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なぜ根拠のないデマはあっという間に拡散するのか…「ウソか真実か」より「わかりやすい」を信じる人間の本質

プレジデントオンライン / 2024年9月3日 10時15分

撮影=プレジデントオンライン編集部

陰謀論やフェイクニュースを見分けるには、どうすればいいのか。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は「人間はわからないことに耐えられない生き物だ。陰謀論でもわかりやすいものには惹かれてしまう。それを防ぐには『なぜ』の繰り返しを行うしかない」という――。(後編/全2回)(インタビュー・構成=ライター・梶原麻衣子)

■駐日アメリカ大使が長崎の平和記念式典を欠席した意味

――2024年11月に行われる米大統領選が迫っています。トランプ、ハリスのどちらが勝つかで、中東への影響は変わりますか。

【鈴木】トータルで見れば、アメリカとしてのイスラエル「支持」に変わりはありませんし、トランプでもハリスでもそこは一緒です。ただトランプの場合はあからさまにイスラエルを支持し、ハリスは支持者からの反発が強いのでほどほどに支持する、というグラデーションはあります。

アメリカの大統領で最もイスラエルと距離を置いたのはオバマでしたが、それ以外はほとんどみんな同じポジションで、バイデンもトランプほどではありませんが、かなり支持しています。

――8月には長崎の平和記念式典にイスラエル大使が招待されず、英米をはじめG7の国々の大使が欠席しました。

この件については、主語をはっきりさせたうえで、丁寧に論じる必要があります。欠席したのはあくまでも大使であって、アメリカという国が長崎市の決定に反発し欠席したわけではありません。現に、式典には米政府が派遣した在福岡アメリカ領事館のアシーケ首席領事が参列しています。

駐日アメリカ大使のエマニュエルはイスラエル支持のユダヤ人で、彼の親戚は亡命を経験しています。そのため、イスラエルの尊厳が傷つけられるようなことは絶対に認められない。

もちろん、大使はアメリカという国を代表してはいるため、アメリカの判断とみられる側面はありますが、やはり大使個人の思いというものがあり、そこには個人と国を区別する見方が必要です。

■「浪花節」が大好きな日本人

実は最初に欠席を言い出したのはイギリスのロングボトム大使なのですが、それが引き金になって、結果的にG6(日本を除くG7)の国々の大使が欠席することになりました。

イスラエル大使を招待しないという長崎市の決定に反発する理屈としては、やはり大使が招待されていないロシアを引き合いに「イスラエルをロシアと同列に置くことはけしからん」というものでした。

もともと、G6は2023年10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃があった直後に、ハマス非難決議と同時に、イスラエル支持の決議を行っています。そのため、G7のポジションは決まっている中で、決議に参加していない日本がむしろ特殊なポジションにいることになっています。一方、G7以外の国を見た場合には、欠席した国々と他の国々の乖離が目立つことになってしまいました。

――エマニュエル大使欠席に対する日本国内の反発は、思想の右左を問わずかなりの勢いで噴出したという状況でした。SNSなどでも、かなり感情的な文言が飛び交っていました。

いわゆる「浪花節」、センチメンタルな感情に引っ張られたものだと思います。いいか悪いかではなく、日本という国はそういう反応をする国であって、そうでなければ「日本らしくない」とも言えます。

ラーム・エマニュエル駐日米国大使
ラーム・エマニュエル駐日米国大使(写真=U.S. Embassy in Japan/PD US DOS/Wikimedia Commons)

■正しい情報を知るためにやるべきこと

大事なのは、世間の反応が「浪花節」になっているときに、我々のような国際情勢を分析する立場の人間や、メディアがそうした感情の波に押し流されたり、簡単に乗ってしまったりしないことです。

研究者やメディアに登場する人が冷静さを失ったり、「なぜそうなったのか」という問いを立てて考えることを止めて自らの感情や「浪花節」に乗っかった見解を前面に出したりするようなことは、あってはならないと思います。

感情は誰にでもありますが、それによって目を曇らされてはいけない。そのためには、やはり「なぜそうなるのか」をとことんまで考えて、納得がいくまで説明のつく理屈を考える(make sense)ことが重要です。

――ネット社会になって、得られる情報は爆発的に増えました。「知りたい」気持ちはあっても、精査しきれないままだったり、何が正しい情報なのかもわからない状態になりつつあります。

当然、世界で起こることには、分からないこともたくさんあります。

例えば『資源と貿易の世界地図』(PHP研究所)で一章を割いた半導体にしても、なぜアメリカが半導体の輸出規制を設けたのか、日本がなぜ半導体産業を支援するのかと言った時に、一応、それなりに理屈のつく説明がいくつもあり得ますよね。実際のところどれが本当なのかと迷うかもしれません。

■不条理でも理屈は通っている

政府の視点、あるいは半導体産業の人の視点はそれぞれ違うもので、それぞれそれなりに納得はできるでしょう。いろいろな意見を聞いて「なるほどそういう考えもあり得るな」と感じる中で、どのように考えれば、最も説得力がある説明になるかを選んでいくことが必要になります。

もちろんその中に必ず正解があるとは限りませんが、いろいろな立場の人の多様な意見にインスパイアされながら、最も納得できる説明を探し続けていくしかない。特に研究者はそれぞれがそれぞれの結論や論理を持つわけですが、それは「自分にとって何がmake senseするか」という考え方の違いによって出てくるものです。

世の中には、確かに不条理で説明のつかないこともなくはない。例えばプーチンが何を考えているのかは、外からは計り知れないものがあります。しかし不条理に見えても角度を変えると「その角度なりの理屈は通っている」ということはあり得ます。

例えば、北朝鮮がなぜ、あれだけの独裁体制を敷いていて国民を貧しいままにさせているのに革命が起きないかと言えば、武力で脅しているからです。それは我々の価値観では許されない、不条理にも思えるものですが、北朝鮮の中では少なくとも独裁を受け入れて、体制に従順に生きる方がましだ、という理屈で動いている。

金日成の銅像に一列に並んでお辞儀をする北朝鮮の兵士たち
写真=iStock.com/narvikk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/narvikk

政治のように国単位、集団単位の人を巻き込む事業においては、一見、滅茶苦茶なことをやっているように見えても、何らかの理屈が通っていないと継続することは難しい。

■「説明がつかないこと」はそれほど起こりえない

ですから、実は「説明がつかないこと」はそれほど起こりえないのではないかと私は考えています。「人を動かしている、政治を動かしている理屈は何だろう」と根気強く考えていれば正解に近いものに近づいていくだろう。その思いで「なぜ」を繰り返していくしかないのです。

――そこを怠ると、わかりやすいけれど事実とは乖離した解釈や、突拍子もない陰謀論に回収されてしまいそうです。

陰謀論というのは、いわば「自分勝手に理屈を通してしまう」ものですよね。

例えば9・11に関しても、なぜアルカイダがあれほどのテロを当局にまったく悟られずに実行できたかといった時に、「CIAが計画したものだからだ」と勝手に結論付けてしまえば、一見、「筋は通せてしまう」し、わかったような気になってしまう。

勝手にひとつの話を作り出すことで、本来ならばつながっていないはずの話をつなぎ、筋が通っているかのように見せてしまうのです。

「国際情勢を正しく把握するのは、『なぜ』を問い続けることしかない」
撮影=プレジデントオンライン編集部
「国際情勢を正しく把握するためには、『なぜ』を問い続けることしかない」 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■人間は納得したい生き物

人間は、何らかの説明を受けて納得したい生き物です。分からないことを分からないままにしたくないので、何らかの答えが欲しくなる。

しかし、「なぜ」に対する答えを出すためには、できるだけ事実を集めて積み重ねたうえで仮説を立て、検証するしかない。これを繰り返して耐えられるものだけが、真実や事実に近いものとして残っていくのでしょう。

この「なぜ」の繰り返しを怠って、簡単に答えを見つけようとすると、思い込みによって「そうに違いない」と考えるバイアスが無意識のうちにかかってしまいます。

また、陰謀論は検証のプロセスに耐えられず、ストーリーに合わない「外れ値」が出てきた時に、説明できなくなって行き詰まる。自説にとって都合のいい事実だけを拾ってくる場合には、それぞれの話は事実なので、一見、全体像も事実であるかのように見えてしまいかねない。

その点で非常に質が悪いのですが、きちんと調べればやはり「外れ値」が出てくる。自分勝手な説というのは、いくら説を正当化するものを並べても、「外れ値」を説明できません。

■わかりやすさの罠

人はわからないことに耐えられないからこそ、わかりやすいもの、わかった気になりやすいものには弱い。すぐに飛びついて、そちらに流れてしまいがちです。

鈴木一人『資源と経済の世界地図』(PHP研究所)
鈴木一人『資源と経済の世界地図』(PHP研究所)

あるいは「どうせ分からないから、もういいや」と理解することを放棄してしまう。第1回でお話しした中東の情勢などは、まさにそうなりやすい話題です。しかしそれでは思考停止に陥ってしまうでしょう。

人間は分からないことに対して、何らかの答えが欲しくなる、という性質を理解したうえで、我々研究者も情報提供をしていかなければなりません。

「世の中は確かに複雑だけど、言うほど不条理ではない」「理屈の通る答えはそれなりにある」と、事実という材料と一緒に自らが考えてmake senseした意見や論文を提示するのが、私たち専門家の仕事だと思います。

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鈴木 一人(すずき・かずと)
東京大学公共政策大学院教授、地経学研究所所長
1970年生まれ。立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了、英国サセックス大学大学院ヨーロッパ研究所博士課程修了(現代ヨーロッパ研究)。筑波大学大学院人文社会科学研究科専任講師・准教授、北海道大学公共政策大学院准教授・教授などを経て2020年10月から東京大学公共政策大学院教授。国連安保理イラン制裁専門家パネル委員(2013-15年)。2022年7月、国際文化会館の地経学研究(IOG)設立に伴い所長就任。2012年、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店)で第34回サントリー学芸賞受賞。

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(東京大学公共政策大学院教授、地経学研究所所長 鈴木 一人 インタビュー・構成=ライター・梶原麻衣子)

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