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泥沼介護は最初の一手から始まる…「親の様子がおかしい」と気付いたときに絶対やってはいけないこと

プレジデントオンライン / 2024年9月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

親に介護が必要になりそうな兆しを感じたら、まず何をすればいいのか。産業医で精神科医の井上智介さんは「そこですぐに『自分が親の身の回りの世話をしなくては』と考えるのは失敗のもと。できるだけ介護離職をしないですむ方法を考えるべきだ」という――。

■自分が親の面倒をみる必要が…

私は、産業医としてさまざまな企業で相談を受けていますが、親の介護に関する相談は非常に多いです。

総務省統計局の「令和4年就業構造基本調査」によると、2022年に介護をしながら働いている人は約365万人と、10年前に比べて約74万人増加しています。また、介護や看護が理由で離職した人は10万6000人にのぼりました。

最近もあった、典型的なケースをご紹介しましょう。

東京で働く50代の会社員の男性で、70代の親が地方で一人暮らしをしていました。お盆に帰省したところ、前は、帰省すると張り切ってごちそうを作ったりしてもてなしてくれたのに、今は食事を作るのもおっくうな様子。買い物も面倒になっているのか、外出も減っているようで、家にこもりっぱなしのようです。洗濯も追いついていないのか、夏なのに同じ服を続けて着ています。

階段がつらくなってきたようで、四つんばいになって手を階段につきながら、そろりそろりと上り下りしています。「足が痛い」「腰が痛い」とぼやくことも増えています。「病院に行ったほうがいいよ。リハビリをしてもらったら?」と何度も勧めたのですが、「暑いから」「混んでいるから」などいろいろ理由をつけて、まったく行こうとしません。

受け答えはしっかりしていますが、「いつ東京に帰るんだ?」など、同じことを何度も聞いてきます。家事もちゃんとできていない様子なので、そろそろ介護が必要なのではないかと心配になりました。ただ、だからといって、どうしていいかまったくわかりません。

男性は一人っ子なので、親のことは自分が何とかしなくてはと考えています。「自分が一緒に住んで、親の面倒を見る必要があるのではないか」と、あせりを感じ始めました。

■なぜ初手で間違えてしまうのか

ここで多くの人が失敗するのが、いきなり親を自分の家に呼び寄せたり、自分が仕事を辞めて親と同居したりして、自分で親の面倒を見ようとすることです。「自分で何とかしなくては」と、誰かに相談することなく、一人で抱え込んでしまう。しかしそれは、自分のためにも親のためにもなりません。

親の方は、ヘルパーなどの他人が家に入ることに抵抗を示すことが多いので、子どもの方は気持ちを揺さぶられてしまい、「親の最後の望みを優先させよう」と、親孝行の気持ちで「それなら自分が一緒に生活して親の面倒を見よう」と考えてしまいます。

最初から、自分が親の身の回りの世話などの介護を担うことを前提にして考え始めてしまう。初手で間違えてしまうのです。

■衰えていく親を受け入れられない

では、なぜ子どもが直接手を出して、親を介護しない方がいいのでしょうか。理由は大きく2つあり、離職して介護に専念する場合は、さらに大きなデメリットが生まれます。

1つ目は、親が元気だった頃を知っているために、現実が受け入れられず、双方がストレスを抱えてしまうということがあります。

親が元気だったころの様子を知っているのは、子どもの特権でもありますが、介護では完全に裏目に出てしまいます。今の衰えた状態をなかなか受け入れられないのです。

前にできていたことが、できなくなる親を見ていらだってしまい、ストレスを抱えたり、「何でそんなことができないんだ」と親にきつく当たって、虐待につながる可能性もあります。また、何とか元の元気な状態に戻そうとして、「もっと足腰を鍛えた方がいい」と長時間歩く練習をさせたり、無理やり外に連れ出そうとしたりすることもあります。

介護は子育てとは違い、何かができるようになったりすることはなかなかありませんし、「もとに戻る」ことはありません。叱咤激励しても、できないことはできません。子どもの方は、よかれと思ってやっているのですが、自分の認識と現実にズレがあるので、摩擦が生じてしまいます。結局、本人も親もつらい思いをして、関係が悪くなりますし、お互い精神的に疲弊してしまいます。

■どんどん孤立してしまう

2つ目は、自分だけで責任を抱え込み、孤立しやすくなることです。

介護は医療にも関係しますし、非常に専門的な領域です。飲み込む力が弱くなっている高齢者でも食べやすい、バランスの良い食事を毎食出すことだけでも大変なことですし、介護する側にもされる側にも体の負担にならないよう、安全に入浴させるにもコツが要ります。それを素人がいきなり一人でやろうとするのは大きな負担になります。

しかし、「自分の親なのだから、子どもの自分がやらなくては」と抱え込むと、親の体が弱ってきて負担がどんどん増えていきます。家の中で転んでけがをしたり、認知症が進んだり、病気になったりすると「自分がちゃんと見ていないから転んでしまったのではないか」「コミュニケーションが足りないから認知症が進んだのではないか」と自分を責めてしまいます。

また、親の方も、体が弱っていくほど、そういう姿をほかの人に知られたくない気持ちが強くなり、ヘルパーなどの他人が家に入ることにも抵抗することが多いので、子どもの方も、外部に助けを求めるタイミングを逸して、余計に孤立しがちになります。

手すりを持ち、階段を降りる年配の女性
写真=iStock.com/banabana-san
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/banabana-san

■自分の老後をどうするか

さらに、離職して介護に専念する場合は、さらに大きなデメリットが生まれます。

経済的なデメリットは大きいでしょう。介護に関する費用は、ある程度、介護保険でカバーされますが、自分の生活に関わる費用は出ていくばかりになります。介護はどれくらい続くかわかりませんから、経済的な不安も大きくなるでしょう。

自分の将来についても考えなくてはなりません。介護には必ず終わりが来ます。たとえば50歳で介護離職して、5年後に親が亡くなった場合、55歳で新しい職場を見つけるのはなかなか難しいでしょう。10年後ならなおさらです。自分の人生を考えても、できるだけ会社は辞めないでいた方がよいと思います。

精神面でも、介護後のダメージは大きくなります。

仕事を辞めて介護に専念していると、親との生活が全てになります。そういう状態を長く続け、親が急にいなくなると、心に穴がぽっかり空いて、抑うつや無気力になります。何をすればいいかわからない、どう生きていけばいいかわからないという「燃え尽き症候群」になってしまう可能性があります。

■直接の介護はプロに任せる

だからこそ、初手を間違えないようにしてほしいと思います。「親の様子がおかしい」と思ったとき、すぐに「自分が一緒に住んで、介護をしなくては」と考えないでほしいのです。そして、「自分で直接介護しない」という強い意志を持ってください。親が暮らす地域の公的サービスを活用し、プロの手を借りながら、「親が快適に暮らせるようにするにはどうしたらいいか」を考えてください。

まだ足りないところはありますが、日本の介護制度はよくできています。子どもが一緒に住んでいなくても回るようになっています。直接の介護はプロに任せ、自分は仕事を辞めずに今の生活を続けながら、司令塔の役目を担い、時々親の顔を見に行って親孝行するというスタンスの方がうまくいきます。

■まず地域包括支援センターに連絡を

「正しい介護の初手」は、親の住む地域にある「地域包括支援センター」に連絡することです。地域包括支援センターとは、保健師、社会福祉士、介護士などが連携して、住民の介護や看護を包括的に支援する公の施設で、高齢者に関わる悩みの総合相談窓口です。各自治体に必ず設置されていて、担当エリアが決まっているので、実家がどこの包括支援センターの管轄なのか調べて連絡します。ホームページで検索したり、役所に聞いたりして確認するといいでしょう。

私も、親の介護に関する相談を受けることは多いのですが、地域包括支援センターの知名度が非常に低いことは危惧しています。「ここが高齢者の介護の入り口になる」ということが、思いのほか知られていないのです。

「介護が必要にならないと連絡してはいけないのではないか」と思いがちですが、「階段を上るときに手すりを使うようになった」「外出する頻度が少なくなった」など、小さな変化でかまいません。少しでも「おかしいな」と思うことがあったら連絡してください。

直接出向かなくても、電話だけでも大丈夫です。介護が必要になる前でも、地域包括支援センターの担当者が電話や訪問などで時々様子を見てくれるようになりますし、必要に応じて子どもに連絡してくれます。

センターとしては、そういう状況のお年寄りが地域に住んでいるということを把握できるのは助かります。医療も介護も、軽症のうちからわかっていると、打ち手の選択肢がありますが、重症になっていきなり相談されると、選択肢が狭まって困ることが増えます。

介護が必要になった場合は、センターの人が介護保険の申請を代理で行ってくれます。子どもが離れたところに住んでいる場合の「遠距離介護」についても相談に乗ってくれますので、大いに頼ってください。

■介護だけが愛情表現ではない

「餅は餅屋」に任せ、自分は手を出さず、地域包括支援センターと連携を取りながら「遠距離介護」をする。そして、ときどき顔を見に行って優しくしてあげる。こうした親孝行の形もあるのです。介護をすることだけが、家族の愛情を示す形ではないはずです。

私のところには、介護を一人で抱え込み、ストレスにより「介護うつ」に陥っている人や、介護をしていた親が亡くなってうつ状態になっている人も、相談に来ています。

一人で抱え込んで孤立することだけは避けてください。介護については地域包括支援センターなどを活用し、自分自身についても、必要に応じて会社の産業医や精神科医などを頼ってください。介護は、なかなか先が見えにくく、長丁場になることが多いので、できるだけ無理をせず、外部の力を借りながら乗り切ってほしいと思います。

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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。

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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)

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