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貧乏神は「お得」のなかに住んでいる…「お金が貯まらない節約家」が大量に生み出される根本原因

プレジデントオンライン / 2024年9月16日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chirayu

お金を貯めるにはどうすればいいのか。消費経済ジャーナリストの松崎のり子さんは「安さとはただの錯覚だ。客の金銭感覚をバグらせる“お得感”には注意してほしい」という――。

■「お得感」のある数字の罠

お金をムダにしたくない人ほど、価格にシビアになるものだ。それは単に安い価格のモノを選ぶことではない。そのモノやサービスにつけられた値札を見て、その金額を払う価値があるかをまず考える。もちろん、高ければ買わないし、安いと感じればお買い得だ。それが瞬時にできる人は、買い物で失敗はしない。

ところが、自分の見ている値札の数字が「絶対値」ではなく、伸び縮みするとしたらどうだろう。私たちの「高い・安い」は、ただ錯覚によって操られているだけだとすれば。

特に高額品を買う時、しばしば厄介な錯覚を経験する。ブランドショップに入る前、何気なくショーウインドウの品物が目に入ったとしよう。その値札が曲者だ。

500万円の高級時計を最初に見た後に、店内を見渡したら150万円の時計があった。「結構安い時計も扱っているじゃないか」と感じてしまうだろう。最初の金額が、店の基準として意識されるからだ。では、最初のウインドウに100万円の時計があったとしたら。

価格は同じ150万円でも、印象はまるで逆になる。安いと感じるか、手が出ない高い価格と感じるか、それは錯覚により左右されてしまう。

最初にどの金額を見せるかで、「高い・安い」の印象が変わるとすれば、販売する側はまず高めの金額を見せておくことで、本当に売りたい価格帯の商品を割安に感じてもらえるだろう。

また、その金額を払える客だけを呼び込める。消費者側もハッピーだ、とてもお得な買い物ができたとご満悦だろうから。

■「30%オフより50%オフのほうが安い」は本当か

値引きも曲者だ。セールの時期になると目に入る「○%」という数字。我々は、この商品がセールでいくらになったのかより、いくら安くなったかの方に目がいくものだ。30%オフと50%オフが並んでいたら、まず50%オフの商品に惹きつけられる。

売る側の方も心得ていて、割引率の方を大きく強調する。すると、たまに不思議なことが起きる。定価6000円の商品Aと、定価1万円の商品Bがあったとしよう。機能的にはAで十分だと思っていたのだが、セールになってみたらAは30%オフ、Bは50%オフの割引になっていた。

どちらに魅力を感じるかと言えば、やはり50%オフだ。半額で買えるのだからとびきりのお買い得品に思えるからだ。

しかし、計算すればわかるように、商品Aは30%オフで4200円になり、商品Bは50%オフだと5000円だ。もともと買おうと思っていたAの方が割引後の価格が安いのだから、こっちを買うのが一番安く済むのだが、なぜか50%オフのBに手が伸びる。

■「バーゲンセール」が節約好きを狂わせる

また、いつもは定価3000円の商品Cで満足している人が、Cはセール対象外だと知ると、わざわざもっと高い値引き品に手を出してしまう。いつもより安く買えるのがセールの目的のはずだが、いつもより高く買っている……割引率の錯覚によって。

また、元値が高額品であればあるほど、割引時には最初の価格をアピールしたほうが消費者を惹きつけられる。この商品は値下げ後2万5000円ですと言われるのと、売り出し時は5万円でしたが特別に半額にしますと言われるのでは、受ける印象はずいぶん異なる。同じ金額なのに、これまで見向きもしなかった人が寄ってくるだろう。

もし、そんな高額品を購入するか迷ったら、それが最初の定価だったらどうかと考えてみるのがいい。定価だろうと値引き後だろうと、支払う金額は同じだからだ。うっかり身の丈に合わない買い物をするのを防げるだろう。

店頭にセールの看板があるアパレルショップ
写真=iStock.com/Rneaw
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rneaw

■1円スタートのオークションの落とし穴

ショーウインドウで最初に見た価格から判断したり、元値より割引される率が大きいものを「お買い得」として選んでしまう心理は、アンカリング効果として知られる。

最初の金額が、見る人の頭にアンカー(いかり)として固定され、それが価格の基準になるからだ。金額そのものよりも、アンカーとなった数字との差によって、高い・安いの印象が決まってしまう。

ところが、ネットオークションではこれと逆のことがよく起きる。例えば、コレクターが欲しがるミニカーがあったとしよう。入札スタートを1円にしている出品者Aと、「3万5000円で即決」という出品者Bが並んでいたら、たいていは1円スタートの方に参加者が集まる。スタート価格が低ければ、そこを基準にするから値段はそんなに上がらないだろうと思うからだ。

しかし、参加者が集まれば集まるほど入札価格はじわじわ上がっていく。最初は数百円程度から入札が始まるが、参加者が増えるほどさらに人が集まり、オークション終了時には結構な金額まで上がってしまう。気づくとあの「3万5000円で即決」価格と、さほど変わらない金額になってしまうこともある。

人間心理とは面白いもの。最初の設定価格が安ければ、「安く買えるチャンスだ」と人が集まる。集まれば集まるほど、「こんなに買いたい人が多いのだから、この商品には価値があるに違いない」と欲しくなり、どんどん価格が釣り上がる。

それとは反対に、最初から一定の金額を提示されると、その金額が妥当なのかなんとも判断がつかない。高めの値付けではないかとの印象を与えてしまい、人が集まりにくいのだ。これもアンカリング効果の逆バージョンといえるだろう。

■マンション価格を見続けて起きるバグ

価格帯による錯覚も厄介だ。金銭感覚をバグらせてしまうからだ。よくあるのは不動産の取引、例えばマンション価格を見ているうちに起きる現象だ。

買い手は5500万円の予算で探していたとする。もちろんそれ以下で買えれば安く済む。しかし、物件をあれこれ見ているうちに5800万円の物件が気になってきた。立地も設備もこっちのほうが魅力的だ。こちらでもいいんじゃないか、5500万円も5800万円もあまり変わらないし――。

いや、変わる。300万円は大金だ。どんなに食費を節約しても、この金額を貯めるのは大変なこと。しかし、数千万という単位を見ているうちに、100万円が1000円くらいの金銭感覚になってくる。価格比較のベースラインが、気が付かないうちに上がってしまうのだ。

おまけに副作用もある。大きなお金を使った後は引き締めようと考えそうなものだが、これも逆になってくる。よく、数百万円の新車を買った後ではカーナビやアクセサリーの数万円が安く見えて、価格をよく吟味することなく気軽に買ってしまうと聞く。普段は、ランチに1000円以上も出すなんて贅沢じゃないかと悩んでいるのにだ。

普段買わないような高額品を購入したあとは、まっすぐ家に帰ることをお勧めする。間違っても、寄り道して他の店を覗いたりしてはいけない。

■アンカリングをリセットする方法

金額が絶対の数字ではなく、錯覚によっていかようにも印象が変わることは、なんとなくわかっていただけただろう。普段からよく買っている食品や飲料なら大体の相場は頭に入っているので、高い安いのジャッジは大きく間違えずにすむ。

問題は、めったに買わない高額品だ。モヤシ一袋50円と20円は大きな違いに感じるが、マンション価格の5500万円と5200万円はそこまでの差でないように思ってしまう。モヤシの50円は高すぎて買いたくないが、マンションなら5500万円を選んでしまう。モヤシの方がよっぽど安いのに!

スーパーの野菜売り場で商品を選ぶ男性
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

また、安いと感じて選んだ商品が、アンカリングによる錯覚でそう思わされているだけかもしれないことも大いにある。臨時収入が入ったから、記念日だからと、普段よりもちょっといいものを買おうとした時にこそ気を付けたほうがいい。

買う前には、必ず相場を調べておくこと、払っていい金額を割り出し、予算を決めること。割引率ではなく、割引後の金額を先に見ておくこと。そして、結論が出なければ、一度家に帰ること。ネットショッピングならいったん画面から離れて翌日まで待つ、オークションなら類似商品を検索してその価格を見る。意識を別の方向に向けることで、アンカリングから解放されるだろう。

■自分尺という絶対値を持つ

そもそも、「これは安い!」と飛びつくのは衝動買いであり、時間をおいて頭が冷えた時にまだ欲しいと感じるかはわからない。高額品になればなるほど時間をかけて価格をリサーチし、「この金額ならお買い得だろう」という数字を頭に刻んでおけば、その金額以下で買えた時の満足度も大きいだろう。

筆者もネットオークションに入札することはあるが、最初から「この金額なら妥当」という数字を決め、それを最初に入れてしまうので、それをオーバーしても追いかけることはない。自分と縁がなかったと思うだけだ。

もうひとつ、「高い安い」の錯覚をリセットするための「自分尺」を決めておくのもいいだろう。この金額は、「いつも買っているコンビニスイーツで何個分だ」とか「推しのコンサートチケットの何回分に当たる」など、普段使っているお金の単位に置き換えることで、アンカリングの幻惑が解けるはずだ。

お金の価値は錯覚で容易に伸び縮みするが、やはり1000円は1000円、1万円は1万円でしかない。勝手に増えてくれはしないのだ。

電卓の上の貯金箱
写真=iStock.com/agrobacter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/agrobacter

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松崎 のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト
『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。

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(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)

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