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地方移住者が後で天を仰ぐことになる"判断ミス"…医療水準 収入 子供学歴「全低下」回避法を"移住10年"が指南

プレジデントオンライン / 2024年9月7日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Titiphong Nasaeng

都市部居住者の中には、ゴミゴミした都会を離れのどかな田舎へ移住することに憧れを抱く人が多い。だが、地方に住むことにはメリットだけがあるわけではない。10年前に神奈川県から東北のある県に移住した大学教員の榮田いくこさんの実体験や見聞きした現実を紹介しよう――。

世の中には移住を希望する人がたくさんいますが、移住先はどこがベストなのか。実家周辺がいいのか、自分の人生に無縁の場所がいいのか。今回は、大都市在住者が移住するにあたり、「壁」に感じる可能性が高いと思われることをランキング形式にし、移住考慮時に何を想定すべきかをご紹介しましょう。

■第5位 「のどかすぎる」と最悪の場合、命を左右する可能性

日本に自治体がいくつ存在しているかご存じでしょうか。実はこれ、簡単に調べることができます。「e-Stat 政府統計の窓口」にアクセスし、ページ下のほうにある「市区町村名・コード」を選択し、「市区町村数を調べる」を選ぶだけ。2024年8月上旬現在、1724の市区町村が存在します(東京都の特別区23区を含む)。

筆者が首都圏から10年前に移り住んだ東北の県には40の市区町村があります。国土が南北に長い日本には実にたくさんの自治体があり、それぞれがそれぞれの特徴を持ちます。移住先をどこにするか決めるのはなかなか難しいでしょう。同じ都道府県にあっても人口数千人の自治体と20万人以上の中核市では、もっている機能が異なります。

生まれも育ちも大都会という方が地方移住を望むのであれば、最初はある程度の都市機能があるところのほうがなじみやすいはずです。

例えば、リタイア後の時間を地方でのんびり過ごしたいという方。年齢を重ねると医療の世話になることも増えますが、自宅の所在地が最新・高度な医療を受けられる病院(大学病院など)から遠い場合は通院が不便です。公共交通の整備が不十分であればなおさらでしょう。万が一、救急車を呼んだときも到着時間が長くなり、最悪のケースでは、それで命を落とすリスクが高くなってしまうかもしれません。初めての地方暮らしは「地方の都会」を選ぶことをお勧めします。

筆者は8年前に乳がん治療を経験しました。放射線治療は、約1カ月半程度、土日祝日以外毎日通院し、その後も術後5年経過までは3カ月に1度の通院が必要でした。幸い自宅から病院へのアクセスがよく体力的精神的な負担やストレスを小さくできました。この経験からも「がん診療連携拠点病院等」(厚生労働省)に掲載されているような施設に通院しやすい地区かどうかを、移住先の条件としてはいかがでしょうか。

■第4位 「いったん賃貸住まい」のハードルが高い

思い切って全く知らない土地に移住すると決めたとき、いきなり住宅を購入するのは「賭け」です。都心部に比べ地価や住宅代が安いメリットはありますが、物件の選定には時間がかかるでしょうし、購入費の資金調達に住宅ローンを使おうとすると、当地での職歴を問われることもあるようです。筆者が知る地方某所への移住経験者も、「当地で1年以上の勤務実績がないと融資されない」と言われたそうです。すべてがこういうケースではないかもしれませんが、想定しておいたほうがいいでしょう。

ならば、賃貸物件はどうか。これも、仮に移住時に無職だと賃貸借契約を結びにくいケースがあるようです。住宅を貸す側の立場に立てば、確かに定職に就いている方に貸したいと考えるでしょう。前回記事でも述べましたが、場所によっては賃貸物件そのものが少なく、選択肢が乏しいこともあります。よって、「いったん賃貸住まい」のハードルは思いのほか高いと言えます。

例えば、1年ぐらい公営住宅に住ませてくれるような移住者向けの自治体のサポートがあればハードルは下がるでしょう。実際、移住者向けの公営住宅を用意しているところもあるので、事前の調査は必須です。

サツマイモを収穫している手元
写真=iStock.com/okugawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/okugawa

■第3位 移住費用はそれなりにかさむ

筆者が夫と2人で首都圏から東北の県に移住するときに使った総費用は約300万円でした。内訳は以下の通りです。

・住居を借りる費用:約35万円

築浅の2LDKのアパートを借りるために不動産仲介業者に払った費用です。1.5カ月分の前家賃と家賃1カ月分の仲介料、火災保険料が込みです。生活に便利な場所で冬の降雪対策で融雪装置が駐車場と歩道に導入されている物件を選んだので家賃は周辺相場より少し高かったかもしれません。とはいえ、西日本出身の夫は雪かきの経験がほとんどなかったので、融雪装置付きの物件を借りたことは冬の生活を快適にしてくれました。

・引っ越し費用:約37万円

これはモノの量と作業の量、移動する距離によるでしょう。筆者は移住時に時間がなかったので、梱包も業者にお願いしたのでやや高額になったと思います。

・家具や家電などの購入費用:約30万円

これは、すでに所有しているものなどをそのまま使うのであれば、発生しませんからその世帯によって金額が変わると思います。

・乗用車購入費用:約200万円

首都圏時代は駐車場の高さがネックで乗用車所有を諦めていましたが、地方では移動の必需品だろうと考え、5ナンバーの新車の小型車を購入した費用です。

乗用車の値段や引っ越しの費用は10年前に比べると現在は上昇していると思います。

300万円は10年前のわが家の例です。どんな移住をするかによって金額は異なりますが、最低限の初期投資が必要なのが地方移住です。筆者の例が参考になれば幸いです。

■第2位 人間関係構築力が必須

筆者の父は転勤族でしたので、自分が幼いころから転居が珍しくありませんでした。

しかし、どんな地域にも産まれてから今まで引っ越しすらしたことがないという方が必ずいらっしゃいます。それは地方には大都市より多いように感じます。

そのような方は、「よその地域」をご存じありません。そして、そのような方には生まれてから暮らしてきたその地域が生活のスタンダードです。ほかの地域で暮らしたことがないのですから当然です。

移住者は、このような「長く当地に住んでいらっしゃる」方たちが持っている知識や情報を上手に利用できると、快適に暮らせます。平たく言えば、「ご近所づきあい」が適度に上手かどうかで、地方暮らしの快適度が異なるでしょう。

一方、ちょっとしたことでも「私がかつて住んでいたところでは……」と比較してしまうと、「よそ者さんはね……」みたいな印象を持たれてしまう恐れがあります。「郷に入っては郷に従え」とはよく言ったもので、「ローカルルール」を尊重する人間力が大事だと思います。ご近所さんから「教えを乞う」気持ちが大事です。

■第1位 収入と日々の暮らしのギャップ

厚生労働省の賃金構造統計調査(令和4年)の都道府県別の月別賃金比較を見ると、全国平均は31万1800円で、平均を超えているのは、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県の5都県だけでした。単純な話、この5都県以外で暮らすなら、収入は平均より低くなることを覚悟したほうがいいということです。

【図表】都道府県別賃金(男女計)
出典=令和4年 賃金構造統計調査結果

筆者も移住して働き始めたとき、収入がダウンしました。ただ、約2倍になった水道代をはじめ光熱費が上昇した一方、それ以外の出費は減りました。なぜなら、仕事が終われば寄り道することなくまっすぐ帰宅し(店の閉店時間がたいてい早い)、首都圏時代は多いときでスタジアムでのサッカー観戦を年30試合していたものがほぼゼロになったからです。仕事帰りにどこかで飲食をすることもほとんどなくなりました。多くの方が自家用車で通勤しているため、今日どこかに立ち寄って一杯なんてお誘いを受けることもほとんどありません。そのため収入が低くなっても月の収支が赤字になることはありませんでした。

■子供を首都圏など都心部の大学に進学させたいなら

とはいえ、生活費の構成は世帯によってさまざまです。子供がいる家庭であれば、どのような教育を受けさせたいかによって、教育費(授業代、塾代、習い事など)に違いが出ます。どこに住もうと子供が将来しっかり稼げる人になってもらいたいと親は考えるはずで、子供の稼ぎのベースは学歴と考える方が多いかもしれません。

前出の賃金構造統計調査では学歴別の賃金も公表しています。同じ年齢階級であれば高学歴のほうが賃金は多くなっています。

【図表】学歴、性、年齢階級別賃金及び対前年増減率
出典=令和4年 賃金構造統計調査結果

筆者はファイナンシャル・プランナーとしても活動しており、相談を受けています。子育て世代から寄せられる主な内容は、大学など高等教育の費用の工面について。相対的に低い地方暮らしの世帯収入の中で、いかに教育費を賄えばいいか、というものです。

将来的に子供を首都圏など都心部の大学に進学させたいのであれば、居住地で進学させるより子供の生活費や仕送り費などがかさみます。その備えを作りたいのであれば、給料や時給が低いと想像される、のどかすぎるエリアへの移住は回避したほうが無難でしょう。

文部科学省「学校基本調査」(令和5年)の都道府県別の大学短大進学率を見ると、図表3のような結果となっています。50%未満は、東日本では岩手、秋田、山形、西日本では山口、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄。私の住む東北の県は50%を少し超えていました。この値は、それぞれの都道府県にどれだけの数の大学短大があるかで違いがあるでしょう。東京都や京都府の値が非常に高いのはそのような理由だと解釈しています。

【図表】都道府県別の大学短大進学率
出典=令和5年 学校基本調査結果を用いて筆者算出 

■子供の就職などにめどが立ってからの移住がいい

別の角度からも考察しました。前出の賃金構造統計調査と、この大学短大進学率の順位相関係数を計測したところ、0.832という非常に高い値になりました。端的に言えば、2つの値だけで判断するならば親の賃金が高ければ、子供の大学短大進学率も高いということになります。

筆者の知人は、東京で子供が大学を卒業し就職が決まったことを機に移住を決めました。学費・生活費などの負担が減り、親はかなり身軽になったわけです。大都市暮らしで、これから子供に高等教育を受けさせたいのであれば、地方移住は子供の就職などにめどが立ってからのほうが決断しやすいかもしれません。

■〈番外編〉

地方は大都市に比べてたいていの生鮮食品の産地が近く、食生活を充実させることも可能ですが、私が移住した先の場合、炭水化物と塩分が多いインスタント麵などの摂取量が多く、その結果、生活習慣病になる人が多いと聞きます。

その影響か、平均寿命は男女とも全国最下位という現状です。これは、ローカルニュースでも毎年報道され、行政も課題ととらえているようで、県や市町村が短命県解消のための啓蒙活動をしています。

とはいえ、どの県であれ、食習慣や疾患リスクのある人が第5位に挙げた高度な医療設備のある病院からあまりに遠い地域に住んだら、万が一の場合、死のリスクが高くなる恐れもあります。のんびりとした雰囲気を味わいつつ、自分を適度に律することができる方のほうが地方移住には向いているとも言えます。

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榮田 いくこ(さかえだ・いくこ)
大学教員
1970年青森県生まれ。北海道大学卒業後、システムエンジニア、証券アナリスト、地方公務員、シンクタンク勤務を経て、青森中央学院大学講師兼ライター。CFP、FP1級、日本証券アナリスト協会認定CMA。2014年に首都圏から青森県へ移住。人生で19回引っ越しをしている。

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(大学教員 榮田 いくこ)

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