"やせ蛙"で有名な枯れた感じの江戸の俳人は「夜は別の顔」…52歳結婚で一晩5回の絶倫発揮させた秘薬の名前
プレジデントオンライン / 2024年9月4日 10時15分
※本稿は、辛酸なめ子『川柳で追体験 江戸時代 女の一生』(三樹書房)の一部を再編集したものです。
■女性のための媚薬入門
女性のための媚薬を今、ドラッグストアに行って探そうとしても、売られているのはバイアグラとかマムシ粉末とか男性ターゲットの品ばかりです。でも性意識が高かった江戸時代には、秘薬の店で堂々と女性用の強壮剤が売られていました。実は今よりジェンダー平等な時代だったようです。
有名なものは、オランダから輸入された「蠟丸(ろうがん)」と、国内で生産されていた「女悦丸(にょえつがん)」という媚薬。蠟丸は一六〇〇年代の文献にも登場していたとか。江戸末期の『文しなん』という書物には「長崎より来るものなり。ゆびにつけ玉門(ぼぼ)へさしこみて、くぢるべし」と使用法が記されています。オランダ人は性欲が強そうなのでオランダ伝来の薬も効き目がすごそうです。最初にかゆみが来る、というのがちょっと不安で勇気がいりますが……。
蠟丸に関しては
という川柳が。両国には四つ目屋という有名な秘薬の店があり、性におおらかな江戸時代といえども買いに行くのは多少の恥ずかしさを伴ったようです。四つ目屋があった当時の両国米沢町は現在の東日本橋一丁目あたりですが、問屋とマンションが建ち並ぶ静かな街並で、淫靡な空気は全くなくなってしまいました。
その四つ目屋の子息が百人一首の「せみまる」を「ろうがん」と見間違えるという川柳です。
不肖私も最初見たとき蟬丸だと読み間違い、蟬丸は毛髪がないので絶倫なのかと勝手に解釈して失礼しました。
と、看板の文字が体液か何かのように白く浮かび上がる様子を川柳に詠まれていた「女悦丸」は商品名も官能的です。使用法としては、
「是ハ水にてとき、まらにぬり付、つかふべし。よがることうたがいなし」(『女大楽宝開』より)
と、男性器に塗るようです。原材料は、人参、烏賊の甲、山椒、麝香、みょうばん、肉桂、柘榴、丁子など、いかにも効きそうですが
「玉門かゆくふくれあたたまり、女のひくわいの心しきりにし、男にいだき付、身もだへすることかぎりなし」
と、こちらもかゆくなるのが前兆現象です。
■女悦丸の効き目は「アレサアレサ」「どうもどうも」
泣かずんば泣かせて見せう女悦丸 宗叔追14
など、女悦丸に関しての川柳は、ステマ案件のようですが、使った人が手放しで賞賛したいくらい薬効があったのでしょう。
『祝言色女男思』という江戸時代の書物には、熟年夫婦が女悦丸らしきものを使う様子が描かれています。
亭主が薬を使うことを提案し、最初は気味悪がっていたけれど受け入れる妻。男性器に塗って挿入すると……。
「アレサアレサ、どふもどふもどふも、それいくいくいくいく、アア、もし、お前の物が中一杯になって、はばッたいよふだよ。アアソレソレ、どふも息が弾んで口が利かれぬへ。ソレソレ又いくいく」
そして二人同時に気を遣り(絶頂に達し)、快感のるつぼに……。
江戸時代のあえぎ声が「アレサアレサ」「どうもどうも」というのがカルチャーショックで、この奥さんは饒舌すぎるようですが、女悦丸の効き目がわかりやすく描写されています。しかし、かゆくなって、男性器が大きく膨らんだように感じる、というのはいろいろ混ざった液体を塗ったことでかぶれて腫れているのでは?
という疑念も生じます。
他にも「黄菊の絞り汁」「蛤をつぶした汁」「銀杏をつぶした汁」などを性器に塗ると、性欲増進効果があるとのことです。こちらは現代でも簡単に手に入るので、江戸時代の先人たちからの後世へのありがたい知恵として、継承しても良いかもしれません。
■江戸時代の下半身の薬とは……
性愛文化が豊かに花開いていた江戸時代。今でいうバイアグラ的な強壮剤もさかんに開発されていました。さまざまな秘薬がありました。その中から男性向けの内服薬を川柳とともに紹介したいと思います。
内服薬として筆頭に挙げられるのが膃肭臍(オットセイ)です。オットセイはアシカやトドより名前の語感や字面からして性的な印象。戦国時代には徳川家康も服用し、強壮パワーで天下統一&子孫繁栄を成し遂げたくらい強力な薬です。江戸時代にはこのオットセイの外腎と臍を切り取って薬用としていました。陰茎や睾丸を乾燥させることも。オットセイは、一頭が数百頭のメスをはべらせていることもあるそうで、「腎張(じんば)り」の象徴として男性の夢を体現していました。
「腎張り」とは多淫で絶倫という意味で、その逆の虚弱な人を腎虚と言いました。漢方薬局でたまに目にする単語です。
という直球な内容の川柳が残っています。オットセイと漢方を混ぜて作った「一粒金丹(いちりゅうきんたん)」は、十日~十五日置きに一粒飲むことで効果を発揮したそうで、一錠千五百円のバイアグラよりもかなり安上がりです。
「サンショウウオ」「オオサンショウウオ」も強精薬として使われました。体を半分に切ると自力で再生し元通りになる生命力の強さから、精力アップ効果が期待されていました。食べると高まって鼻血が出てくることもあるとか。今は絶滅の危機も囁かれているサンショウウオ。日本男児の精力の象徴だと思うと、国家の未来が心配です。
いっぽう植物性の強壮薬もありました。「黄精(おうせい)」は野草のエミグサ、ナルコユリの根や苗を煎じて服用するもの。エミグサは今はボタンヅルと呼ばれ、ナルコユリは普通にガーデニングが好きな人が育てていたりするようです。
という川柳があります。
切見世は「ちょんの間」的な、簡易な売春宿。行商の男性が、ふらふらと娼婦のもとへ引き寄せられる様子が描かれています。美容と健康に効く「黄精」は娼婦にとっても人気商品だったようです。
そして誰よりも「黄精」を活用していたと思われるのが小林一茶でした。一茶というとカエルやスズメが出てくる牧歌的な句を詠んだ、いい具合に枯れている男性というイメージがありますが、五十二歳で結婚してからは激しい夜の夫婦生活を送っていたようです。一晩三回とか五回という日も……。五十代でこの絶倫ぶりを可能にしたのは「黄精」の薬効。妻が妊娠中も、自身が脳卒中で半身不随になっても、彼の性欲は尽きることがありませんでした……。
化学的に合成された薬よりも自然由来のものの方が、効果が長く持続するのかもしれませんとはいえオットセイやサンショウウオを捕まえるのは現代においてはほぼ不可能ですが……。やはり江戸時代は恵まれた性生活だったと先祖に思いを馳せずにはいられません。
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漫画家/コラムニスト
武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。
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(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子)
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