「たかが目の乾燥」となめてはいけない…目の老化を加速させ、失明リスクを高める「3つのコン」とは何か
プレジデントオンライン / 2024年9月12日 18時15分
■「20代から老眼鏡」で目の負担が減る人も
年とともに近くのものが見えにくくなる「老眼」。不自由を感じて読書が嫌になったという人もいるだろう。
物をはっきり見るためには目のレンズとなる「水晶体」が、近くを見るときには厚く、遠くを見るときには薄くなってピントを合わせる必要がある。この調節に関わるのが、「毛様体筋」という目のまわりの筋肉。伸びたり縮んだりすることで水晶体の厚みを操作している。
眼科専門医の平松類氏(二本松眼科病院副院長)によると「老眼は、毛様体筋の柔軟性が低下するとともに水晶体が硬くなることによって、ピント調節がしにくくなる現象です」という。
おおむね45歳くらいから始まるため、軽い症状のうちから老眼鏡をかけたほうがいいそうだ(ちなみに私はまさに45歳。今のところ見づらいと感じたことはないが……)。平松氏に「老眼を予防する方法はあるのか?」と尋ねると、「いえ老眼はどうしようもありません」といわれてしまった。
「糖尿病を発症する、紫外線をすごく浴びる、常に手元を見ているような人は、年齢よりも強く老眼が出やすいとは思いますが、基本的に加齢現象ですから完全な予防はできません」(同)
誤解されがちだが、老眼鏡を使用することで老眼が早く進むことはない。それよりも見えにくいのを我慢していると、目に負担をかけ、目の疲れや頭痛などを招いてしまうという。
「それに『老眼鏡』と思うから抵抗感があるのではないでしょうか」と平松氏が続ける。
「近視の眼鏡をかける場合はそうでもないはずです。目に負担をかけないために使用する、という意識を持ちましょう。実際、老眼鏡は20代、30代から使ってもいいくらいなんですよ。もともと人は遠くを見るようにできています。特に近視の人であれば若いときから(遠くも近くも見ることができる)遠近両用メガネを用いることが目にやさしく、近視の進行抑制に役立つという考え方もあります」
■デジタルより紙がいい脳科学的な根拠
また老眼の予防は難しいものの、今よりも少しだけ改善することはできる。カリフォルニア大学をはじめ、世界トップクラスの研究機関で効果が実証された「ガボール・アイ」は、老眼だけでなく近視、乱視、遠視などにも効果がある視力回復法だ。
「ガボール・アイとはガボール・パッチという特殊な縞模様を使った目のトレーニングのこと。この縞模様を目を凝らして見ることで、ぼやけた画像をクリアに認識できるようになるのです。目ではなく、脳に効率良く働きかけます」(同)
ものを見ることは「目と脳の連携プレー」だと平松氏は言う。目でものを見ると、網膜はその映像を信号に変換し、視神経を通じて脳の「視覚野」へ伝える。その情報がうまく処理されたとき、はじめて映像として認識されるからだ。
「脳梗塞などで脳に問題が起こると、視力が突然低下することもあります。反対に脳の処理能力が上がると、視力も回復します。ガボール・アイは脳の処理能力を上げ、持っている力を最大限使えるようにするためのトレーニング。すごく良くなるというよりは、少し便利に見えるようになるというもの。老眼、近視問わず8割の人が平均して0.2程度の視力が回復するといわれています」(同)
老眼を改善するには日ごろからそういったトレーニングをするほか、見やすい状態でものを見ることも大切だ。つまりはピントが合っているということ。まずは老眼鏡の度数の見直しを。
「ひとくちに老眼鏡といっても、見る対象によって度数が異なります。スマホなら20センチ、本なら30センチ、パソコンでは50センチにピントが合っています。何も言わないとだいたい本に合わせた老眼鏡になりますから、自分が主にどの距離にピントを合わせたいかを眼鏡屋さんに伝えましょう」(同)
次に、ものを見るときの目への負担の減らし方を知っておきたい。
「電子書籍を読む場合は、普通のモニターより、画面に印字した紙を貼り付けたようなKindleペーパーのほうが、目の疲労度が少なく、読書スピードが上がります。なぜならモニターでは高速な光の点滅で画面を表示させているため、『見逃してはいけない』と脳が勘違いをする。無意識によく見ようと集中して、まばたきが減って目の疲労や乾燥を招いてしまうからです」(同)
ボーッとしているときは1分間に20〜30回程度まばたきをするが、紙を見るときは約12回、デジタルデバイスでは約7回に減るとか。目の乾燥によって視界がぼやけたり見えにくくなると、脳の視覚野が十分刺激されず、処理能力が落ちる。「ドライアイになると年間40万円以上の生産性が落ちることがわかっている」(平松氏)というから驚きだ。
■気づかないうちに進行 失明原因第1位の病気
またドライアイは眼精疲労につながる。眼精疲労は単なる疲労ではなく、目の老化を加速させて近視、老眼の進行、さらには白内障や緑内障といった目の病気の原因にもなる。
眼精疲労につながる目の乾燥を防ぐには「3つのコン」が良くないと教えてもらった。パソコン(スマホを含む)、エアコン、コンタクトだ。パソコンやコンタクトは使用時間を短くし、モニターを見る際は適宜休憩を入れよう。
「アメリカの学会では『20分に1回、20秒間、20フィート(6メートル程度)遠くを見ること』を勧めます。でも20分に1回も見ていたら仕事が進みません(笑)。ですので1時間に1回程度でいいですから、2メートル以上遠くを見るようにしましょう」(同)
エアコンの風は直接顔にあたらないように調整したい。
最後に、40歳をすぎたら気をつけたいのが「緑内障」だ。40歳以上の20人に1人が発病するといわれ、日本人の失明原因の第1位である。平松氏が「会社の視力検査で1.0まで見えるような人でも、『眼底検査』をしなければ本当のところはわかりません」と強調する。
「普段は両目で見ているので、視野が欠けていることに気づきにくいのです。特に近視の人は進行が早いうえ、緑内障のほか、白内障、網膜剥離などの病気にもなりやすい。2年に1回の眼底検査とともに目を労る生活を心がけてください」(同)
緑黄色野菜に含まれ、抗酸化作用のあるルテインを摂取するのもいい。紫外線ダメージを防ぎ、加齢によって減少する色素を補える。米国の研究で、ルテインやビタミンCを含むサプリメントを服用すると、加齢黄斑変性(目の病気)の発症リスクが低下することが明らかになっている。また上図のガボール・アイは疲れ目にも効果があるそう。読書前後の習慣に。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。
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ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『野良猫たちの命をつなぐ 獣医モコ先生の決意』(金の星社)と『老けない最強食』(文春新書)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。 過去放送分は、番組HPより聴取可能。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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