教育費も医療費も所得税もゼロ…「松下幸之助の構想」を実践したドバイが日本以上の「お金持ち国」になった理由
プレジデントオンライン / 2024年9月10日 8時15分
※本稿は、石田和靖『10年後、僕たち日本は生き残れるか 未来をひらく「13歳からの国際情勢」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■ドバイ発展の裏にある「国営の投資ファンド」
ドバイが行ったことは、エコノミックフリーゾーンだけではありません。
ドバイには、「ドバイ投資公社」というドバイ政府が持つ政府系ファンドがあるのですが、潤ったお金を政府自らが外国企業に投資していくことで、資産を増やしていくという考え方があります。
フリーゾーンによって生まれたお金を、投資という形で増大させることで、ドバイはさらなる成長を遂げたんです。
中東の政府系ファンドは、主に石油や天然ガスを売ったお金を貯金して運用していくタイプです。対して、貿易の中継地点としてものを販売することで政府が得たお金を貯金して運用していくタイプもあり、その代表例が中国、香港、シンガポールなどです。
次の表は、政府系ファンドの総資産額ランキングですが、トップ10を見てみてください(図表1)。
第1位こそ北海油田の石油ファンドであるノルウェー政府年金基金ですが、第2位以下はずらりと湾岸諸国と中国が並んでいます。
いま、世界でお金を持っている国はアメリカでもイギリスでもなく、中国とアラビア半島にあることが分かると思います。この2つの地域が手を組み始め、エネルギーも豊富に持っている。
こうした観点からも、中東が世界の中心に躍り出ようとしていることが分かるはずです。
■「日本の年金基金」と「海外の政府系ファンド」の決定的な違い
ドバイは外国企業をたくさん誘致し、外国人に経済を回してもらう仕組みを築きました。そして、ドバイに滞在する外国人は、エミレーツ航空(航空会社)、エマール・プロパティーズ(不動産)、ジュメイラ・グループ(高級ホテルグループ)といったドバイの政府系ファンドの下に位置する企業にお金を落とします。さらにそのお金を使って、成長が見込める国に投資を行い、利益を増やしていく。
エコノミックフリーゾーンと政府系ファンド、この両輪が回ることで、ドバイは大きく豊かになっていったんですね。
日本にも、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という年金基金があります。政府が運用しているため、GPIFを政府系ファンドとしてとらえる考え方もありますが、先に挙げた海外の政府系ファンドとは、決定的に違うことがあります。
政府系ファンドは、政府が運用することに加え、あくまでその原資は政府が行っている投資やビジネスで得たお金です。
一方、GPIFの原資は、僕たちのお金。僕たちが稼いだお金から勝手に差し引かれたお金(年金)を運用しているので、政府系ファンドとはまったく違います。
政府系ファンドは、僕たちのお金を勝手に奪うようなことはしないんです。
■投資で成長を実現したシンガポールの戦略
政府系ファンドができる国とできない国があるのではないかと思う方もいるかもしれません。資源がある、フリーゾーンがある、そうした理由がないとできないのでは? と思うかもしれないですが、やろうと思えば日本だって可能なんです。現に、シンガポールは政府系ファンドを生かして、巧みに成長した国でした。
シンガポールの場合は、シンガポールの基幹産業と言われているシンガポールテレコム、STエンジニアリング、シンガポール航空、DBS銀行、キャピタランドといった国を代表するような企業の株を、テマセク・ホールディングスという政府系ファンドが保有しています。
興味深いのは、これらは国営企業ではなく、あくまで民間企業ということです。
上場企業であり、外国人や外国人経営者もたくさんいるのですが、その株を大量に保有しているのは政府。国が保有し、経営はできる人に任せるという、とても理に適った運営をしているんです。
そうした状況をつくり出したうえで、世界に対して投資も行います。保有している株の割合は、31%がシンガポール企業、69%が海外投資と言われています。テマセク・ホールディングスは、積極的に海外に投資をすることで、お金をどんどん増やし、国民に還元するスタイルによって、現在の成長を実現させたわけです。
■「政府系ファンドの構想」は松下幸之助が説いていた
シンガポール建国の父であるリー・クアンユー元首相は、「一生のうちに年金だけで2回家を建てられる国にする」という言葉を掲げ、資源のない小国にすぎなかったシンガポールをアジア屈指の金融国家へと成長させました。こんなリーダーがいたら、一生ついていきたいと思いますよね。
かつて日本にも、こうした構想を真剣に考えるべきだと唱えた人物がいました。
「経営の神様」と呼ばれた、パナソニック(旧・松下電器産業)グループ創業者・松下幸之助です。
松下幸之助は、「国徳国家」を説いています。
要約すると、仮に1兆円を国民が食べて寝て、そして1割剰余が出た場合。その1割のうち8割を国が使い、余った2割を外国に寄付しようという考え方です。ここで言う寄付を投資に変えたのが、政府系ファンドに当たります。
日本の予算制度というのは、年次単位で決まっています。
たとえば、「2024年度の予算は100万円です」と決められたら、役所は100万円を使い切るようにします。なぜなら、もしも50万円で十分まかなえたら、来年度以降は減らされる可能性があるからです。そのため、無駄でもなんでもいいから、とにかく100万円を使い切ってしまうんですね。
■「企業のやり方」を応用できないか
企業に当てはめたら、これはありえないことです。
会社で言えば、今年度の売り上げが1000万円だった場合、この予算のなかで来年度を考えなければいけません。1000万円から諸経費や税金を差し引いて、100万円の利益が残ったとすると、企業はこの100万円を翌年に繰り越します。翌年、また利益が100万円出たので、合計200万円分のプールがあることになります。企業はこうした剰余を株主に配当したり、先行投資に使ったりするわけです。むやみやたらに使い切るのではなく、理に適った使い方をする。この原理を、社会にも応用できないかと「経営の神様」は考えたわけです。
パンデミックのようなことが起きたり、天災による大きな被害が発生したりすれば、通常よりも予算はかかります。年度によってかかる予算は異なるはずなのに、今年も100万円、来年も100万円、再来年も100万円という具合に予算を決め、さらには使い切るようなシステムにすれば、財政が赤字になってしまうのは当たり前です。松下幸之助が考えたアイデアは、いまでは世界で当たり前のように行われているというのに。
現在、ドバイのあるアラブ首長国連邦(UAE)は、国民全体の約10~20%が自国民、残りの約80~90%が外国人で形成されています。自国民であれば医療費は無料、教育費も無料、所得税、相続税、贈与税といった税金も無税です。唯一、2018年から導入された消費税5%があるくらいです。月給100万円の仕事に就いている人であれば、所得税も社会保障費もないわけですから、そのまま手取り100万円ということになります。
■日本人がドバイに学ぶべきこと
ドバイのような経済戦略を描くことができれば、多くの外国人が日本で働くことによって相乗効果も生まれるでしょう。しかし、現在、日本が行おうとしている施策は、人手不足の業界を安い労働力で補うための門戸の拡張です。
2023年7月に、岸田首相はサウジアラビア、UAE、カタールの3カ国を訪問し、帰国後の会見で、UAEの人口は1000万人であるものの、自国民は100万人で900万人の外国人と共生している、外国人を大量に受け入れて国を成り立たせている――といったことを話していましたが、まったく論点がズレていることが分かりますよね。
外国人を受け入れるならば、きちんと機能するような戦略とアイデアがなければいけません。また、ドバイは治安がとてもよいことでも有名です。これは外国人1人ひとりのIDチェックを徹底しているからでもあります。
ドバイには、どうやって生き残ればいいのか、そのヒントがたくさんある。
ドバイの首長であるシェイク・ムハンマドは、イギリスBBCのインタビューで、「なぜそんなに改革を急ぐのでしょうか?」と尋ねられたことがあります。そのとき彼は、「いまの国民に20年後、30年後に豊かになってもらいたいわけではない。国民にいますぐ豊かになってもらいたいから急ぐんだよ」と答えました。国のリーダーとは、こうあるべきです。
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国際情勢YouTuber
1971年、東京都生まれ。東京経済大学中退後、会計事務所に勤務。中東・東南アジアエリアの法人を多く担当し、駐日外国人経営者への財務コンサルティングを行う。現在は、YouTube「越境3.0チャンネル」で最新の国際情勢を発信、登録者数は23万人を超す(2024年6月現在)。著者に『第三世界の主役「中東」』(ブックダム)、『越境せよ!』(講談社)などがある。
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(国際情勢YouTuber 石田 和靖)
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