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日本の「高断熱サッシ」は欧州では違法建築扱い…喘息とアレルギーを引き起こす「日本の住宅は高性能」の大ウソ

プレジデントオンライン / 2024年9月6日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kwangmoozaa

■いい住宅で育つ子は頭がよくなる?

家の性能が、子どもの健康や頭の良さと関係があると言われても、ピンとこない方が多いと思います。でも実は、両者間には密接な関係があります。

健康面でいうと、家の性能を上げると、喘息やアレルギーの発症リスクが下がります。また、近年急増しているADHD(注意欠如・多動症)との関係も指摘されています。また、風邪をひきにくくなることもわかっています。

頭の良い子が育つという面では、家の性能と知的生産性との関係や、賢い子が育ちやすい空間づくりと家の性能とも関係があります。

筆者は、高性能な住まいづくりをサポートする会社を経営しており、高性能住宅を建てた大勢の方々の声を伺っています。本稿では、その専門家の立場から、家の性能と子どもの健康との関係や、賢い子が育ちやすい住環境について説明したいと思います。

■高断熱住宅はアレルギー・喘息の発症リスクを下げる

まず、アレルギー・喘息等の発症リスクについてです。

近畿大学の岩前篤教授によると、家を新築した3万5000人を対象にしたアンケート調査で、高断熱住宅に暮らすとアレルギー・喘息の発症リスクが下がることが明らかにされています。

この調査では、新築した家の断熱性能を3つのグループに分けて、前の家で症状が出ていたが新しい住まいでその症状が出なくなった方の割合を「改善率」としています。

岩前教授の分析では、おおむね現在の省エネ基準レベルの断熱性能(グレード4)、つまり現在新築されている標準的な分譲住宅・注文住宅に住んでいるグループと比較して、高断熱住宅(グレード5)を建てたグループのほうが、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎といった症状が、明らかに改善率が高くなっています。

【図表】各種疾患の改善率と転居した住居の断熱性能との関係

■結露は当たり前に発生するものではない

なぜ、高断熱住宅に暮らすとこれらの症状が改善されるのかという理由は、医学的にはまだ立証されていないようです。ただ、一般的に指摘されているのは、結露との関係です。

図表2のように結露が生じると、どうしてもそこにカビが発生します。カビはダニの餌になるため、結露が発生する家には、アレルゲンが増加しやすいのです。

なお、「結露は仕方がないもの」と思っている方が意外に多いようです。当社は、昨年独自に、賃貸住宅に住む方を対象にした高気密・高断熱住宅のメリットに関する認知度把握を目的としたアンケート調査(有効回答者数562人)を実施しました。

その中で、「『高気密・高断熱住宅では結露がほとんど生じなくなる』ということを知っているか?」という設問で、「信じられない」と回答した方がなんと29%もいました。断熱・気密性能と結露との関係について知らない方が意外に多いことに驚きました。

一定以上の断熱・気密性能を確保すると、普通の暮らし方をしていれば結露は生じなくなります。そのため、高断熱住宅に転居すると、結露が生じなくなり、結果として、アレルギーや喘息の症状が出なくなるようです。

【図表】表面結露で始まる恐怖の連鎖
出典=住まいるサポート

■日本の断熱性能は先進国でも最低レベル

ちなみに、欧州では「建築物理学」という日本では聞かれない専門分野があります。この建築物理学の基本的な考え方の一つに、「結露を引き起こすのは誤った設計であり、人の健康を害する瑕疵(かし)である」いう考え方があります。

そのため、新築住宅で結露が生じると施工者は責任を問われるのだそうです。日本よりも寒く、結露が生じやすい気候の国々で、結露は生じてはならないのですから、住宅の断熱・気密性能がとても高いレベルで要求されていることがおわかりいただけると思います。

高橋彰『「元気で賢い子どもが育つ」病気にならない家』(クローバー出版)
高橋彰『「元気で賢い子どもが育つ」病気にならない家』(クローバー出版)

そもそも、日本の住宅の性能、特に断熱・気密性能は、他の先進国に比べて、非常に低い水準にとどまっています。これは、専門家の間では常識なのですが、多くの方はそのことを知らず、むしろ日本の住宅性能は優れていると思っているようです。

わかりやすいのは、窓の性能です。窓は、住宅の断熱性能を決める重要な要素です。そのため、諸外国は窓の断熱性能に厳しい基準を定めています。

図表3のように、例えばドイツでは、U値(熱還流率:熱の通しにくさを示す値。小さいほど高断熱)が1.3以下のサッシでないと使うことが許されません。

それに対して、日本は地域によって基準が異なりますが、6地域(東京・横浜・名古屋・大阪・福岡等の温暖地)の基準は4.65です。

【図表】世界の窓の断熱基準は日本より高い!
出典=YKK AP

■最高性能の断熱サッシでさえ海外では“違法”扱い

さらに、日本サッシ協会の定める窓の断熱性能のラベリング制度では、2.33で最高等級の☆4つがもらえます。すなわち、日本で最高性能の評価が得られる断熱サッシは、他の国々では性能が低すぎて、使うことが認められないのです。

このように、日本で普通に家を建てるということは、他の国では考えられない低性能な家になってしまうということです。

【図表】省エネ建材等級表示区分について

当社が住まいづくりをお手伝いしたお客さまに、新居の住み心地について伺ったことがあります。小さなお子さんを子育て中の女性は、高気密・高断熱の性能にこだわったメリットの一つに、冬のお子さんとの入浴を挙げていました。

通常、冬に子どもを入浴させた後は、体が冷えて風邪をひかないように、慌てて体を拭いて服を着せるのが一般的かと思います。ところが、高気密・高断熱の家では、一年中、それも家中をほぼ同じ室温に保つことができます。そのため、冬だからといって、入浴後に慌てる必要はないのだそうです。

■高気密・高断熱住宅は光熱費がかからない

そのご家庭では、お子さんは裸が好きだそうで、一年中おむつ一枚で家の中を駆け回っているそうです。その子は、服は外に出かけるときに着るものだと思い込んでいるようだとのことです。

このような暮らしならば、子どもが風邪をひきにくくなるというのは、なんとなくイメージできるのではないかと思います。実際に、無断熱の集合住宅とUA値0.6のある程度高断熱の家では、冬の風邪の発生率が27%減少するという研究結果があります。

【図表】冬の風邪の発生率

また、寝室の暖房の「あり」「なし」で子どもの風邪の発症リスクが、インフルエンザで45%減、発熱3日以上が73%減、風邪(3回以上)が77%減というデータもあります。これは暖房使用の有無ですが、高気密・高断熱住宅ならば、寝る際に暖房を切っていても朝までそれほど室温は下がらないため、実質的には暖房しているのと同じことです。

低断熱の家では、光熱費を考えると、一晩中冷房・暖房をつけることを躊躇する方が多いと思います。その点、高気密・高断熱住宅ならば、光熱費を気にすることがなく、健康・快適に暮らすことができます。

【図表】寝室暖房「あり」「なし」の風邪発症リスク比較

■シロアリ薬剤が発達障害を引き起こす可能性

一方で、住宅が引き起こす子どもの健康被害についてもお話ししておきます。多くの住宅会社が使用しているシロアリ対策の薬剤は子どもの脳の発達障害を引き起こす可能性があるというのは、知らない方にとっては衝撃的な事実かと思います。

諸外国とは異なり、日本では不思議なことにシロアリ対策(防蟻)に使用されている薬剤は、合成殺虫剤系が主流を占めています。

特に、「ネオニコチノイド」と言われる、EUではミツバチの大量死につながるとされて屋外使用が禁止されている農薬を防蟻剤として使用している住宅会社が多数を占めています(〈家の寿命が「たった30年」なのは先進国で日本だけ…「シロアリだらけの家」を住宅業界が放置する本当の理由〉参照)。

さらに合成殺虫剤は、有機系の薬剤のため、5年程度で自然に分解されて、防蟻の効果がなくなります。そのため、新築時だけでなく、人が住んでいる状態で、5年ごとにこの薬剤を床下の構造材に塗布するということが行われています。

そして、この「ネオニコチノイド」は、自閉症・ADHD(注意欠如・多動症)の発症に関係があるとされているのです。環境脳神経科学情報センターの黒田洋一郎氏、東京都医学総合研究所の木村(黒田)純子氏の論考「自閉症・ADHDなど発達障害増加の原因としての環境化学物質――有機リン系、ネオニコチノイド系農薬の危険性(上)」では、化学物質が子どもの発育に深刻な影響を及ぼすとして警鐘を鳴らしています。

床に寝転がって笑う小さな二人の子供
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

■人体に無害な防蟻処理法はある

信州大学医学部の研究グループによると、2010~2019年度の間に0~6歳の子どものADHDの年間発生率は2.7倍に増加しているそうです。この増加傾向と、合成殺虫剤系の防蟻剤との相関関係は明らかにはされていませんが、とても気になるところです。

防蟻に合成殺虫剤を使わなくても、効果に永続性があり、人体に無害な防蟻処理方法は存在しており、意識の高い工務店はそれを採用しています。家を建てる際には、人体に無害で永続性のある防蟻処理を採用している工務店を選ぶことをお勧めします。

最後に、賢い子どもと住環境の関係について触れたいと思います。2006年に出た『頭のよい子が育つ家』(四十万靖、渡邊朗子 日経BP社)では、中学受験で有名中学校に合格した子どもたちが、どのような自宅や子供部屋で勉強していたのかを徹底的にリサーチしています。

■勉強するのに「立派な子供部屋」は必要ない

四十万氏は、子どもはものごとを受動的に教えられるときよりも能動的に創造するときに学習効果が最大に高まると指摘しています。

そこで、頭のよい子が育つ家のためにはつぎの3Xが重要だそうです。

explore 探求する
exchange 共有する
express 表現する
『頭のよい子が育つ家』より。栄光学園に合格したA君の家
『頭のよい子が育つ家』より

そのため、頭のよい子が育つ家では子どもは勉強部屋に引きこもることなくあるときには家のベランダや庭にまで自分の居場所を作り、そこで勉強したり家中で本を読んだりしていたのです。

■「扉を開けっ放しにしても大丈夫な家」にする

家全体で家族の気配が感じられる開放的な空間・間取りというのは、日本の一般的な住宅では、各室ごとに冷暖房するため、冷暖房光熱費を考えるとなかなか難しいかもしれません。

四十万 靖、渡辺 朗子『頭のよい子が育つ家』(日経BP)
四十万 靖、渡辺 朗子『頭のよい子が育つ家』(日経BP)

冷暖房をしている季節に、子どもが扉を開けっぱなしにしていると親に怒られる家も少なくないのではないかと思います。その点、高気密・高断熱住宅ならば、パブリックスペースやセミパブリックスペースを豊かにしたり、各室の扉を開けっぱなしにしたりしていても、冷暖房光熱費は変わりませんから、ストレスなく、開放的な空間で過ごすことができます。

このことが、意外なことに、子どもが母親の気配を感じて、安心して勉強に取り組むことにつながるようです。

子育て世代で、これから家の新築やフルリノベーションをお考えの方は、ぜひ、子どもの健康や家族の気配を感じながら勉強できる環境を考慮して、高性能な住まいにすることをお勧めしたいと思います。

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高橋 彰(たかはし・あきら)
住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長
千葉大学工学部建築工学科卒。東京大学修士課程(木造建築コース)修了、同大博士課程在学中。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)などがある。

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(住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長 高橋 彰)

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