悪い」をわけているものは何か。それは、経営方針が末端の社員まで正確に伝達されているか否かでしかないのです。これは個性を発揮してはいけないのではありません。
相談者のあなたも、会社のルールを根底から理解しようと努めてください。そうすれば必ず、違う風景が見えてくると僕は思います。
Q 不況のせいで売り上げが上がりません。私のせいですか?(45歳・男・広告代理店)
申し訳ないのですが、「不況で売り上げが上がらない」と言っている時点で、相談者の方は仕事から逃げている気がします。不況はあなたのせいではない。
でも、売り上げが上がらないのは、あなたのせいです。問題は、この不況下で売り上げを上げる工夫をあなたがしているかどうか、なのです。
僕は今の不況は大した不況ではないと思っています。それに、日本が成熟化して、安定から衰退に向かう道では、今みたいな状況がこれからもずっと続くと思っています。
不況だ、不況だと叫んでいれば助けてくれる人が現れてくれるならいいですが、そんなこと言っても誰も助けてはくれません。だったら、自分の会社を自分がどうにかしてやる――というくらいの姿勢が必要なんじゃないでしょうか。
相談者の方の年齢を見ると45歳。それくらいの心意気があってしかるべきだと思います。
部や課のマネジメントを任されていてもおかしくない年齢ですし……。
僕自身がマネジャーの人に期待するのは、自分で問題点を発見し、自分でチャンスを見つけ出すことです。厳しい言い方になってしまうのですが、その2つを持たず、言われたことだけをやる人は、マネジャーではないと思うんです。
できない理由を考えるのは、簡単なことです。
それから、できるかできないかよくわからないうちに、自分はできないと規定してしまうことは、ビジネスパーソンにとっては、誤りだと思います。少しでも可能性があるのだったら「ひょっとしたら、できるんじゃないか?」と思ってみることが、チャンスを広げる糸口になるのではないでしょうか。
それからもうひとつ。小売業である我々の場合、お客様との接点である現場が重要なんですね。店で働く人たちの「気づき」がどんどん本部に伝わってこないと、商品の品質向上もできません。接客する人たちが「この商品のここはこうしないと売れない」と感じたのであれば、お客様はもっとそれらを強く感じているはずです。
いま一度、現場の意見に耳を傾け、売り上げが上がらない問題点はどこにあるか、そして、その突破口はどこに存在するのかを探してみてはいかがでしょうか。
商売というのは、結局のところ売り上げが上がらない原因は、お客様が喜ぶ商売をしていないから、ということに尽きると思います。
Q 柳井さんが読んだ生涯最高の「ビジネス書」を教えてください(38歳・女・IT)
今はもう経営書を毎日読むことはなくなりましたが、昔は1日1冊近くの経営書を読んでいました。
23歳で父親から小郡商事という会社を任され、必死で走ってきて、ふと立ち止まって考えると社員は100人近くになっていました。本格的に経営を勉強しなくてはいけないと感じたのが、読み始めたきっかけです。
読破した何千冊という経営書の中で、まさに僕の「最高の経営の教科書」と呼べるのは、アメリカの通信会社ITTの最高経営者として584半期連続増益を果たしたハロルド・ジェニーン氏の『プロフェッショナルマネジャー』(アルヴィン・モスコー共著・プレジデント社刊)です。1985年頃、山口県宇部市の書店で買いました。今日、僕が経営者としてやっていくことができているのは、この本のおかげなんです。多分、この本を山口で買っていたのは、僕ひとりじゃないでしょうか(笑)。
この本の凄いところは、まず、評論家や経営学者、ときには経営者さえも求めがちな「経営のセオリー」を全否定することから始まっている点なんです。
そして――経営とは本を読むのとはまったく逆で、終わりから始めてそこへ到達するためにできる限りのことをすること――つまり経営とは、目標設定をして、何をすべきかを逆算し、その目標を達成するためにすべてを賭けることなんだと教えてくれたのです。
衝撃でした。
僕はそれまで、経営というのは何かをゼロから始めて1つ1つ形にしていくことだと考えていたからです。しかし、どんな努力も目的地が決まっていなければ「経営」ではない。
どんなに頑張って歩いても、方角が定まっていなければムダな努力かもしれないと、著者のジェニーン氏は教えてくれたのです。
ですから『プロフェッショナルマネジャー』は、僕にとって最高の経営の教科書であるだけでなく、生涯ナンバーワンの書籍でもあるのです。
プレジデント社から『プロフェッショナルマネジャー』をやさしく簡潔に要約した『超訳・速習・図解 プロフェッショナルマネジャー・ノート』(プレジデント書籍編集部編)の解説を引き受けたのも、ジェニーン氏の経営哲学が日本に広まれば、それこそ日本の経営風土が変わり、もう一度成長できると思ったからなのです。
特に若い人にこそ、この本から「経営とは何か」を学んでほしい。
この本で、ジェニーン氏の哲学に触れれば、今すぐ自分がやるべきこと、そしてまた、自分の仕事の持つ意味が明確になります。
※すべて雑誌掲載当時
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1949年、山口県宇部市生まれ。早稲田大学卒業後、ジャスコに入社。その後、実家の小郡商事に入社。84年広島市にユニクロ1号店開店。91年社名をファーストリテイリングに変更。2002年代表取締役会長就任。05年より現職となる。
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(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長 柳井 正 構成=プレジデント編集部 撮影=大沢尚芳、小原孝博)
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