「偉いね」「いい子だね」の声かけが子供をダメにする…「褒められ中毒」になった子が大人になって直面する困難
プレジデントオンライン / 2024年9月12日 9時15分
■子どもをむやみに褒めるのは危ない
子育てのさまざまな場面に関わるようになって、プロのコーチとして気になることがあります。それは、子どものご機嫌を取ろうと思うのか、子どものことをむやみに褒める大人がいることです。
褒めること自体は悪いことではありませんので、適宜使うのはいいと思います。ただし、この褒めるという行為には、強い影響力があり、褒め方を間違ってしまうと、褒められたことしかやらないような子どもが育つリスクがあるのです。
たとえば、「偉いね」という表現を安易に使っている人、いますよね。
「お皿を片づけて、偉いね」
「泣かなくて偉いね」
でも、冷静に考えると、「偉いって何?」「早起きができない人は偉くないの?」「泣いた人は偉くないの?」ということになります。
できたことに対して、「偉いね~」「すごいね~」「うまいね~」「いい子だね〜」と褒めてばかりいると、できた、できないが評価の対象になってしまいます。
褒めることは、ポジティブな強い刺激になるため、常習性があります。そのため子どもの思考の中では、「褒められると嬉しい」→「もっと褒められたい」→「褒められることを率先してやる」というパターンが生まれやすいのです。
■“褒められる喜び”に支配されてしまう
子どもはまるで乾いたスポンジに水を含ませるが如く、極めて従順な状態で褒められる喜びに支配されていきます。そして、「褒められればやるけれど、褒められなければやらない」というマインドが醸成される可能性があるのです。
このプロセスは、少しオーバーにいえば洗脳に近いもので、「褒められ中毒」になる危険性があります。「褒められ中毒」になると、より強い褒め言葉でないと反応しないようになります。
そして、そうやって育った子が成人して、ビジネスパーソンとして社会人デビューすれば、「上司から言われたことしかやらない大人」「褒められないと不安になる大人」になってしまいかねません(実際にコーチングをやっていると、「私、人に褒められたいんです」とおっしゃる方がたくさんいます)。
年齢的な目安では、乳児から幼児期に褒めるのは大切なことだと多くの育児書にも書かれていますが、子どもが小学校に入学したあたりからは、褒めすぎないように注意しましょう。
「1日に何回褒めているか?」「意味もなく褒めていないか?」を意識するようにしたいところです。
子どもが小学生になると、親戚やご近所などから、むやみに褒められる機会が増えます。そういう褒め方をする人が周りにいたら、可能なら、なるべく子どもと接触させないようにしてもいいと思います。
■褒めるのではなく「承認」すればいい
子どもは、安易に褒めるより、承認の言葉を伝えることが大切です。
「お皿を片づけて、偉いね~」ではなく、「お皿を片づけてくれたんだね」。
「泣かなくて偉いね~」ではなく、「泣かなかったんだね」。
「偉いね」という「主観」の入った言葉ではなく、とてもニュートラルな立ち位置から承認の言葉を使うことにシフトしてほしいのです。
どうしても自分の思いを伝えたいときは、次のように、まず、事実であるコトやモノを承認してから、プラスアルファで伝えればよいのです。
「キレイに片づけてくれたね。ありがとう」(事実の承認+感謝)
「朝、自分で起きられたんだ。さすがだね」(事実の承認+相手への承認)
この承認のあとで感情を伝える手法は「イエス・エモーション話法」といいます。ただこれだと、いい結果が出たときにしか使えません。
■当たり前のことでも「承認」してみる
そこでもうひとつ、プロセスを承認する方法も使ってみてください。
「考えていることを言葉にできたね。おかげでよくわかったよ」
「毎日、ちゃんと練習しているね。感心するよ」
プロセスを承認するのなら、大きな結果が出たとき以外にも、日常の些細なことなど、どんなときにも使えるというメリットがあります。合言葉は「褒めるより認めよう」でしょうか。「学校、行ってきたんだね」と、それだけでも十分です。
伝える側からすると、ちょっと「小っ恥ずかしい」というか、そんな当たり前のことを伝えてもどうにもならないのではと思うかもしれません。
しかし、伝えられる側からすると、「あ、なんか存在自体を大切にしてもらっている」「あなたはそこにいるだけでOK」という、ある意味、存在証明として承認をしてもらったような気持ちになるのです。
そんな体験は、子どもが家を心地よい「居場所」と感じるための大きな手助けになりますし、中長期的に子どもの自己肯定感を醸成することにつながります。
■否定したくなったら「それもいいね」と言ってみる
子どもと会話していて、子どもの言葉を否定したくなってしまったとき、いったいなんと言えばよいのでしょう。そんなときは、次のような言葉が使えます。
「それもいいかもね」
「それは新しいね」
「なんとなくわかった(半分くらいわかった)」
「それ、何か理由があるんでしょ」
「なんか面白いね、それ」
自分には理解できなくても、「そういう考えを持っているんだね」ということをとりあえず認めることを優先させてみてください。たとえば、子どもがどこかからか見たこともない木の実のようなものを拾ってきて、それを水につけて冷凍庫で冷やしていたら……。
常識的には「いったい何やってんの? 気持ち悪いから捨てて」などと言ってしまう方もいるかもしれません。でも、そこで、
そんな反応をすると、子どももテンションが上がるのではないでしょうか。否定をせずに、こんな言葉で返し、子どもが飽きた頃に「これ、そろそろ捨てる?」と聞くと、穏やかにことが進むわけです。
■わが子を本当に“信じる”ことが一番重要である
「○○ちゃんなら大丈夫」
「信じているよ」
このような言葉は、子どもに行動をさせるだけでなく、自己肯定感を高めることができる言い回しです。こんな声かけをして、子どもが実際に一人でできたら、それが自信になって、次からは何も言わなくても自分からやるようになります。
私たち大人も同じですが、誰かがあなたのことを「あなた以上に」信じてくれたとしたら、「なんかできるような気がする」と自信が湧いてきたりしませんか?
何より大事なのは、子どもに対して信じると伝えて本当に信じることです。子どもの言うことだから信じないではなく、我が子の言うことは親として全面的に信じてあげるのです。
「周りから否定されたとしても、親だけが信じてくれた」その体験が、子どもに根拠なき自信をつけさせるのです。
私の尊敬するコーチング業界のレジェンド、安海将広コーチは「クライアントに根拠のない自信を持たせることがプロのコーチの仕事」と公言しています。
口先だけの「信じる」は、子どももすぐに見抜きます。子どもでなくても部下や誰かに言う「信じる」は、その後の言動も大切です。信じると言ったのに、本当は信じていなかった。これが一番相手を傷つけます。
そして、本当に信じたとき、相手ができなかったとしても、それを許したり、認めたりすることが大切です。嘘をついたり、騙そうとしたりしたときは叱る必要がありますが、ただ「できなかった」という結果に対しては、寛容に受け止めるようにしましょう。
親が信じてあげられなくて誰が信じるのでしょうか。誰もが自分のことを信じられる強い心を持っているわけではありません。親が信じてくれるという安心感が、子どもの心を強く育てていくのです。
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否定しない専門家/コーチ
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。リーダー育成家。一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、エグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。これまでに大手企業などで2万人以上のリーダーに指導してきた。否定しないコミュニケーション術をまとめた『否定しない習慣』(フォレスト出版)が14万部を超えるベストセラーになる。このほか『できる上司は会話が9割』『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』『できるリーダーになれる人は、どっち?』(いずれも三笠書房)、『いまを抜け出す「すごい問いかけ」』(青春出版社)など著書多数。
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(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)
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