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なぜ「兵庫県知事のイス」にしがみつくのか…「おねだり」「パワハラ」と言われても斎藤元彦知事が辞職を拒むワケ

プレジデントオンライン / 2024年9月9日 7時15分

兵庫県議会の百条委員会で顔に手を当てる斎藤元彦知事=2024年8月30日 - 写真=共同通信社

兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラ疑惑を相次いで報じられている。8月30日に行われた百条委員会で、斎藤知事は「県民のため」と繰り返し、辞職を改めて否定した。ジャーナリストの小林一哉さんは「マスコミは職員へのパワハラ疑惑をセンセーショナルに報じているが、問題が生じた背景をもっと冷静に考えたほうがいい」という――。

■斎藤知事が繰り返した「県民のため」

職員に対するパワハラ疑惑に揺れる兵庫県の斎藤元彦知事(46)は8月30日の県議会百条委員会で、一連の疑惑を「必要な範囲の指導であり、合理的な指摘だった」などと否定した。

さらに告発者の処分は「適切だった」と従来と同じ認識を示した。

2時間半に及ぶ30日の百条委員会を傍聴してわかったことは、「維新の会」を除く県議会の主要各派は、斎藤知事がパワハラ等の疑惑を自ら認めた上で、自主的に辞職するよう求めているということだ。

それに対して、斎藤知事はあくまでも「闘う」姿勢を崩さなかった。

県民への強い責任感で職務に当たるとする斎藤知事は、ときには職員たちへの厳しい物言いや深夜のチャットメッセージを行うことで、今回のパワハラ疑惑につながったと釈明した。

反省の弁を繰り返しながらも、斎藤知事は「大事なのは県民のために何の仕事ができるかだ」を何度も強調した。

ただ斎藤知事がそこまで無理をして、県民のために、いったい何に取り組んでいるのか見えてこなかった。

それが、今回の百条委員会の終盤になって、「ひょうご県民連合」(立憲民主党系)の上野英一県議が、ことし2月県議会での斎藤知事とのやり取りを明らかにしたことで、ようやく腑(ふ)に落ちた。

■「県民のため」を錦の御旗に知事の座にしがみつく

2月県議会の議事録を確認すると、県議の多くが、斎藤知事へ不満や疑問を突きつけていた。

それででも、やはり「県民のために」を掲げる斎藤知事の姿勢を変えることはできなかった。

そんな中で、職員たちの不満を代表する声ともいえる元西播磨県民局長(60)の告発文書が“爆弾”となって炸裂した。

「一死を持って抗議する」などと元局長がメッセージを残して亡くなったことで、斎藤知事に辞職を求める圧力が強まった。

それでも、「県民のために」を錦の御旗に斎藤知事は何とか辞職圧力を跳ね返している。

斎藤知事は「県民のため」に何をしようとしているのか。

■斎藤知事の肝煎り施策「4割出勤」

2月県議会には、斎藤知事が県民のために譲らなかった県政課題として、「4割出勤」が登場していた。

「全国初、兵庫県庁の挑戦」というキャッチフレーズを掲げ、斎藤知事は肝煎り事業を何としても実現させたいようだ。

「4割出勤」は、井戸敏三前知事(78)時代から課題となっていた、県庁舎の老朽化問題に端を発する。

7月26日公開の記事(兵庫県「おねだり知事」を今辞めさせてはいけない…「川勝知事の電撃辞任」を見てきた私が最も危惧していること)で紹介したように、亡くなった元西播磨県民局長の告発文書には、斎藤知事が「井戸(敏三前知事)嫌い」と一方的に書かれていた。

今回のゴタゴタの深層には、5期20年を務めた井戸前知事との軋轢(あつれき)があったことは確かである。

“井戸嫌い”の斎藤知事は1期目後半に入り、井戸前県政の目玉事業であった「老朽化に伴う県庁舎の建て替え、新設」を取り止めてしまった。「4割出勤」はその中で生まれた。

兵庫県の3つある庁舎のうち、耐震性不足が判明した1、2号館は、阪神淡路大震災クラスの直下型地震が起きた場合、崩壊の恐れがあった。

井戸前知事は、現在の県の敷地を活用して、新庁舎を建設する計画を立てていた。

兵庫県庁舎
兵庫県庁舎(写真=JP-28207-3/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

■職員のテレワークを推奨

ところが、井戸前知事にかわって就任した斎藤知事は昨年3月、コロナ禍でのテレワークの広まりやデジタル化の推進を踏まえ、1、2号館の解体は維持したまま、新庁舎建設を白紙に戻した。

斎藤知事は「もとの計画は約700億円の事業費だった。現在の物価高騰を試算すると1000億円を超える。新庁舎建設は県民の理解が得られない」と、井戸知事の新庁舎建設を撤回してしまった。

寝耳に水の県議会は強く反発したが、斎藤知事は聞く耳を持たなかった。

そこで、1、2号館の撤去・解体に伴い、新たに打ち出したのが「4割出勤」である。

1、2号館の撤去・解体で行き場を失う職員約2500人について、職員の出勤を週2日として、残りの3日を在宅勤務とすれば、職員の出勤率が4割程度となり、約1000人の出勤におさめることができる。

「4割出勤」の職員約1000人は3号館や生田庁舎などの既存施設に分散して働けばいいというのである。

コロナ禍の働き方改革で、在宅勤務やテレワークがふつうとなり、「4割出勤」であっても県庁の行政事務を十分にまかなえるというのが斎藤知事の考えだった。

■職員のほとんどが「4割出勤」に否定的

知事の方針に沿って、昨年6月からことし2月にかけて、将来の県庁をイメージしたモデルオフィスを生田庁舎に設けたほか、職員の席を固定しない「フリーアドレス」を導入して、部局ごとに1カ月間の交替で検証を進めてきた。

ただ目標の出勤率4割を達成できたのは、参加した15部局のうち4部局だけだった。全体の出勤率は平均45%程度にとどまり、目標には及ばなかった。

さらに、3月に発表された職員約2300人のアンケート結果でも、約7割が在宅勤務のテレワークで業務効率が「低下した」と回答している。

在宅勤務の希望日数では、「週2日以下」が約8割を占め、「4割出勤」の達成に必要な「週3日以上」は2割にとどまった。

ほとんどの職員が週3日の在宅勤務を希望しなかったのだ。

理由について、「他職員との気軽な相談が困難で、対面で話したい」「自宅に仕事環境が整っていない」などを挙げていた。

つまり、ほとんどの県職員たちは「4割出勤」には否定的だった。

それでも、斎藤知事は何としても職員の出勤率4割を目指す考えに変わりなかった。

■「井戸色」に染まった県職員との衝突

そこまでして斎藤知事が「4割出勤」にこだわる理由は、5期20年続いた井戸前知事との違いを出すためにほかならない。斎藤知事は就任直後、意欲ある職員10人ほどを集めて「新県政推進室」を設置したが、目玉となる改革は行われていなかった。

全国初の数値目標を定めた「4割出勤」は斎藤県政の特徴を出すにはかっこうのテーマだったはずだ。何としても成し遂げたかったのだろう。

だが、「井戸色」に染まった職員を動かすのはそう容易ではない。46歳の新知事と年上の県幹部との間で摩擦が生じることも多かっただろう。パワハラは決して容認できないが、報じられているような職員との衝突や過度な叱責の中には、こうした背景のものもあるかもしれない。

井戸敏三前知事
井戸敏三前知事(写真=Corpse Reviver/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

■議会も「強制するものではない」と追及

「4割出勤」には、職員だけでなく、最大会派の自民党をはじめ、公明党、ひょうご県民連合も強く反発している。

2月21日の県議会代表質問で、上野県議は「知事から職員の4割出勤の方針が示されてから、これまで15人の議員が質問や指摘を行っている。その実現の可能性は、多くの県議だけでなく、多くの県職員の疑問や危惧の中に答えがある」などと、あらためて斎藤知事の進める「4割出勤」に疑問を投げ掛けた。

さらに「テレワークを実施するのは職員一人ひとりの意思によるべきで、決して命令するものではない。県庁舎のキャパ(収容能力)を理由に、半ば強制的にするものではない。職員の働き方の維持改善を図る観点から、多くの職員の声を把握、理解した上で対応していく必要がある」などと働き方改革の趣旨に反しているとも述べている。

これに対して、斎藤知事は「若い職員を中心に『ワークライフバランスの観点から、テレワークのさらなる活用をしてほしい』『本庁職員だけでなく、地方機関でもどんどんやってほしい』という声もあったぐらいで、課題解決を一つずつしていきたい」などと「4割出勤」を推進する姿勢を変えなかった。

県議会、県職員の不満、疑問が斉藤知事に集中していたことにも納得がいく。

元西播磨県民局長が投げつけた告発文書“爆弾”が破裂する下地がすでにつくられていたことになる。

■「おカネの疑惑」は既に議会で取り上げられていた

さらに驚くべきことに、元局長が糾弾した告発文書の内容を、すでに2月県議会で、上野県議が取り上げていたのだ。

「職員は知事を必死に支えようとしている。それこそ阪神優勝パレードの警備費確保のクラウドファンディングがなかなか集まらず、業界団体等の協賛お願いを副知事がしていることを承知しているか、部下は必死に知事を支えようとしていることを理解しているか」「副知事や県OBまで動員している知事の政治資金パーティーも同じだ」などと述べていた。

一方、告発文書には、昨年11月23日の阪神・オリックスの優勝パレードのクラウドファンディングによる費用が集まらないので、信用金庫への補助金を増額させてキックバックさせたとある。

寄付集めに奔走した産業労働部課長はうつ病を発症して、病気休暇中であり(後に死亡)、その陣頭指揮に副知事が当たったことも挙げていた。

また2023年7月30日の斎藤知事の政治資金パーティーで、副知事らが県内の商工会議所、商工会に補助金削減をほのめかせて、パーティー券を大量に購入させたとある。

兵庫県信用保証協会の保証業務を利用して、政治資金パーティー券購入を依頼させたともある。

上野県議は、その詳しい手口までには触れていないが、いずれも金絡みの問題に、副知事らが関与していることを明らかにしていたのだ。

つまり、元西播磨県民局長が告発文書で指摘した内容は、県議会はじめ県職員らも承知済みだったわけである。

■問題は「パワハラ」「おねだり」だけではない

上野県議は「事前の議論や関係部局での調整も不十分であった。知事の思い入れが優先して、各分野・方面に対する配慮が欠けている」などと県職員との意思疎通に問題があることを批判している。

片山安孝副知事は7月12日の辞職会見で、斎藤知事が以前から県議や県職員らに対するコミュニケーションが不足していたことを指摘していた。

いずれ、「知事の政治資金パーティー券購入」と「阪神・オリックスの優勝パレードの費用」は百条委員会で取り上げられる問題であり、斎藤知事を含めてすべての証人を呼んで事実関係を明らかにすべきである。

「副知事らが勝手にやったことで、斎藤知事は知らなかった」では済まされないだろう。

パワハラ、おねだり疑惑と違い、まさしく犯罪行為を疑わせるから、事実関係はしっかりと調べなければならない。

一方で、マスコミはわかりやすい「パワハラ」「おねだり」ばかりを面白おかしく報じているが、兵庫県政の混乱を生んだ本当の原因がどこにあるのかちゃんと伝えるべきである。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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