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「有名すぎない人」のほうが効果的…インスタで3COINS商品をコツコツ広めている"インフルエンサー"の正体

プレジデントオンライン / 2024年9月11日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

パルグループホールディングスの雑貨店「3COINS」が好調だ。マーケティングが専門の高千穂大学商学部教授の永井竜之介さんは「社内インフルエンサーの育成と活用が拡散力を強化している。そこまで有名ではない“小さなインフルエンサー”の効果はマーケティングの研究・実務でも明らかになっている」という――。

■グループ成長の原動力となっているスリーコインズ

アパレルや雑貨を展開するパルグループホールディングスは、2024年2月期の連結売上高が1925億4400万円、前年度17.1%増で過去最高を記録する好調ぶりだ。その成長の原動力になっているのが、前年比28.8%増の630億6400万円を売り上げる雑貨店「3COINS(スリーコインズ)」である。

1994年に雑貨好きの社員が社内提案制度を利用し、大阪・梅田に小さな路面店を出したことから始まったスリーコインズは、いまや全国に300店超を展開する人気チェーンとなっている。このスリーコインズの躍進の背景には、ニッチな需要を掘り起こすヒット商品を作り続ける開発力と、その商品を広め続ける拡散力がある。単発ではなく、継続的にヒットを生み出し続ける2つの力こそが成長の源と考えられる。

傘に付けておいて、傘を使った後には雨水をサッと拭き取れる「傘シュシュ」。使わないときは折りたたんで、利用時は三角柱型になる「折りたたみ式メガネケース」。衣類を手洗いする際の洗濯石鹸が使いやすくなるシリコン製の「洗濯石鹸ケース」。こうした「あなたの“ちょっと幸せ”をお手伝いする」というコンセプトを体現するニッチなヒット商品が継続的に生み出され、SNSでバズって話題を呼んでいる。このスリーコインズの開発力と拡散力について、詳しく見ていこう。

3COINSの1号店(※現存していません)
3COINSの1号店(※現存していません) パルグループホールディングスプレスリリースより

■「ありそうでなかった」商品を開発

スリーコインズの300円均一の雑貨店というコンセプトは、「100円ショップは便利だけど、ちょっと物足りない」や「ちょっと安っぽすぎる」といった消費者の本音に応えることで人気を集めている。安っぽすぎず、買いやすく、実用性もデザイン性もちょうどいい商品を幅広く揃える開発力は、欠かすことのできない強みである。生活雑貨に始まり、文房具、インテリア、収納グッズ、食器、バッグや帽子、アクセサリーやコスメなど、取り扱う商品ジャンルの幅を拡大し続けている。

メインターゲットには、情報感度の高い30代女性が設定されているが、その設定に絞り込みすぎずに、あえて緩く広く、ありそうでなかった、かゆい所に手が届くさまざまな商品を開発する方針が取られている。商品部にいる20名ほどの商品企画担当は、それぞれに担当カテゴリーを持ち、店頭の販売スタッフとしてユーザーのリアルな声に接してきた経験を活かし、また自分自身の個人的なこだわりも発揮しながら、ニッチな商品を実現しているという(※1 )

推し活のトレンドに応じた、ライブ会場で使ううちわやペンライトを保護するカバーやチケットホルダーは、「まさにこういうものが欲しかった!」と歓迎された。愛猫家だけに向けた、抜け落ちたネコのひげを保管する「ひげケース」は、「マニアックすぎる」としてSNSで話題を呼んだ。

■コスパを評価されている「スリーコインズプラス」

スリーコインズは、2009年から「スリーコインズプラス」として、300円を超える1000円~3000円程度の価格帯の商品開発も手掛けている。お得さはそのままに300円均一の枠を超えた商品は、ユーザーからコスパを評価されて受け入れられている。販売において、300円均一の商品が約6割、「プラス」の高価格帯商品が約4割となっている実態から、「プラス」の商品がスリーコインズの成長の一翼を担っていることがよく分かる(※2)

2016年からはコラボレーションアイテムの展開を開始し、さまざまなメーカーやブランド、コンテンツとのコラボからヒット商品を生み出している。直近の8月には、スリーコインズが2024年で30周年を迎えたことに合わせて、同じく30周年を迎えた花王株式会社のお掃除商品「クイックルワイパー」とコラボした収納グッズを展開したり、連載30周年を迎えた人気漫画「名探偵コナン」との記念コラボグッズが即完売の大人気を博したり、コラボの積極展開が進められている。

コラボデザインのクイックルマグネットワイパー
コラボデザインのクイックルマグネットワイパー(パルグループホールディングスプレスリリースより

■「ついで買い」の好循環を実現

2018年頃には一時、成長の伸び悩みを経験したが、商品や店舗のマーケティング変更に踏み切ることで、再成長を実現した。それまで、20代前半の女性をメインターゲットに想定して流行に合わせた雑貨の展開を重視していたが、最新の顧客データから30~40代の女性の支持が高いことが分かり、メインターゲット層を変更し、「かわいさ」よりも機能性や実用性を強調する方針に軌道修正した。家事や育児に役立つ商品を重点強化し、ベージュやクリーム色の落ち着いた配色に統一、それに合わせて店舗もポップな色合いから落ち着いたナチュラルな色合いに変更した(※2)

こうしたマーケティング変更が功を奏し、スリーコインズは2019年から再成長の軌道に乗った。コロナ禍で自宅用の食器やキッチン雑貨のニーズが高まったことをきっかけに、2020年からはバイヤーお薦めの日本各地の美味しいものを提案する「ごはんもん」シリーズを展開している。食器やキッチン雑貨のついでに食品も、そのついでに生活や収納の雑貨も、さらについでにファッションやコスメも……と「ついで買い」の好循環を実現している。2023年2月には47都道府県すべてへの出店を達成し、さらなる店舗網の拡大や店舗の大型化を進めている。

■4週間のサイクルで新商品を出していく

「良いモノ」「面白いモノ」を生み出し続ける開発力と並んで、スリーコインズの大きな強みになっているのが、モノ・情報を広め続ける拡散力だ。これには、「店頭での拡散力」と「SNSを通じた拡散力」の2つが指摘できる。

店頭での拡散力は、ユーザーに「いつ行っても新しい発見がある」と思わせるほどの新商品のハイスピード展開による来店の習慣化がカギになっている。スリーコインズでは、新商品の開発から販売までを4週間という短サイクルで実現している。これは、もともとパルグループのアパレル事業で取り組んでいた方針を雑貨事業にも導入したもので、毎週、新商品が店頭に登場する体制が整えられ、毎月700から800もの新商品が発売されている(※2、3)

このサイクルが「行くたびに新しい商品がある」という評判を呼んで、ユーザーが店舗を定期的に訪れる習慣形成に成功している。売り場に来てもらえれば、あとは自慢の開発力で生み出したさまざまな商品が、ついで買いの連鎖で広まっていく、という勝利の方程式である。

スマートフォンに表示された各SNSのアイコン
写真=iStock.com/Adam Yee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Adam Yee

■「社内インフルエンサー」の活用に成功

もう1つのSNSを通じた拡散力は、社内インフルエンサーの育成・活用が原動力になっている。SNSの中でも特に重視しているのがインスタグラムで、スリーコインズの公式インタグラムはフォロワー190万人(2024年8月末)を超える人気アカウントになっている。2015年の開設以来、毎日1、2回の高頻度で新商品などの投稿が活発に行われている。この公式アカウントと相乗効果を生んでいるのが、社内インフルエンサーたちの個人アカウントの活性化だ。

2016年、さまざまなアパレルブランドで社内インフルエンサーが話題になり出した頃、スリーコインズでも「スタッフインフルエンサー制度」を発足した。全国のスタッフから立場やキャリアに関係なく、やってみたい人を募って始めた取り組みだ。当初は、10名程度が社内インフルエンサーとなり、簡単な研修やマニュアルを踏まえて、自主性に任され、それぞれが個人の目線で商品を宣伝する発信をしていく形だったという。

定期的な社内公募でインフルエンサーを増やしていき、さまざまな投稿が重ねられていくにつれて、情報発信の成功と失敗、フォロワー数の伸びるアカウントと伸び悩むアカウントなどが出てきた。そこで、成果の高いインフルエンサーを「強化インフルエンサー」に選んでノウハウを共有したり、投稿・反応のデータ分析を通じて有効な発信スタイルを発見したり、より効果的な社内インフルエンサーの活用方法が模索され続けている。

■実は有力なのが「小さなインフルエンサー」

月に1度の勉強会、インフルエンサー1人1人に合った投稿スタイルの相談、全国のインフルエンサー同士の交流会などが行われ、現在では、投稿の8割はマニュアルに沿う形として、残り2割を個人の嗜好や個性が発揮できる部分にしている。

70名を超えるまでに増加した社内インフルエンサーには、フォロワー数の増加、投稿から通販への誘導、売上貢献などに応じたインセンティブ制度が設けられており、フォロワー数が10万人を超えるものも含め、総フォロワー数は30万人を超えて活性化している。「こんな魅力がある」といった商品の作り手目線と「こうすれば使いにくさを解消できる」といったユーザー目線、企業とユーザーの中間にいるような目線からの投稿が人気を集めている(※4)

商品を広める際、強力な発信力を持つインフルエンサーを活用することは、いまやマーケティングの常套手段の1つといえる。しかし、ただ有名なインフルエンサーを活用すればいいわけではない。近年、沢山のフォロワーを持った大きなインフルエンサーに頼るよりも、そこまでフォロワー数は多くなくても、質の高い投稿を続ける小さなインフルエンサーを活用した方が、商品やブランドの継続的な拡散に有効であることが、マーケティングの研究・実務の両面で明らかになっている。

渋谷スクランブル交差点を見渡すだけで、SNSの投稿に反応している人がたくさんいる
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■「有名人すぎない」ほうが共感を広げられる

芸能人やスポーツ選手に代表される大きなインフルエンサーの影響力は、瞬間的には強く、広範囲に発信されやすい。しかし、じつは、その影響力の持続時間は短く、すぐに途切れやすい。いわゆる有名人の声に対して、多くの大衆は憧れつつも、「別世界の人」として自分とは線引きして考えやすく、右から左へ通り過ぎるニュースの1つのようになりやすい。また、その投稿が個人的な本音なのか、企業案件の建前なのか、信頼性が揺らぐケースも増えている。

それに対して、有名人すぎずに、自分と近い存在に考えやすい、小さなインフルエンサーが発信する情報は、多くの大衆が自分事として受け止めるため、信頼されるクチコミになりやすい。クチコミが爆発的に、一気に広がっていくよりも、SNS上の幾つもの小グループを通じて波及していくことによって、「私も」「同じように」「使ってみよう」という共感をじっくり広げていくことができる。後者に該当するスリーコインズの社内インフルエンサー活用は、共感をじっくり広めることで、単発で途切れにくい、継続的なバズを浸透させることに成功している。

こうした開発力と拡散力に支えられることで、スリーコインズは、ユーザーに飽きられることなく、ライバルとの競争に打ち勝ち、単発の成功では終わらない、中長期的な成長を実現している。

【参考文献】
※1 日本経済新聞「3COINSのパル知ってる?(上)進化着々、売り場に新味」、日経クロストレンド「雑貨店「3COINS」が食品に本腰 “映え”で拡散、併せ買い狙う」を参照。
※2 東洋経済オンライン「3COINSが大型店で攻勢、全国で人気が広がる理由」を参照。
※3 宣伝会議「コンセプトとは覚悟であり、宣言である。」を参照。
※4 @DIME「社内インフルエンサーは70名!着実にファンを増やす3COINSのInstagramマーケティング」、スタジオパーソル「社内インフルエンサーが活躍。雑貨ブランド3COINSのインスタ戦略」、アドタイ「3COINSのSNS、なぜ人気? 広告なしで150万フォロワー」、Web担当者Forum「広告費ゼロでフォロワー170万人! 3COINSの人気Instagramの秘密は「社内インフルエンサー」」を参照。

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部教授
専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『 マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『 分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考』(CROSS-POT)などがある。

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(高千穂大学商学部教授 永井 竜之介)

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