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「英語がペラペラな子」に育てるはずだったのに…英才教育で子供を潰す「教育熱心な親」の悲劇的な結末

プレジデントオンライン / 2024年9月8日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

子供を学習塾や英会話教室に通わせれば、頭のいい子に育つのか。『子どもの隠れた力を引き出す 最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)を書いた小児科医の成田奈緒子さんは「ハードな塾通いで不登校や体調不良を訴える子供を数多くみてきた。幼少期から英語を学ばせることが、かえって子供の脳の発達を妨げることになる」という。成田さんへのインタビュー(前編)をお送りする――。(構成=文筆家・佐々木ののか)

■受験で“壊れる”子どもたち

――本書では、毎日のハードな塾通いによって心身を壊してしまう子どもの事例が紹介されています。子どもたちにはどのような症状が出るのでしょうか。

受験にあたって不適応を起こし、髪の毛を抜いてしまったり、手を洗い続けないと気が済まなかったり、塾に行こうと思うと下痢が止まらなくなったりと、不登校や体調不良などの症状を訴える子どもをこれまでにたくさん見てきました。親や塾から抑圧され続けた子どもがついに耐えかねて、全身でストレスを表現した結果だと言えます。

――症状がそこまで深刻化する前に、親は子どもの異変に気付かないのでしょうか。

本来ならば、親御さんがもっと早くに気づけたはずだと私も思います。ただ、塾で良い成績を取ることが最も大切だと思っている親御さんは視野が狭くなっていて、子どもの成績しか目に入らず、知らず知らずのうちに負担を強いてしまっているようです。

――体調を崩してしまう子どもの親は、どのようなNG行動を取っているのでしょうか?

NG行動は大きく2つに分かれます。1つは、「努力は必ず報われる、頑張れ」などと根性論を押し付けるケース。もう1つは、表面上は非常に優しく接しつつも、「私の思い通りにならないあなたは嫌いよ」という“裏メッセージ”を発しているケースです。

後者の場合はとくに、子ども自身も無意識のうちに親の顔色をうかがって行動するため、ストレスがかかっていると本人も気づけないことが少なくありません。

両者に共通する問題点は、子どもに目的意識が芽生える前に親御さんのエゴを押し通そうとすることです。親や先生に言われるがまま受験に臨んだとしても、本人に学校に通うモチベーションがなければ、受験勉強のやる気も起きません。中学受験を選択するのであれば、なによりもまず子どもの意思を尊重することが大切です。

■偏差値だけで志望校を選んではいけない

――中学受験において志望校はどのような基準で選ぶべきでしょうか。

志望校選びで最も大切なのは、偏差値の高さや進学実績ではなく、子どもと志望校の校風との相性です。校風が合っていないと、せっかく努力して合格してもさきほども紹介したように心身に不調をきたしてしまう場合もあります。

勉強中に眠りに落ちる女の子
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

私が知っているお子さんは、小学受験から親御さん主導で名門校に通っていました。中学受験でも偏差値70超えの難関校に合格したのですが、その学校は楽器を弾くことが好きだったりアニメが好きだったりと、とてもおとなしい生徒が多い穏やかな校風なんですね。

ですが、お子さんは活発に体を動かすのが大好きで、ちょっと羽目を外すくらいの遊びを好む……と、学校の校風と明らかに合ってなかったのですが、親御さんはそうした視点はまったく持ち合わせていなかったようです。

お子さんは夏休み明けから学校に行けなくなり、最終的には退学してしまいました。その後は公立中学に通い始めますが、やはり不登校になってしまい、「お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃになった」と親御さんに罵詈雑言を浴びせたそうです。

■学力ではなく校風との相性を考えるべき

――志望校選びをするうえでは、偏差値と同じくらいかそれ以上に校風も重要なんですね。

学校に通えなくなってしまっては元も子もありませんからね。子どもの幸せを本当に願うなら、子どもが楽しく通える学校を探すべきだと思います。

私立中学を受験する場合は「建学の精神」を確認します。「建学の精神」では、その学校がどのような理念に基づき、子どもたちをどう育てていくのかを世間に対して謳っているので、各学校が目指す方向性はある程度把握できるでしょう。そのうえで、オープンキャンパスや学校説明会に参加すると、そうした理念が体現できているかを自分の目で確認できます。

志望校選びをする際は、学校の校風を調べたうえで、お子さんを日頃からしっかり観察し、本人との相性を見極めていただきたいですね。

■最初から偏差値を重視する親は少ない

――そもそもなぜ、親御さんは偏差値ばかりを重視してしまうのでしょうか。

お話を聞いていると、最初から偏差値を重視していたという親御さんはそれほど多くないんです。子どもの受験を応援していくなかで、ママ友や塾の先生たちの影響を受けていくケースが多い印象があります。

多くの親御さんはまず、周りのママ友から「中学受験をするのが当たり前」というお話を耳にするんですね。それで塾を探し始めて説明会に足を運んだ結果、塾の先生たちが親御さんを“洗脳”していくというパターンです。

某有名塾の成績優秀者が集まるクラスでは、テストの点数順に席順が決められて、子どもの競争心が煽られます。テストを終えるたびに子どもたちが「お前、俺より点数が下がったな」などと言い合う光景も珍しくないようです。

■「サピ疲れ」する親子たち

――偏差値を重視する教育を選んだ親子には、どのような問題が起こることがあるのでしょうか。

親御さんは学校からも塾からも煽られるので、塾から帰ってきた子どもを夜中まで勉強させます。宿題も膨大に出されるので、課題のことだけで頭がいっぱいになり、子どもを観察する余裕がなくなった結果、子どもの身体が発しているSOSにも気づけなくなる。

塾に強いられた過酷な環境によって親子ともに疲弊することを、有名な進学塾の名前をもじって「サピ疲れ」と呼ぶそうです。サピ疲れから逃れた親御さんは「あんなにクレイジーな場所に自分の子どもを行かせていたなんて」と言いますが、渦中にいると気づけないようですね。

■バイリンガル教育は子どもの脳への負担が大きい

――本書では、脳科学の理論から見た、早期のバイリンガル教育の問題点についても触れられていました。どのようなところに問題があるのか教えてください。

日本語と外国語の両方を均等に扱えるならば、それは学業や仕事に生かせる素晴らしいことだと思います。ただ、脳科学の専門家である私からすると、それは非常に稀なケースです。

アルファベットを使って単語を学ぶ小学生
写真=iStock.com/BlessedSelections
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BlessedSelections

少し専門的な話になりますが、言語野という側頭葉の言語機能を司る場所があります。幼少期から母語と第2言語に接する中でバイリンガルに育った人の脳では、2つの言語を司る側頭葉の言語領域がより接近していて、2つの言語を極めて自然に行き来して使えるようになることが証明されています。

しかし、これがうまくできない極端なケースでは、第1言語は左脳で、第2言語は右脳で、というように処理する部位が大きく離れてしまうことが報告されています。そうなると、英語で考えたことをスムーズに日本語に言い換えることが難しくなり、母語で習得する学習の場面で内容を理解することができなくなるかもしれません。リスクを冒してまでやる必要はないというのが私の考えです。

――母語での理解がスムーズに進まないとなると、本末転倒ですね。

おっしゃるとおりです。そもそも、母語である日本語を習得するだけでもすごいことなんですよ。周りの人間が喋っている様子をじっと見て、口の動きを見ながら音の出し方を練習して、「この人と通じ合いたい」と思う一心で、言葉を発してコミュニケーションをとろうとする。こんな奇跡に近いことを2つの言語で同時に行おうとしたら、子どもの脳にとって負荷が大きくなると言わざるを得ません。

まずは、1階の母語で土台をしっかり作る。そのうえで2階に外国語での言語形態を組み立てていかないと、多言語習得は難しいと思います。

■自宅にいるのに外国で暮らしているような気分になる

――脳科学的な子育ての観点以外でも、早期のバイリンガル教育の問題点はあるのでしょうか。

最も典型的なのは、親子の間で意思の疎通がしにくくなり、お子さんにフラストレーションが溜まるケースですね。

リビングルームに一人で座っている子供
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

外国語メインで育ったお子さんは、外国語でのコミュニケーションがベースになります。しかし、外国語がそれほど堪能ではない親御さんはお子さんとスムーズな意思疎通ができません。言うなれば、お子さんは自宅にいるのに外国で暮らしている気分になってしまいます。その結果、お子さんがフラストレーションを募らせ、暴言や暴力となって爆発することもあれば、「親とは関わりを持ちたくない」と言って家出してしまうこともあります。

また、母語をしっかりと習得することは、外国語を使ったコミュニケーションをとることにも結果的に活きてきます。コミュニケーションには言語だけではなく、相手の表情から感情を読み取る「ノンバーバル(非言語)」なやりとりも含まれます。外国語話者も表情の読み取りはするので、単語や発音が多少おかしかったとしても、相手の表情が読み取れればコミュニケーションは成立するんです。

そういった意味でも、お子さんが小さいうちは、親御さんにとって最も親和性が高い言語に統一して、コミュニケーションをとってほしいと思います。

■父親が子どもに話しかけるのを禁止する家庭も

――実際に外国語学習を優先的に行う家庭では、どのようなことを行っているのでしょうか。

私がこれまでに会った親御さんの中にも、お子さんを幼稚園からインターナショナルスクールに入れ、日常的に英語で話しかけているというお母さんが複数いらっしゃいました。その方たちによるとインターナショナルスクールによっては、日本人が入学できる条件として日本語が話せないことを挙げている場合があるそうです。なので、日本語のテレビはもちろんのこと、英語が苦手な家族は、お子さんに話しかけることを禁止することもあるそうです。

ネイティブスピーカーのようにスラスラと話せるわけではなくあくまでも、学校教育において英語の成績がよかった、あるいは仕事で少し英語を使っている程度の英語力しかない家族と英語だけで話す。こうした環境で育ったお子さんが成長したときに、親子間に亀裂が生まれないか勝手ながらとても心配しています。

■インターナショナルスクールの“意外な弊害”

――子どもをインターナショナルスクールに通わせること自体にも、子どもへの悪影響はあるのでしょうか。

子どもをインターナショナルスクールに通わせると、子どもの脳に負担をかけるだけでなく、キャリアにも悲惨な結果をもたらす可能性があります。

多くのインターナショナルスクールは、「学校教育法第1条に規定する学校」に該当しません。要するに、日本の高等学校相当を卒業したとみなされないのです。ただ、「学校教育法第1条に規定する学校」として認定を受けているインターナショナルスクールや、「外国の高等学校相当として指定された学校 」を卒業するなど、いくつかの条件をクリアすれば日本の大学への入学資格を得ることができます。

ですが、英語教育を優先するあまり、これらの情報を知らずにお子さんをインターナショナルスクールに入れてしまう親御さんも少なくありません。もちろん外国の大学には進学できますが、お子さんの国籍が日本であれば、長期間就労できるビザが取得できないのです。つまり、外国で就職する道も閉ざされてしまいます。

――「英語だけがすごく上手な、行き場のない人材」になってしまうんですね。

そうしたお子さんが、外国の大学は出たものの、就職先がなく、「この先どうしよう」と路頭に迷ったときに、親に人生を狂わされたと感じて親を捨てたくなるケースも実際に見てきています。親御さんとしては「インターナショナルスクールにどれだけお金をかけたと思ってるの」と怒りたくなるかもしれませんが、それはあくまで親御さんのエゴですからね。

もちろん、インターナショナルスクールから海外大学に進学し、成功をおさめている人もいると思うのですが、この進学コースには構造的な問題点があることを理解する必要があります。お子さんをインターナショナルスクールに進学させる場合は、中長期的なキャリアについてもよく考えていただきたいと思います。

■英語学習は何歳からでも始められる。

――では、子どもの英語教育はどのように進めていけばいいのでしょうか。

重要なのは、英語に興味を持ってもらうことです。語学というのは「どうしてもこの言葉を話したい」という欲求や必要性に駆られれば、自ずと身につくものだということです。タイミングは人それぞれ異なりますし、何歳から始めても遅いということはありません。

そこで、英語の早期教育よりも私がお勧めするのは、日常生活の中で子どもが自然と英語を好きになれる環境を提供してあげることです。自宅に外国人の友達を招いたり、一緒に英語のアニメを観たりと方法はいくらでもあります。本人が英語に興味をもち、自ら学びたいという思いを育てることができれば、子どもはひとりでに勉強し始めます。

勉強する子供
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

■「英語への情熱」を育てるべき

わが家の場合、娘にとって英語学習のきっかけは演劇と海外ドラマでした。学習塾や習い事にほとんどお金をかけなかったわが家では、その代わり、ミュージカルやコンサートにはお金を惜しまず、家族で頻繁に出かけていました。理由はもちろん、私自身が歌や演劇が大好きだからです。

舞台やライブではその瞬間、その場所にのみある「気」が、五感すら超えたところから脳に刺激として入ってくるような気がします。この体験を超える脳育てのツールは、他にないのではないかと思うほどです。

むしろ、早期教育や英会話教室などではなく、娘は自分の中で英語への情熱をじっくり育てることができたからこそ、演劇やDVDが起爆剤となり、伸びるべくして伸びたのだと思います。

■叱るポイントは最小限に抑えるべき

――本書では、「子どもが問題行動を起こしても、厳しく叱ったり悲しんだりする必要はない」というお話がありましたが、どのようにしつけをするのが理想的なのでしょうか。

もちろん叱るべきケースもありますが、叱るポイントは限られていると思います。具体的に言えば、「人の命を奪うこと」と「自分の命がなくなること」の2つくらいではないでしょうか。

机の上にうつ伏せに横たわり、両親に叱られる少年
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

それ以外のことは叱らずに解決できることがほとんどです。たとえば、子ども自身が自分のしたことを安心して打ち明けられる環境を作っておけば、「次に同じようなことがあったときにはどうしたらいいかな」と未来の話をすることができます。

多くの親御さんは、お子さんが「部屋を片付けないこと」や「宿題をしないこと」などに対して業を煮やしているようです。しかし、不必要な場面で子どもを叱ると、子どもの反発心を増したり、自己肯定感を下げたりしかねません。脳科学の観点から言っても、叱ることは最小限に留め、親子でのんびり過ごしたり、楽しく話したりするほうが有益です。

■「3歳児神話」には科学的な根拠はない

――本書では「子どもが3歳までは母親が子育てに専念するべきだ」という考え方は間違っているという話がありました。脳科学的にはどのように捉えられているのでしょうか。

成田奈緒子『子どもの隠れた力を引き出す 最高の受験戦略』(朝日新書)
成田奈緒子『子どもの隠れた力を引き出す 最高の受験戦略』(朝日新書)

戦後の日本で流行した、「3歳児神話」という育児論のことですね。

脳科学の観点から言うと、親子の愛着と時間の長さに因果関係はなく、親子の愛着は「不安のない親」が「不安のない子ども」と接することにより育まれます。

0歳から子どもを保育園に預けていたとしても、子どもと過ごす時間を心から楽しんでいるのであれば、子どもの脳の発達にはいい影響をもたらします。自宅保育をすることで家事や育児のストレスに晒されるくらいなら、お子さんを保育園に預けて、親御さんが健やかでいるほうがよほど健全な親子関係を形成できます。

――親御さんの心のゆとりが、お子さんの安心に直結するんですね。

お子さんに関して心配なこともあるかもしれませんが、子どもの脳の発達には時間がかかります。親にできることは、焦らず、信じて待つこと。「待つ」というのは、心に余裕がなければできません。

「子どもを笑顔にしよう」と思うなら、とにかく親御さんが笑顔でいることを意識していただきたいですね。(後編につづく)

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成田 奈緒子(なりた・なおこ)
文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士・公認心理士。1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)、『子どもの隠れた力を引き出す最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)など多数。

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(文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子 構成=文筆家・佐々木ののか)

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