「僕はあえてルーティンを作らない」男子バレー・石川祐希が出した「プロフェッショナルとは何か」の最終結論
プレジデントオンライン / 2024年9月9日 10時15分
■プロは全ての責任が自分にある
大学を卒業したらVリーグチームをもつ企業に就職して、Vリーグのチームでプレーする。大学入学前は、そんなビジョンを描いていた。
しかし、実際には大学1年でモデナに行き、プロの世界を知ったことが転機になり、大学を卒業するとすぐに、僕はプロ選手として生きる道を選んだ。
最初はシエナで1シーズン、なかなか勝てずに苦しい時間を過ごしたけれど、プロ選手になったことで自分の身体をいかに維持して高めるか、ということに関する意識は格段に変わった。
そもそも僕自身、プロフェッショナルとアマチュアは何が違うかを学生時代はわかっていなかった。
でも今は、「プロとアマは何が違うのですか?」と聞かれたら、その違いはいろいろあるけれど、確実にいえることが1つある。
プロは、すべての責任の所在が自分に向けられる、ということだ。
■ケガは「余計なストレス」を生む
学生時代の僕は、ケガが多い選手だった。
中央大学に進学すると決めたとき、本来ならば高校時代には取り組んでこなかったウエイトトレーニングを含め、じっくり身体をつくりたいと思っていた。
けれど現実を見れば、イタリア、大学、日本代表と、つねに何かしらの大会や合宿があり、身体づくりに十分な時間を充(あ)てることができなかった。
僕はバレーボールが大好きで、バレーボールをしているときがとにかく楽しい。
だから、ケガをしたり、身体のどこかに痛みがあったりすると、それだけでストレスになってしまう。
余分なストレスを少しでも回避するために、そして、よりパフォーマンスを向上させる身体づくりをするために、プロになってからはこれまで以上に食事や休養、セルフケアに意識を向けるようにした。
なぜプロの道を選んだか。
そもそもプロとしてどんなことを考えて行動しているのかは後述するとして、ここでは僕がバレーボール選手としてこだわってきたこと、そして、僕の中では普通だと思っている、日常の生活やバレーボールへの取り組みについて触れていきたい。
■食事は「栄養素を接種する行為」
まず食事について。
僕はあまり食に対する欲求が高くはない。イタリアから帰国すると、「日本に帰ってきて何が食べたいですか?」と聞かれることもあるけれど、僕の答えは決まって、「とくにありません」だ。
考えるのが面倒だからそう言っているのではなく、本当に、「これが食べたい」というものがほとんどない。
むしろそれより、自分の身体、アスリートとして求めるパフォーマンスを発揮するための栄養素を摂取することが、食事の目的になっている。
おいしいものが食べられないことや、味付けの不満よりも、必要な栄養が摂れないことのほうがストレスになる。
アスリートの場合、競技特性や年齢、体組成や何を求めるかによって必要な栄養素や摂取量は変わってくる。
学生時代、アンダーカテゴリーの日本代表や、シニアの日本代表に入ってからも、栄養講習を受けることはあった。
プロになってからは専属の管理栄養士にサポートしてもらっている。
まずシーズンに臨むにあたって、何を目標とするか。そこに向かってどんな食事をすればいいか、栄養素をどれだけ摂取すればいいか、そのためにはどんな方法があるかということをアドバイスしてもらっている。
■「毎日同じメニューでよく飽きないね」と言われる
イタリアでは基本的に自炊がメインだ。外食では摂れる食材や栄養素に限りがあるからだ。
たいてい朝食は、ごはんと目玉焼き、フルーツとヨーグルト。最近はたんぱく質を摂取するために冷凍したサラダチキンをつけることもある。
昼食は、練習の合間になることも多いので、チームのレストランへ行き、パスタと肉か魚のメイン料理にサラダを摂っている。
練習後の夕食は、ごはん、野菜をたくさん入れたスープ、肉か魚をグリルしたもの。たんぱく質の量が足りていなければスープの中に鶏肉を入れたりするし、寝る前には補食としてヨーグルトを摂取したりすることもある。
ごはんや食材の量もどれだけ食べたかが大切なので、野菜を切るときは数を数えているし、ごはんも炊飯器の横にクッキングスケールを置いて、必ず計測している。
イタリアは野菜や果物の種類は豊富で、材料には困らない。
でも、なかなか手に入らなかったり、自分で料理するのは難しかったりする食材もある。とくに植物性たんぱく質は摂取しづらく、サラダを食べるときに豆を入れる程度だ。
そのぶん日本にいるときは納豆を食べたり、動物性たんぱく質でもアミノ酸スコアが優れた卵を卵かけごはんで食べたりすることもある。
フルーツや野菜もできるだけいろいろな種類を摂取するようにしていて、自分では満足した食生活ができているけれど、人から見ると、そんな生活も不思議に映るらしい。
「よく毎日ほぼ同じメニューで飽きないね」
そう言われることにも慣れてきた(笑)。
それでも近頃は、イタリアで外食をするときに、以前よりも本当においしいものを食べる喜びもわかるようになってきた。
僕にとってはすべてが充実した食生活だ。
■ルーティンはあえてつくらない
身体をつくるために、食事と同じぐらいに大切なのが睡眠だと考えている。
どれだけいい練習をして、食事が摂れていたとしても、睡眠が不十分だったり、質のいいものでなければ、それらは生かされない。
できれば睡眠は1日8時間とるようにしているけれど、アウェイゲームのあとは試合を終えてから移動するので、場所によってはミラノに戻ってくるのが朝方になることもある。
ホームゲームでも、イタリアリーグは試合開始時間が遅く、土日は18時か19時ごろから始まるのに対して、平日は20時や20時半から試合が始まるので、フルセットになると試合が終わった時点ですでに0時近くになることもある。
そこからクールダウンをして、食事を摂って、シャワーやストレッチ、膝に低周波治療器を当てるセルフケアを行うと、深夜2時を過ぎることもある。
そういうときは多少睡眠時間を削ることもあるし、翌日がオフならば朝食を摂らずに睡眠を優先することもある。
こうしなければならないと日頃からルーティン化してしまうと、できなかったときに「あれができなかったからダメだ」と考えてしまいがちなので、僕の場合はあえてルーティンをつくらない。
■世界のトップ選手は身体づくりを意識している
食事も生活もバランスが大切。たとえ睡眠が十分にとれなかった日があったとしても、次の日にリカバリーするなど、自分でうまく調整する力も大切だ。
学生のころと違うのは、学生時代は授業があって、部活としてバレーボールをしていたので、自由な時間は限られていた。
とくに1、2年生のころは履修しなければならない単位数も多いので、当然、授業数も多い。
身体のことを考えれば、もっと休まなければと思っても、練習の準備や片付けもあって、睡眠時間が削られてしまうことも多かった。
若いときはそれでもいいかもしれないが、しっかりと身体を休ませることは大切だ。
イタリアをはじめ、ヨーロッパでプレーする外国籍選手の中には、10代からプロ選手として活動、活躍している選手も多い。
そういった世界のトップ選手とプレーしていると、技術が磨かれていくだけでなく、身体づくりに対する意識や注がれている時間にも目がいくようになった。
学生時代は食事や身体づくりを意識するといっても限界があるかもしれない。それならまずは、できることから意識して行動するようにしても損はないはずだ。
■誹謗中傷コメントも「客観的に捉える」
寝ているときはもちろんだけれど、食事をしているときも基本的にバレーボールのことは考えないようにしている。
そういうと、「じゃあ、それ以外の時間はずっとバレーボールのことを考えているの?」と思われるかもしれないが、答えは「イエス」でもあり「ノー」でもある。
繰り返すようだけれど、僕はバレーボールが好きなので、バレーボールのことを考える時間も好きだし、必要だ。
考えようと思えば1日中考えることもできるけれど、たまにはリラックスする時間もほしい。
そういうときはバレーボールとは関係のない動画を見たり、アニメを見たり、日常生活でも、「こうしなければならない」というルールを設けないようにしている。
イタリアでも試合のたびに移動があり、日本代表の活動でも移動時間が長いことはよくある。
その時間を、僕は動画を見たり、睡眠に充てたりしているけれど、周りの選手たちも、スマートフォンやタブレットで映像や動画を見ているようだ。
SNSに対して積極的な選手もいるが、僕はそれなりにやりつつも、基本的には距離を保つようにしている。
いろいろな人からの意見も目にはするけれど、客観的に捉えるタイプだ。
大きな大会や、注目を浴びる大会になればなるほど、誹謗中傷が向けられることも多い。そうなれば当然、僕自身も目に入ることもある。
そこに書かれていることが事実であろうとなかろうと、見るだけで不快な思いをするからシャットアウトしているという人もいるけれど、僕はそれも意識しないようにしている。
見るときは見るし、見ないときは見ないというスタンスだ。
■スマホは寝室には絶対に持ち込まない
それでもたまに目に入る言葉のなかには、ときどきプレーに対して、「今日はスパイクが全然決まっていなかった」と書かれることもある。
「たしかにそうだな」と思う日は、それに対して納得することもあるし、「もっとがんばろう」「パフォーマンスを上げよう」と思うこともある。
感情的なところで何かをいわれていたり、僕たちがどんな考えをもってやっているかということを無視して勝手に論じられたりして、「少し違うよな」と思うこともあるが、「へー、そう思うのか」と客観的に捉えているので、気にすることはほとんどない。
寝る直前や起きてすぐにスマートフォンに触って、SNSをチェックしている選手もいるけれど、僕はやらない。
日本代表の合宿や遠征中は例外もあるけれど、イタリアで生活しているときは、そもそも寝室にスマートフォンを持ち込まない。
寝る前は本を読んだり、イタリア語の勉強をしたりしている。
朝も目覚まし時計を使って、設定した時間になったら、すぐに起きて朝のいろいろな準備をするようにしている。
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バレーボール選手
1995年12月11日、愛知県岡崎市生まれ。姉の影響で小学校4年生の時にバレーボールを始める。高校時代は、エースとして活躍し史上初の2年連続高校三冠(インターハイ・国体・春高バレー)を達成。中央大学進学後から当時史上最年少で全日本代表入りを果たす。さらに、日本の大学生として初めて世界三大リーグであるイタリア・セリエAでプレーし、大学卒業後は、プロとしてイタリア・セリエAのクラブに所属。プロ3シーズン目には所属チームのミラノでカップ戦優勝を果たし、自身初のタイトル獲得を経験する。2023–2024シーズンは、プレーオフでミラノ史上最高順位となる3位を獲得。2024年5月、さらなる飛躍を目指し、世界的な強豪チームのペルージャへ移籍した。日本代表としては、2021年からキャプテンとしてチームを牽引。2023年のネーションズリーグでは国際大会46年ぶりとなるメダル獲得。同年のワールドカップ兼オリンピック予選では、グループ2位の成績を収め、16年ぶりに自力でパリオリンピック出場権を摑んだ。
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(バレーボール選手 石川 祐希)
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