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小林鷹之○、上川陽子△、河野太郎×、では小泉進次郎は…次期首相候補たちの「SNS力」をチェックする

プレジデントオンライン / 2024年9月6日 8時15分

岸田文雄首相(画像=首相官邸HPより)

自民党総裁選に向けて、候補者として10人以上の名前が挙がっている。どんなポイントに注目すればいいのか。ライターの梶原麻衣子さんは「世論対策やPR対策なくして、現代の政権は立ち行かない。各候補者のSNSでの発信力に注目してみると良いだろう」という――。

■あなたは岸田首相の「べらんめえ口調」を知っているか

「官邸と検察は健全な関係じゃないといけねぇんだ。権力は国民のために使わないといけねぇんだ」
「何をどうしたって今は批判されるんだろうなぁ。でも、中途半端に投げ出すわけにはいかねぇんだよ」

この発言、誰のものかお分かりだろうか。何を隠そう、岸田文雄首相その人である。発言は共同通信系47ニュース報道(2024年7月17日付)からの引用で、記事によれば岸田首相の〈丁寧な言葉遣いがべらんめえ調になるのは感情がこもっているとき〉だという。

広島弁じゃないのかと驚いたが、こうした岸田首相のキャラクターは、どの程度、国民に知られていたのだろうか。3年の在任期間は戦後歴代8位で、決して短くない。にもかかわらず、岸田首相のべらんめえな側面は国民にほとんど知られることなく、1期の任期満了をもって総理の座を退くこととなった。

総裁選不出馬は支持率低迷が響いたためで、退任が決まってからの新聞報道の総括記事には「総理として何をしたいのかわからなかった」「やりたいことがなかったのでは」などの文言が踊っていた。

■「日本外交にはもう一人の岸田が必要だ」

だが一方で、岸田政権は一部では非常に高い評価を得てもいる。外交・安全保障関係者によるものだ。

2022年2月末に始まったロシアによるウクライナ侵攻や、同年に日本が主催国となったG7広島サミット、同年末の「防衛三文書」の改訂、2023年10月からのイスラエルとハマスの衝突に端を発する紛争など、激動の3年間における岸田政権の外交・安全保障における舵取りは、評価されてしかるべきとする声も少なくない。

例えば退任公表後、慶応大学教授で国際政治学者の細谷雄一氏は〈岸田文雄政権とその時代〉と題する論考を読売新聞に寄稿している(2024年8月21日)。

細谷氏は〈困難が溢れる「世界史の転換点」の中で、岸田政権が適切にそれを理解し、対応した意義は大きい〉として、軍事侵攻したロシアを即座に強く非難し、ウクライナ支援を継続した〈岸田首相の外交における指導力を高く評価すべきである〉とする。

また『ニューズウィーク』(2024年8月27日号)にも、南カリフォルニア大学東アジアセンターのユカリ・イーストン氏が〈日本外交にはもう一人の岸田が必要だ〉との記事を寄せた。

■広報能力の欠如

イーストン氏は岸田政権の最も重要な成果として米議会での演説を挙げる。アメリカのリーダーシップや国際秩序が危機に瀕しているとの懸念を〈聴衆に不快感を与えることなく率直に受け入れられる形で伝えることができたのは、岸田の外交手腕があればこそだった〉とし、常に従属的だった日米関係を転換させたとまで評価している。

さらには安全保障面で日米関係の強化を図ってきたバイデン米大統領からは「日本の役割を転換させた」との声が寄せられた。退任を決めてから残り僅かな任期の間にも、訪米・訪韓をして首脳会談を実施するとも報じられている。米韓政府が岸田氏をリーダーとして評価しているからこそだろう。

しかし、こうした外交手腕はもとより外交安保に関心の高い玄人には理解されても、一般には伝わりきらなかった。

もちろん、物価高や増税懸念など、より身近な問題、内政で成果を出していないとの指摘はある。だが「いいところが何もない」的な評価が目立ってしまったのは、つまるところ、政権の広報が専門家の外側にまでは働かず、「いかにその選択、決断が重要なものであったか」が伝わっていなかったというほかない。

■安倍氏との大きな違い

なぜ岸田氏の功績は広く国民に伝わらなかったのか。同じく外交・安全保障面での活躍が支持につながり、「増税メガネ」どころか二度の消費増税を実施した安倍政権と比べ、SNSや言論界での扱われ方という観点から見てみたい。

一つは、功績以前に人柄が伝わらなかった点だろう。「キャラが立っていなかった」と言ってもいい。

安倍氏にはもともと強力でコアなファンがいたが、薄く広い広報も上手だった。例えば各都道府県からの要請で応じていた名産品の試食で、安倍氏は果物を食べると「ジューシー」とコメント。

奈良県産の柿を試食する安倍首相。左は「奈良の柿PRレディ」の朝倉理恵さん=2019年11月14日、首相官邸
写真=共同通信社
奈良県産の柿を試食した安倍首相は「いつもよりジューシー」とコメント。左は「奈良の柿PRレディ」の朝倉理恵さん=2019年11月14日、首相官邸 - 写真=共同通信社

毎度おなじみのコメントが続いたことで、安倍氏に批判的な人たちからは語彙不足を指摘されていたが、SNSではコアなファンのみならず広く「安倍と言えばジューシー」的にネタとして知られるようになった。ネタにされることで、親しみやすいリーダーとしてのイメージが伝播していたのだ。

このことは安倍氏自身ももちろん意識していた。筆者が2021年にインタビューした際、安倍氏は次のように述べている。

〈第二次政権時にはSNSにも大いに助けられました。(中略)SNS上で「安倍は果物を食べると必ず『ジューシー』と言う」と指摘されていることは知っていましたが(笑)〉(『PRESIDENT』2021年10月15日号)

■「キッシーノート」はどこへ消えた

翻って岸田首相はどうか。安倍氏と同様、名産品の試食も行っているが、ネタになるようなキラーフレーズもなく、ただただおいしそうに食べるのみだった。もちろん、食レポ芸人ではないのだからという指摘はあろうし、安倍氏ともキャラが違うのでそのままマネしても仕方ないわけだが、なかなかつかみづらいキャラクターだった。

就任時こそ「キッシーノート」(岸田氏が様々なことをメモしているといわれていたB6判のノート)が話題になったが、以降、全く聞かなくなってしまった。

一事が万事、岸田政権、政策を象徴するようなキャッチフレーズや、岸田氏らしさを表すキラーフレーズがなかったことは、キャラの薄さにつながり、人間的興味を失わせ、ひいては「何をしたい人なのか分からない」「知りたいと思わない」という評価につながってしまった可能性がある。

いや、岸田氏にもファンはいたのだ。「増税メガネ」批判が広がったあたりから、SNS上には「そういう批判はどうか」「むしろキッシーはよくやっているのでは」「俺は岸田を推す」と言った声も増えてきてはいた。分かりやすく成果を解説するアカウントもあった。

退任会見の数日前、岸田氏自身の公式Xアカウントでは誕生日にSNSユーザーの有志から贈られた寄せ書きを動画で紹介、お礼を言うとともに満面の笑顔を見せていた。しかし時すでに遅かった。

自民党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■「褒めてもけなしても売れない」

一部には存在した岸田政権に対する「擁護派VS否定派」の戦いも、安倍政権期と比べて盛り上がりに欠けた。実際、盛り上がれば盛り上がるほど分断が進むので肯定はできないが、安倍政権期に「両陣営に属する者同士が、あらゆる話題で戦いを繰り広げる」という政治ネタ無法地帯の高揚感を味わってしまった以上、やはり対立が激化しない岸田政権は「盛り上がりに欠けて」しまったのだろう。

安倍政権期には両陣営が熾烈な争いを繰り広げたことで、安倍批判本、安倍評価本のどちらも多数出版され(amazonで確認できるだけでも、双方を合わせて50冊以上出版されている)、特集した雑誌も売れた。ここは専門家による調査を待ちたいが、当然、ウェブメディアも動画もPVを稼いだであろう。

一方、岸田政権を振り返ると、岸田本は両手で数えるほどしか出版されていない。先にも述べた通り、外交・安全保障においては2020年代の日本のターニングポイントと言っていいくらいの時期を経ているにもかかわらず、外交内幕本すら出ていない。在任3年と安倍政権に比べて短いのが理由ではないだろう。安倍政権期は、就任からわずか一年余りで対中外交の裏側をレポートした書籍が出ている。

ある出版社の編集者は「キッシーの本は、褒めてもけなしても売れないからね」と関連書の出版が乏しい理由を述べる。

■「推し」の対象になった安倍元首相

もう一つ、仮説として挙げておきたい観点がある。安倍政権と比較して岸田政権が広報に失敗したとみられる理由は、SNSや動画に出演するインフルエンサーを抑えていなかったことにあるのではないかという点だ。

繰り返すように安倍氏はもともと保守派のアイドルであり、自身が良コンテンツと化していた。そのため、新聞や雑誌からもひっきりなしに声がかかり、テレビではバラエティ番組に出演、ネットでは「え、こんなマイナーなところにも?」と思うようなチャンネルにも出演した。

しかし「出演」だけに意味があるのではない。特にネット番組に顕著だが、一般的に見ればマイナーと思われる番組に出ることで、その番組を主催するネット上のインフルエンサーを「抑えて」いたのだ。

出演して恩を売る。インフルエンサーは感謝・感激する。数字も取れる。基本的には思想的にも近いため同志感を覚えるだろうし、現役総理が出演するとなれば、相応の高揚感や優越感もあるだろう。

さらに視聴者・フォロワーサイドから見れば、「推し」であるインフルエンサーが好意的に安倍政権の功績を解説することで、政策や功績が浸透したのだ。動画を見る視聴者に訴えるだけでなく、インフルエンサーを抑えることで「推しの推しは推し」式にファンを増やしていたのである。

■秀逸だった「鵜飼い戦略」

筆者はこうした安倍氏の広報スタイルを「鵜飼い戦略」と呼んでいる。鵜匠たる安倍氏は、鵜であるところの保守系インフルエンサー(各社の記者を含む)に対して、会食や直に電話するなどの機会、情報を飴として与え、つないでおく。

インフルエンサーは安倍氏から得たエピソードを、魚であるところの視聴者や読者にちらつかせることで自らに引き寄せる。もちろん、広く安倍氏自身が魚に直接撒き餌を撒くこともあるが、より確実なのは鵜による漁なのだ。

魚をくわえる鵜
写真=iStock.com/CreativeNature_nl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CreativeNature_nl

鵜というと嫌がる人もいるかもしれないが、鵜匠と鵜の間にはそれなりの信頼関係、同志意識がある(と感じられる)ケースもあっただろう。政権が窮地に立てば、鵜たちはこぞって「鵜匠は悪くない」「批判する朝日新聞こそ悪」とSNSや動画、雑誌などの媒体で宣伝してくれた。そんな鵜たちに、安倍氏は直に電話を入れて礼など言っていた(飴を与えた)というわけだ。

鈴木哲夫『安倍政権のメディア支配』(イースト新書)によれば、安倍氏はマスコミ関係者に直電を入れ、情報を与えるだけでなく「あの政策どう思いますか」などと質問することさえあったという。「恥ずかしい話だが、明らかに取材者の自尊心が満たされる。そんな電話が何度もかかってくると、ついついどこかで安倍贔屓になっていく」と話す大手マスコミ関係者の声まで紹介されている。

政権に多少不満があっても、総理からの直の電話や呼び出しがあれば「悪い気はしない」のが人の心というものだ。

■現代の政権に重要な要素

岸田首相の場合はどうかと言えば、そもそものコアなファンが少ないうえに、「岸田政権の裏側」を肯定的に明かしてくれるような論客、記者もほとんどいなかったのではないか。官房副長官の木原誠二氏は時に生田よしかつ氏のネット番組に出演し、政権の事情を説明してはいたが、いかんせん政権の身内である。

あるいは岸田氏は「総理から電話があった」と公言するような人を周囲に置かなかったのかもしれないが、周囲も本人も「エピソードが立つ」ような説明、情報提供をしていなかったのではないかという懸念がある。

岸田政権と同様、安倍政権も支持率が3割まで落ち込んだことはあったのだが、そんな時こそコアなファンとインフルエンサーが援護射撃を行っていたため、「瀬戸際の戦い」感はあっても「衰退」のイメージは薄かった。一方、岸田政権の場合は援護の「弾幕が薄かった」のである。

世論工作は良くない。だが、世論対策やPR対策なくして、現代の政権は立ち行かない。

■「進次郎構文」だけでは国政は乗り切れない

さて、総裁選で名乗りを上げる面々の中で、いったい誰が安倍式の広報、あるいは独自の効果的な世論対策を展開できるかと言えば、これはかなり難しい問題だ。

SNSだけで見ても、石破茂氏は一時、一部で「ゲル人気」があったが遠い昔の話になり、反逆児的姿勢の河野太郎氏は「ブロック太郎」と呼ばれるに至っている。

高市早苗氏は支持者こそSNSでの運動に熱心だが、自身はもっぱら地上戦で、各地でのリアルな後援会活動に励む。そのなかで本人アカウントが自ら独特なトーンの「高市応援歌動画」を好意的に紹介したため、波紋が広がっている。

小林鷹之氏は素の姿を見せて親近感を広めつつ、エリートらしく理想の政治を語るという「うまい使い方」をしているように見える。上川陽子外務大臣は静岡出身、お茶系の公益社団法人の役員を務めているせいか、和紅茶を飲む画像をXに投稿していた。

小泉進次郎氏は答弁が「進次郎構文」といじられるようになり、ポンコツキャラが転じて愛されキャラになっている。が、これは露出が少ないからこそ(そして現在、国政に大きな責任を負っていないからこそ)成り立つのであり、本格的に総裁選が始まり、実際総理になった暁には、別の戦略が求められることになる。

早速、それまで英語発信のみだったXアカウントの日本語運用をはじめ、youtubeチャンネルを開設。これまでは出演を断り続けてきたメディアへも登場することになろう。

岸田氏も3年前の総裁選ではちょっととぼけた「素」の姿を動画で公開していたが、総裁選と政権樹立後では同じようにはいかないのかもしれない。

岸田政権の広報戦略の失敗を生かせるのは誰なのか。そんな視点から総裁選を見るのも一興だろう。

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梶原 麻衣子(かじわら・まいこ)
ライター・編集者
1980年埼玉県生まれ、中央大学卒業。IT企業勤務の後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリー。雑誌やウェブサイトへの寄稿のほか、書籍編集などを手掛ける。

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(ライター・編集者 梶原 麻衣子)

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