「心療内科」と「精神科」どっちがいいか…精神科医・和田秀樹「話を聞いてほしい患者に勧める医師の種類」
プレジデントオンライン / 2024年8月31日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『「精神医療」崩壊 メンタルの不調が心療内科・精神科で良くならない理由』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■誰にとっても「予約3カ月待ち」は他人事ではない
精神医療のさまざまな場面で、「医療崩壊」が起こっている現状をお話ししてきました。私がこの話をすると、それを否定する人たちは、
「だって、メンタルクリニックの数は年々増えているじゃないか」
そう反論してきます。
メンタルクリニックが増えているのは間違いありません。
しかし、人気のあるクリニックは一流の寿司屋並みに混んでいて、なかなか予約が取れない状況です。メンタルクリニックの多い東京でも、初診の予約1~3カ月待ちは当たり前で、半年かかるところもあると聞きます。
これがもし、がんだったらどうでしょう。
健康診断でがんが見つかっても、どこの病院も予約が埋まっていて、3カ月待たないと診てもらえない。そんな状況になったら、マスコミはこぞって「医療崩壊だ!」と大騒ぎするでしょう。
あるいは、新型コロナウイルスの感染拡大がピークを迎えていた頃を思い出してください。都市部を中心に医療機関がどこも満床となり、40℃近い高熱が出ても自宅待機を余儀なくされる人が続出し、テレビで連日その危機的状況が放映されました。それは医療崩壊と呼ばれました。
日本の精神医療は今、まさにそうした状況に陥っているのです。
でも、精神医療が崩壊の危機に瀕していることは、一般にはあまり知られていません。がんや新型コロナのように騒がれることもほとんどありません。
「だって、がんや新型コロナは、治療が遅れると死ぬかもしれない病気だから」
確かにそうです。でも、自死する人の多くがメンタルヘルスに不調を抱えていることを考えると、心の病も命に関わる病気なのです。3カ月待たされている間に、命を落としている人が少なくないとしたらどうでしょう。
「予約3カ月待ちは当たり前」という状況は、決して当たり前で済まされるものではないのです。
メンタルクリニックに押し寄せている人たちの症状は、誰もがかかり得るストレス性の病気が多くを占めます。つまり、誰にとっても「3カ月待ち」は他人事ではないのです。
■メンタルクリニックが増えた、知られざる事情
メンタルクリニックが増えた背景には、いろいろな理由があります。
厚生労働省が2004年以降、精神医療について“入院医療中心から地域生活中心へ”という理念の下、入院患者を減らす施策が推し進められてきたことにより、メンタルクリニックの役割が増したことも挙げられるでしょう。
また、メンタルヘルスの重要性が広く認知されるようになって、精神科の敷居が低くなり、一般の人たちが以前ほど抵抗なくメンタルクリニックを受診するようになったことも大きいと思います。
少し前までは、メンタルクリニックの場所も、表通りから1本奥に入った目立たないビルの2階以上にあるケースがほとんどでした。通院していることを人に知られたくないという、患者さんの気持ちをおもんばかってのことです。
それが最近は、駅前の賑やかな通りのビルの1階で開業するメンタルクリニックも出てきて、近隣に住んでいる人たちが来院し、人気を呼んでいるところもあるようです。
さらに、精神科医が、年収アップを目的に開業する場合も多くあります。
精神科の医者は、昔は大学の医局に残って教授を目指すか、大学とは別の精神科病院に勤務する人(勤務医)が大半を占めていました。しかし、今はわりに合わないということで、早めに開業するようになりました。
■精神科医の年収に大きな格差
メンタルクリニックの精神科医の平均年収は、中央社会保険医療協議会の「第22回医療経済実態調査(2019年実施)」をもとにしたデータによると、2587万9000円とされています。
大学病院や一般病院の精神科で働く“勤務医”とくらべると、メンタルクリニックの精神科医のほうが、およそ2倍も平均年収が高いのです。
しかも、2587万9000円というのは、あくまで平均年収ですから、「5分診療で薬だけ出す」ような診療で、1日100人近い患者さんを見ていたら、とんでもない年収になります。精神科医は、ほかの診療科にくらべても、医者によって年収に大きな格差があるのです。
もちろん、クリニックを開業した場合は、スタッフの人件費や家賃などの経費がかかりますから、単純に勤務医と比較はできませんが、経費を差し引いても、開業したほうが年収がアップすることは間違いありません。
そのため、30代の精神科医がどんどん開業しています。これは精神科以外もその傾向がありますが、かなり早いのが特徴です。
精神科の診療は、高額な医療機器を必要としないので、クリニックを開業する際の設備投資の負担が軽いことも、若くして開業することを容易にしています。極端にいえば、机と椅子があれば開業できます。
加えて、必ずしも看護師を雇わなくても診療できるため、開業後の人件費もかなり抑えられます。
■患者が集まりやすいのは「精神科」より「心療内科」
精神科医がクリニックを開業する際、「精神科」という看板を大々的に掲げるケースはあまり多くありません。
昔にくらべると精神科の敷居がだいぶ低くなったとはいっても、いざ受診するとなると躊躇する人が多いためです。「私は心の病気であって、精神科の病気ではない」といい張る人もいます。
そのため、「精神科クリニック」ではなく、「心療内科クリニック」「メンタルクリニック」「こころのクリニック」といった名称がよく使われます。そちらのほうが患者さんが集まりやすいからです。
このうち、メンタルクリニックやこころのクリニックは、精神科、心療内科のいずれか、またはどちらの診療も行っているクリニックのことです。
他方、精神科と心療内科は本来的には別の診療科で、精神科はこれまで述べてきたように、心の病を診ることを専門としています。
これに対して心療内科は、本来はストレスなどの心理的な影響で「体」に症状が出ている人を対象とした診療科(内科)です。心因性のぜんそくや腹痛、じんましん、高血圧などの患者さんに対し、心身の両面から治療を行います。
しかし実際には、軽いうつ、適応障害、発達障害など、本来は精神科を受診すべき人たちが、「精神科には行きたくない」という理由で、心療内科を受診するケースが多くなっています。
■「心療内科」を標榜する、内科の研修を受けていない精神科医たち
それは厳密にいうと間違っているのですが、ややこしいことに、心療内科クリニックという名称であっても、そこの院長は精神科の専門医であることが多いので、心療内科クリニックでも、うつや適応障害、発達障害などの患者さんを診ています。
「ならば、精神科医が開業したクリニックなのに『心療内科』という看板を掲げているのは、本当は違法なの?」
頭がこんがらがってきますね。
結論を先に言えば、違法ではありません。
大学の医学部では、精神科には精神科の専門医の資格をもった医者がいて、心療内科には心療内科の専門医がいて、両者はきっちり分かれています。
しかし、大学を離れてクリニックを開業する場合、日本では医者の免許をもっていれば、どの診療科を標榜しても構わないことになっています(「麻酔科」は例外)。
そのため、精神科医が開業するときには、患者さんの集まりやすい「心療内科」も併せて標榜することが多いのです。
違法ではありませんが、精神科と心療内科では身につけるべきスキルが異なります。したがって、患者さんの混乱を避けるためにも、精神科医が心療内科を名乗るのは避けたほうがいいと思います。
たとえば、私は精神科医ですが、医学部卒業後に医局を選ぶ際、心療内科で仕事をしようかと考えたことがありました。
ところが、内科の研修を終えてからでないと心療内科には入れないと、その当時はいわれました。つまり、心療内科で患者さんを診るには、内科のスキルがある程度必要だということです。
■「話を聞いてほしい」と思う人が選ぶべき専門医の種類
本当に心療内科のトレーニングを受けているのであれば、そのほうが精神療法的なアプローチ(認知行動療法などの精神療法)も積極的に導入し、多角的な視点から心の問題を治そうという傾向があります。
そのため、心療内科では、ごくたまに精神療法のできる人が教授に選ばれることがあり、心療内科の専門医は全国でわずか300人しかいませが、ある程度の精神療法の教育を受けています。
というわけで、「話を聞いてほしい」と思う人は、心療内科の専門医のいるメンタルクリニックをおすすめします。
クリニックのホームページに載っている院長のプロフィールを見ると、その院長が心療内科の専門医か、はたまた精神科の専門医かはすぐにわかります。
精神科の専門医は、薬物療法中心の教育を受けている場合がほとんどなので、話をじっくり聞いてもらえる可能性は低いと考えたほうがいいでしょう。
ただし、心療内科の専門医は、軽度のうつ病までは診るものの、統合失調症のような重い精神疾患は診ない(診ることができない)というのが、一般的な不文律としてあります。
うつ病の患者さんであっても、自殺未遂を1回でもしたことのあるような人は、精神科の専門医のいるクリニックを紹介したり、精神科病院への入院をすすめたりする場合がほとんどです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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