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利息は1円もつかず、高額の「解約手数料」をむしり取られる…葬儀業者が明かす「冠婚葬祭互助会」の不都合な真実

プレジデントオンライン / 2024年9月10日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

冠婚葬祭互助会をめぐる消費者トラブルが後を絶たない。佐藤葬祭代表の佐藤信顕さんは「月掛金を積み立て冠婚葬祭のサービス費用の一部に充てる仕組みで、相互扶助の精神のもと生まれた。しかし、近年は営利を優先する傾向強くなっている。特に、解約時に高額な手数料をとられトラブルになるケースが目立つ」という――。

■冠婚葬祭互助会とは

葬儀社にはさまざまな業態があります。専門業者やJA(農協)などの団体運営のほかに、冠婚葬祭互助会というものがあります。

急な身内の不幸があり互助会で葬儀を行うと、社員から見積もりの説明を受ける際に「これを機に互助会に入りませんか。入っていただけると次にご自身やご親族に不幸があった際に通常より安く葬儀ができますよ」と勧誘を受けることがあります。

互助会とは元々、終戦後の皆が貧しいころに少しのお金でもみんなが出し合い助け合うことで、花嫁衣裳を共有したり、葬儀の時の祭壇を皆で持ったりし、立派な結婚式やお葬式を執り行おうという相互扶助の精神で成立したものです。

割賦販売法に基づき運営されており、一定の金額を積み立てれば物価高騰にかかわらず、一定のサービスを受けられるものとして昭和50年ごろから社会に浸透してきたという背景があります。

しかしながら、現在では顧客囲みの色が強くなってしまっていると言えるでしょう。

■「終活相談」などで集客

互助会は葬儀を行った顧客への営業のほか、不要になったぬいぐるみや人形などの「供養祭」や「終活相談」などと称してセレモニーホールなどでイベントを開き、集客を行うことが多いです。そこで、「自身の葬儀について準備はしていますか? 互助会に加入すれば特別価格で葬儀ができますよ」と積み立てを持ちかけてきます。

金額は互助会によって異なりますが、「毎月数千円~1万円を数年間、計30万~60万円を積み立てれば、持ち出し費用ほぼなしで葬儀ができます」といった具合です。

急な出費に備えて「互助会の積み立てをすれば葬儀に心配がない」という名目で、会員数を増やしてきたのが冠婚葬祭互助会というものです。しかし、筆者から見ると「互助の精神」はすっかり失われ、現状は営利企業でしかないと言わざるを得ません。

■多発する互助会トラブル

互助会に加入した人のよくあるトラブルを一つご紹介しましょう。

合計35万円の積み立てで葬儀ができるかのように勧誘しておきながら、実際に互助会が出してきた見積もりは通常の葬儀社と同じく総額が百数十万円だったというのはよく聞く話です。

彼らは、「積み立てで保証されているのは最低限の設備・備品のみの葬儀であり、お花のない祭壇はみすぼらしいですよ」「故人様を気持ちよく送り出しましょう」と情に訴えかけます。

そして、互助会はさも当然のように「積み立て分はお引きすることができます」と勧誘時の甘言とはまるで異なる条件を突き付けてきます。

「金利もつかない中でなぜ長年積み立てていたのだろう、母は『互助会に入っているから積立金で葬儀ができる。心配するな』」と言っていたのに……と親族は頭を抱えます。とはいえ、多額の現金を積み立てた手前、互助会の言う通りに追加でお金を支払う――というのが一般的な流れです。

考えても見れば、積み立てたからといって、同じ葬儀にかかるコストが大きく変わるわけもありません。同じような金額になるのは自明のことで、「著しく安く葬儀ができる」というのは、囲い込みのための大げさなセールストークだったと言わざる得ないのです。

■30万円の積み立ての解約手数料が10万円

消費者センターには解約トラブルも多く報告されています。

冠婚葬祭互助会を利用せずに葬儀を終えた人が、利用しなかったのだから解約して返金してもらおうとした際、高額な解約手数料を要求されたり、解約の申し出を強引に引き止められたりといったケースもあるようです。

具体的な事例としては、月掛け金3000円を100回、合計30万円を積み立てていた人が、他の葬儀社を利用したために解約を申し出たところ、10万円を超える解約手数料がかかると言われた――といったものです。

2015年に消費者団体が高額な解約手数料の返還を求めた裁判では、高額な解約手数料について裁判所が「算定根拠が不明瞭」とし、互助会側が敗訴しています。

■背景に「ノルマの過酷さ」

同業の葬儀社を個人で経営している筆者としては、互助会の社員をしている、もしくはしていた友人から会社の状況を聞かされることがあります。その時によく聞くのがノルマの厳しさです。

湯灌(ゆかん)やエンバーミング、生花のオプションなど、売上目標達成のために各社員にノルマが設定されているといいます。互助会社員の本音としては「ノルマは理解はできるけれど、ノルマに追われることなく、お金がない人はお金がない人なりに、目の前の遺族の状況に合わせて葬儀を提案したい」と思っているようですが、会社から課せられたノルマがあり、営業を強めにしないといけないのが心苦しいといいます。

最近多く聞くのが、エンバーミングという遺体防腐処置の不必要な提案です。これは長期にわたる保存を可能にする遺体保全方法で、首と股の付け根の血管を小切開し、血液の代わりに防腐液を注入して遺体を保全する優れた方法ではあるのですが、原価にして15万~20万円程度、それに自社の利益をのせてサービスを提供するので20万~30万円程度という高額なオプションです。

■「互助の精神」は失われた

荼毘(だび)に付すまで3~4日であれば1日1万円程度のドライアイスで十分保全できるところを、会社のノルマのために「エンバーミングをすれば、ご遺体の腐敗を抑えられます。顔色も良くなります」などと営業されることが多いようです。「不必要なオプションを営業しなくてはならないことが葬儀担当者として非常に心苦しい」という気持ちを互助会の社員から聞いたことがあります。

このように、必要ではないと担当者がわかっているのに、冠婚葬祭互助会の業績や利益のためにノルマを課せられているというのは、互助会本来の「少しのお金でもみんなで出し合えば立派な葬儀ができる」という精神からかけ離れたものになっています。会社の規模が大きくなって、元々の互助の精神を失ってしまったのではないかと筆者は感じます。

豚の貯金箱に6人がコインを入れようとしている
写真=iStock.com/Prostock-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Prostock-Studio

■消費者センターには解約トラブルが多数報告

2017年の経済産業省の「前払い式特定取引に係る現状と課題」によれば、割賦販売を含む「前払式特定取引」に関する相談件数は年間およそ300件で、冠婚葬祭互助会に関係するものがほぼ全てを占めているといいます。

【図表】冠婚葬祭互助会に係るPIO-NETの苦情・相談の状況
出典=経済産業省「前払い式特定取引に係る現状と課題」

全国消費生活情報ネットワークシステムの苦情・相談件数は、近年は3500件前後と高止まりしています。2015年度の受付相談内容をみると、解約関連が8割近くを占めており、「契約書が交付されていない」「訪問販売で強引な勧誘を受けた」といった相談が多いようです。

前提として、全ての互助会に問題があるわけではありません。筆者の知人友人にも、遺族のことを思い心を砕いて安心できるいい葬儀を提供しようとしている互助会社員は多くいます。

しかし、苦情が多いのもまた事実です。「冠婚葬祭互助会」という形が社会にとって必要なのかどうか岐路に立たされていると言える状況なのです。

この記事を書くにあたって、さまざまなネットでの苦情や口コミを確認してみたところ、上記の苦情件数とは裏腹に、互助会を擁護するような個人ブログや記事が多くみられました。

公的な情報では悪い意見が多くみられて、私的なサイトでは擁護系の記事が多くみられるのは、悪いイメージを払拭したい人たちがネット上の印象操作を目的によく使う手法で、自作自演の可能性もあります。ネットの情報を鵜吞みにするのは危険といえるでしょう。

■財務体質に問題がある互助会も

互助会には財務体質が悪いところが存在するということも忘れず言及しておかなければいけなりません。会員から多くの積立金を預かる互助会は、割賦販売法で積立金の半分を保全しなければならないと定められています。しかし、残りの半分は新規の会館を建てる資金などとして運用されています。

解約が増えるとその資金を返金せねばならず、事業に支障をきたせば統廃合が起こります。経済産業省などによれば、互助会数は1986年の415社をピークに減少しており、2015年のからの5年間で290社から統廃合により240社程度にまで減少しています。

■互助会に入る際は熟慮を

互助会の統廃合が起こると、多くの場合、加入した冠婚葬祭互助会での契約は破棄され、新規の会社に契約内容に更新されてしまいます。この際、有利な条件での契約ではなくなってしまうことが問題視されています。

葬儀の多様化や小規模化により、冠婚葬祭互助会というモデルが根幹から揺らいでいるのです。

勧誘時にそういった会社ごとの財務体質は説明されることはまれでしょう。加入後5年もたたずに統廃合というケースもあります。

結論としては、冠婚葬祭互助会を頼む際は十分熟慮したほうがいいということです。なぜならば通常の葬儀社と同じく玉石混交であるためです。企業という形をとる以上、大企業ゆえの病や、利益を追わなければいけない宿命が存在するのです。

■準備したければ「送ってくれる予定の人」と相談を

では、どう死に備えるべきなのか?

多くの人は終身の生命保険に加入していると思います。生命保険は葬儀代に充てられるように考えられているので、特別に金銭面での準備は要りません。また預貯金がある人も、その財産から死亡に関する費用を捻出するのですから、家族関係が良好であれば特別な金銭面での準備は不要だといえるでしょう。

むしろ必要なのは自分が死んだ後、誰にどうお金を引き渡すかをあらかじめ考えておくことなのです。

葬儀社選びや、死後の手続きは究極的には自分ができることではありません。旅立つ人ではなく、送る人によるところが大きいのです。

葬儀も含めた死後の手続きの準備をするにしても、それは任せる予定の人と一緒に行うべきことです。人は昔から、誰かと共に生きて、その命を繋いできました。誰かに任せることを「迷惑」だと思わずに、ちゃんと頼り、共に生きることが、人生の終末期に必要な準備なのです。

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佐藤 信顕(さとう・のぶあき)
佐藤葬祭 社長
1976年生まれ。東京都出身。厚生労働省認定葬祭ディレクター1級。祖父の代から続く葬儀社を20歳で継ぎ、インターネットでの明瞭な価格公開などにいち早く取り組む。2015年からはYouTubeにて『葬儀・葬式ch』の配信を開始。葬儀にまつわるあらゆるテーマを真摯にわかりやすく解説する語り口が人気を呼ぶ。アカデミー賞映画『おくりびと』の美術協力のほか、メディアへの出演も多数。著書に『日本人として心が豊かになる家族と自分のお葬式』(青志社)、『ザ・葬儀のコツ まちの葬儀屋三代目が書いたそのとき失敗しない方法』(合同フォレスト)、『遺体と火葬のほんとうの話』(二見書房)などがある。

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(佐藤葬祭 社長 佐藤 信顕)

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