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今なら現行犯逮捕…江戸時代の男が見知らぬ女をナンパする時、気を引くためにいきなり"つねった"体の部位

プレジデントオンライン / 2024年9月3日 10時15分

出典=『川柳で追体験 江戸時代 女の一生』(三樹書房)

なぜ、江戸時代は性愛文化が発展したのか。大量に残されている庶民の古川柳をもとに、当時の女性の人生を研究した本を上梓した漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんは「もはやエロ時代と言ってもいいかもしれません。性欲が減退気味の現代人は、江戸時代から学べるものがたくさんありそうです」という――。

※本稿は、辛酸なめ子『川柳で追体験 江戸時代 女の一生』(三樹書房)の一部を再編集したものです。

■江戸時代のおそるべきナンパ術

男女が出会って恋に落ちる……人間の営みの基本ですが、江戸時代も、現代と同じような恋愛模様が繰り広げられていました。しかし、今では絶対に受け入れられないと思われるのが、男性が女性をナンパするときの手法です。

つめられるたんびに娘そだつなり 安八礼2
こころみにつめって見ればむごん也 明七宮1

つめる……、そう、「つねる」のです。タイプの女性を見つけたら、男性はその女性のお尻をつねって気を引いたそうです。叩くパターンもあったそうですが、どちらにせよ現代では軽犯罪の域。今自分で自分をつねってみましたが、お尻は脂肪が厚いので全然痛くないです。だからといってやっていいこととは思えません。しかし江戸時代では……。

憎くない娘他人につめられる 明八天2
間ちがひでたたひた尻が封じて来 明二仁3

間違って別の女性のお尻を叩いてしまっても、女性の方がその気になって手紙を送ってくることもあったり、この風習に対してまんざらではなかったようです。

一方で文化系男子の口説きは、手紙を送ることでした。つねるよりもはるかに紳士的です。

こわいもの見たし生娘封を切り 三七31
あたりをきっと見廻して文を出し 傍一10

周りに見られないよう胸を高鳴らせながら封を開ける乙女心。

恋の文臍(へそ)といもじの間に置き 明八松4

いもじとは腰巻きのこと。大事な恋文を下着に入れて隠し持っています。やはりメールと比べ手紙は直筆で書かれていて、物理的に存在しているので、強いです。過去にも片思いの相手に毎日四十通手紙を渡し続けて結ばれた俳優や、交換日記で恋愛が盛り上がった有名人のカップルがいましたが、言霊の力が発揮される手紙の力が、また見直される予感です。

■今でいうLINEのブロック的な行為をする女性も

でも江戸時代の娘さんははっきりしていて、嫌いな相手からの手紙だったら、

わがすかぬ男のふみは母に見せ 明三松2
なげかへす文をおぼへて居なと取り 安七智2

お母さんに見せたり、投げつけたりと、にべもないです。今でいうブロック的な行為でしょうか。

手紙以外でも、タイプでない男性に口説かれた女子は……

わっちゃあいやよとこわ高に娘いひ 天五花2
不承知な娘ひたいへしわをよせ 明六義1

と、露骨すぎる拒否反応。

寄りなると是でつくよとむすめいい 安六梅1

と、針仕事中の女子は針で威嚇したり

逃げしなに娘きせるでむごくぶち 明六亀1

キセルで激しくぶってきたり、江戸の女子は気が強いです。

しかし男子の口説き方が、ぶたれても仕方ないくらいひどい場合も。

くどきそびれてかんざしを又かりる 天四宮1
かんざしを借りかの穴をほる手だて 末三28
辛酸なめ子『川柳で追体験 江戸時代 女の一生』(三樹書房)
辛酸なめ子『川柳で追体験 江戸時代 女の一生』(三樹書房)

当時、好きな女性に声をかける口実として「耳の穴を掃除したいからかんざしをちょっと貸して」と頼む風習があったとか。かんざしで耳掃除……ゾワゾワします。変態っぽい上に不衛生で、現代ではありえません。言われたら瞬時に生理的にダメになります。

江戸時代の女子は、好きな相手にならお尻をつねられても、かんざしを耳垢まみれにされても良いと言うのでしょうか。価値観がおかしいです。

男女の駆け引きはまだ続きます。

くどかれて娘は猫にものをいひ 明四宮1

と、猫にそっと告白してみたり、

よしなよとむすめ一寸ほどゆがみ 明七桜3

口ではよしてと言いながら、体は男性の方に傾いていたり

れて居てもれぬふりをしてられたがり 宝八鶴

惚れていてもそれを相手には見せないテクニックや、

逢ふ度にこわがりながら逢ひたがり 宝八鶴

娘心に男性の本当の望みは何であるか察している様子など、恋愛初期のドキドキするシーンが川柳に描かれています。

ばからしいいやとくらい方へにげ 三二32

いやがりながらも、人気のない方へ自分から男性を導く女子の姿が目に浮かびます。

とく心のむすめふふんと笑う也 明七信2
文を書く娘は封を切らせる気 八五3

と、それとなくOKだと相手に伝え、覚悟を決めます。

■「かんざしで耳掃除」だけは無理そう

今ふうはすてっぺんから寄りかかり 末一2
いじらせて見なとおへねへむすめいひ 天二梅2

自分からしなだれかかったり、挑発する積極的な女子も。「おへねへ」は「手に負えない」の意です。脱力感漂う語感です。

男性側も、言葉巧みに女子を説得しようとします。

いたひこたないとむすめをくどいて居 明三桜6
はらまないしかたがあるとくどく也 安四満2

痛くないから、避妊気をつけるから、と言いくるめるセリフは今と変わりません。

毛にさわる迄は地女むづかしい 天五花3

「地女」は素人女(遊女ではなく)の意味。素人女性は今も昔も人気です。

今するかするかとこわくはづかしい 天二桜3
はづかしさかくごのまえにわりこまれ 安六智6

そしてついに男子は本懐を遂げ、女子は処女喪失。

処女が非処女になった場合、どのような変化があるのでしょうか。現代で言われている都市伝説が、非処女は足首がきゅっと締まっているとか、鼻の頭を押した時先が割れたら非処女、黒目と白目の境目が青いと処女で青くないと非処女、など。乳首が黒ずむ、という説は江戸時代にもネタかと思うほどメジャーでした。

ませ娘歯よりも乳首を先へ染め 一二八47

というのは、黒くなりすぎです。それ以外にも、

生きものを喰って尻が平くなる 末三17
太棹を遣って娘の声変わり 一三五23

江戸時代の人の鋭い観察によると、処女が非処女になった時の変化は、「声が少ししわがれる」「ふっくらしていたお尻が平らになる」など。

初茸を喰ふと娘の声がさび 八九7

初茸を切ると刃物がさびる、という現象を、男性器と娘の声にかけている名句です。

一度性行為の気持ちよさを覚えてしまうと、病み付きになり、結果子どもができてしまうことも。

白状をむすめはうばにしてもらい 明二礼2
根をおして聞けば娘は泣くばかり 明四梅1
しかられて娘はくしのはをかぞへ 明四智4

思い詰めて家出してしまう女子もいました。

しんじつな娘へのこを追って出る 末三14

妊娠して思い悩む女子もいれば、子どもを堕胎したり、ビッチ系キャラと開き直って遊ぶ女子もいます。

あいきゃう娘そこからも爰(ここ)からも 安四義2

長屋の壁や便所などに、色娘の名前が落書きされることもありました。ネットの書き込み感覚でしょうか……。

雪隠に有る名のむすめすごいもの 安三仁3

ちょっと前まで、ヤンキーのかわいい子の名前が街のベンチとかに彫られたり、この風習は続いていた気がします。すっかりネットに代替わりしましたが……。

江戸時代、ビッチで名を馳せた娘さんは、それ相応の、芸者になったり隠居や僧侶のお妾におさまったり、色女としての人生をまっとうします。

御めかけに出たで近所のおだやかさ 安四海1

江戸時代の男女はナンパしたり、されたり、恋愛離れとは無縁の刺激的な青春を送っていたようです。もう少し、異性への許容範囲を広げてみたら? とご先祖様に言われているようですが、かんざしで耳掃除だけは無理そうです。

昔の日本人女性のイラスト
画像=iStock.com/duncan1890
※画像はイメージです - 画像=iStock.com/duncan1890

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辛酸 なめ子(しんさん・なめこ)
漫画家/コラムニスト
武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。

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(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子)

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