なぜ、ユニクロ元社長を「国内CEO」に選んだか -ローソン社長兼CEO 新浪剛史氏
プレジデントオンライン / 2013年2月15日 16時15分
■私にはない資質で部下が「肚落ち」する
43歳でローソン社長を拝命してから9年が過ぎた(※2011年雑誌掲載当時)。企業経営は戦いの連続だ。若いころビジネススクールで学んだことが役に立たなかったとはいわないが、それはあくまでも竹光(たけみつ)の試合。経営は真剣勝負であり、その積み重ねによって、私なりのリーダーシップが培われた。さまざまな経営上のトラブルにつきあたり、そのたびに「命を取られるわけじゃない」と覚悟を決め全力で対処してきたつもりだ。
しかし、9年の間に社会は変わり、ローソンの体質も大きく変わった。いつまでも私自身が野戦指揮官のように全軍に号令をかけ続けるわけにはいかないと思う。そこで2011年3月をもって組織変更を行うことにした。
まず、国内事業をコンビニエンス事業とエンタテイメント・eコマース事業とに分け、それぞれにグループCEOを設置する。私は社長として引き続き事業全体を統括するほか、海外事業グループCEOとして中国、東南アジアなど、アジア地域のコンビニ展開などに力を注ぐ。
海外事業はローソンにとって次代を託すべき成長分野。ここに切り込んでいくには、私自身が先頭に立って市場の見極めや人脈開拓など、あらゆる事柄に道筋をつけなければならないと判断したからだ。
そうなると、国内の経営を任せることのできる人材が必要になる。そこで国内コンビニ事業のグループCEOとして招いたのが、リヴァンプ代表パートナーだった玉塚元一氏だ。玉塚氏とは彼がファーストリテイリング(ユニクロ)の社長だった時代に知り合い、組織を上手にまとめ上げる手腕に感嘆することが多かった。
今後のリーダーには、熟慮し決断するという能力のほかに、なぜそれを断行するのか、部下たちに「肚落ち」させるという能力が求められる。玉塚氏にはその力が備わっている。私が全社に大きな方向性を示し、それを受けて玉塚氏がみんなを束ねて実行する、という役割分担ができたら素晴らしいと考えたのだ。
玉塚氏のリーダーシップは、たとえるなら東郷平八郎型だ。東郷元帥は名参謀の秋山真之らをうまく使いこなし、日露戦争の日本海海戦でみごとな勝利を収めることができた。
一方の私はといえば、社長に就任してからというもの、常に秋山のように情報を集め、作戦を立てながら、東郷のように決断して血路を開かなければならなかった。参謀と元帥の役割を担っていたのだ。そしてこのやり方は、私自身の個性ともいえるが、より大きくはローソンという会社自体がそれを必要としていた。
東郷型のリーダーシップを支えるのは組織力と優秀な人材である。当時のローソンには残念ながらそれらが不足していた。私がトップダウン型の強烈なリーダーシップを発揮しなければならなかったのは、そのような事情にもよるのである。
しかし、ここ2、3年でローソンの組織力、人材力は急速に向上している。
「ローソン大学」などの人材教育が機能しはじめ、かつてならトップが手取り足取り指示を出さなければ動かなかった組織が、最近は自主性を持って積極的に動くように変わってきた。大ヒット商品「プレミアムロールケーキ」をつくり上げたスタッフも、そうして育った若手社員なのである。
つまり玉塚元帥には、すでにローソン社内に秋山真之がいるのである。そして国内市場において「秋山」の能力をさらに引き出すには、私のようなやり方ではなく、玉塚氏流の「おまえ、やってみろよ」というやり方のほうがふさわしいだろう。
もっとも、これから一気に権限委譲を進めるつもりはない。エンタテイメント・eコマース事業のグループCEOになる加茂正治常務執行役員についても同じことがいえるが、玉塚氏には3年ほど時間をかけて報告・連絡・相談を密にしながら、様子を見て徐々に徐々に権限を渡していく。急に権限を引き継いだ者が失敗したら、それは渡したほうが悪いと思うからである。
では、私自身の今後の役割はどうなるのか。
グループ全体をCEOとして統括するだけでなく、特に海外事業の収益化を目指して陣頭指揮に立つつもりだ。
海外市場の攻略は、長期戦となる。こうした中長期の取り組みはトップでなければ決断できない。そのため、私自身がアジア各地に足を運んでそれぞれの国の合弁相手などと直接交渉にあたる場面が増えるだろう。
アジア事業で大事なことは、現地のパートナーと密接な信頼関係をつくることだ。互いに深いところで尊敬し合って握手しながら、同時に言いたいことは言い合える関係が理想である。
1カ月単位で上海に滞在し、そこをベースに重慶など、中国の地方都市をじっくり見て回りたいと思う。すでにオペレーションが確立している上海については、現地幹部の報告を受ければいい。それよりも2等、3等都市といわれる中国の地方都市の実情を自分の足で歩き自分の目で見てきたい。たとえば生活習慣はどう違うのか、バブルの気配はあるか、働く人たちはどのような店を必要としているのか。そういうことを肌で感じながら、店舗づくりに生かしていきたいと思うのだ。
実は社員にも、アジア新興国での仕事を一度は経験してほしいと思っている。理想をいえば、全社員にそのチャンスを与えたいほどだ。現地に溶け込むことで、あの旺盛なエネルギーを吸収してほしいのだ。
実際、新興国勤務の人に話を聞くと、みな一様に「ここはおもしろい」と目を輝かせる。そうなれば勝ちだ。仕事に一生懸命励むようになるのである。
ローソン大学や研修などで繰り返し説いているのも、一生懸命にやれば失敗しても会社は受け止めるということだ。同じ失敗を繰り返さない限り、挑戦した結果がたとえ“敗北”であっても会社はその人を罰することはないと決めている。
社員に自主性が出てきたのは、その効果が上がっているからだ。多くの社員を新興国に送り出すことで、自由闊達な社風をさらに前向きなものにしていきたいと思っている。
■上を動かすためにはどうすればいいのか
もちろん、一生懸命にぶつかるだけではなく、新しいことに挑戦し、なおかつ成功することが大事である。では、どういう人が成功するのだろうか。
私の経験では、まずは上を動かすためのコミュニケーション戦略を持つことだ。上司に対して何を実現したいかを持ちかけ、ゴーサインをもらう。だが、そのときに上司の逆鱗に触れてしまえば、あっという間に挑戦は終わる。
上司も人間である以上、好き嫌いや向き不向きはあるものだ。そこを無理やり突進しようものなら、必ず逆鱗に触れる。ならば、触れないように回り込んで接近するという技も使わねばならない。そのときに効果的なのは、仲間づくりである。同僚でも違う部の部長でもいい。周辺の人々に熱く語って自分の味方にし、「やってみるべきだ」という機運を盛り上げるのだ。
もし、それができないとしたら、その人はそれだけの人物だ。「会社にとって正しいことなのにゴーサインをくれない」「やらせてくれないダメ会社だ」と不貞腐れるのは、まったくの筋違いだと思ってほしい。
今や日本の伝統的な大企業も「内向きでやっている場合ではない。これからは新興国へ打って出る」というモードに完全に切り替わった。日本企業はコンセンサス形成に時間はかかるが、決断したらあとは、早い。日本企業は大変な推進力で新興国市場を席捲すると私は見ている。もちろんローソンも彼らには負けていられないのだ。
※すべて雑誌掲載当時
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1959年、横浜市生まれ。県立横浜翠嵐高校卒。81年慶應義塾大学経済学部卒業後、同年三菱商事に入社。2000年同社ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長に就任。02年ローソン社長兼執行役員。05年3月から現職。ハーバード大学経営大学院修了、MBAも取得。
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(サントリーホールディングス 代表取締役社長 新浪 剛史 面澤淳市=構成 的野弘路=撮影)
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